妹が自ら手放した騎士の価値~家を出たいと願った令嬢との運命の出会い~

キョウキョウ

文字の大きさ
19 / 22

第19話 消えた家名※エドモンド視点

しおりを挟む
 朝の陽光がウィンターフェイド邸の執務室に差し込んでいた。エドモンドは王宮から届いた書類を手に取り、封の折り返し部分の隙間にペーパーナイフの刃先を慎重に差し込んだ。封の折り目に沿わせながらペーパーナイフをゆっくりとスライドさせ、中身を傷つけないよう注意深く切り進めた。

 彼は封筒から取り出した羊皮紙に目を通し始めた。そこには王国の紋章が刻印されていて、重要な書類であることを示す印が押されていた。

「ヴァンローゼ家の処遇に関する最終報告書」

 タイトルを読んだだけで、エドモンドは一瞬息を詰めた。彼は椅子に深く腰掛け、慎重に内容を読み進めた。

 まず、ヴィヴィアン・ヴァンローゼに関する記述があった。

「反逆罪、殺人未遂罪により、被告人ヴィヴィアン・ヴァンローゼに対し死刑の判決を下す。尚、混乱防止のため秘密裏に執行済みである」

 エドモンドは眉をひそめた。ヴィヴィアンはもうこの世にいない。予想はしていたものの、実際に確定した事実を目の当たりにすると、複雑な感情が胸をよぎった。かつての婚約者であり、色々と問題あった人物。けれど、死んでほしいとまでは思っていない。もちろん、彼女の行いは許されるものではなく、王国の裁きは正当なものだ。

「なぜ、あんなことをしでかしたのだろうか」

 エドモンドは溜息をついた。ヴィヴィアンの行動の理由は、最後まで彼には理解できなかった。単なる嫉妬心からか、それとも歪んだプライドからか。彼女があの愚かな計画を実行に移そうとした真の動機は、何なのか。

 報告書によると、姉のエレノアが原因だと喚き散らしたとか、自分は何も悪いことをしていないと主張し続けたとか記してある。やはり、エドモンドには彼女の思考は理解できなかった。

 彼は次のページをめくった。そこには、ルカス・ヴァンローゼとオリヴィア・ヴァンローゼ、つまりヴァンローゼ家当主夫妻についての記述があった。

 「当初の計画では、爵位剥奪後、一般市民としての生活を許可する予定であった。しかし、取り調べの結果、彼らに反省の色なく、今後も同様の問題を起こす可能性が高いと判断された」

 その文章に、エドモンドは目を細めた。どうやら彼らも、エレノアに責任をなすりつけようと躍起になっていたらしい。

 悪いのは全て、姉のエレノアだ。妹のヴィヴィアンは何も悪いことはしていない。どういう思考で、そう訴え続けるのか。なぜ、現状を理解しないのか。問題を起こすかもしれない。この取り調べの結果を見れば、その結論は予測できた。

「よって、ルカス・ヴァンローゼおよびオリヴィア・ヴァンローゼに対し、娘ヴィヴィアンと同様の処分を下す。混乱防止のため、この処分についても極秘裏に行われるものとする」

 つまり、処刑。それも秘密裏に。

「これにより、ヴァンローゼ家は事実上消滅した。その領地および財産は王室に没収され、適切な処分がなされる」

 エドモンドは書類を机の上に置き、窓の外を見た。貴族としてあるまじき行為への報いとはいえ、エレノア以外の一家が丸ごと消えるというのは重い事実だった。

 彼らのことよりも、残されたエレノアのことが心配だった。

 彼女にとって、実家の全員が処刑されたという事実は、どれほどの衝撃をもたらすだろうか。虐待を受けていたとはいえ、血のつながった家族だ。

 エレノアには知る権利がある。しかし、その知識は彼女を深く傷つけるかもしれない。どう反応するのか予想がつかない。だけど、黙っていてもいつか知ることになるだろう。遅いか早いか。彼女が知らないまま過ごすのは不可能だろう。

 結婚式を予定している、この大事な時期に。だが、この面倒な事実は早めに処理をしておきたい。式を行う前に。

「やはり、俺から直接エレノアに伝えるべきだろう」

 エドモンドは立ち上がった。いつか必ず知ることになる事実なら、他人からではなく、自分の口から伝えるべきだ。そうすれば、少しでも彼女の心の負担を軽くできるかもしれない。適切にケアする。それが、自分のするべきことだ。

 彼は執務室を出て、エレノアがいるであろう書庫へと足を向けた。長い廊下を進みながら、どのように伝えるべきか言葉を選びながら。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

勝手にしろと言ったのに、流刑地で愛人と子供たちと幸せスローライフを送ることに、なにか問題が?

赤羽夕夜
恋愛
アエノール・リンダークネッシュは新婚一日目にして、夫のエリオット・リンダークネッシュにより、リンダークネッシュ家の領地であり、滞在人の流刑地である孤島に送られることになる。 その理由が、平民の愛人であるエディットと真実の愛に満ちた生活を送る為。アエノールは二人の体裁を守る為に嫁に迎えられた駒に過ぎなかった。 ――それから10年後。アエノールのことも忘れ、愛人との幸せな日々を過ごしていたエリオットの元に、アエノールによる離婚状と慰謝料の請求の紙が送られてくる。 王室と裁判所が正式に受理したことを示す紋章。事態を把握するために、アエノールが暮らしている流刑地に向かうと。 絶海孤島だった流刑地は、ひとつの島として栄えていた。10年以上前は、たしかになにもない島だったはずなのに、いつの間にか一つの町を形成していて領主屋敷と呼ばれる建物も建てられていた。 エリオットが尋ねると、その庭園部分では、十年前、追い出したはずのアエノールと、愛する人と一緒になる為に婚約者を晒し者にして国王の怒りを買って流刑地に送られた悪役王子――エドが幼い子を抱いて幸せに笑い合う姿が――。 ※気が向いたら物語の補填となるような短めなお話を追加していこうかなと思うので、気長にお待ちいただければ幸いです。

(完)人柱にされそうになった聖女は喜んで死にました。

青空一夏
恋愛
ショートショート。早い展開で前編後編で終了。バッドエンド的な展開で暗いです。後味、悪いかも。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・エメリーン編

青空一夏
恋愛
「元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・」の続編。エメリーンの物語です。 以前の☆小説で活躍したガマちゃんズ(☆「お姉様を選んだ婚約者に乾杯」に出演)が出てきます。おとぎ話風かもしれません。 ※ガマちゃんズのご説明 ガマガエル王様は、その昔ロセ伯爵家当主から命を助けてもらったことがあります。それを大変感謝したガマガエル王様は、一族にロセ伯爵家を守ることを命じます。それ以来、ガマガエルは何代にもわたりロセ伯爵家を守ってきました。 このお話しの時点では、前の☆小説のヒロイン、アドリアーナの次男エアルヴァンがロセ伯爵になり、失恋による傷心を癒やす為に、バディド王国の別荘にやって来たという設定になります。長男クロディウスは母方のロセ侯爵を継ぎ、長女クラウディアはムーンフェア国の王太子妃になっていますが、この物語では出てきません(多分) 前の作品を知っていらっしゃる方は是非、読んでいない方もこの機会に是非、お読み頂けると嬉しいです。 国の名前は新たに設定し直します。ロセ伯爵家の国をムーンフェア王国。リトラー侯爵家の国をバディド王国とします。 ムーンフェア国のエアルヴァン・ロセ伯爵がエメリーンの恋のお相手になります。 ※現代的言葉遣いです。時代考証ありません。異世界ヨーロッパ風です。

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)

青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。 「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」 ですって!! そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・ これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない) 前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

[完結]死に戻りの悪女、公爵様の最愛になりましたーー処刑された侯爵令嬢、お局魂でリベンジ開始!

青空一夏
恋愛
侯爵令嬢ブロッサムは、腹違いの妹と継母に嵌められ、断頭台に立たされる。だが、その瞬間、彼女の脳裏に前世の記憶が蘇る――推理小説マニアで世渡り上手な"お局様"だったことを!そして天国で神に文句をつけ、特別スキルをゲット!? 毒を見破り、真実を暴く異世界お局の逆転劇が今始まる! ※コメディ的な異世界恋愛になります。魔道具が普通にある異世界ですし、今の日本と同じような習慣や食べ物なども出てきます。観賞用魚(熱帯魚的なお魚さんです)を飼うというのも、現実的な中世ヨーロッパの世界ではあり得ませんが、異世界なのでご了承ください。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

婚約者を奪っていった彼女は私が羨ましいそうです。こちらはあなたのことなど記憶の片隅にもございませんが。

松ノ木るな
恋愛
 ハルネス侯爵家令嬢シルヴィアは、将来を嘱望された魔道の研究員。  不運なことに、親に決められた婚約者は無類の女好きであった。  研究で忙しい彼女は、女遊びもほどほどであれば目をつむるつもりであったが……  挙式一月前というのに、婚約者が口の軽い彼女を作ってしまった。 「これは三人で、あくまで平和的に、話し合いですね。修羅場は私が制してみせます」   ※7千字の短いお話です。

処理中です...