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外伝短編
『墓参り』
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彼女が私の部屋に来た時は驚いた。
まだ十代になる前からこの施設で大人達の都合で彼女は、自らの意志で行動する、ということをこれまでついぞして来なかったからだ。
だから、最初は戦闘訓練か、それとも先日あった実戦の際に何か気になるものでもあったのかと訝しんだが、そういうわけではなかった。
「博士の部屋は蔵書が豊富と聞きましたが、本当でしょうか」
「当然」
「何かわたしの好きそうな本、あるでしょうか」
「ほう?」
彼女がこうしたことを聞きに来るのは、初めてだ。
先日、彼女と同じ立場の新兵と遊びに行ったと聞いていたが、その影響だろうか。あの後すぐに戦闘になった為に彼女の心の安らぎを心配していたが。
良い傾向だ、と思う。
戦いに身を起き続けた彼女は、もう何年も、彼女が自我らしい自我を見せたことなどなかったから。
「そうだな。どれが君の気にいるものか、残念ながら私にはわからん。何故わたしのところに?」
「職員に聞いたら、博士が所では一番本好きだと」
「なるほど。そういうことなら、そこの本棚から気になるものを取って行って構わない。小説でも漫画でも何でもな。ただし、汚すなよ」
「ありがとうございます」
彼女は丁寧に頭を下げると、本棚を物色し始めた。
私の方は、書きかけの報告書の作成を再開する。
私のパソコンのタイピング音と、ゴトゴトと本を本棚から出し入れする音や、パラパラと本を捲る音だけが部屋に響いた。
暫くして、彼女は何冊か本を手に私のもとにきた。
「こちら、お借りします」
「ああ、わかった」
彼女のことだから、本を返さないということはないだろうが、選んだ本を一応確認する。
それは戦闘機や銃の図鑑など、殆どが戦闘に関係するもので、私は一瞬だけ、眉間に手を寄せた。
「もっと他にあるだろう」
「気になるものを取って構わない、と」
「それはそうだが」
これも一種の職業病か? おそらくは彼女なりに、気晴らしというものを試みようとして読書という選択肢を取った筈だ。
本棚には本以外にも、映画の再生ディスクなどもあり、娯楽というならそういう映像媒体の方が取っ付きやすいのではとも思ったが、あまり口出しするべきでもあるまい。
とは言え、だ。
私は書きかけの報告書から手を離し、本棚を物色した。
ふと学園モノのライトノベルが目に留まり、私はそれを引き出す。
私の好みではなかったので、続刊は買わなかったが、それなりに面白い小説だったし、あまり本を読み慣れていない者でも読みやすいだろう。
他にも何冊か彼女でも読みやすそうな本や漫画を一巻だけ抜き出し、彼女の選んだ本の上に置いた。
「ほら、これも持っていけ」
「これは?」
「好きな本を探したいというなら、せめて複数ジャンル持っていけ。さっきは汚さず返せと言ったが、返さなくて良い。譲ろう。邪魔なら返してもらっても捨てても構わない」
「あ、ありがとうございます。捨てはしませんが」
少しだけ彼女はたじろいだが、口角が上がっているようにも見えた。
全く。仕方のない。
私は本を紙袋の中に入れると、彼女に持たせた。
彼女は来た時と同じように頭を下げて、私の部屋を出る。
私は溜息をつき、報告書作成に戻った。
彼女が私の部屋を訪れたのは、あの時が最後だった。
我々の往年の宿敵、大怪獣ヴォズィガが彼女の手によって倒され、我々の基地が解体される、となった際に彼女の部屋を訪れる機会があった。
彼女の部屋の本棚には、ミリタリー系の雑誌がズラリと並んでいて、結局そっち方向に言ったのかと失笑したが、その中に、私の譲った小説も混じっていることに気がついた。
それも、私があげたのは一巻だけだった筈が、続刊まで揃えてある。
私は基地の職員に「あの本は私が彼女に貸したものだ」と説明し、その小説を持ち帰ることにした。
私は自分の好みでないと一巻で読むのをやめたその小説を、残らず読んだ。
その小説は、数冊分はシリーズが続いていたが、一巻からずっと、学園内で起こる騒動や恋愛、友達との確執など、学生の青春を面白楽しく描いていた。
彼女の持っていたのも完結までは至っておらず、彼女は続きを知ることなく消えたのかと思うと胸のあたりが痛む。
私は彼女が持っていなかった分、その小説の新刊を買い、紙袋の中に敷き詰めた。
またいつ世界に異変が起こってもいいように、またそんな時に彼女と同じく戦いに身を投じる者の為に、秘密裏に作った私の研究室。
その近くに、彼女の墓地もあった。身寄りのいない彼女の墓地を、私を含めた基地職員の願いで建てた。
彼女が文字通り世界を救った英雄であることを、世界には明かしていない。この世界をたかだか十代の少女に任せていたことなど、世界に知らせるべきではない、と判断された。
彼女こそ、自らを犠牲に大怪獣ヴォズィガを討伐した勇士だった。
どうして彼女でなければならなかったのか。私は彼女以外にヴォズィガ討伐を任せられなかった自身の不甲斐なさを思うと、行き場のない怒りすら覚える。
しかし、だからこそ我々のようなものこそしっかりと、覚えていなければいけないだろう。
紙袋を手に、夏の蝉がうるさい中、私は車に乗り、秘密の研究室へと向かった。
(終)
まだ十代になる前からこの施設で大人達の都合で彼女は、自らの意志で行動する、ということをこれまでついぞして来なかったからだ。
だから、最初は戦闘訓練か、それとも先日あった実戦の際に何か気になるものでもあったのかと訝しんだが、そういうわけではなかった。
「博士の部屋は蔵書が豊富と聞きましたが、本当でしょうか」
「当然」
「何かわたしの好きそうな本、あるでしょうか」
「ほう?」
彼女がこうしたことを聞きに来るのは、初めてだ。
先日、彼女と同じ立場の新兵と遊びに行ったと聞いていたが、その影響だろうか。あの後すぐに戦闘になった為に彼女の心の安らぎを心配していたが。
良い傾向だ、と思う。
戦いに身を起き続けた彼女は、もう何年も、彼女が自我らしい自我を見せたことなどなかったから。
「そうだな。どれが君の気にいるものか、残念ながら私にはわからん。何故わたしのところに?」
「職員に聞いたら、博士が所では一番本好きだと」
「なるほど。そういうことなら、そこの本棚から気になるものを取って行って構わない。小説でも漫画でも何でもな。ただし、汚すなよ」
「ありがとうございます」
彼女は丁寧に頭を下げると、本棚を物色し始めた。
私の方は、書きかけの報告書の作成を再開する。
私のパソコンのタイピング音と、ゴトゴトと本を本棚から出し入れする音や、パラパラと本を捲る音だけが部屋に響いた。
暫くして、彼女は何冊か本を手に私のもとにきた。
「こちら、お借りします」
「ああ、わかった」
彼女のことだから、本を返さないということはないだろうが、選んだ本を一応確認する。
それは戦闘機や銃の図鑑など、殆どが戦闘に関係するもので、私は一瞬だけ、眉間に手を寄せた。
「もっと他にあるだろう」
「気になるものを取って構わない、と」
「それはそうだが」
これも一種の職業病か? おそらくは彼女なりに、気晴らしというものを試みようとして読書という選択肢を取った筈だ。
本棚には本以外にも、映画の再生ディスクなどもあり、娯楽というならそういう映像媒体の方が取っ付きやすいのではとも思ったが、あまり口出しするべきでもあるまい。
とは言え、だ。
私は書きかけの報告書から手を離し、本棚を物色した。
ふと学園モノのライトノベルが目に留まり、私はそれを引き出す。
私の好みではなかったので、続刊は買わなかったが、それなりに面白い小説だったし、あまり本を読み慣れていない者でも読みやすいだろう。
他にも何冊か彼女でも読みやすそうな本や漫画を一巻だけ抜き出し、彼女の選んだ本の上に置いた。
「ほら、これも持っていけ」
「これは?」
「好きな本を探したいというなら、せめて複数ジャンル持っていけ。さっきは汚さず返せと言ったが、返さなくて良い。譲ろう。邪魔なら返してもらっても捨てても構わない」
「あ、ありがとうございます。捨てはしませんが」
少しだけ彼女はたじろいだが、口角が上がっているようにも見えた。
全く。仕方のない。
私は本を紙袋の中に入れると、彼女に持たせた。
彼女は来た時と同じように頭を下げて、私の部屋を出る。
私は溜息をつき、報告書作成に戻った。
彼女が私の部屋を訪れたのは、あの時が最後だった。
我々の往年の宿敵、大怪獣ヴォズィガが彼女の手によって倒され、我々の基地が解体される、となった際に彼女の部屋を訪れる機会があった。
彼女の部屋の本棚には、ミリタリー系の雑誌がズラリと並んでいて、結局そっち方向に言ったのかと失笑したが、その中に、私の譲った小説も混じっていることに気がついた。
それも、私があげたのは一巻だけだった筈が、続刊まで揃えてある。
私は基地の職員に「あの本は私が彼女に貸したものだ」と説明し、その小説を持ち帰ることにした。
私は自分の好みでないと一巻で読むのをやめたその小説を、残らず読んだ。
その小説は、数冊分はシリーズが続いていたが、一巻からずっと、学園内で起こる騒動や恋愛、友達との確執など、学生の青春を面白楽しく描いていた。
彼女の持っていたのも完結までは至っておらず、彼女は続きを知ることなく消えたのかと思うと胸のあたりが痛む。
私は彼女が持っていなかった分、その小説の新刊を買い、紙袋の中に敷き詰めた。
またいつ世界に異変が起こってもいいように、またそんな時に彼女と同じく戦いに身を投じる者の為に、秘密裏に作った私の研究室。
その近くに、彼女の墓地もあった。身寄りのいない彼女の墓地を、私を含めた基地職員の願いで建てた。
彼女が文字通り世界を救った英雄であることを、世界には明かしていない。この世界をたかだか十代の少女に任せていたことなど、世界に知らせるべきではない、と判断された。
彼女こそ、自らを犠牲に大怪獣ヴォズィガを討伐した勇士だった。
どうして彼女でなければならなかったのか。私は彼女以外にヴォズィガ討伐を任せられなかった自身の不甲斐なさを思うと、行き場のない怒りすら覚える。
しかし、だからこそ我々のようなものこそしっかりと、覚えていなければいけないだろう。
紙袋を手に、夏の蝉がうるさい中、私は車に乗り、秘密の研究室へと向かった。
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