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10.初レジャー記念日
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やって来たのは、近くのショッピングモールだった。買い物、レジャー、食事、先輩と楽しむ為の物なら何でもござれだ。
「良いのか」
目的地に着いて、先輩は普段じゃ考えられない小声を出した。
「何がです?」
「こういうところ、貴方は……」
先輩が言いたいことを理解した。私はわざと溜息をつき、先輩の手を握る。
「完全には忘れてないです。けど、今日は怪獣は出てこない。出ません。それに先輩だってまだ十代ですよ。花の十代……は死語かもですけど、まだ若いんだから楽しむことも忘れちゃ駄目です」
「先輩?」
「先輩は先輩です。私の先輩って言ったら、先輩しかいないじゃないですか。行きますよ」
私は先輩の手を引いて、店中を見て回った。HERMの護衛が少し距離を取って着いて来ていることはわかっているが、そんなことは目に入れずに先輩と色々なお店に入った。先輩に似合う可愛い洋服を買ったり、美味しいランチを食べたり、一緒に甘いクレープを注文したり、カラオケで歌ったり。カラオケは先輩があまり歌える曲がなかったので一時間足らずで出てしまったが。
その間、先輩は楽しんでいるんだかつまらないんだかわからない仏頂面のままで、流石の私も手応えのなさに辟易しそうになった。
しかし、カラオケから出たところにあるゲームセンターのリズムゲームを勧めた時に、少しだけ先輩の目元が上がるのを見た。
先輩も最初は全然、流れてくる譜面に対応できなかったので、次のスポットに移ろうとしたところ。
「もう一回やらせて」
と、初めて先輩の方から要求をくれた。
私は嬉しくなって、私もこういうゲーム筐体にそんなに詳しい方ではないものの、ゲームのルールを出来る限り教えた。
カラオケがダメだったから音楽そのものにあまり興味がないのかとも思っていたがそういうことではないらしく、何戦か繰り返すうち、先輩の演奏精度は見る見るうちに上昇し。
「先輩、すごい……」
遂にはパーフェクトを成し遂げた。
これではもう太刀打ちすら出来ない。私はこっそり先輩の顔を覗き込んだ。
さっきまで石みたいに表情の変わらなかった先輩の口角が、明らかに上がっていた。
「先輩、これ気に入りました?」
「ん。最初全然できないのが悔しくて、やり直したかったんだけど」
「先輩、負けず嫌いっぽいですもんね」
「それでも段々と思い通りになっていくのは……」
「楽しいですか?」
「……うん。楽しい」
成程。こっちだったか。確かに、怪獣を倒す為にHERMが用意した兵器を、訓練を繰り返して難なく使いこなせる先輩にとって、こういう遊びは性に合ってるのかもしれない。
「ここはゲームセンターです、先輩。他にも色々ありますよ。見て回りましょう」
結局その日の残りは、最後までゲームセンターで過ごした。
先輩はどのゲームも最初は覚束なくとも、練習を繰り返しさえすればかなりのところまで上達した。それを傍目から見たり、一緒に対戦したりするのは楽しい時間だった。
仏頂面だった先輩の顔もいつの間にか破顔して笑顔になったり、悔しさで口元を歪ませたり、ハイスコアを取って満足気に息をついたりしていた。
「あ、これ」
ゲームセンター内のクレーンゲームのうちの一台が目に入った。中学の時から私の好きなウサギのキャラクターがぬいぐるみキーホルダーとして景品になっている。
「よし、やりますよー」
私はクレーンゲームに硬貨を投入して、クレーンを動かした。目当ての景品に狙いを定めたが、クレーンは虚しくも空を切った。
「わたし、やろうか」
「先輩は後で!」
確かに先輩ならクレーンゲームだって、やってるうちに極めちゃいそうだ。だけど、こういうのは自分で取ってこそ意味があるんだから、とムキになって、数千円費やしたところでやっと一体、景品を手にした。
「取れたー!」
「おめでとう」
先輩は静かに一人で、私に向けて笑顔で拍手した。基地内じゃ全然わからなかったけれど、こういうところもあるんだな、なんて私は変に感心して。
「先輩、これあげます」
「わたしに?」
「先輩との初レジャー記念です」
私は受け取り口から取り出した景品を掲げた。先輩は両手を差し出してくれたので、その手のひらの上にぽすん、とウサギのぬいぐるみを落とす。
「ありがとう」
先輩は大事そうに、ぬいぐるみキーホルダーを握りしめた。
それからも何台か筐体ゲームをプレイした後、ゲームセンターを出て、先輩との休暇は幕を閉じた。
「頻繁には無理かもですけど、また一緒に遊びましょうね。その時は、今度は私が先輩から何か貰いますから」
「わかった。考えておく」
先輩の言葉に、今度はどこに連れて行こうか、なんて考えが頭をよぎった。今日は行かなかったけど、映画を観るのも良い。先輩がどんな映画好きか知らないけど、そういうのも知っていったら良い。
「怪獣と戦いのは、確かに先輩と私の二人にしか出来ないことかもしれないです。そういう運命なのかもわからないです。でも、だからって、楽しんじゃいけない、なんてことはないんですから」
私達には、使命がある。怪獣と戦わなければいけない使命が。
そんなことを強いた怪獣に、HERMに腹は立つが、きっとそんな環境下でも、私達も幸せであって良い筈だ。
そう思って、ショッピングモールを後にした。
帰りはHERMから車が寄越されて、明日からの現実に引き戻されそうになったけれど、一日の疲れから二人とも眠ってしまったみたいで、車が基地に着いた時、二人揃って御付きの職員に肩を揺さぶられて起こされた。
そんな私と先輩は二人で顔を見合わせて、お互いの寝惚けた顔がおかしくて、二人ともつい吹き出したりした。
結局、その時の休暇が、先輩と一緒に外で遊んだ、最初で最後の日になった。
「良いのか」
目的地に着いて、先輩は普段じゃ考えられない小声を出した。
「何がです?」
「こういうところ、貴方は……」
先輩が言いたいことを理解した。私はわざと溜息をつき、先輩の手を握る。
「完全には忘れてないです。けど、今日は怪獣は出てこない。出ません。それに先輩だってまだ十代ですよ。花の十代……は死語かもですけど、まだ若いんだから楽しむことも忘れちゃ駄目です」
「先輩?」
「先輩は先輩です。私の先輩って言ったら、先輩しかいないじゃないですか。行きますよ」
私は先輩の手を引いて、店中を見て回った。HERMの護衛が少し距離を取って着いて来ていることはわかっているが、そんなことは目に入れずに先輩と色々なお店に入った。先輩に似合う可愛い洋服を買ったり、美味しいランチを食べたり、一緒に甘いクレープを注文したり、カラオケで歌ったり。カラオケは先輩があまり歌える曲がなかったので一時間足らずで出てしまったが。
その間、先輩は楽しんでいるんだかつまらないんだかわからない仏頂面のままで、流石の私も手応えのなさに辟易しそうになった。
しかし、カラオケから出たところにあるゲームセンターのリズムゲームを勧めた時に、少しだけ先輩の目元が上がるのを見た。
先輩も最初は全然、流れてくる譜面に対応できなかったので、次のスポットに移ろうとしたところ。
「もう一回やらせて」
と、初めて先輩の方から要求をくれた。
私は嬉しくなって、私もこういうゲーム筐体にそんなに詳しい方ではないものの、ゲームのルールを出来る限り教えた。
カラオケがダメだったから音楽そのものにあまり興味がないのかとも思っていたがそういうことではないらしく、何戦か繰り返すうち、先輩の演奏精度は見る見るうちに上昇し。
「先輩、すごい……」
遂にはパーフェクトを成し遂げた。
これではもう太刀打ちすら出来ない。私はこっそり先輩の顔を覗き込んだ。
さっきまで石みたいに表情の変わらなかった先輩の口角が、明らかに上がっていた。
「先輩、これ気に入りました?」
「ん。最初全然できないのが悔しくて、やり直したかったんだけど」
「先輩、負けず嫌いっぽいですもんね」
「それでも段々と思い通りになっていくのは……」
「楽しいですか?」
「……うん。楽しい」
成程。こっちだったか。確かに、怪獣を倒す為にHERMが用意した兵器を、訓練を繰り返して難なく使いこなせる先輩にとって、こういう遊びは性に合ってるのかもしれない。
「ここはゲームセンターです、先輩。他にも色々ありますよ。見て回りましょう」
結局その日の残りは、最後までゲームセンターで過ごした。
先輩はどのゲームも最初は覚束なくとも、練習を繰り返しさえすればかなりのところまで上達した。それを傍目から見たり、一緒に対戦したりするのは楽しい時間だった。
仏頂面だった先輩の顔もいつの間にか破顔して笑顔になったり、悔しさで口元を歪ませたり、ハイスコアを取って満足気に息をついたりしていた。
「あ、これ」
ゲームセンター内のクレーンゲームのうちの一台が目に入った。中学の時から私の好きなウサギのキャラクターがぬいぐるみキーホルダーとして景品になっている。
「よし、やりますよー」
私はクレーンゲームに硬貨を投入して、クレーンを動かした。目当ての景品に狙いを定めたが、クレーンは虚しくも空を切った。
「わたし、やろうか」
「先輩は後で!」
確かに先輩ならクレーンゲームだって、やってるうちに極めちゃいそうだ。だけど、こういうのは自分で取ってこそ意味があるんだから、とムキになって、数千円費やしたところでやっと一体、景品を手にした。
「取れたー!」
「おめでとう」
先輩は静かに一人で、私に向けて笑顔で拍手した。基地内じゃ全然わからなかったけれど、こういうところもあるんだな、なんて私は変に感心して。
「先輩、これあげます」
「わたしに?」
「先輩との初レジャー記念です」
私は受け取り口から取り出した景品を掲げた。先輩は両手を差し出してくれたので、その手のひらの上にぽすん、とウサギのぬいぐるみを落とす。
「ありがとう」
先輩は大事そうに、ぬいぐるみキーホルダーを握りしめた。
それからも何台か筐体ゲームをプレイした後、ゲームセンターを出て、先輩との休暇は幕を閉じた。
「頻繁には無理かもですけど、また一緒に遊びましょうね。その時は、今度は私が先輩から何か貰いますから」
「わかった。考えておく」
先輩の言葉に、今度はどこに連れて行こうか、なんて考えが頭をよぎった。今日は行かなかったけど、映画を観るのも良い。先輩がどんな映画好きか知らないけど、そういうのも知っていったら良い。
「怪獣と戦いのは、確かに先輩と私の二人にしか出来ないことかもしれないです。そういう運命なのかもわからないです。でも、だからって、楽しんじゃいけない、なんてことはないんですから」
私達には、使命がある。怪獣と戦わなければいけない使命が。
そんなことを強いた怪獣に、HERMに腹は立つが、きっとそんな環境下でも、私達も幸せであって良い筈だ。
そう思って、ショッピングモールを後にした。
帰りはHERMから車が寄越されて、明日からの現実に引き戻されそうになったけれど、一日の疲れから二人とも眠ってしまったみたいで、車が基地に着いた時、二人揃って御付きの職員に肩を揺さぶられて起こされた。
そんな私と先輩は二人で顔を見合わせて、お互いの寝惚けた顔がおかしくて、二人ともつい吹き出したりした。
結局、その時の休暇が、先輩と一緒に外で遊んだ、最初で最後の日になった。
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