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なんだかんだで律儀な方の僕はいつもは23時まで居座るファストフード店を早めに出て言われた通り公園へと歩いていた。
「来てくれたんだ。良かった」
彼はもう来ており猫の世話をしているようであった。
「一応言われたから来ないと悪いかと思って」
約束を守らないといけないと思い素直に来たことが少し恥ずかしくなり目を逸らしながら言った。
「うんうん。よし行こう」
こっちの言葉を聞いてるのか聞いてないのか分からないくらいの勢いで僕の手首を掴み歩き出す。歩くペースを少し合わせてくれてるようにも思えるが、それでも彼の歩くスピードは速く僕は早歩きで着いて行く。
「手首細すぎない?何も食べてないでしょ」
彼はこっちのことなど御構い無しに話し出す。
「その前に僕はどこに向かってるの?」
「俺の家。ご飯2人分作ってもらったから来なかったらどうしようかと思った」
当たり前かのように彼は言った。
「いや名前も知らない昨日初めて会った人を家に連れてくのおかしいでしょ」
当然の疑問を彼にぶつける。
「それもそうだね。俺は高嶺遥都。君は?」
「えーっと、僕は池平幸斗です」
なんのためらいもなく素性の知れない人に名乗ってくるもんだから僕もつられて名乗ってしまった。
「幸斗ね。了解」
よく分からないが、何かを了解されたようだ。にしても高嶺って市長と同じ苗字だけど彼は親戚か何かだろうか。
「家族の人もこんな時間にお邪魔したら迷惑じゃない?」
「大丈夫。母はこの家にいないし父はまだ仕事で帰ってきてないから」
それはそれでそんな家にお邪魔して良いのかと考える暇もなく公園から5分ほどで高嶺は歩みを止めた。
「ここ俺んち。入ろ」
綺麗に整えられた庭のある一軒家に辿り着いた。庭ですら僕の家の3倍は軽くある。庭にはよく分からない花と庭師によって切り揃えられている木があった。場違いな場所に連れてこられ狼狽えているうちに高嶺の部屋へと通されていた。高嶺の部屋は当たり前のように僕の家より広かった。しかし部屋の中はヴィクトリアン調の家具が並んでるような部屋ではなく、意外にもごく一般的な家庭の家と同じだった。
「そこに座って待ってて」
言われるがままに僕がローテーブルのそばにあるクッションに座ると高嶺は部屋を出ていった。待つと言っても本を読むわけにも行かないので部屋にある勉強机や本棚、テレビ台などをぼんやり眺めていると高嶺が部屋に戻ってきた。
「お待たせ。さあ食べよう」
高嶺は机に肉じゃがや味噌汁、ご飯に漬物など料理を並べていった。僕の前に割り箸を置き高嶺はどうぞと手振りをする。
「なんか結構な量だし、家族の方に申し訳ないです」
「大丈夫。家族の料理ついでに家政婦さんが俺の夜食用に作り置きしといてくれたやつだから。昨日お願いしたときも1人分増えたところで特に変わんないって言ってたし」
「…家政婦」
僕の家とのスケールの違いに余計に食べて大丈夫なのかと不安がよぎる。碌なものを食べていないのは事実だし意を決して肉じゃがを口に運んだ。
「美味しい?」
「美味しいです」
僕の答えに満足げな顔をし高嶺もご飯を食べ始めた。高嶺はモリモリと食べていく。僕も少しづつご飯を食べる。
ちゃんとした手料理を食べるのは両親が生きていた頃以来な気がする。
「大丈夫?」
高嶺が心配そうな顔でこちらの顔を覗き込んでいる。何のことか分からずにいると高嶺の手が僕の頬にそっと触れて気がついた。僕の目から涙がこぼれ落ちていた。
「…大丈夫」
高嶺の手を退け自分の手で涙を拭いたが、暖かくて気が緩んだのか涙は溢れて止まらなかった。
「無理しなくて良いよ」
そっと高嶺に抱きしめられた。体格も性別も違うのに何故か母親が思い浮かんで僕の涙は止まらなかった。
気づくと僕は眠っていたようでまだ高嶺の部屋にいた。
「起きた?お迎え来てるよ」
頭がぼんやりとしておりかけられた言葉を理解するまでに数秒要し理解したとき顔から血の気が引いた。
「え、どうして?」
「幸斗寝ちゃったから家の人に一報入れないとと思って、生徒手帳に書いてあった連絡先に電話したら迎えに行きますって」
さも当然のようにいう高嶺は僕の家のような関係なんてのを現実世界では知らないんだろう。僕はまだ幸せになれないことを忘れかけてた頃に一気に現実へと引き戻された。
僕が動揺していることなどお構いなしに高嶺は部屋から連れ出した。高嶺はその間何かこちらに話しかけていたようだが僕は何も聞くことができなかった。
高嶺の部屋から玄関へと降りて行くと、完全によそ行きの状態の状態の兄と高嶺市長が談笑していた。親戚かと思っていたが息子だったとは思わなかった。兄に手招きされ兄の隣に行く。
「うちの幸斗がお世話になりました。ほら幸斗もちゃんと挨拶しなさい」
「お世話になりました。お邪魔しました」
兄に促され挨拶すると市長も高嶺も何か返してくれたが隣にいる兄の様子が気になり頭には入ってこなかった。
高嶺宅を後にし僕は兄の後ろに着きながら歩く。今日もきっとシゴトだっただろうに僕を迎えに行かなければいけない状態になったことに対してきっと怒っているだろう。
「今日何か食べた?」
前を向いて歩いたまま兄はこちらへ問いかける。
「肉じゃがをいただきました」
僕だけ普通にご飯を食べたことに対してきっと怒るだろう。こっちはシゴトだったのにって殴るだろう。せめて怒るのは家に帰ってからにしてほしい。外で倒れたら余計に痛い。
「…ふーん」
兄は気のない返事をしそこで会話は終わった。そしてこちらの予想に反し兄は特に何もしないまま家へと辿り着き、今日は久々に自分の布団で眠りにつくことができた。
「来てくれたんだ。良かった」
彼はもう来ており猫の世話をしているようであった。
「一応言われたから来ないと悪いかと思って」
約束を守らないといけないと思い素直に来たことが少し恥ずかしくなり目を逸らしながら言った。
「うんうん。よし行こう」
こっちの言葉を聞いてるのか聞いてないのか分からないくらいの勢いで僕の手首を掴み歩き出す。歩くペースを少し合わせてくれてるようにも思えるが、それでも彼の歩くスピードは速く僕は早歩きで着いて行く。
「手首細すぎない?何も食べてないでしょ」
彼はこっちのことなど御構い無しに話し出す。
「その前に僕はどこに向かってるの?」
「俺の家。ご飯2人分作ってもらったから来なかったらどうしようかと思った」
当たり前かのように彼は言った。
「いや名前も知らない昨日初めて会った人を家に連れてくのおかしいでしょ」
当然の疑問を彼にぶつける。
「それもそうだね。俺は高嶺遥都。君は?」
「えーっと、僕は池平幸斗です」
なんのためらいもなく素性の知れない人に名乗ってくるもんだから僕もつられて名乗ってしまった。
「幸斗ね。了解」
よく分からないが、何かを了解されたようだ。にしても高嶺って市長と同じ苗字だけど彼は親戚か何かだろうか。
「家族の人もこんな時間にお邪魔したら迷惑じゃない?」
「大丈夫。母はこの家にいないし父はまだ仕事で帰ってきてないから」
それはそれでそんな家にお邪魔して良いのかと考える暇もなく公園から5分ほどで高嶺は歩みを止めた。
「ここ俺んち。入ろ」
綺麗に整えられた庭のある一軒家に辿り着いた。庭ですら僕の家の3倍は軽くある。庭にはよく分からない花と庭師によって切り揃えられている木があった。場違いな場所に連れてこられ狼狽えているうちに高嶺の部屋へと通されていた。高嶺の部屋は当たり前のように僕の家より広かった。しかし部屋の中はヴィクトリアン調の家具が並んでるような部屋ではなく、意外にもごく一般的な家庭の家と同じだった。
「そこに座って待ってて」
言われるがままに僕がローテーブルのそばにあるクッションに座ると高嶺は部屋を出ていった。待つと言っても本を読むわけにも行かないので部屋にある勉強机や本棚、テレビ台などをぼんやり眺めていると高嶺が部屋に戻ってきた。
「お待たせ。さあ食べよう」
高嶺は机に肉じゃがや味噌汁、ご飯に漬物など料理を並べていった。僕の前に割り箸を置き高嶺はどうぞと手振りをする。
「なんか結構な量だし、家族の方に申し訳ないです」
「大丈夫。家族の料理ついでに家政婦さんが俺の夜食用に作り置きしといてくれたやつだから。昨日お願いしたときも1人分増えたところで特に変わんないって言ってたし」
「…家政婦」
僕の家とのスケールの違いに余計に食べて大丈夫なのかと不安がよぎる。碌なものを食べていないのは事実だし意を決して肉じゃがを口に運んだ。
「美味しい?」
「美味しいです」
僕の答えに満足げな顔をし高嶺もご飯を食べ始めた。高嶺はモリモリと食べていく。僕も少しづつご飯を食べる。
ちゃんとした手料理を食べるのは両親が生きていた頃以来な気がする。
「大丈夫?」
高嶺が心配そうな顔でこちらの顔を覗き込んでいる。何のことか分からずにいると高嶺の手が僕の頬にそっと触れて気がついた。僕の目から涙がこぼれ落ちていた。
「…大丈夫」
高嶺の手を退け自分の手で涙を拭いたが、暖かくて気が緩んだのか涙は溢れて止まらなかった。
「無理しなくて良いよ」
そっと高嶺に抱きしめられた。体格も性別も違うのに何故か母親が思い浮かんで僕の涙は止まらなかった。
気づくと僕は眠っていたようでまだ高嶺の部屋にいた。
「起きた?お迎え来てるよ」
頭がぼんやりとしておりかけられた言葉を理解するまでに数秒要し理解したとき顔から血の気が引いた。
「え、どうして?」
「幸斗寝ちゃったから家の人に一報入れないとと思って、生徒手帳に書いてあった連絡先に電話したら迎えに行きますって」
さも当然のようにいう高嶺は僕の家のような関係なんてのを現実世界では知らないんだろう。僕はまだ幸せになれないことを忘れかけてた頃に一気に現実へと引き戻された。
僕が動揺していることなどお構いなしに高嶺は部屋から連れ出した。高嶺はその間何かこちらに話しかけていたようだが僕は何も聞くことができなかった。
高嶺の部屋から玄関へと降りて行くと、完全によそ行きの状態の状態の兄と高嶺市長が談笑していた。親戚かと思っていたが息子だったとは思わなかった。兄に手招きされ兄の隣に行く。
「うちの幸斗がお世話になりました。ほら幸斗もちゃんと挨拶しなさい」
「お世話になりました。お邪魔しました」
兄に促され挨拶すると市長も高嶺も何か返してくれたが隣にいる兄の様子が気になり頭には入ってこなかった。
高嶺宅を後にし僕は兄の後ろに着きながら歩く。今日もきっとシゴトだっただろうに僕を迎えに行かなければいけない状態になったことに対してきっと怒っているだろう。
「今日何か食べた?」
前を向いて歩いたまま兄はこちらへ問いかける。
「肉じゃがをいただきました」
僕だけ普通にご飯を食べたことに対してきっと怒るだろう。こっちはシゴトだったのにって殴るだろう。せめて怒るのは家に帰ってからにしてほしい。外で倒れたら余計に痛い。
「…ふーん」
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