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第15話 漠然とした違和感 ※若き賢者アレクシス視点
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少し前から、私の中に何か違和感があった。
それが何なのか、はっきりとした理由がわからない。頭の奥でぼんやりと浮かんでは消える感覚。何かが欠けている。何かが間違っている。だが、その「何か」が何なのか、わからない。
神殿の広間に立ち、書類の山を前に眉を顰める。薄暗い石造りの壁に囲まれた空間は、昔から変わらない景色のはず。なのに、どこか異質に感じられる。特に違和感を感じるのは、聖女のこと、神殿の雰囲気、そして日に日に滞りがちになっていく仕事のことだ。
私は聖女を敬愛している——いや、敬愛していた。エリーゼ様は王国の誇る聖女。だが、不思議なことに、その感情に嘘があるような気がしてならない。「私は聖女を敬愛していた」という感覚と「私は聖女を敬愛していない」という現実の間に矛盾がある。どういうことだろう。自分の感情なのに、理解できない。
指先で硬い木製の机の縁をなぞりながら、もう一つの違和感について思いを巡らせる。神殿の雰囲気。以前もこんなに悪かっただろうか。老賢者たちは昔から傲慢で、若い神官たちに厳しかったが、今ほど理不尽ではなかったような……。
いや、単なる勘違いなのか。頭の中に「以前の神殿」というフレーズが浮かぶが、それが何を指しているのかわからない。その「以前」とは、いつのことなのか。
物思いに沈む私の意識を、重厚な足音が遮った。
「アレクシス、これもお願いします。貴方が管理している女神官へ指示しなさい」
白髪混じりの髭を蓄えた老賢者が、新たな書類の束を差し出してきた。背筋の曲がった老賢者の表情には、取り繕った温和さの下に、若い賢者である私への見下しがあるように感じられる。
最近、私に回されてくる仕事の量が増えている。本来なら聖女が処理すべき仕事だが、エリーゼ様は最近体調を崩しがちだという。任務の失敗も増えているらしいが。
「……わかりました。こちらで確認します」
私は感情を押し殺して返答した。不満を表に出しても状況は改善しない。若い神官たちを守るためには、この立場を維持しなければならない。
「任せましたよ」
老賢者は満足げな微笑みを浮かべると、これで仕事が終わったと言わんばかりに、さっさと部屋を出ていった。扉が閉まる音が反響する。
その情報にも違和感があった。最近の聖女は調子が悪いというが……。かつて調子が悪くても無理をして仕事を処理してくれていたような記憶がある。私や若い神官たちが引き取ろうとしても、「これは聖女の務め」と言って頑張ってくれた姿があったはずなのに。
いや、でもそんな人がいたはずがない。エリーゼ様は聖女になってから一度もそのような態度を見せたことはなかった。それじゃあ、この記憶の違和感はなんなのか。
書類の山を前に、私は深いため息をついた。少なくとも若い神官たちが育ってきたおかげで、この負担も少しは減ると思っていた。それなのに状況は悪化する一方だ。いつから、何がきっかけでこうなったのか。理解できなくて、不安があった。
立ち上がり、神殿の窓から外を眺める。春の陽光が神殿の庭に降り注いでいる。平和な光景。だが、その平和の底にある何かがおかしい。何かが欠けている。それが何なのか、どうしてもわからない。
「アレクシス様、賢者会議が始まります」
扉の向こうから、若い女神官の声が響く。現実に引き戻された私は、小さく首を振って思考を整理する。
「ん。そうだった。すぐに行く」
神官の声に我に返る。そうだ、今は考えている暇はない。とりあえず、私が面倒を見ている若い神官たちに無理をさせないようにスケジュールを管理しなければ。この違和感について考えるのは後だ。
机の上の書類を整理しながら、頭の中を整理する。暴走する老賢者たちの動向も把握しておかなければならない。彼らの馬鹿げた要求に、大切な神官たちを巻き込まないよう守らねばならない。
優先すべきは目の前の職務。優先度を間違えてはいけない。
そう、自分に言い聞かせる。だが、胸の奥に広がる空洞のような感覚は、どうしても消えなかった。何かを、大切な何かを失ったという感覚。それが何なのか、気づかないふりをしているだけなのではないか。
会議室へと向かう足取りは重い。背筋を伸ばし、顔に感情を浮かべないよう努めながら、私は歩を進める。だが、心の片隅では、失われた何かを求める思いが静かに燃え続けていた。
それが何なのか、はっきりとした理由がわからない。頭の奥でぼんやりと浮かんでは消える感覚。何かが欠けている。何かが間違っている。だが、その「何か」が何なのか、わからない。
神殿の広間に立ち、書類の山を前に眉を顰める。薄暗い石造りの壁に囲まれた空間は、昔から変わらない景色のはず。なのに、どこか異質に感じられる。特に違和感を感じるのは、聖女のこと、神殿の雰囲気、そして日に日に滞りがちになっていく仕事のことだ。
私は聖女を敬愛している——いや、敬愛していた。エリーゼ様は王国の誇る聖女。だが、不思議なことに、その感情に嘘があるような気がしてならない。「私は聖女を敬愛していた」という感覚と「私は聖女を敬愛していない」という現実の間に矛盾がある。どういうことだろう。自分の感情なのに、理解できない。
指先で硬い木製の机の縁をなぞりながら、もう一つの違和感について思いを巡らせる。神殿の雰囲気。以前もこんなに悪かっただろうか。老賢者たちは昔から傲慢で、若い神官たちに厳しかったが、今ほど理不尽ではなかったような……。
いや、単なる勘違いなのか。頭の中に「以前の神殿」というフレーズが浮かぶが、それが何を指しているのかわからない。その「以前」とは、いつのことなのか。
物思いに沈む私の意識を、重厚な足音が遮った。
「アレクシス、これもお願いします。貴方が管理している女神官へ指示しなさい」
白髪混じりの髭を蓄えた老賢者が、新たな書類の束を差し出してきた。背筋の曲がった老賢者の表情には、取り繕った温和さの下に、若い賢者である私への見下しがあるように感じられる。
最近、私に回されてくる仕事の量が増えている。本来なら聖女が処理すべき仕事だが、エリーゼ様は最近体調を崩しがちだという。任務の失敗も増えているらしいが。
「……わかりました。こちらで確認します」
私は感情を押し殺して返答した。不満を表に出しても状況は改善しない。若い神官たちを守るためには、この立場を維持しなければならない。
「任せましたよ」
老賢者は満足げな微笑みを浮かべると、これで仕事が終わったと言わんばかりに、さっさと部屋を出ていった。扉が閉まる音が反響する。
その情報にも違和感があった。最近の聖女は調子が悪いというが……。かつて調子が悪くても無理をして仕事を処理してくれていたような記憶がある。私や若い神官たちが引き取ろうとしても、「これは聖女の務め」と言って頑張ってくれた姿があったはずなのに。
いや、でもそんな人がいたはずがない。エリーゼ様は聖女になってから一度もそのような態度を見せたことはなかった。それじゃあ、この記憶の違和感はなんなのか。
書類の山を前に、私は深いため息をついた。少なくとも若い神官たちが育ってきたおかげで、この負担も少しは減ると思っていた。それなのに状況は悪化する一方だ。いつから、何がきっかけでこうなったのか。理解できなくて、不安があった。
立ち上がり、神殿の窓から外を眺める。春の陽光が神殿の庭に降り注いでいる。平和な光景。だが、その平和の底にある何かがおかしい。何かが欠けている。それが何なのか、どうしてもわからない。
「アレクシス様、賢者会議が始まります」
扉の向こうから、若い女神官の声が響く。現実に引き戻された私は、小さく首を振って思考を整理する。
「ん。そうだった。すぐに行く」
神官の声に我に返る。そうだ、今は考えている暇はない。とりあえず、私が面倒を見ている若い神官たちに無理をさせないようにスケジュールを管理しなければ。この違和感について考えるのは後だ。
机の上の書類を整理しながら、頭の中を整理する。暴走する老賢者たちの動向も把握しておかなければならない。彼らの馬鹿げた要求に、大切な神官たちを巻き込まないよう守らねばならない。
優先すべきは目の前の職務。優先度を間違えてはいけない。
そう、自分に言い聞かせる。だが、胸の奥に広がる空洞のような感覚は、どうしても消えなかった。何かを、大切な何かを失ったという感覚。それが何なのか、気づかないふりをしているだけなのではないか。
会議室へと向かう足取りは重い。背筋を伸ばし、顔に感情を浮かべないよう努めながら、私は歩を進める。だが、心の片隅では、失われた何かを求める思いが静かに燃え続けていた。
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