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第19話 消えた家名※エドモンド視点
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朝の陽光がウィンターフェイド邸の執務室に差し込んでいた。エドモンドは王宮から届いた書類を手に取り、封の折り返し部分の隙間にペーパーナイフの刃先を慎重に差し込んだ。封の折り目に沿わせながらペーパーナイフをゆっくりとスライドさせ、中身を傷つけないよう注意深く切り進めた。
彼は封筒から取り出した羊皮紙に目を通し始めた。そこには王国の紋章が刻印されていて、重要な書類であることを示す印が押されていた。
「ヴァンローゼ家の処遇に関する最終報告書」
タイトルを読んだだけで、エドモンドは一瞬息を詰めた。彼は椅子に深く腰掛け、慎重に内容を読み進めた。
まず、ヴィヴィアン・ヴァンローゼに関する記述があった。
「反逆罪、殺人未遂罪により、被告人ヴィヴィアン・ヴァンローゼに対し死刑の判決を下す。尚、混乱防止のため秘密裏に執行済みである」
エドモンドは眉をひそめた。ヴィヴィアンはもうこの世にいない。予想はしていたものの、実際に確定した事実を目の当たりにすると、複雑な感情が胸をよぎった。かつての婚約者であり、色々と問題あった人物。けれど、死んでほしいとまでは思っていない。もちろん、彼女の行いは許されるものではなく、王国の裁きは正当なものだ。
「なぜ、あんなことをしでかしたのだろうか」
エドモンドは溜息をついた。ヴィヴィアンの行動の理由は、最後まで彼には理解できなかった。単なる嫉妬心からか、それとも歪んだプライドからか。彼女があの愚かな計画を実行に移そうとした真の動機は、何なのか。
報告書によると、姉のエレノアが原因だと喚き散らしたとか、自分は何も悪いことをしていないと主張し続けたとか記してある。やはり、エドモンドには彼女の思考は理解できなかった。
彼は次のページをめくった。そこには、ルカス・ヴァンローゼとオリヴィア・ヴァンローゼ、つまりヴァンローゼ家当主夫妻についての記述があった。
「当初の計画では、爵位剥奪後、一般市民としての生活を許可する予定であった。しかし、取り調べの結果、彼らに反省の色なく、今後も同様の問題を起こす可能性が高いと判断された」
その文章に、エドモンドは目を細めた。どうやら彼らも、エレノアに責任をなすりつけようと躍起になっていたらしい。
悪いのは全て、姉のエレノアだ。妹のヴィヴィアンは何も悪いことはしていない。どういう思考で、そう訴え続けるのか。なぜ、現状を理解しないのか。問題を起こすかもしれない。この取り調べの結果を見れば、その結論は予測できた。
「よって、ルカス・ヴァンローゼおよびオリヴィア・ヴァンローゼに対し、娘ヴィヴィアンと同様の処分を下す。混乱防止のため、この処分についても極秘裏に行われるものとする」
つまり、処刑。それも秘密裏に。
「これにより、ヴァンローゼ家は事実上消滅した。その領地および財産は王室に没収され、適切な処分がなされる」
エドモンドは書類を机の上に置き、窓の外を見た。貴族としてあるまじき行為への報いとはいえ、エレノア以外の一家が丸ごと消えるというのは重い事実だった。
彼らのことよりも、残されたエレノアのことが心配だった。
彼女にとって、実家の全員が処刑されたという事実は、どれほどの衝撃をもたらすだろうか。虐待を受けていたとはいえ、血のつながった家族だ。
エレノアには知る権利がある。しかし、その知識は彼女を深く傷つけるかもしれない。どう反応するのか予想がつかない。だけど、黙っていてもいつか知ることになるだろう。遅いか早いか。彼女が知らないまま過ごすのは不可能だろう。
結婚式を予定している、この大事な時期に。だが、この面倒な事実は早めに処理をしておきたい。式を行う前に。
「やはり、俺から直接エレノアに伝えるべきだろう」
エドモンドは立ち上がった。いつか必ず知ることになる事実なら、他人からではなく、自分の口から伝えるべきだ。そうすれば、少しでも彼女の心の負担を軽くできるかもしれない。適切にケアする。それが、自分のするべきことだ。
彼は執務室を出て、エレノアがいるであろう書庫へと足を向けた。長い廊下を進みながら、どのように伝えるべきか言葉を選びながら。
彼は封筒から取り出した羊皮紙に目を通し始めた。そこには王国の紋章が刻印されていて、重要な書類であることを示す印が押されていた。
「ヴァンローゼ家の処遇に関する最終報告書」
タイトルを読んだだけで、エドモンドは一瞬息を詰めた。彼は椅子に深く腰掛け、慎重に内容を読み進めた。
まず、ヴィヴィアン・ヴァンローゼに関する記述があった。
「反逆罪、殺人未遂罪により、被告人ヴィヴィアン・ヴァンローゼに対し死刑の判決を下す。尚、混乱防止のため秘密裏に執行済みである」
エドモンドは眉をひそめた。ヴィヴィアンはもうこの世にいない。予想はしていたものの、実際に確定した事実を目の当たりにすると、複雑な感情が胸をよぎった。かつての婚約者であり、色々と問題あった人物。けれど、死んでほしいとまでは思っていない。もちろん、彼女の行いは許されるものではなく、王国の裁きは正当なものだ。
「なぜ、あんなことをしでかしたのだろうか」
エドモンドは溜息をついた。ヴィヴィアンの行動の理由は、最後まで彼には理解できなかった。単なる嫉妬心からか、それとも歪んだプライドからか。彼女があの愚かな計画を実行に移そうとした真の動機は、何なのか。
報告書によると、姉のエレノアが原因だと喚き散らしたとか、自分は何も悪いことをしていないと主張し続けたとか記してある。やはり、エドモンドには彼女の思考は理解できなかった。
彼は次のページをめくった。そこには、ルカス・ヴァンローゼとオリヴィア・ヴァンローゼ、つまりヴァンローゼ家当主夫妻についての記述があった。
「当初の計画では、爵位剥奪後、一般市民としての生活を許可する予定であった。しかし、取り調べの結果、彼らに反省の色なく、今後も同様の問題を起こす可能性が高いと判断された」
その文章に、エドモンドは目を細めた。どうやら彼らも、エレノアに責任をなすりつけようと躍起になっていたらしい。
悪いのは全て、姉のエレノアだ。妹のヴィヴィアンは何も悪いことはしていない。どういう思考で、そう訴え続けるのか。なぜ、現状を理解しないのか。問題を起こすかもしれない。この取り調べの結果を見れば、その結論は予測できた。
「よって、ルカス・ヴァンローゼおよびオリヴィア・ヴァンローゼに対し、娘ヴィヴィアンと同様の処分を下す。混乱防止のため、この処分についても極秘裏に行われるものとする」
つまり、処刑。それも秘密裏に。
「これにより、ヴァンローゼ家は事実上消滅した。その領地および財産は王室に没収され、適切な処分がなされる」
エドモンドは書類を机の上に置き、窓の外を見た。貴族としてあるまじき行為への報いとはいえ、エレノア以外の一家が丸ごと消えるというのは重い事実だった。
彼らのことよりも、残されたエレノアのことが心配だった。
彼女にとって、実家の全員が処刑されたという事実は、どれほどの衝撃をもたらすだろうか。虐待を受けていたとはいえ、血のつながった家族だ。
エレノアには知る権利がある。しかし、その知識は彼女を深く傷つけるかもしれない。どう反応するのか予想がつかない。だけど、黙っていてもいつか知ることになるだろう。遅いか早いか。彼女が知らないまま過ごすのは不可能だろう。
結婚式を予定している、この大事な時期に。だが、この面倒な事実は早めに処理をしておきたい。式を行う前に。
「やはり、俺から直接エレノアに伝えるべきだろう」
エドモンドは立ち上がった。いつか必ず知ることになる事実なら、他人からではなく、自分の口から伝えるべきだ。そうすれば、少しでも彼女の心の負担を軽くできるかもしれない。適切にケアする。それが、自分のするべきことだ。
彼は執務室を出て、エレノアがいるであろう書庫へと足を向けた。長い廊下を進みながら、どのように伝えるべきか言葉を選びながら。
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