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12.ヴォズィガ新宿事変
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それが発生したのは、先輩と一緒にショッピングモールで遊んだ翌日の朝だった。
先輩との休暇を終え、先輩が休む間の代わりとして、世界中の空を監視する仕事をしていると、突如として東京都新宿上空に巨大なシャッガイ領域が発生するのを目撃した。
私は直ぐにHERMにそれを伝える。暫くして、東京全域に避難勧告が発令された。
シャッガイ領域が観測されてから、怪獣が出現するまでの時間は、その時々において異なる。
経験則として、怪獣が大きい程にシャッガイ領域も大きく、その出現から怪獣の出現までには時間が掛かる。
逆に、小さな怪獣の場合、シャッガイ領域観測とほぼ同時に怪獣が出現することだってある。
私がザモザに襲われたショッピングモールでの怪獣災害は正にそのケースだった故に、多数の死傷者を出すことになった。
だから一概に大きな怪獣程危険であるとも言えないのが怪獣の厄介なところだ。
首都を目指して怪獣が現れる際は、当然のことながら、特に慎重な対応が求められる。東京周辺に怪獣が現れるのは、もう五年以上も前のことだそうだが、いつ怪獣が現れても良いように避難の準備は進められていた。
昨日に続けて休暇を取る筈だった先輩も、この緊急事態に招集され、早速シャッガイ領域に出撃する前の事前打合せが開かれた。いつ新宿に怪獣が現れても良いように、HERM内部は即座に体制を整えた。
「もしかしてなんですけど……」
私は自分の所感を事前打合せ中に口にした。
「あの空……多分ヴォズィガです」
「わたしもそう思う」
先輩が、私が意見を発して直ぐ、間髪入れずに同意の言葉を重ねてくれた。
私がHERMに来てから、一度だけヴォズィガが出現したことがある。その時、ヴォズィガが現れたのはクウェートにある油田近くだったから、二次被害を抑える為の動きが迅速に行われた。
クウェートの空を見た時もそうだった。
他の怪獣の出現するシャッガイ領域と、ヴォズィガの出現するそれとには違いを感じる。それが具体的に何である、と説明は出来なかったが、ヴォズィガが現れる空を見た時の胸騒ぎは、他の怪獣が出現する紅い空を見上げた時とは明らかに違う、と本能が囁いていた。
私と先輩の言葉に、HERMが騒めいた。
ヴォズィガへの対応は、他の怪獣とは異なる。
何故かと言えば、これまでヴォズィガを討伐することは愚か、追い返すことすらHERMは成功していなかったからだ。
先輩でも唯一歯が立たない、HERMの天敵。それがヴォズィガだった。
ヴォズィガも他の怪獣と同じように、シャッガイ領域の下に、私と先輩にしか見えない糸に吊された状態で出現する。
クウェートにヴォズィガが現れた時は私も戦場に、遠隔機動機を通じて参加したがその機体は物の見事にヴォズィガに喰い潰され、先輩の攻撃もヴォズィガの糸を切断こそしたものの、異常な修復速度で糸は繋ぎ直され、ヴォズィガを倒すには至らなかった。
ヴォズィガに対しての懸念はもう一つあった。
「クウェートでのヴォズィガは、以前より成長していた」
職員の一人が、その懸念を口にした。
そう。ヴォズィガは出現する毎に、その体躯が巨大化していた。
元は体長50メートルの記録がされていたヴォズィガだが、クウェートに出現した個体は、その姿こそ以前に出現したものと同様だったものの、体長を大幅に伸ばした70メートルの巨体で、あの土地の広大な大地を蹂躙した。
「新宿にヴォズィガが……しかも、更に成長した姿で出現したとしたら」
ヴォズィガを倒す手段を持たない私達は、ヴォズィガに挑みながらも、あの大怪獣が自ら立ち去るのを待つ他なくなる。
考え得る限り、怪獣災害において最悪のケースの一つだ。
そして事実、その通りになった。
ヴォズィガが、巨大なイグアナの如きその巨躯を、地下からコンクリートを突き破って現した。
事前の斥候の調査では、ヴォズィガが出現した場所には何もなかった筈なのに、シャッガイ領域の下で、怪獣はこうも理不尽にこの世界に現れる。
その体長は100メートル。
クウェートの時以上に成長させたその姿で街街を踏み躙る。
口からはレーザー光線のような熱線を放出し、小さな建物も高層ビルも関係なく薙ぎ倒した。
先輩は強化アーマーを身に付けて、ヴォズィガに立ち向かった。ヴォズィガの体躯を駆け登り、身体中に吊るされている糸を、大斧で次々と斬り伏せる。私も航空無人機を操って先輩をアシストし、先輩とは反対方向からヴォズィガとシャッガイ領域との繋がりを断ち切る。
だがヴォズィガは私達のことなど構うことなく、歩みを進めた。私も、今度は機体を破壊されることさえなかったが、意味がない。
先輩と私がヴォズィガを倒そうともがいても、ヴォズィガは他の怪獣の比ではない修復速度で、シャッガイ領域との繋がりを絶つことなく咆哮し、破壊を繰り返した。
そしてヴォズィガは新宿を蹂躙し尽くし、街は唯ひたすらに地獄が広がるかのような、火の海と化した。
街を破壊し尽くしたヴォズィガは、出現した時とは逆に地面のコンクリートを抉り地下へと潜ってその姿を消した。
「また。また何も出来なかった……」
ヴォズィガが去った後の新宿だった街の残骸を見つめて、先輩は悔しさで肩を震わせる。血が出る程強く唇を噛んでいた。
「どうしてなの」
「先輩……」
私は先輩に声を掛けたが応答はなく、私に背を向けて独り佇むばかりだった。
先輩との休暇を終え、先輩が休む間の代わりとして、世界中の空を監視する仕事をしていると、突如として東京都新宿上空に巨大なシャッガイ領域が発生するのを目撃した。
私は直ぐにHERMにそれを伝える。暫くして、東京全域に避難勧告が発令された。
シャッガイ領域が観測されてから、怪獣が出現するまでの時間は、その時々において異なる。
経験則として、怪獣が大きい程にシャッガイ領域も大きく、その出現から怪獣の出現までには時間が掛かる。
逆に、小さな怪獣の場合、シャッガイ領域観測とほぼ同時に怪獣が出現することだってある。
私がザモザに襲われたショッピングモールでの怪獣災害は正にそのケースだった故に、多数の死傷者を出すことになった。
だから一概に大きな怪獣程危険であるとも言えないのが怪獣の厄介なところだ。
首都を目指して怪獣が現れる際は、当然のことながら、特に慎重な対応が求められる。東京周辺に怪獣が現れるのは、もう五年以上も前のことだそうだが、いつ怪獣が現れても良いように避難の準備は進められていた。
昨日に続けて休暇を取る筈だった先輩も、この緊急事態に招集され、早速シャッガイ領域に出撃する前の事前打合せが開かれた。いつ新宿に怪獣が現れても良いように、HERM内部は即座に体制を整えた。
「もしかしてなんですけど……」
私は自分の所感を事前打合せ中に口にした。
「あの空……多分ヴォズィガです」
「わたしもそう思う」
先輩が、私が意見を発して直ぐ、間髪入れずに同意の言葉を重ねてくれた。
私がHERMに来てから、一度だけヴォズィガが出現したことがある。その時、ヴォズィガが現れたのはクウェートにある油田近くだったから、二次被害を抑える為の動きが迅速に行われた。
クウェートの空を見た時もそうだった。
他の怪獣の出現するシャッガイ領域と、ヴォズィガの出現するそれとには違いを感じる。それが具体的に何である、と説明は出来なかったが、ヴォズィガが現れる空を見た時の胸騒ぎは、他の怪獣が出現する紅い空を見上げた時とは明らかに違う、と本能が囁いていた。
私と先輩の言葉に、HERMが騒めいた。
ヴォズィガへの対応は、他の怪獣とは異なる。
何故かと言えば、これまでヴォズィガを討伐することは愚か、追い返すことすらHERMは成功していなかったからだ。
先輩でも唯一歯が立たない、HERMの天敵。それがヴォズィガだった。
ヴォズィガも他の怪獣と同じように、シャッガイ領域の下に、私と先輩にしか見えない糸に吊された状態で出現する。
クウェートにヴォズィガが現れた時は私も戦場に、遠隔機動機を通じて参加したがその機体は物の見事にヴォズィガに喰い潰され、先輩の攻撃もヴォズィガの糸を切断こそしたものの、異常な修復速度で糸は繋ぎ直され、ヴォズィガを倒すには至らなかった。
ヴォズィガに対しての懸念はもう一つあった。
「クウェートでのヴォズィガは、以前より成長していた」
職員の一人が、その懸念を口にした。
そう。ヴォズィガは出現する毎に、その体躯が巨大化していた。
元は体長50メートルの記録がされていたヴォズィガだが、クウェートに出現した個体は、その姿こそ以前に出現したものと同様だったものの、体長を大幅に伸ばした70メートルの巨体で、あの土地の広大な大地を蹂躙した。
「新宿にヴォズィガが……しかも、更に成長した姿で出現したとしたら」
ヴォズィガを倒す手段を持たない私達は、ヴォズィガに挑みながらも、あの大怪獣が自ら立ち去るのを待つ他なくなる。
考え得る限り、怪獣災害において最悪のケースの一つだ。
そして事実、その通りになった。
ヴォズィガが、巨大なイグアナの如きその巨躯を、地下からコンクリートを突き破って現した。
事前の斥候の調査では、ヴォズィガが出現した場所には何もなかった筈なのに、シャッガイ領域の下で、怪獣はこうも理不尽にこの世界に現れる。
その体長は100メートル。
クウェートの時以上に成長させたその姿で街街を踏み躙る。
口からはレーザー光線のような熱線を放出し、小さな建物も高層ビルも関係なく薙ぎ倒した。
先輩は強化アーマーを身に付けて、ヴォズィガに立ち向かった。ヴォズィガの体躯を駆け登り、身体中に吊るされている糸を、大斧で次々と斬り伏せる。私も航空無人機を操って先輩をアシストし、先輩とは反対方向からヴォズィガとシャッガイ領域との繋がりを断ち切る。
だがヴォズィガは私達のことなど構うことなく、歩みを進めた。私も、今度は機体を破壊されることさえなかったが、意味がない。
先輩と私がヴォズィガを倒そうともがいても、ヴォズィガは他の怪獣の比ではない修復速度で、シャッガイ領域との繋がりを絶つことなく咆哮し、破壊を繰り返した。
そしてヴォズィガは新宿を蹂躙し尽くし、街は唯ひたすらに地獄が広がるかのような、火の海と化した。
街を破壊し尽くしたヴォズィガは、出現した時とは逆に地面のコンクリートを抉り地下へと潜ってその姿を消した。
「また。また何も出来なかった……」
ヴォズィガが去った後の新宿だった街の残骸を見つめて、先輩は悔しさで肩を震わせる。血が出る程強く唇を噛んでいた。
「どうしてなの」
「先輩……」
私は先輩に声を掛けたが応答はなく、私に背を向けて独り佇むばかりだった。
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