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第4章 親権問題編
第29話 状況の説明
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「昨日、都築精児が突然自宅に来て、仕方なく家に上げたら優くんの親権を返すように言われて」
昨日のことを思い出しながら、香織さんが説明をする。それを、メモを取りながら真剣な表情で聞く小池さん。僕は、横で大人しく座っていた。
「親権の要求の他に、どんな事を話した?」
小池さんに質問されて、更に詳しく思い出そうと顎に手を当てながら記憶を手繰る香織さん。
「えっと。都築は、優くんが2月頃に倒れたことを知っていた。それから、優くんが朝に女性に襲われたことも知っていた。それで、私に対して親失格と指摘した」
「なるほど。そんな事があって、その情報を知っていた、と」
今度は、小池さんが顎に手を当てて考え込む。視線を中空に漂わせたりしながら、彼女は言った。
「入院の件や朝の出来事を夕方に知っていたとなると、もしかすると向こうは探偵か興信所などを雇って、彼について調べさせていたのかもしれない」
僕のことを調べていた? どういうことだろうか、疑問に思って質問してみた。
「あの男は、どうして僕のことを調べていたんでしょう?」
「親権を欲しがっていて、交渉するための材料を集めていたのかもしれない」
小池さんは、僕の質問に答えてくれた。それは、納得できる予想だった。だけど、少し違和感がある。
「なんで今さら、僕の親権なんか欲しがっているんでしょうか? 親権者を変更する手続きって、かなり大変だって聞きましたけど」
「君の言うとおり、親権を変更するのは結構難しくて面倒だ。親権者を変更するには家庭裁判所の許可が必要だから」
もしかしたら、男親が特別で有利なのかもしれないと思ったけれど、そうではないらしい。この辺りは、僕の知っている常識と大きく違わないのかな。法律とか、それほど詳しいわけじゃないから、わからないけれど。
「ただ、先にも言った通り、以前から調べていたとなると、本当に親権を欲しがって準備を進めていたという可能性が高い。こちらに不利な証拠を集めておいて、準備が整ったから香織に会いに来たのかもしれない」
僕たちの知らないところで、着々と物事が進行していたのかも。去り際にも、自信満々な態度をしていた都築精児。必ず一緒に暮らすことになる、と僕に言っていた。それだけの確信があるということ。
「そんな……。アイ、情報が集まったから動いたということは、優くん親権を奪われてしまうの?」
香織さんが不安そうに聞く。
「親権についての大事なポイントは、本人の意志。未成年だが17歳という年齢は、もう既に自己判断できる年齢だと考えられる。本人の意思で親を変えたくないと主張すれば、その意見が尊重されるだろう」
小池さんの視線が、僕に向けられた。
「君自身がどうしたいと思っているのか、本心を聞かせてくれないか?」
「僕は、これからも香織さんの子供でいたい、と思っています」
もちろん、即答した。答えは決まっていたから。
香織さんや、姉妹の皆とも一緒に暮らしていきたい。この、よく分からない世界に迷い込んできて、家族になった彼女たち。まだ短い期間だけど、皆と暮らした日々は楽しかった。
それに比べて、あんな男と一緒に暮らすのは無理だと思う。正直、昨日急に元父親だと言われて都築と出会って、あまり印象も良くなかった。
だから、今のままで良い。それが、僕の本心。
「それでは次に、身上監護に問題ないかどうか。つまりは、ちゃんと彼を育てられているのか、虐待の問題はないか、ちゃんと学校に通わせているかどうか」
一息つき、小池さんは話し続ける。
「ここで問題になってくるのが、彼が2月に倒れて入院したという事実。何が原因で倒れたのか。もし、家族関係のストレスや栄養失調などで健康を害して倒れたのだとしたら、虐待に当たる可能性ありと見なされて不利になってしまう」
どうなんだと、小池さんは香織さんに目を向けて聞く。香織さんは青ざめた表情で首を横に振った。
「私は、優くんをしっかり育ててきた。愛情を持って接してきたわ。だけど……」
「何かあるのか?」
「少し前までの私達の食生活は、ちょっと酷かった。スーパーでお弁当やお惣菜とか買ってきて、済ませてしまうことが多かった。栄養バランスは、あまり良くなかったかもしれない」
「うーん。それは」
そういえば、目覚めた直後のことを思い出した。あの時は、かなり雑に食事を用意していた。それが当たり前のように。その瞬間から、僕が皆の食事を用意するようになったんだっけ。
その前は、スーパーのお弁当にお惣菜だった。それは、確かに良くないかも。
「ただ、病院の先生の話だと特に異常は無かったって。食生活やストレスが原因で、優くんが倒れたわけじゃないって、言ってくれたけど」
「ふむ。その証言は、こちらの有利になるかもしれない。詳しい内容について一度、その病院の担当医に聞いてみる必要がありそうだ。向こうが動くまで、まだ少しだけ時間がありそうだ。今の時点で分かっていることを、整理しておこう」
こうして、最初の話し合いが終わった。小池さんが協力してくれることになって、僕たちは改めて彼女に感謝した。
昨日のことを思い出しながら、香織さんが説明をする。それを、メモを取りながら真剣な表情で聞く小池さん。僕は、横で大人しく座っていた。
「親権の要求の他に、どんな事を話した?」
小池さんに質問されて、更に詳しく思い出そうと顎に手を当てながら記憶を手繰る香織さん。
「えっと。都築は、優くんが2月頃に倒れたことを知っていた。それから、優くんが朝に女性に襲われたことも知っていた。それで、私に対して親失格と指摘した」
「なるほど。そんな事があって、その情報を知っていた、と」
今度は、小池さんが顎に手を当てて考え込む。視線を中空に漂わせたりしながら、彼女は言った。
「入院の件や朝の出来事を夕方に知っていたとなると、もしかすると向こうは探偵か興信所などを雇って、彼について調べさせていたのかもしれない」
僕のことを調べていた? どういうことだろうか、疑問に思って質問してみた。
「あの男は、どうして僕のことを調べていたんでしょう?」
「親権を欲しがっていて、交渉するための材料を集めていたのかもしれない」
小池さんは、僕の質問に答えてくれた。それは、納得できる予想だった。だけど、少し違和感がある。
「なんで今さら、僕の親権なんか欲しがっているんでしょうか? 親権者を変更する手続きって、かなり大変だって聞きましたけど」
「君の言うとおり、親権を変更するのは結構難しくて面倒だ。親権者を変更するには家庭裁判所の許可が必要だから」
もしかしたら、男親が特別で有利なのかもしれないと思ったけれど、そうではないらしい。この辺りは、僕の知っている常識と大きく違わないのかな。法律とか、それほど詳しいわけじゃないから、わからないけれど。
「ただ、先にも言った通り、以前から調べていたとなると、本当に親権を欲しがって準備を進めていたという可能性が高い。こちらに不利な証拠を集めておいて、準備が整ったから香織に会いに来たのかもしれない」
僕たちの知らないところで、着々と物事が進行していたのかも。去り際にも、自信満々な態度をしていた都築精児。必ず一緒に暮らすことになる、と僕に言っていた。それだけの確信があるということ。
「そんな……。アイ、情報が集まったから動いたということは、優くん親権を奪われてしまうの?」
香織さんが不安そうに聞く。
「親権についての大事なポイントは、本人の意志。未成年だが17歳という年齢は、もう既に自己判断できる年齢だと考えられる。本人の意思で親を変えたくないと主張すれば、その意見が尊重されるだろう」
小池さんの視線が、僕に向けられた。
「君自身がどうしたいと思っているのか、本心を聞かせてくれないか?」
「僕は、これからも香織さんの子供でいたい、と思っています」
もちろん、即答した。答えは決まっていたから。
香織さんや、姉妹の皆とも一緒に暮らしていきたい。この、よく分からない世界に迷い込んできて、家族になった彼女たち。まだ短い期間だけど、皆と暮らした日々は楽しかった。
それに比べて、あんな男と一緒に暮らすのは無理だと思う。正直、昨日急に元父親だと言われて都築と出会って、あまり印象も良くなかった。
だから、今のままで良い。それが、僕の本心。
「それでは次に、身上監護に問題ないかどうか。つまりは、ちゃんと彼を育てられているのか、虐待の問題はないか、ちゃんと学校に通わせているかどうか」
一息つき、小池さんは話し続ける。
「ここで問題になってくるのが、彼が2月に倒れて入院したという事実。何が原因で倒れたのか。もし、家族関係のストレスや栄養失調などで健康を害して倒れたのだとしたら、虐待に当たる可能性ありと見なされて不利になってしまう」
どうなんだと、小池さんは香織さんに目を向けて聞く。香織さんは青ざめた表情で首を横に振った。
「私は、優くんをしっかり育ててきた。愛情を持って接してきたわ。だけど……」
「何かあるのか?」
「少し前までの私達の食生活は、ちょっと酷かった。スーパーでお弁当やお惣菜とか買ってきて、済ませてしまうことが多かった。栄養バランスは、あまり良くなかったかもしれない」
「うーん。それは」
そういえば、目覚めた直後のことを思い出した。あの時は、かなり雑に食事を用意していた。それが当たり前のように。その瞬間から、僕が皆の食事を用意するようになったんだっけ。
その前は、スーパーのお弁当にお惣菜だった。それは、確かに良くないかも。
「ただ、病院の先生の話だと特に異常は無かったって。食生活やストレスが原因で、優くんが倒れたわけじゃないって、言ってくれたけど」
「ふむ。その証言は、こちらの有利になるかもしれない。詳しい内容について一度、その病院の担当医に聞いてみる必要がありそうだ。向こうが動くまで、まだ少しだけ時間がありそうだ。今の時点で分かっていることを、整理しておこう」
こうして、最初の話し合いが終わった。小池さんが協力してくれることになって、僕たちは改めて彼女に感謝した。
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