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第39話 聖女の最期 ※偽聖女エリーゼ視点
神殿との関係は終わらせることができた。
私はエリック様に選ばれて、念願の王妃の立場を手に入れることができたのだ。これで一生安泰でしょう。もう心配することなんて何もない。
これからは、エリック様との子作りだけ頑張ればいい。立派な跡継ぎを産むのよ。それが私の大事な役目。王妃として、それに専念していけばいいのだから。
そのためには、精神的な負担のない生活が大事よね。神殿にいた頃は、大変な仕事ばかり任されていたから。治癒だの祝福だの、面倒なことばかりで疲れ果てていた。でも、これからは自由に生きていくのが大事よね。
私は念願だった気ままな生活を送り始めた。朝はゆっくりと起きて、美味しい食事を楽しんで、美しいドレスを身にまとい、王宮の庭園を散歩する。誰にも指図されることなく、自分の思うままに過ごせる日々。
これこそが、私が望んでいた人生だった。
だけど、そんな生活は長くは続かなかった。
「王妃様、大変です!」
侍女が血相を変えて駆け込んできた。
「神殿の連中が街なかで暴れているそうです!」
「なんですって!?」
その話を聞いたとき、私は心の底から怒りが湧き上がった。なんて馬鹿なことをしてくれたのかしら。神殿から離れたとはいえ、完全に無関係を装うことはできないかもしれない。いや、でももう私は関係ないでしょ。神殿が勝手に起こした問題なんだから。
これで私の平穏な王妃生活を邪魔されたとしたら、恨んでやる。心の中で神殿の連中を罵倒する。この愚か者め! どうして私の幸せな暮らしを壊すようなことをするのよ!
その後、いろいろな情報が舞い込んできた。それを聞いて愕然とする。まさか、神殿の起こした事件にエリック様が関与していたなんて。
「王妃様、このままでは危険かもしれません……」
侍女の言葉に同意する。このままだとマズイ気がする。逃げたほうが良いかもしれない。状況を正しく把握しなければ。
貴族の連中が兵を動かしているらしい。戦いになるかも。王妃の立場は惜しいけれど、このまま残っていたら巻き込まれて命を奪われるかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。
まだ世継ぎは生まれていないけれど、仕方がないわね。でも、逃げた先で別の男と関係を持ちましょう。そして、その子を正当な後継者だと名乗らせればいいわ。王の血を引いているとでも主張すればいいのよ。
今は、なんとしても生き延びることが大事よ。
私は急いで身の回りの物をまとめさせた。宝石や金品、そして着替え。これだけあれば、どこへ逃げても当分は生活できるでしょう。
「急いで! 馬車の準備を──」
その時だった。
扉が勢いよく開かれ、武装した兵士たちが部屋に突入してきた。
「なんなの、あなた達!」
私は驚いて叫んだ。これは王宮の兵士ではない。見覚えのない紋章を身につけている。貴族たちの兵士ね。
「エリーゼ王妃、共謀の罪により拘束する」
兵士の一人が冷たく宣告した。
「共謀って何のことよ! 私は何も──」
問答無用だった。私の抗議など聞く耳を持たず、兵士たちは私を取り押さえた。手に冷たい鎖がかけられる。
そのまま、私はエリック王と一緒に処刑されることに決まった。ありえない。なんでこんなことに。
牢獄の中で、私は自分の人生を振り返った。
なんで、こんな最悪な人生を歩んできたの。
聖女という重すぎる肩書を背負わされて、その責任から逃れるために王妃の立場を手に入れたのに。ダメになった神殿を見捨てて、念願の王妃の立場を手に入れたと思ったら、今度はその立場も失う。
私は、ありえないぐらい悲惨な人生を歩んできた。そしてとうとう、こんな最期を迎えることになるなんて。酷すぎる。
なんで、私ばかり! 私だって頑張ってきたのに。聖女として民衆のために働いてきたのに。どうして私だけがこんな目に遭わなければならないの。不公平よ。
悲しみに暮れるが、誰も助けてくれない。
処刑台に連行されていくときも、私を見送る人は誰もいなかった。市民たちは冷たい目で私を見つめるだけ。中には石を投げつける者もいる。かつて聖女として慕われていた頃の面影は、もうどこにもない。
「偽の聖女め!」
「王と一緒に市民を苦しめた悪女だ!」
罵声が飛び交う中、私は最期まで一人ぼっちだった。
こうして、神殿最後の聖女は処刑された。
その後、協会の規模はどんどん大きくなっていく。ノエラが設立した「癒しの協会」は、王国内に留まらず近隣諸国にまで支部を設けるほどに発展した。市民たちは協会の恩恵を受け、心からの感謝を捧げている。
それに反比例して、神殿と聖女の存在は人々の記憶から消えていった。立派な神殿の建物も取り壊されて、そこで何が行われていたのか、誰が住んでいたのかを覚えている者はもういない。
歴史書からも、聖女エリーゼの名前は消え失せる。後世の人々は、この時代に聖女という存在がいたことすら知らずに生きていくことになる。エリーゼが最期に抱いた感情も、誰に知られることなく消え去るのであった。
私はエリック様に選ばれて、念願の王妃の立場を手に入れることができたのだ。これで一生安泰でしょう。もう心配することなんて何もない。
これからは、エリック様との子作りだけ頑張ればいい。立派な跡継ぎを産むのよ。それが私の大事な役目。王妃として、それに専念していけばいいのだから。
そのためには、精神的な負担のない生活が大事よね。神殿にいた頃は、大変な仕事ばかり任されていたから。治癒だの祝福だの、面倒なことばかりで疲れ果てていた。でも、これからは自由に生きていくのが大事よね。
私は念願だった気ままな生活を送り始めた。朝はゆっくりと起きて、美味しい食事を楽しんで、美しいドレスを身にまとい、王宮の庭園を散歩する。誰にも指図されることなく、自分の思うままに過ごせる日々。
これこそが、私が望んでいた人生だった。
だけど、そんな生活は長くは続かなかった。
「王妃様、大変です!」
侍女が血相を変えて駆け込んできた。
「神殿の連中が街なかで暴れているそうです!」
「なんですって!?」
その話を聞いたとき、私は心の底から怒りが湧き上がった。なんて馬鹿なことをしてくれたのかしら。神殿から離れたとはいえ、完全に無関係を装うことはできないかもしれない。いや、でももう私は関係ないでしょ。神殿が勝手に起こした問題なんだから。
これで私の平穏な王妃生活を邪魔されたとしたら、恨んでやる。心の中で神殿の連中を罵倒する。この愚か者め! どうして私の幸せな暮らしを壊すようなことをするのよ!
その後、いろいろな情報が舞い込んできた。それを聞いて愕然とする。まさか、神殿の起こした事件にエリック様が関与していたなんて。
「王妃様、このままでは危険かもしれません……」
侍女の言葉に同意する。このままだとマズイ気がする。逃げたほうが良いかもしれない。状況を正しく把握しなければ。
貴族の連中が兵を動かしているらしい。戦いになるかも。王妃の立場は惜しいけれど、このまま残っていたら巻き込まれて命を奪われるかもしれない。それだけは絶対に避けなければならない。
まだ世継ぎは生まれていないけれど、仕方がないわね。でも、逃げた先で別の男と関係を持ちましょう。そして、その子を正当な後継者だと名乗らせればいいわ。王の血を引いているとでも主張すればいいのよ。
今は、なんとしても生き延びることが大事よ。
私は急いで身の回りの物をまとめさせた。宝石や金品、そして着替え。これだけあれば、どこへ逃げても当分は生活できるでしょう。
「急いで! 馬車の準備を──」
その時だった。
扉が勢いよく開かれ、武装した兵士たちが部屋に突入してきた。
「なんなの、あなた達!」
私は驚いて叫んだ。これは王宮の兵士ではない。見覚えのない紋章を身につけている。貴族たちの兵士ね。
「エリーゼ王妃、共謀の罪により拘束する」
兵士の一人が冷たく宣告した。
「共謀って何のことよ! 私は何も──」
問答無用だった。私の抗議など聞く耳を持たず、兵士たちは私を取り押さえた。手に冷たい鎖がかけられる。
そのまま、私はエリック王と一緒に処刑されることに決まった。ありえない。なんでこんなことに。
牢獄の中で、私は自分の人生を振り返った。
なんで、こんな最悪な人生を歩んできたの。
聖女という重すぎる肩書を背負わされて、その責任から逃れるために王妃の立場を手に入れたのに。ダメになった神殿を見捨てて、念願の王妃の立場を手に入れたと思ったら、今度はその立場も失う。
私は、ありえないぐらい悲惨な人生を歩んできた。そしてとうとう、こんな最期を迎えることになるなんて。酷すぎる。
なんで、私ばかり! 私だって頑張ってきたのに。聖女として民衆のために働いてきたのに。どうして私だけがこんな目に遭わなければならないの。不公平よ。
悲しみに暮れるが、誰も助けてくれない。
処刑台に連行されていくときも、私を見送る人は誰もいなかった。市民たちは冷たい目で私を見つめるだけ。中には石を投げつける者もいる。かつて聖女として慕われていた頃の面影は、もうどこにもない。
「偽の聖女め!」
「王と一緒に市民を苦しめた悪女だ!」
罵声が飛び交う中、私は最期まで一人ぼっちだった。
こうして、神殿最後の聖女は処刑された。
その後、協会の規模はどんどん大きくなっていく。ノエラが設立した「癒しの協会」は、王国内に留まらず近隣諸国にまで支部を設けるほどに発展した。市民たちは協会の恩恵を受け、心からの感謝を捧げている。
それに反比例して、神殿と聖女の存在は人々の記憶から消えていった。立派な神殿の建物も取り壊されて、そこで何が行われていたのか、誰が住んでいたのかを覚えている者はもういない。
歴史書からも、聖女エリーゼの名前は消え失せる。後世の人々は、この時代に聖女という存在がいたことすら知らずに生きていくことになる。エリーゼが最期に抱いた感情も、誰に知られることなく消え去るのであった。
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