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プロポーズ
第50話 故郷へ帰る
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莉々の長期休暇を利用して、ハヤトは莉々を連れて九州へ帰省の旅に出た。新幹線の車窓から流れる景色を眺めながら、ハヤトは思う。
「実家に帰るの、本当に久しぶりだな」
異世界から戻ってきた時も、帰省していない。その前も、ずっと帰っていなかった。仕事が忙しいという理由で、足が遠のいていた。
電話やメッセージでのやり取りはあったものの、直接会うのは実に数年ぶりになると振り返るハヤト。異世界での時間を含めれば、意識的には数十年も前になる。
不仲というわけではないが、東京と九州という物理的な距離が、自然と心の距離も作っていた。今回、莉々との結婚を報告するという大きな目的があって、ようやく帰省する決心がついたのだ。
「ハヤトのご両親、どんな方なのかしら」
莉々が期待の表情で尋ねる。ハヤトの親なら、きっと悪い人じゃない。そう確信していた。
「父さんは……まあ、無愛想な人だね。今考えると、根は優しい人なんだと思うけど。母さんは明るくて世話好きな人かな」
新幹線を降り、在来線に乗り換え、ようやく故郷の駅に到着した。改札を出ると、懐かしい空気が二人を包む。都会の喧騒とは違う、どこか懐かしい空気が肺いっぱいに入ってくる。
「この匂い、帰ってきた感じがする」
「海の匂いね。東京とは全然違う」
ハヤトと一緒に莉々も深呼吸をして、新鮮な空気を楽しんでいるようだった。
タクシーで実家へ向かう。車窓から見える風景は、ハヤトの記憶とは少しずつ違っていた。新しい建物が少しだけ増えて、古い店の多くが閉まっている。異世界で過ごした時間を含めると、十年以上が経過している。その感覚が、故郷の変化をより鮮明に感じさせた。
実家の前に着くと、玄関のドアが開き、母親が出迎えてくれた。五十代半ばに差し掛かった母親の髪には、白いものがわずかに混じっていた。
「ただいま」
「ハヤト! よく帰って来たわね!」
母親は満面の笑みで駆け寄り、ハヤトを抱きしめた。ハヤトも躊躇なくそれを受け止める。
「なんだか、凄くたくましくなってる!」
抱きついた瞬間、筋肉質なハヤトの体に驚く母親。そして、横に立っている女性に視線を向けた。
「それで、そちらの方が……」
「初めまして。高橋莉々と申します」
莉々は、丁寧にお辞儀をした。清楚な印象を与える淡い色のワンピースは、この日のために選んだものだ。
「まあ、本当に可愛らしいお嬢さんね! ハヤトから話は聞いていたけど、想像以上だわ。さあさあ、中へどうぞ」
母親が莉々の手を取って家の中へ案内する。懐かしい玄関の匂い、廊下の軋む音、全てがハヤトの記憶を呼び起こした。
居間には、父親が座ってテレビを見ていた。部屋に入ってきたハヤトの顔をちらりと見る。
「帰って来たか」
「うん、ただいま」
父親の声は相変わらず低く、表情も硬い。ただ、今のハヤトにはわかっていた。この人なりの歓迎の仕方なのだと。昔は、嫌われているのかもしれないとまで思ったが、これまでの経験により父親を少し理解できるようになっていた。異世界での様々な人々との出会いが、父親という存在を理解する手がかりをくれたのかもしれない。
「紹介するよ。高橋莉々さん。俺の婚約者だ」
ハヤトに紹介された莉々が、深々とお辞儀をした。
「初めまして。この度は突然のご訪問、申し訳ありません」
父親は軽く頷いた。
「よく来たね。立っているのも何だから、座りなさい」
ハヤトはその言葉に、父親なりの気遣いを感じ取った。
「弟と妹は?」
ハヤトが尋ねると、母親が答えた。
「ええ、二人とも今は実家を離れているのよ。直樹は大阪で就職して、美咲は福岡の大学に通っているわ」
「そうだったのか」
懐かしい家族写真が飾られた棚を眺めながら、ハヤトは時の流れを感じた。自分が家を出てから、弟も妹も成長し、それぞれの道を歩んでいる。今まで気にしていなかったことを、少し申し訳なく思った。
「それで、今日は大事な話があって来たんだ」
早速、ハヤトは居住まいを正して、父親と母親の顔を交互に見た。ハヤトの隣では同じように、莉々が正座して座っている。二人の表情には、真剣さと決意が浮かんでいた。
「電話でも話したけど、俺たち、結婚することにしました」
「そうか」
父親の反応は相変わらず素っ気ない。しかし、その目には確かな温かさがあった。
「莉々さんのこと、ハヤトから聞いてるわよ。とても素敵なお嬢さんだって」
母親は莉々の手を握った。その手は温かく、歓迎の気持ちが伝わってくる。
「これからよろしくお願いしますね、お母様」
「お母様だなんて、そんな。ちょっと照れちゃうわ。こちらこそ、よろしくお願いします」
母親は嬉しそうに微笑んだ。
すぐに話が一段落すると、母親が提案した。
「せっかくだから、今夜は泊まっていきなさいよ。部屋も用意できるし」
「あー、うん。実は、その……ホテルを予約してあるんだけど」
ハヤトが言い淀み、キャンセルしたほうが良いかなと思ったら母親はすぐに微笑みながら言った。
「そうだったのね。ホテルの方が落ち着くでしょうし、そっちのほうが良いかもね」
「夕方まで色々とお話しましょう、お母様。私、ハヤトのことを色々と聞きたいです」
すかさず莉々がそう言うと、ハヤトの母親は嬉しそうに答えた。
「それぐらいなら任せなさい。色々と教えてあげるわ」
「あんまり、昔の恥ずかしいこと言わないでくれよ」
ハヤトの抗議に、母親は楽しそうに笑った。
そして、午後の時間は和やかに過ぎていった。母親は次々とアルバムを持ち出し、ハヤトの子供時代の写真を莉々に見せた。
「これがハヤトの赤ちゃんの頃よ」
「まあ、可愛い! これが、ハヤトの幼い頃なのですか」
莉々は目を輝かせながらアルバムを覗き込んだ。
「母さん、莉々。もういいだろう」
照れるハヤトを無視して、母親と莉々は話を続ける。
「この写真はね、小学校の運動会の時。ハヤトが一等賞を取った時のものよ」
「すごいですね、ハヤト!」
「いや、そんなの大したことじゃ……」
あっという間に時間が過ぎて、夕方近くになると、二人は帰り支度を始めた。
「今日は、本当に楽しかった。また来てくれるかしら?」
「はい、必ず」
玄関先で、母親は莉々をもう一度抱きしめた。母親は、莉々のことを一瞬で気に入り、もう離れたくないという気持ちにさえなっていた。
「じゃあな」
「うん。また来るよ」
ハヤトと父親とのお別れは淡白に。だけど、父親の目には確かな期待の色があった。口には出さないけれど、また実家に帰ってくることを待っているのだと、ハヤトは感じ取った。
莉々とハヤトは、ホテルに向かうタクシーに乗り込んだ。
「母さんたち、莉々のことすごく気に入ったみたいだね」
「もう家族だって、言ってもらえました」
「ああ、母さんなら言いそうだ」
すぐ近くにある、予約していたホテルにチェックインした。フロントを抜けると、ハヤトは驚きの声を上げた。
「ここ、思っていたよりもキレイだな」
「はい、とても立派ですよ。良いホテルです」
最近改装されたらしく、モダンな内装が印象的だった。白を基調とした清潔感のあるロビーには、地元の伝統工芸品がさりげなく飾られている。
「このホテル、俺が地元を出る前からあったはず。こんなに立派になっているとは」
部屋に入ると、大きな窓から海が見えた。夕日が水平線に沈もうとしており、海面がオレンジ色に輝いている。
「素敵な眺めね」
「うん。俺も初めて見たよ。地元にいた時は、こんなところに泊まる機会なんてなかったから」
二人は荷物を置き、ホテルのレストランで夕食を取った。地元の新鮮な魚介類を使った料理は格別だった。刺身の盛り合わせ、天ぷら、そして地元の郷土料理。
「美味しい!」
「莉々が美味しいって言ってくれて、俺も嬉しい。地元の良さを再発見した気分だ」
美味しい料理を食べ終えて、部屋に戻ってきた。窓から見える夜景は、夕日とはまた違った美しさがあった。穏やかな波の音が聞こえてくる。
「ねえ、ハヤト」
「ん?」
「ご両親、とても良い方たちね」
「うん。俺は長い間、あまり連絡も取ってなかったけど」
「きっと、ずっと心配していたと思うわ」
「そうだな。心配させていたかも」
莉々の言葉に、ハヤトは考え込んだ。
「これから、もっと頻繁に帰省しようと思う」
「うん、それが良いと思います。私も一緒に来るわ」
翌朝、二人は早起きして、ハヤトの故郷を散策した。朝の清々しい空気の中、ハヤトは莉々を案内する。
「ここが、俺の通っていた小学校だ。校舎は新しくなってる」
古い校舎は建て替えられていたが、校庭の大きな楠木はそのままだった。それを見ると、懐かしい記憶が蘇ってくる。
「この木の下で、よく友達と遊んだんだ。鬼ごっこしたり、虫取りしたり」
「想像できます。元気いっぱいの男の子が走り回っている姿が」
莉々は楽しそうに微笑んだ。
次に訪れたのは、海辺の公園だった。朝の光に照らされた海は、キラキラと輝いている。
「ここは子供の頃、よく来た場所なんだ」
潮風が心地良い。莉々は目を細めて海を眺めた。
「ハヤトは、この景色を見て育ったのね」
「うん。でも正直、地元にいた頃はこの景色の良さが分からなかった。当たり前すぎて」
離れてから初めて、その良さがわかることがある。その言葉が事実であると、強く実感したハヤト。
「あっちの世界での経験も含めると、本当に長い時間が経った気がするよ」
二人は公園のベンチに座った。海鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
「ねえ、ハヤト。あなたの子供時代って、どんな感じだったの?」
「普通の子供だったよ。勉強はあまり好きじゃなくて、友達とよく遊んで」
「お母様が言っていた、正義感の強い子供だったって話、もっと聞かせてよ」
「あー、うん。そんなことあったかな?」
ハヤトは照れながらも、子供時代の思い出を語った。学校でのエピソード、兄弟とのケンカ、家族旅行の思い出。
昼食は、ハヤトが子供の頃からある商店街の食堂で取ることに。
「いらっしゃい……って、あら。ハヤトくんじゃない!」
店主のおばさんが驚いた様子で声をかけてきた。彼女はハヤトの友人の母親で、幼い頃からの知り合いだった。
「お久しぶりです」
「まあ、立派になって。それに彼女さんも一緒なのね」
「婚約者の莉々です」
「まあ! とっても素敵なお嬢さん! ハヤトくんも幸せ者ね」
懐かしい味の定食を食べながら、ハヤトは故郷の温かさを改めて感じていた。午後は、地元の神社に立ち寄った。長い石段を登ると、厳かな雰囲気の境内が広がっていた。
「ここは、よく初詣で来たかな」
「立派なところ。由緒ある神社なのね」
手水舎で手を清め、本殿に向かって参拝する。二人は並んで手を合わせた。
「何をお願いしたのですか?」
「詳しくは内緒だけど、これからの二人のことかな。あと仲間のこと」
莉々も微笑んで答えた。
「私も一緒です」
帰りの新幹線の中、莉々はハヤトに寄りかかった。その表情は、幸せそうだった。
「ハヤトの故郷、とても素敵でした。来れて良かったです」
「俺も。君がいてくれたおかげで、家族との距離も以前のように戻った気がする」
「これからは定期的に帰りましょうね」
「ああ、そうしよう」
彼女の言う通り、ハヤトは定期的に帰ったほうが良さそうだと思った。家族や故郷の大切さを再認識した今は、違った目で故郷を見ることができた。もっと大事にするべきだと感じたハヤト。
「実家に帰るの、本当に久しぶりだな」
異世界から戻ってきた時も、帰省していない。その前も、ずっと帰っていなかった。仕事が忙しいという理由で、足が遠のいていた。
電話やメッセージでのやり取りはあったものの、直接会うのは実に数年ぶりになると振り返るハヤト。異世界での時間を含めれば、意識的には数十年も前になる。
不仲というわけではないが、東京と九州という物理的な距離が、自然と心の距離も作っていた。今回、莉々との結婚を報告するという大きな目的があって、ようやく帰省する決心がついたのだ。
「ハヤトのご両親、どんな方なのかしら」
莉々が期待の表情で尋ねる。ハヤトの親なら、きっと悪い人じゃない。そう確信していた。
「父さんは……まあ、無愛想な人だね。今考えると、根は優しい人なんだと思うけど。母さんは明るくて世話好きな人かな」
新幹線を降り、在来線に乗り換え、ようやく故郷の駅に到着した。改札を出ると、懐かしい空気が二人を包む。都会の喧騒とは違う、どこか懐かしい空気が肺いっぱいに入ってくる。
「この匂い、帰ってきた感じがする」
「海の匂いね。東京とは全然違う」
ハヤトと一緒に莉々も深呼吸をして、新鮮な空気を楽しんでいるようだった。
タクシーで実家へ向かう。車窓から見える風景は、ハヤトの記憶とは少しずつ違っていた。新しい建物が少しだけ増えて、古い店の多くが閉まっている。異世界で過ごした時間を含めると、十年以上が経過している。その感覚が、故郷の変化をより鮮明に感じさせた。
実家の前に着くと、玄関のドアが開き、母親が出迎えてくれた。五十代半ばに差し掛かった母親の髪には、白いものがわずかに混じっていた。
「ただいま」
「ハヤト! よく帰って来たわね!」
母親は満面の笑みで駆け寄り、ハヤトを抱きしめた。ハヤトも躊躇なくそれを受け止める。
「なんだか、凄くたくましくなってる!」
抱きついた瞬間、筋肉質なハヤトの体に驚く母親。そして、横に立っている女性に視線を向けた。
「それで、そちらの方が……」
「初めまして。高橋莉々と申します」
莉々は、丁寧にお辞儀をした。清楚な印象を与える淡い色のワンピースは、この日のために選んだものだ。
「まあ、本当に可愛らしいお嬢さんね! ハヤトから話は聞いていたけど、想像以上だわ。さあさあ、中へどうぞ」
母親が莉々の手を取って家の中へ案内する。懐かしい玄関の匂い、廊下の軋む音、全てがハヤトの記憶を呼び起こした。
居間には、父親が座ってテレビを見ていた。部屋に入ってきたハヤトの顔をちらりと見る。
「帰って来たか」
「うん、ただいま」
父親の声は相変わらず低く、表情も硬い。ただ、今のハヤトにはわかっていた。この人なりの歓迎の仕方なのだと。昔は、嫌われているのかもしれないとまで思ったが、これまでの経験により父親を少し理解できるようになっていた。異世界での様々な人々との出会いが、父親という存在を理解する手がかりをくれたのかもしれない。
「紹介するよ。高橋莉々さん。俺の婚約者だ」
ハヤトに紹介された莉々が、深々とお辞儀をした。
「初めまして。この度は突然のご訪問、申し訳ありません」
父親は軽く頷いた。
「よく来たね。立っているのも何だから、座りなさい」
ハヤトはその言葉に、父親なりの気遣いを感じ取った。
「弟と妹は?」
ハヤトが尋ねると、母親が答えた。
「ええ、二人とも今は実家を離れているのよ。直樹は大阪で就職して、美咲は福岡の大学に通っているわ」
「そうだったのか」
懐かしい家族写真が飾られた棚を眺めながら、ハヤトは時の流れを感じた。自分が家を出てから、弟も妹も成長し、それぞれの道を歩んでいる。今まで気にしていなかったことを、少し申し訳なく思った。
「それで、今日は大事な話があって来たんだ」
早速、ハヤトは居住まいを正して、父親と母親の顔を交互に見た。ハヤトの隣では同じように、莉々が正座して座っている。二人の表情には、真剣さと決意が浮かんでいた。
「電話でも話したけど、俺たち、結婚することにしました」
「そうか」
父親の反応は相変わらず素っ気ない。しかし、その目には確かな温かさがあった。
「莉々さんのこと、ハヤトから聞いてるわよ。とても素敵なお嬢さんだって」
母親は莉々の手を握った。その手は温かく、歓迎の気持ちが伝わってくる。
「これからよろしくお願いしますね、お母様」
「お母様だなんて、そんな。ちょっと照れちゃうわ。こちらこそ、よろしくお願いします」
母親は嬉しそうに微笑んだ。
すぐに話が一段落すると、母親が提案した。
「せっかくだから、今夜は泊まっていきなさいよ。部屋も用意できるし」
「あー、うん。実は、その……ホテルを予約してあるんだけど」
ハヤトが言い淀み、キャンセルしたほうが良いかなと思ったら母親はすぐに微笑みながら言った。
「そうだったのね。ホテルの方が落ち着くでしょうし、そっちのほうが良いかもね」
「夕方まで色々とお話しましょう、お母様。私、ハヤトのことを色々と聞きたいです」
すかさず莉々がそう言うと、ハヤトの母親は嬉しそうに答えた。
「それぐらいなら任せなさい。色々と教えてあげるわ」
「あんまり、昔の恥ずかしいこと言わないでくれよ」
ハヤトの抗議に、母親は楽しそうに笑った。
そして、午後の時間は和やかに過ぎていった。母親は次々とアルバムを持ち出し、ハヤトの子供時代の写真を莉々に見せた。
「これがハヤトの赤ちゃんの頃よ」
「まあ、可愛い! これが、ハヤトの幼い頃なのですか」
莉々は目を輝かせながらアルバムを覗き込んだ。
「母さん、莉々。もういいだろう」
照れるハヤトを無視して、母親と莉々は話を続ける。
「この写真はね、小学校の運動会の時。ハヤトが一等賞を取った時のものよ」
「すごいですね、ハヤト!」
「いや、そんなの大したことじゃ……」
あっという間に時間が過ぎて、夕方近くになると、二人は帰り支度を始めた。
「今日は、本当に楽しかった。また来てくれるかしら?」
「はい、必ず」
玄関先で、母親は莉々をもう一度抱きしめた。母親は、莉々のことを一瞬で気に入り、もう離れたくないという気持ちにさえなっていた。
「じゃあな」
「うん。また来るよ」
ハヤトと父親とのお別れは淡白に。だけど、父親の目には確かな期待の色があった。口には出さないけれど、また実家に帰ってくることを待っているのだと、ハヤトは感じ取った。
莉々とハヤトは、ホテルに向かうタクシーに乗り込んだ。
「母さんたち、莉々のことすごく気に入ったみたいだね」
「もう家族だって、言ってもらえました」
「ああ、母さんなら言いそうだ」
すぐ近くにある、予約していたホテルにチェックインした。フロントを抜けると、ハヤトは驚きの声を上げた。
「ここ、思っていたよりもキレイだな」
「はい、とても立派ですよ。良いホテルです」
最近改装されたらしく、モダンな内装が印象的だった。白を基調とした清潔感のあるロビーには、地元の伝統工芸品がさりげなく飾られている。
「このホテル、俺が地元を出る前からあったはず。こんなに立派になっているとは」
部屋に入ると、大きな窓から海が見えた。夕日が水平線に沈もうとしており、海面がオレンジ色に輝いている。
「素敵な眺めね」
「うん。俺も初めて見たよ。地元にいた時は、こんなところに泊まる機会なんてなかったから」
二人は荷物を置き、ホテルのレストランで夕食を取った。地元の新鮮な魚介類を使った料理は格別だった。刺身の盛り合わせ、天ぷら、そして地元の郷土料理。
「美味しい!」
「莉々が美味しいって言ってくれて、俺も嬉しい。地元の良さを再発見した気分だ」
美味しい料理を食べ終えて、部屋に戻ってきた。窓から見える夜景は、夕日とはまた違った美しさがあった。穏やかな波の音が聞こえてくる。
「ねえ、ハヤト」
「ん?」
「ご両親、とても良い方たちね」
「うん。俺は長い間、あまり連絡も取ってなかったけど」
「きっと、ずっと心配していたと思うわ」
「そうだな。心配させていたかも」
莉々の言葉に、ハヤトは考え込んだ。
「これから、もっと頻繁に帰省しようと思う」
「うん、それが良いと思います。私も一緒に来るわ」
翌朝、二人は早起きして、ハヤトの故郷を散策した。朝の清々しい空気の中、ハヤトは莉々を案内する。
「ここが、俺の通っていた小学校だ。校舎は新しくなってる」
古い校舎は建て替えられていたが、校庭の大きな楠木はそのままだった。それを見ると、懐かしい記憶が蘇ってくる。
「この木の下で、よく友達と遊んだんだ。鬼ごっこしたり、虫取りしたり」
「想像できます。元気いっぱいの男の子が走り回っている姿が」
莉々は楽しそうに微笑んだ。
次に訪れたのは、海辺の公園だった。朝の光に照らされた海は、キラキラと輝いている。
「ここは子供の頃、よく来た場所なんだ」
潮風が心地良い。莉々は目を細めて海を眺めた。
「ハヤトは、この景色を見て育ったのね」
「うん。でも正直、地元にいた頃はこの景色の良さが分からなかった。当たり前すぎて」
離れてから初めて、その良さがわかることがある。その言葉が事実であると、強く実感したハヤト。
「あっちの世界での経験も含めると、本当に長い時間が経った気がするよ」
二人は公園のベンチに座った。海鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
「ねえ、ハヤト。あなたの子供時代って、どんな感じだったの?」
「普通の子供だったよ。勉強はあまり好きじゃなくて、友達とよく遊んで」
「お母様が言っていた、正義感の強い子供だったって話、もっと聞かせてよ」
「あー、うん。そんなことあったかな?」
ハヤトは照れながらも、子供時代の思い出を語った。学校でのエピソード、兄弟とのケンカ、家族旅行の思い出。
昼食は、ハヤトが子供の頃からある商店街の食堂で取ることに。
「いらっしゃい……って、あら。ハヤトくんじゃない!」
店主のおばさんが驚いた様子で声をかけてきた。彼女はハヤトの友人の母親で、幼い頃からの知り合いだった。
「お久しぶりです」
「まあ、立派になって。それに彼女さんも一緒なのね」
「婚約者の莉々です」
「まあ! とっても素敵なお嬢さん! ハヤトくんも幸せ者ね」
懐かしい味の定食を食べながら、ハヤトは故郷の温かさを改めて感じていた。午後は、地元の神社に立ち寄った。長い石段を登ると、厳かな雰囲気の境内が広がっていた。
「ここは、よく初詣で来たかな」
「立派なところ。由緒ある神社なのね」
手水舎で手を清め、本殿に向かって参拝する。二人は並んで手を合わせた。
「何をお願いしたのですか?」
「詳しくは内緒だけど、これからの二人のことかな。あと仲間のこと」
莉々も微笑んで答えた。
「私も一緒です」
帰りの新幹線の中、莉々はハヤトに寄りかかった。その表情は、幸せそうだった。
「ハヤトの故郷、とても素敵でした。来れて良かったです」
「俺も。君がいてくれたおかげで、家族との距離も以前のように戻った気がする」
「これからは定期的に帰りましょうね」
「ああ、そうしよう」
彼女の言う通り、ハヤトは定期的に帰ったほうが良さそうだと思った。家族や故郷の大切さを再認識した今は、違った目で故郷を見ることができた。もっと大事にするべきだと感じたハヤト。
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