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家政婦として
しおりを挟む青年の名は誠也と言った。同い年で、俺とは違う大学に通っている。その大学は誰もが知る超名門校。しかも誠也はこの間までイギリスに居たという。
そんな誠也の家は大学生の一人暮らしにしては大きすぎるマンションだった。
まぁ、家政婦を雇ってるくらいだし多分金持ちなんだろう。
それから数日が経った。その間もちろん変なことはされなかった。
この数日で俺はすっかり誠也を信用してしまっていた。
そして、俺は家政婦になる話を受けることにした。
厨房のバイトをしたこともあったし、一人暮らし歴も長いため家事は上手い方だと思う。
少なくとも誠也は美味しいと言って食べてくれるけれど。
今日の夜ご飯は誠也が好きだと言っていたハンバーグ。
誠也は一口ハンバーグを口に入れた瞬間、目を輝かせた。
「美味しい!」
「本当?」
「うん、嘘なんて言わないよ。僕は料理なんてできないし、尊敬する」
素直に言われると少し照れてしまう。
こんなことをすんなり言えるなんて、モテるんだろうなぁ。
顔も整っているし、背も高い。それに加えて優しい。
「? どうかしたの?」
「あ、いや何でもない!」
いやいや俺は何を考えてるんだ。一応仕事中なわけだし、ちゃんとしなきゃ。
「風鈴、もしかして体調悪い?」
「いや、そんなわけじゃ……って」
途端に誠也の顔が近づいて来て額が合わさる。
「熱は無いね、良かった」
誠也はそう言って安心したように笑う。
「うん……」
「体調悪くなったらいつでも言うんだよ?」
「分かった。……ちょっと、トイレ行ってくる」
リビングを出てすぐその場にうずくまる。
キス、されるかと思った。
何考えてんだよ、俺。期待……した? なんで?
もしかして好きになった? まだ出会ってから全然経ってないのに?
そんな惚れやすい方では無いと思うんだが……
でも、アイツ、良いやつだし、好きになっても仕方ないよな。うん、全部アイツのせいだ。
「……ただいま」
「ふふっ、お帰り。長かったね」
「ちょっとお腹が痛くて」
それからの事はあまり覚えてない。ただ妙に意識してしまって集中できなかったことだけは覚えている。
「はぁ……」
ため息をつきながらベッドにダイブする。
このすごくふかふかなベッドにもずいぶんと慣れたな、なんて思いながら目を瞑った。
だんだんと眠気が襲ってきて、いつの間にか眠ってしまっていた。
「ねぇ、君名前は?」
「僕? 僕は秋斗」
「秋斗! かっこいい名前だね。君はいつもこの公園に来るの?」
「うん、君も?」
「そうだよ!これから仲良くしてね」
「うん!」
幼い頃の俺と子供の話す声がする。なんだかとても懐かしい声。
そしてこの公園にも見覚えがある。けれど、話している子供の顔だけが思い出せない。まるでモヤがかかっているかのようだ。
場面が切り変わる。一人の少年が、たくさんの子供に囲まれていた。どうやらいじめられているようだ。子供の中でも一際目立っている子が少年を殴ったのを皮切りに他の子供も殴ったり蹴ったりし始めた。少年はただ蹲って泣いていた。
「こら~! 秋斗に何する!」
すると小さい俺が駆け寄ってきた。
「なんだお前」
「俺はコイツの友達だ! お前ら、絶対許さないぞ」
「はぁ? 何言ってんだお前」
小さい俺は少年–秋斗を庇うように腕を広げて前に立つ。
「大人たちを呼んだからな! ただで済むと思うなよ!」
「やべっ、逃げろ~」
子供達は一斉に逃げていく。
「大丈夫か? 秋斗」
「う、うん。大丈夫……」
「これからは俺がお前を守るからな。安心しろよ!」
「うん! ありがとう!」
小さい俺は少年に向かってニカッと笑うと、秋斗の手を引いて歩き出した。
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