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不穏な風
しおりを挟む誠也に拾われて家政婦になってから数ヶ月が経った。
誠也は相変わらず優しいし、順調な日々を過ごしている……訳では無く、少し不安な事が出来た。
誰かに見られている……いや、付けられている気がするのだ。
大学でも俺が女性をストーカーしたと言う噂が立っているので、見られている事自体は問題ない。いや、問題ではあるのだが。でも一人だけ、俺を信じてくれている人がいるのでなんとか通えている。
問題は付けられているということ。
例えば誠也の家から大学に通うとき、周りに人はいないのに足音が聞こえてくる。そして俺が止まると、その足音も止まる。
「なぁ秋斗、これどう思う?」
「いやぁ、それは確定だろ」
そう言うのは俺を唯一信じてくれた友達、秋斗だ。
秋斗とは高校の時からの付き合いで、ずっと仲良くしてきた。秋斗にはゲイだと言うことも打ち明けている。つまり、信頼しているのだ。
それにしても……秋斗って名前、随分前に夢に出てきた少年と同じだな。
秋斗とは出会った時こそ高校だが、小さい頃からこの町に住んでいるらしいし、もしかして……同じ人なのか?
「おい、そんな考え込むなよ」
秋斗の声にハッとする。別にストーカーについて考えていた訳では無いのだが。まぁ勘違いしてくれてるし、それでいっか。
「ごめん秋斗」
「いや大丈夫、でも女性をストーカーしてるって噂が立ってるお前がストーカーされるとはな」
「うるさい」
「ははっ、ごめんって。でも心配だな、しばらく一人でいるのやめろよ」
「うん、分かった。……なぁ、秋斗」
「うん? どうした?」
「俺とお前って、昔会ったことあるっけ?」
「なんだよ急に、そんなナンパみたいなこと言って」
「俺は真剣だよ」
「悪いって、でもそうだな。会った事は無いと思うぞ? お前顔良いし会ってたら覚えてるって」
「そっか……」
秋斗じゃないとすると、一体誰なんだろう。いやでも秋斗が忘れてるだけってこともあるしな。
夢の中の少年が気になって、その日の授業は集中できなかった。
「ねぇ、あの人カッコよくない?」
「え、だよね! めっちゃタイプ……声かけてみようかな」
教室を出ると、外が何やら騒がしい。
外を見ると、見覚えのある車と人が居た。
「誠也!?」
「何? 知ってる人?」
「うん、俺が家政婦してるとこの人」
「マジで? あんなイケメンなの?」
「うん……」
そう話をしながら校門へ向かう。
「風鈴!」
誠也の顔がパッと明るくなる。それと同時に周囲の視線が突き刺さった。
「え? 風鈴ってあのストーカーの……」
「マジ! アイツがこのイケメンと仲良いの? ありえね~」
秋斗が何かを話そうとする前に誠也が口を開いた。
「どうかした?」
優しい声で、周囲に問いかける。
「あっ、いえ、なんでも」
「そっか、良かった。風鈴、じゃあ帰ろうか」
「……うん」
悪口を言っていた人たちは気まずそうに立ち去っていった。
「誠也、ありがとう」
「ん? 僕はなにもしてないよ」
「でも、ありがとう」
車に乗って立ち去ろうとすると秋斗が声を掛けてきた。
「あ、あのっ、誠也さん」
「うん?」
「俺、風鈴の友達の秋斗って言います」
「秋斗……」
「さっきは風鈴のこと庇ってくれてありがとうございました」
「秋斗さん……は風鈴のことを大事に思ってるんだね、ありがとう」
「俺は別に……何も出来なかったし」
「そんなことないよ、これからも風鈴と仲良くしてね」
「はい!」
「じゃあ風鈴、出発しようか」
「うん」
やっぱり、誠也って優しいな。
今日はそれを再確認出来ただけでも良しとしよう。
運転する誠也の顔を横目に見ながら、しみじみとそう思った。
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