Vodzigaの日は遠く過ぎ去り。

宮塚恵一

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11.Proto-TALARIA

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「何ですか、ここ」

 博士に着いて行った先で広い空間に出た。砂利の敷き詰められた地面の向こうに、大きな四角い建物が建っていた。

「知り合い名義で借りてる貸し倉庫だ」
「何ですかそのヤバい話」
「ヤバくない。こういう趣味の部屋をつくる性分と言うだけだ。……君に今から見せるモノは少しアレだが」

 倉庫の鍵は財布の中に閉まっていたらしく、博士は自分の財布を開いて鍵を取り出し、倉庫の扉を開けた。

 自動的に照明が灯り、中の様子が露わになる。
 博士がHERMヘルマ基地内に持っていた研究スペースに似ている。と言うか、機械類の位置などの配置がそのままだ。
 倉庫の真ん中近くを陣取る机に置かれたモニターには、私達が登ってきた坂や、倉庫の外の様子が映像として静かに映し出されていた。

「物の位置関係は慣れたものにしておきたいんだ」
「それは博士っぽい」

 博士は倉庫の奥にあるコンテナに向かって歩いた。さっきのとは別の鍵で、コンテナ入り口の錠前を外す。そこで扉を開けようと取っ手に手を掛けて、はたと私を見た。

「改めて確認だ。君はどうしたい」
「と、仰いますと」
「空について。下に何かあるのは確かだ。それを君はどうしたい?」
「そんなの」

 私は答えようとして、少し考えた。二度と見ることがないと思っていた紅の空。それに驚いて、流れるままにここまで来たが、私はどうしたいのか。確かに再度考える必要はある。

「色々言ったが、真実はシャッガイ領域の下へ行かねばわからない。ガジャゴの研究にせよ、怪獣の再発生にせよ、戦いは避けられない」
「戦い、ですか」
「そうだ。ガジャゴが関わっているなら彼らの率いる兵隊が、怪獣の再発生ならば怪獣が、シャッガイ領域の下には待つだろう。君はそれらにどう立ち向かう?」
「私は……」

 先輩が守った世界。怪獣のいなくなった世界。その世界に異常が現れている。そして今、その異常に気付くことができたのは私だけ。
 私しか居ない。今、現状を打破することは私にしか出来ない。

「私に出来ることなら、何だってします」

 私は先輩に誓って、この世界で精一杯生きることを決めた。
 だから教職員になりたいという自分の夢に対しても真っ直ぐに向き合った。それが先輩への弔いとも信じた。

 だが、その世界を脅かそうとする存在が有る。

 それが怪獣なのかガジャゴなのかは知らない。そんなモノ、許せない。許してやれる筈がない。

 それが今の私の全てだと思う。

 私は博士の目を、真っ直ぐに見据えた。
 博士は小さく息を漏らして笑う。

「聞いたぼくが野暮だったな。ならばぼくから君に、を与えようじゃないか」

 鋭い金属音と共にコンテナの扉が開かれた。コンテナの中にはブルーシートで覆われた何かが鎮座していた。

 博士はそのブルーシートを勢いよく剥がす。

「これって」

 そこには見覚えのある機械が置かれていた。金属光沢がそのまま飛び込んで来る、無骨な機体。
 強化スーツを着て乗ることを前提としたコックピットは人間がそのまま乗り込むには大き過ぎる。
 そのコックピットを中心に、八本の機械の脚が伸びる。

TALARIAタラリア……ッ!?」
「ああ。彼女が最後に搭乗した対ヴォズィガ用決戦兵器。Proto-TALARIAそのプロトタイプだ」

 神話の英雄ヘルメスが身につけたという翼あるくつの名を冠した機体。
 TALARIAタラリアは、先輩がヴォズィガ討伐の際に使用した兵器だ。大怪獣の妨害電波や妨害粒子に打ち勝てるだけの機体強度を持つ、一見すると巨大な蜘蛛のような有人歩行戦機。

「何でこんなもの」
「ぼくの研究成果だ。本機は失われたが、試作機をぼくが所有していることに不思議はあるまい」
「でも」

 確かにヴォズィガ討伐の為に開発されたこの機体には、博士の研究が基になっている。先輩が最も実力を発揮できるように博士が手を尽くした、とも。
 けれど、この手の兵器は、HERMヘルマ解体の折、てっきり全て破壊ないし没収されたものと思っていた。

「組織解体の混乱に乗じて何とか頂戴した」
「それ、横領って言いません?」
「大事なぼくの子供だ。文句を言われる筋合いはない。それに君の戦いには、これが必要な筈だ」

 博士の罪状についてはこの際置いておくとして、確かにこれがあれば心強い。
 ヴォズィガ討伐の際、当然私も先輩に何かあった時の為、先輩のバックアップとして操縦訓練は受けている。怪獣以外でも戦車や装甲車程度の現代兵器相手でも立ち回れるだけの練習は重ねていた。

「でもこれ、動きます?」
「何の為にこんなところに保管していると思っている。毎年、墓参りのついでに動作確認はしているさ。つい数日前にしたばかりだ。……HERMヘルマの奴らのことを、元々信用していないと言ったろう。使う機会なんて、ない方が良かったんだが」

 博士は博士で、先輩と怪獣の居なくなった世界について、色々思うところがあったらしい。私が自身の夢を追いかけると決めたのと同じように、博士は自分の信念を曲げないことを誓ったのだろう。

「それにぼくの仮説は、残念ながら当たっていたようだ」
「え?」

 博士はコンテナを出て、机のモニターを示した。
 私も博士に続いてコンテナから出る。そこには怪しげな人影が映し出されていた。

 人影は十数名。皆、頭部をヘルメットで隠しており、HERMヘルマ時代に見飽きたボディアーマーを身につけている。

「嘘でしょ」

 平和な日本だぞ。およそこんな辺鄙な場所においでなする格好ではない。武装集団は、既に倉庫の目の前にまで来ていた。

「君はTALARIAタラリアを。ぼくは外の連中の相手をしておく」
「相手って」
「ぼくの研究スペースだ。奴らに蹂躙される謂れはない」
「ちょ」

 博士は私をコンテナ内に押し込み、扉を閉めた。外から、倉庫内に響くインターホンの音が鳴る。

「誰だ!」

 博士が白白しくも、インターホンに対応した。倉庫内を歩く足音が聞こえる。

 本当に時間はない。さっき、私に出来ることは何でもする、と博士に啖呵を切ったばかりだ。
 私は腹を決め、コンテナの奥にあった強化アーマー装備を手に取った。
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