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第4話 父への報告
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会場での後始末を終えて、ようやく実家に帰ってきた私は、書斎でお父様に昨夜の出来事の詳細を報告していた。
「昨晩、そんなことになっていたのか」
アルトヴェール侯爵家当主である父、エドガー・アルトヴェール侯爵は、険しい表情で話を聞いていた。
「申し訳ありません、お父様。私の問題で、家にご迷惑をおかけしてしまって」
私は深く頭を下げた。どんな理由があろうと、結果として家の名誉を傷つけてしまったのは事実。娘として、深く責任を感じている。
「いや、セラフィナ。お前に問題があったわけではない」
お父様は優しく言ってくれたが、表情は一向に晴れなかった。むしろ、私の報告を聞くにつれて、さらに深刻になっている。机の上に置かれた手紙を見つめながら、深いため息をついた。
「実は昨晩遅く、ヴァンデルディング家から正式な書状が特使によって届けられた。婚約破棄の通知と、併せてお前への厳しい抗議文だ」
お父様は机の上の封蝋が破られた手紙を手に取った。ヴァンデルディング家の紋章が押された、重厚な羊皮紙製の正式文書。
「内容は実に辛辣でな。お前がイザベラからアイデアを盗んだという疑惑、過去のパーティー成功実績への疑念、そして『問題のある人物』との婚約の責任追及。さらには、我が家の『教育の欠如』まで指摘されている」
「つまり、私が問題のある人物だったとヴァンデルディング家は公式に認めている、ということですね」
「そういうことになる。過去の社交界での成功も、全て疑わしいものだったと断じている。『アルトヴェール家の令嬢は、実妹の才能を横取りして虚偽の評判を築いた詐欺師』とまで書かれていた」
その言葉に、私の胸に鈍い痛みが走った。ロデリック様個人の感情的な判断だけでなく、ヴァンデルディング公爵家としての公式見解なのね。何年もかけて築き上げてきた信頼関係が、一夜にして崩れ去った。それなりに気を使って付き合ってきたつもりだけど、その努力は全て無駄だったということ。
おそらくそれは、妹の策略によってそうなってしまった。
「私が、イザベラを好き勝手にさせてしまった」
お父様の声には、深い後悔と自責の念が込められていた。普段の威厳ある姿からは想像できないほど、疲れ切った表情を見せている。
「母親を早くに亡くした彼女が、どれほど寂しい思いをしていたか。心の歪んでしまった彼女をどう導いていいか分からずに、結果として甘やかしすぎてしまった。厳しく躾けるべき時に、可哀想だからと目を逸らしてしまった。その結果として、お前に多大な迷惑をかけることになってしまった……。父親として、情けない限りだ」
お父様の表情には、痛々しいほどの自責の念が浮かんでいた。肩を落とし、まるで全ての重荷を一人で背負っているかのように見える。確かに、もっと早い段階で厳しく対処してほしかったとは思う。イザベラの問題行動は昨日今日始まったことではないのだから。けれど、根本的な問題はイザベラ自身の性格と選択にある。
「お父様の責任ではありません。最終的には、イザベラ自身の選択です」
私はきっぱりと言い切った。確かにお父様にも責任の一端はあるかもしれないが、今この状況で父を責めても何も解決しない。
「セラフィナ……」
お父様の瞳に涙が浮かんだ。私がそんな風に庇ってくれることが、かえって彼の心を痛めているようだった。
「少し休んだらどうだ? 一晩中働きずくめで、相当疲れているだろう。顔色も良くない」
確かに鏡を見れば、疲労が顔に出ているのは自覚している。けれど、まだやるべきことが山積みだった。
「今回の後処理は最後まで責任を持って行います。参加者の皆様への個別謝罪、今後の賠償計画、そして家の名誉回復のための対策——それらを全て終わらせてから休ませていただきます」
私は最後まで責任を果たしたかった。中途半端に投げ出すわけにはいかない。それが、社交界で培った私の誇りでもあり、アルトヴェール家の娘としての矜持でもある。
「そうか……。だが、無理は禁物だぞ。体を壊してしまっては、元も子もない」
お父様は心配そうに私を見つめた。その優しさが、疲れた心に染み入るようだった。
妹のイザベラは、今頃ロデリック様と一緒にいるのでしょう。私から婚約者を奪い取ったことを喜び、その勝利の余韻に浸っているに違いない。
彼らがこの先どうなるかは、もう私の知ったことではない。
私は感情的にならず、この状況を冷静に受け入れるしかなかった。怒りや恨みに心を支配されれば、正しい判断ができなくなる。真実は、いずれ明らかになる。実力のない者が他人の功績を奪い取っても、最終的には必ずボロが出る。それまでは、自分にできることに集中して、淡々と歩み続けるだけ。
それが私のやり方だから。
「昨晩、そんなことになっていたのか」
アルトヴェール侯爵家当主である父、エドガー・アルトヴェール侯爵は、険しい表情で話を聞いていた。
「申し訳ありません、お父様。私の問題で、家にご迷惑をおかけしてしまって」
私は深く頭を下げた。どんな理由があろうと、結果として家の名誉を傷つけてしまったのは事実。娘として、深く責任を感じている。
「いや、セラフィナ。お前に問題があったわけではない」
お父様は優しく言ってくれたが、表情は一向に晴れなかった。むしろ、私の報告を聞くにつれて、さらに深刻になっている。机の上に置かれた手紙を見つめながら、深いため息をついた。
「実は昨晩遅く、ヴァンデルディング家から正式な書状が特使によって届けられた。婚約破棄の通知と、併せてお前への厳しい抗議文だ」
お父様は机の上の封蝋が破られた手紙を手に取った。ヴァンデルディング家の紋章が押された、重厚な羊皮紙製の正式文書。
「内容は実に辛辣でな。お前がイザベラからアイデアを盗んだという疑惑、過去のパーティー成功実績への疑念、そして『問題のある人物』との婚約の責任追及。さらには、我が家の『教育の欠如』まで指摘されている」
「つまり、私が問題のある人物だったとヴァンデルディング家は公式に認めている、ということですね」
「そういうことになる。過去の社交界での成功も、全て疑わしいものだったと断じている。『アルトヴェール家の令嬢は、実妹の才能を横取りして虚偽の評判を築いた詐欺師』とまで書かれていた」
その言葉に、私の胸に鈍い痛みが走った。ロデリック様個人の感情的な判断だけでなく、ヴァンデルディング公爵家としての公式見解なのね。何年もかけて築き上げてきた信頼関係が、一夜にして崩れ去った。それなりに気を使って付き合ってきたつもりだけど、その努力は全て無駄だったということ。
おそらくそれは、妹の策略によってそうなってしまった。
「私が、イザベラを好き勝手にさせてしまった」
お父様の声には、深い後悔と自責の念が込められていた。普段の威厳ある姿からは想像できないほど、疲れ切った表情を見せている。
「母親を早くに亡くした彼女が、どれほど寂しい思いをしていたか。心の歪んでしまった彼女をどう導いていいか分からずに、結果として甘やかしすぎてしまった。厳しく躾けるべき時に、可哀想だからと目を逸らしてしまった。その結果として、お前に多大な迷惑をかけることになってしまった……。父親として、情けない限りだ」
お父様の表情には、痛々しいほどの自責の念が浮かんでいた。肩を落とし、まるで全ての重荷を一人で背負っているかのように見える。確かに、もっと早い段階で厳しく対処してほしかったとは思う。イザベラの問題行動は昨日今日始まったことではないのだから。けれど、根本的な問題はイザベラ自身の性格と選択にある。
「お父様の責任ではありません。最終的には、イザベラ自身の選択です」
私はきっぱりと言い切った。確かにお父様にも責任の一端はあるかもしれないが、今この状況で父を責めても何も解決しない。
「セラフィナ……」
お父様の瞳に涙が浮かんだ。私がそんな風に庇ってくれることが、かえって彼の心を痛めているようだった。
「少し休んだらどうだ? 一晩中働きずくめで、相当疲れているだろう。顔色も良くない」
確かに鏡を見れば、疲労が顔に出ているのは自覚している。けれど、まだやるべきことが山積みだった。
「今回の後処理は最後まで責任を持って行います。参加者の皆様への個別謝罪、今後の賠償計画、そして家の名誉回復のための対策——それらを全て終わらせてから休ませていただきます」
私は最後まで責任を果たしたかった。中途半端に投げ出すわけにはいかない。それが、社交界で培った私の誇りでもあり、アルトヴェール家の娘としての矜持でもある。
「そうか……。だが、無理は禁物だぞ。体を壊してしまっては、元も子もない」
お父様は心配そうに私を見つめた。その優しさが、疲れた心に染み入るようだった。
妹のイザベラは、今頃ロデリック様と一緒にいるのでしょう。私から婚約者を奪い取ったことを喜び、その勝利の余韻に浸っているに違いない。
彼らがこの先どうなるかは、もう私の知ったことではない。
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それが私のやり方だから。
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