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第21話 交渉に向かおうとして ※ギオマスラヴ王子視点
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「この馬車は、何だ!」
イステリッジ公爵領に向かおうとした俺は、いきなり出鼻をくじかれてしまった。用意されていたのが、平民が使うような粗末な幌馬車だったからだ。こんなもの、王家の人間が乗るものではない。
旅の準備をするように命じた近衛騎士の男が、王子である俺に口答えする。
「仕方ありません。今は、どの馬車も稼働中なんですから。皆、忙しいんですよ」
やる気のない、へらへらとした態度。怒りを必死で抑える。ここで怒鳴っても、無駄だから。それよりも、旅の確認をする方が大切。
「ぐっ……! しかし、王子である俺がこんなッ! その馬なんて、随分と毛並みが悪い。見た目も悪いし、足腰だって弱そうだ。ちゃんと走れるのか?」
「他に、無いんですよ。本当に」
次々と文句が出てきてしまう。とにかく不安だ。こんなボロボロで乗り心地の悪い馬車になど乗ったら、途中で体調を崩してしまうかもしれない。
だけど、他に使える馬車が無いらしい。これ以外には、今すぐに用意できる馬車がないらしい。歩いて行くなんて論外だから、我慢するしかないのか。
馬車の他にも不満がある。俺は周りを見回して、そこに居る兵士の数を確認した。数名しか居ない。
「それに、これだけしか護衛が集まらなかったのか?」
「それも、仕方ありませんよ。兵士を稼働させるのには、金が必要なんです。それに何度も説明しますが、とにかく今は他の仕事で忙しいですから」
「……チッ!」
この旅に同行するのは数名の兵士だけ。そしてまた、近衛騎士の口答えが始まる。何を言っても、改善しようという姿勢すら見せない。こんな愚か者に任せるしかないなんて。
俺は、不機嫌になり舌打ちした。
父上に隠しながら旅の用意をしてみたら、予想以上に金が無い。それで、兵士を用意できなかった。これの他に、大事な仕事があるようだ。
旅の準備をし直す時間が惜しい。時間をかけたら、父上にもバレるかもしれない。すべて終わってから、かっこよく報告したいのに。これで、やってみるしかないか。
こっちだって、とても大事な使命があるというのに。他の仕事を優先するなんて。本当に、腹立たしい。
こんなところでも、イステリッジ公爵家の影響を実感するなんて。やはり、彼らに引き続き援助してもらうしかないか。なるべく早く。このまま両家の関係が終わったままだと、俺の将来にも影響が出かねない。今のうちに解決しておかないと。
「はぁ……」
ため息をついて、気持ちを切り替える。そして俺は、ボロの馬車に乗り込んだ。
「おい」
「え?」
俺の後に続いて、兵士たちが馬車に乗り込もうとした。しかし、俺が呼び止める。こんな狭いところに、ただの兵士が乗り込んでくるなよ。
「お前たちは、歩きだ。馬車には乗るんじゃない」
「しかし、私達は貴方をお守りするのが役目です。お側を離れるわけには――」
「馬車の近くに居れば問題ないだろう! それに、ここは狭い。乗り込んでいたら、万が一襲われた時には降りるのが遅れるだろう。対処が遅れるなんて、そんなのダメだ。兵士は、歩いて周囲を警戒しないと許さんぞ。自分の仕事を、ちゃんと遂行しろよ」
「……わかりました」
渋々といった様子で、兵士は了承した。馬車に乗り込んで、楽しようと考えていたのかもしれない。しかし、こんな馬車しか用意していなかった彼らにも問題がある。だから文句を言わずに歩けと命令すると、彼らは大人しく従った。
出発前から色々と問題が発生したが、なんとか出発することが出来た。色々と気になることが多いけど、この際やむを得ない。我慢する。俺は馬車の中で横になって、防水布を少しだけ外した所から顔を出し、外の様子を眺めた。
「ふぅ……」
ガタゴト揺れながら走る馬車の中は、想像していた以上に乗り心地が悪くて最悪だった。
イステリッジ公爵領に到着するまで、交渉の内容をまとめようと思っていたのに、これでは考え事すらできない。
まったく! これで交渉が失敗してしまったら、近衛騎士や兵士にも責任を取ってもらうことになる。彼らは、それを分かっているのだろうか。もっと真剣に、馬車を操作してくれないか。また彼らに、文句を言いたくなった。本当に最悪だ。
イステリッジ公爵領に向かおうとした俺は、いきなり出鼻をくじかれてしまった。用意されていたのが、平民が使うような粗末な幌馬車だったからだ。こんなもの、王家の人間が乗るものではない。
旅の準備をするように命じた近衛騎士の男が、王子である俺に口答えする。
「仕方ありません。今は、どの馬車も稼働中なんですから。皆、忙しいんですよ」
やる気のない、へらへらとした態度。怒りを必死で抑える。ここで怒鳴っても、無駄だから。それよりも、旅の確認をする方が大切。
「ぐっ……! しかし、王子である俺がこんなッ! その馬なんて、随分と毛並みが悪い。見た目も悪いし、足腰だって弱そうだ。ちゃんと走れるのか?」
「他に、無いんですよ。本当に」
次々と文句が出てきてしまう。とにかく不安だ。こんなボロボロで乗り心地の悪い馬車になど乗ったら、途中で体調を崩してしまうかもしれない。
だけど、他に使える馬車が無いらしい。これ以外には、今すぐに用意できる馬車がないらしい。歩いて行くなんて論外だから、我慢するしかないのか。
馬車の他にも不満がある。俺は周りを見回して、そこに居る兵士の数を確認した。数名しか居ない。
「それに、これだけしか護衛が集まらなかったのか?」
「それも、仕方ありませんよ。兵士を稼働させるのには、金が必要なんです。それに何度も説明しますが、とにかく今は他の仕事で忙しいですから」
「……チッ!」
この旅に同行するのは数名の兵士だけ。そしてまた、近衛騎士の口答えが始まる。何を言っても、改善しようという姿勢すら見せない。こんな愚か者に任せるしかないなんて。
俺は、不機嫌になり舌打ちした。
父上に隠しながら旅の用意をしてみたら、予想以上に金が無い。それで、兵士を用意できなかった。これの他に、大事な仕事があるようだ。
旅の準備をし直す時間が惜しい。時間をかけたら、父上にもバレるかもしれない。すべて終わってから、かっこよく報告したいのに。これで、やってみるしかないか。
こっちだって、とても大事な使命があるというのに。他の仕事を優先するなんて。本当に、腹立たしい。
こんなところでも、イステリッジ公爵家の影響を実感するなんて。やはり、彼らに引き続き援助してもらうしかないか。なるべく早く。このまま両家の関係が終わったままだと、俺の将来にも影響が出かねない。今のうちに解決しておかないと。
「はぁ……」
ため息をついて、気持ちを切り替える。そして俺は、ボロの馬車に乗り込んだ。
「おい」
「え?」
俺の後に続いて、兵士たちが馬車に乗り込もうとした。しかし、俺が呼び止める。こんな狭いところに、ただの兵士が乗り込んでくるなよ。
「お前たちは、歩きだ。馬車には乗るんじゃない」
「しかし、私達は貴方をお守りするのが役目です。お側を離れるわけには――」
「馬車の近くに居れば問題ないだろう! それに、ここは狭い。乗り込んでいたら、万が一襲われた時には降りるのが遅れるだろう。対処が遅れるなんて、そんなのダメだ。兵士は、歩いて周囲を警戒しないと許さんぞ。自分の仕事を、ちゃんと遂行しろよ」
「……わかりました」
渋々といった様子で、兵士は了承した。馬車に乗り込んで、楽しようと考えていたのかもしれない。しかし、こんな馬車しか用意していなかった彼らにも問題がある。だから文句を言わずに歩けと命令すると、彼らは大人しく従った。
出発前から色々と問題が発生したが、なんとか出発することが出来た。色々と気になることが多いけど、この際やむを得ない。我慢する。俺は馬車の中で横になって、防水布を少しだけ外した所から顔を出し、外の様子を眺めた。
「ふぅ……」
ガタゴト揺れながら走る馬車の中は、想像していた以上に乗り心地が悪くて最悪だった。
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まったく! これで交渉が失敗してしまったら、近衛騎士や兵士にも責任を取ってもらうことになる。彼らは、それを分かっているのだろうか。もっと真剣に、馬車を操作してくれないか。また彼らに、文句を言いたくなった。本当に最悪だ。
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