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第19話 私のやるべきこと
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リーベンフェルト家に来てから、数日が経った。
朝食を終えた私は、書斎に籠もってリーベンフェルト家に関する資料を読み込んでいた。代々の当主の功績をまとめた歴史書、軍での活躍を記した記録、関係の深い貴族家との交流の記録――机の上には、マキシミリアン様とエレオノーラ様が用意してくださった資料が山積みになっている。
私は一つ一つ丁寧に読み込み、ノートにまとめていく。文字を追いながら、重要な部分には印をつけ、関連する情報同士を線で結んでいく。ただ読むだけでは頭に入らない。書き出して、整理して、体系化する。それが、私のやり方だった。
リーベンフェルト家の始祖は、建国時に活躍した英雄だったこと。王国がまだ小国に過ぎなかった時代、周辺諸国の侵略から国を守り抜いた初代当主。その武勇と戦略眼は、今でも軍の教本に載っているという。
歴代当主が戦場で数々の功績を上げてきたこと。北方の蛮族との戦い、東方の帝国との国境紛争、南方海域の海賊討伐――どの時代にも、必ずリーベンフェルト家の名が刻まれていた。それも、ただ戦うだけではない。民を守り、兵を大切にし、無駄な犠牲を出さない戦い方。そういう記述が、随所に見られた。
王族からの信頼が厚く、何度も危機を救ってきたこと。特に印象深かったのは、三代前の当主が、謀反の危機から若き王太子を守り抜いた逸話。命をかけて忠誠を示した功績は、今でも語り継がれているという。
それから、軍人貴族の中でも歴史が深く、特に影響力が強い家柄であること。他の軍人貴族からの信頼も厚く、いざという時には彼らをまとめる中心的な存在になる、と記されていた。
関係の深い貴族家の名前も、丁寧に書き出していく。軍人としての繋がり、戦場での共闘関係、代々続く友好関係――複雑に絡み合う人脈を、できる限り整理して頭に叩き込む。
社交パーティーを成功させるには、参加者の背景を知ることが不可欠だ。誰と誰が友好関係にあるのか、どの家とどの家が対立しているのか。誰がどんな功績を持っているのか、どんな話題を好むのか。そういった情報を把握しておかなければ、適切な席順も決められないし、話題の選択も間違える。そんな失敗は、極力避けなければならない。
几帳面にまとめたノートは、既に何十ページにもなっていた。リーベンフェルト家と親しい軍閥貴族の家名、それぞれの当主の名前、主な功績、家族構成――できる限り詳細に。まだ会ったこともない人たちだけど、このノートを見れば、ある程度の人物像が浮かび上がる。
「セラフィナさん、そんなに熱心に」
声をかけられて顔を上げると、エレオノーラ様が書斎の入り口に立っていた。優しい微笑みを浮かべて、私の様子を見ている。
「あ、エレオノーラ様」
私は慌てて立ち上がろうとしたが、彼女は手を振ってそれを制した。
「座ったままで構いませんよ。お勉強の邪魔をしてしまったかしら」
「いえ、そんなことは。ちょうど、一息つこうと思っていたところです」
嘘ではない。確かに少し疲れていた。朝食後からずっと読み続けていたから、目も疲れている。肩も凝っている。でも、夢中になっていると、そういう疲れも気にならなくなる。気づけば、もう昼前の時間だった。
エレオノーラ様は、私の隣に腰を下ろすと、机の上のノートを覗き込んだ。その瞬間、彼女の目が少し見開かれた。
「まあ……こんなに丁寧に」
彼女の目が、驚きの色を帯びる。私がまとめたノートには、リーベンフェルト家に関する情報が、細かく整理されて書かれていた。
「はい。マキシミリアン様が私に期待してくださっていることに、しっかり応えたいと思いまして」
本心だった。マキシミリアン様は、私の社交パーティーに関する知識と経験などを求めて婚約してくださった。その期待に応えるためには、まずリーベンフェルト家のことを深く理解する必要がある。関わりのある貴族についても知っておくべきだ。表面的な知識ではなく、本質的な部分まで。
「ありがとう、セラフィナさん」
いきなり感謝される。
「リーベンフェルト家のことを、こんなに真剣に知ろうとしてくれて。私もとても嬉しいわ」
「でも、あまり無理をしないでね。体を壊してしまっては、元も子もありませんから」
エレオノーラ様の言葉が、とても優しい。その優しさに甘えてしまいそうになるのを我慢するのが大変だった。
「大丈夫ですよ。楽しんで読んでいますから」
私は笑顔で答えた。それも、本当のこと。確かに疲れはするけれど、苦痛ではない。むしろ、新しい知識を得ることが楽しい。リーベンフェルト家のことを知れば知るほど、この家の素晴らしさがわかる。
「リーベンフェルト家の歴史は、とても興味深いです。代々、王国を守ってこられたのですね。戦場での功績も素晴らしいですし、王族からの信頼も厚い」
私は、心からの感想を述べた。
「それに、ただ戦うだけではなく、民を守り、兵を大切にする――そういう記述が随所にあって。強さだけではなく、優しさも持っている。本当に誇り高い家柄だと、よくわかりました」
「まあ……」
エレオノーラ様の目が、温かく潤んだ。
「マキシミリアンが、あなたを選んでくれて本当に良かった。あなたのような方を、家族として迎えられて、私は本当に幸せですわ」
その言葉に、胸が温かくなる。認めてもらえている。受け入れてもらえている。その実感が、じんわりと心に染み込んでくる。
だから、もっと頑張れる。この家族のために、力になりたい。マキシミリアン様の期待に応えたい。そう、心から思えた。
「ありがとうございます、エレオノーラ様」
私は、心からの感謝を込めて頭を下げた。言葉だけでは足りないくらい、嬉しかった。
午前中の勉強が一段落したところで、マキシミリアン様が書斎を訪ねてきた。軍服姿の彼は、いつも通り凛々しく、それから少し疲れた様子だった。今日も、王宮での会議から戻ってきたばかりなのだろう。お忙しい人だから。
「セラフィナ、少し時間はあるか?」
「はい。もちろんです」
私は、すぐに資料を片付けた。マキシミリアン様は、私の向かいの席に座ると、真剣な表情で口を開いた。
「今後の活動について、相談したいことがある」
「伺います」
私は、背筋を伸ばして彼の言葉を待った。彼の深い青灰色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。その視線には、期待と信頼が込められていた。
「リーベンフェルト家として、社交界での活動を活発化させていきたい。そのために、君の知識と経験が必要だと前に話したね」
マキシミリアン様は、少し間を置いてから続けた。
「それで、具体的にどう進めるべきか、君の意見を聞かせてほしい」
マキシミリアン様の言葉は、いつも簡潔で率直だ。無駄がなく、必要なことだけを聞いてくる。軍人らしいと感じると同時に、少し緊張する。言葉を間違えないようにしないと。
私は、少し考えてから答えた。慎重に言葉を選びながら、でも率直に。
「まず、軍人貴族の方々が主催されるパーティーに参加して、実態を知りたいと思います」
「実態を?」
マキシミリアン様は、少し驚いたような表情を浮かべた。
「参加しても、君が学ぶようなことはないと思うが」
その言葉には、謙遜の意味が含まれているように感じた。いや、謙遜というより――自己評価の低さ、かもしれない。おそらく、軍人貴族のパーティーは文官貴族のものと比べて劣っている、という認識を受け入れている様子。
「いいえ」
私は、きっぱりと首を横に振った。
「私は軍人貴族系のパーティーに参加したことがなく、詳しく知らないのです。知らないことを知ったかぶりするほど、愚かなことはありませんから」
マキシミリアン様の目が、わずかに見開かれた。その瞳に驚きと――何か、別の感情が浮かんだ。感心? それとも、安堵?
「なるほど。知らないことを知ったかぶりするのは愚か、か」
彼は、少し考え込むような仕草をしてから、感心したように頷いた。
「知らないことを知ったかぶりするのは愚か、か。その通りだ。戦場でも、知ったかぶりは命取りになる。地形を知らない、敵の戦力を知らない、天候を読めない――そういう無知を隠して作戦を立てれば、必ず失敗する」
彼の声には、経験に裏打ちされた重みがあった。
「確かに、それは大事だな。では、それは社交界でも同じなのか?」
「ええ。むしろ、社交界でこそ重要です」
私は、真剣に答えた。
「参加者の背景を知らずに招待状を送ってしまうと、対立している者同士を鉢合わせさせてしまうかもしれません。参加者たちの事情を理解せずに料理を選べば、相手に不快な思いをさせるかもしれません。知識がないまま行動することは、失敗への近道です」
マキシミリアン様は、真剣な表情で頷いている。私の言葉を、一言一句、しっかりと聞いてくれている。
ロデリック様は、そういうことを軽視していた。パーティーの準備について、私が詳しく説明しても、適当に聞き流していた。「細かいことは気にしなくていい」「そこまで神経質にならなくても」と。
でも、細かいことこそが大事なのだ。小さな配慮の積み重ねが、パーティー全体の質を決める。参加者一人一人への心遣いが、成功と失敗を分ける。
「そうか」
マキシミリアン様は、深く頷いた。
「では、近日中に開催される軍人貴族のパーティーに、一緒に参加しよう。そこで、君に実際の雰囲気を体験してもらう。全て、君の目で確かめてほしい。そして、率直な意見を聞かせてほしい。良いところも、改善すべきところも」
「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」
私は、嬉しくなって笑顔で答えた。マキシミリアン様は、私の意見を尊重してくれる。対等に扱ってくれる。この関係性が、とても心地良い。
真剣に私の話を聞いてくれる。意見を求めてくれる。尊重してくれる。そして、私の判断を信じてくれる。
「それから」
マキシミリアン様は、少し照れたような表情で続けた。
「もし、わからないことがあれば、遠慮なく聞いてくれ。軍人貴族の慣習とか、特有の文化とか。俺たちにとっては当たり前でも、君には馴染みのないこともあるだろうから」
「はい。その時は、ぜひお願いします」
マキシミリアン様の配慮が、とても嬉しかった。彼は、私が『知らない』ことを恥ずかしいとは思っていない。むしろ、知ろうとする姿勢を評価してくれている。
真剣に私の話を聞いてくれる。意見を求めてくれる。尊重してくれる。
この人となら、信頼し合える関係を築いていける。そんな確信が、少しずつ育っていく。
朝食を終えた私は、書斎に籠もってリーベンフェルト家に関する資料を読み込んでいた。代々の当主の功績をまとめた歴史書、軍での活躍を記した記録、関係の深い貴族家との交流の記録――机の上には、マキシミリアン様とエレオノーラ様が用意してくださった資料が山積みになっている。
私は一つ一つ丁寧に読み込み、ノートにまとめていく。文字を追いながら、重要な部分には印をつけ、関連する情報同士を線で結んでいく。ただ読むだけでは頭に入らない。書き出して、整理して、体系化する。それが、私のやり方だった。
リーベンフェルト家の始祖は、建国時に活躍した英雄だったこと。王国がまだ小国に過ぎなかった時代、周辺諸国の侵略から国を守り抜いた初代当主。その武勇と戦略眼は、今でも軍の教本に載っているという。
歴代当主が戦場で数々の功績を上げてきたこと。北方の蛮族との戦い、東方の帝国との国境紛争、南方海域の海賊討伐――どの時代にも、必ずリーベンフェルト家の名が刻まれていた。それも、ただ戦うだけではない。民を守り、兵を大切にし、無駄な犠牲を出さない戦い方。そういう記述が、随所に見られた。
王族からの信頼が厚く、何度も危機を救ってきたこと。特に印象深かったのは、三代前の当主が、謀反の危機から若き王太子を守り抜いた逸話。命をかけて忠誠を示した功績は、今でも語り継がれているという。
それから、軍人貴族の中でも歴史が深く、特に影響力が強い家柄であること。他の軍人貴族からの信頼も厚く、いざという時には彼らをまとめる中心的な存在になる、と記されていた。
関係の深い貴族家の名前も、丁寧に書き出していく。軍人としての繋がり、戦場での共闘関係、代々続く友好関係――複雑に絡み合う人脈を、できる限り整理して頭に叩き込む。
社交パーティーを成功させるには、参加者の背景を知ることが不可欠だ。誰と誰が友好関係にあるのか、どの家とどの家が対立しているのか。誰がどんな功績を持っているのか、どんな話題を好むのか。そういった情報を把握しておかなければ、適切な席順も決められないし、話題の選択も間違える。そんな失敗は、極力避けなければならない。
几帳面にまとめたノートは、既に何十ページにもなっていた。リーベンフェルト家と親しい軍閥貴族の家名、それぞれの当主の名前、主な功績、家族構成――できる限り詳細に。まだ会ったこともない人たちだけど、このノートを見れば、ある程度の人物像が浮かび上がる。
「セラフィナさん、そんなに熱心に」
声をかけられて顔を上げると、エレオノーラ様が書斎の入り口に立っていた。優しい微笑みを浮かべて、私の様子を見ている。
「あ、エレオノーラ様」
私は慌てて立ち上がろうとしたが、彼女は手を振ってそれを制した。
「座ったままで構いませんよ。お勉強の邪魔をしてしまったかしら」
「いえ、そんなことは。ちょうど、一息つこうと思っていたところです」
嘘ではない。確かに少し疲れていた。朝食後からずっと読み続けていたから、目も疲れている。肩も凝っている。でも、夢中になっていると、そういう疲れも気にならなくなる。気づけば、もう昼前の時間だった。
エレオノーラ様は、私の隣に腰を下ろすと、机の上のノートを覗き込んだ。その瞬間、彼女の目が少し見開かれた。
「まあ……こんなに丁寧に」
彼女の目が、驚きの色を帯びる。私がまとめたノートには、リーベンフェルト家に関する情報が、細かく整理されて書かれていた。
「はい。マキシミリアン様が私に期待してくださっていることに、しっかり応えたいと思いまして」
本心だった。マキシミリアン様は、私の社交パーティーに関する知識と経験などを求めて婚約してくださった。その期待に応えるためには、まずリーベンフェルト家のことを深く理解する必要がある。関わりのある貴族についても知っておくべきだ。表面的な知識ではなく、本質的な部分まで。
「ありがとう、セラフィナさん」
いきなり感謝される。
「リーベンフェルト家のことを、こんなに真剣に知ろうとしてくれて。私もとても嬉しいわ」
「でも、あまり無理をしないでね。体を壊してしまっては、元も子もありませんから」
エレオノーラ様の言葉が、とても優しい。その優しさに甘えてしまいそうになるのを我慢するのが大変だった。
「大丈夫ですよ。楽しんで読んでいますから」
私は笑顔で答えた。それも、本当のこと。確かに疲れはするけれど、苦痛ではない。むしろ、新しい知識を得ることが楽しい。リーベンフェルト家のことを知れば知るほど、この家の素晴らしさがわかる。
「リーベンフェルト家の歴史は、とても興味深いです。代々、王国を守ってこられたのですね。戦場での功績も素晴らしいですし、王族からの信頼も厚い」
私は、心からの感想を述べた。
「それに、ただ戦うだけではなく、民を守り、兵を大切にする――そういう記述が随所にあって。強さだけではなく、優しさも持っている。本当に誇り高い家柄だと、よくわかりました」
「まあ……」
エレオノーラ様の目が、温かく潤んだ。
「マキシミリアンが、あなたを選んでくれて本当に良かった。あなたのような方を、家族として迎えられて、私は本当に幸せですわ」
その言葉に、胸が温かくなる。認めてもらえている。受け入れてもらえている。その実感が、じんわりと心に染み込んでくる。
だから、もっと頑張れる。この家族のために、力になりたい。マキシミリアン様の期待に応えたい。そう、心から思えた。
「ありがとうございます、エレオノーラ様」
私は、心からの感謝を込めて頭を下げた。言葉だけでは足りないくらい、嬉しかった。
午前中の勉強が一段落したところで、マキシミリアン様が書斎を訪ねてきた。軍服姿の彼は、いつも通り凛々しく、それから少し疲れた様子だった。今日も、王宮での会議から戻ってきたばかりなのだろう。お忙しい人だから。
「セラフィナ、少し時間はあるか?」
「はい。もちろんです」
私は、すぐに資料を片付けた。マキシミリアン様は、私の向かいの席に座ると、真剣な表情で口を開いた。
「今後の活動について、相談したいことがある」
「伺います」
私は、背筋を伸ばして彼の言葉を待った。彼の深い青灰色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。その視線には、期待と信頼が込められていた。
「リーベンフェルト家として、社交界での活動を活発化させていきたい。そのために、君の知識と経験が必要だと前に話したね」
マキシミリアン様は、少し間を置いてから続けた。
「それで、具体的にどう進めるべきか、君の意見を聞かせてほしい」
マキシミリアン様の言葉は、いつも簡潔で率直だ。無駄がなく、必要なことだけを聞いてくる。軍人らしいと感じると同時に、少し緊張する。言葉を間違えないようにしないと。
私は、少し考えてから答えた。慎重に言葉を選びながら、でも率直に。
「まず、軍人貴族の方々が主催されるパーティーに参加して、実態を知りたいと思います」
「実態を?」
マキシミリアン様は、少し驚いたような表情を浮かべた。
「参加しても、君が学ぶようなことはないと思うが」
その言葉には、謙遜の意味が含まれているように感じた。いや、謙遜というより――自己評価の低さ、かもしれない。おそらく、軍人貴族のパーティーは文官貴族のものと比べて劣っている、という認識を受け入れている様子。
「いいえ」
私は、きっぱりと首を横に振った。
「私は軍人貴族系のパーティーに参加したことがなく、詳しく知らないのです。知らないことを知ったかぶりするほど、愚かなことはありませんから」
マキシミリアン様の目が、わずかに見開かれた。その瞳に驚きと――何か、別の感情が浮かんだ。感心? それとも、安堵?
「なるほど。知らないことを知ったかぶりするのは愚か、か」
彼は、少し考え込むような仕草をしてから、感心したように頷いた。
「知らないことを知ったかぶりするのは愚か、か。その通りだ。戦場でも、知ったかぶりは命取りになる。地形を知らない、敵の戦力を知らない、天候を読めない――そういう無知を隠して作戦を立てれば、必ず失敗する」
彼の声には、経験に裏打ちされた重みがあった。
「確かに、それは大事だな。では、それは社交界でも同じなのか?」
「ええ。むしろ、社交界でこそ重要です」
私は、真剣に答えた。
「参加者の背景を知らずに招待状を送ってしまうと、対立している者同士を鉢合わせさせてしまうかもしれません。参加者たちの事情を理解せずに料理を選べば、相手に不快な思いをさせるかもしれません。知識がないまま行動することは、失敗への近道です」
マキシミリアン様は、真剣な表情で頷いている。私の言葉を、一言一句、しっかりと聞いてくれている。
ロデリック様は、そういうことを軽視していた。パーティーの準備について、私が詳しく説明しても、適当に聞き流していた。「細かいことは気にしなくていい」「そこまで神経質にならなくても」と。
でも、細かいことこそが大事なのだ。小さな配慮の積み重ねが、パーティー全体の質を決める。参加者一人一人への心遣いが、成功と失敗を分ける。
「そうか」
マキシミリアン様は、深く頷いた。
「では、近日中に開催される軍人貴族のパーティーに、一緒に参加しよう。そこで、君に実際の雰囲気を体験してもらう。全て、君の目で確かめてほしい。そして、率直な意見を聞かせてほしい。良いところも、改善すべきところも」
「ありがとうございます。ぜひ、お願いします」
私は、嬉しくなって笑顔で答えた。マキシミリアン様は、私の意見を尊重してくれる。対等に扱ってくれる。この関係性が、とても心地良い。
真剣に私の話を聞いてくれる。意見を求めてくれる。尊重してくれる。そして、私の判断を信じてくれる。
「それから」
マキシミリアン様は、少し照れたような表情で続けた。
「もし、わからないことがあれば、遠慮なく聞いてくれ。軍人貴族の慣習とか、特有の文化とか。俺たちにとっては当たり前でも、君には馴染みのないこともあるだろうから」
「はい。その時は、ぜひお願いします」
マキシミリアン様の配慮が、とても嬉しかった。彼は、私が『知らない』ことを恥ずかしいとは思っていない。むしろ、知ろうとする姿勢を評価してくれている。
真剣に私の話を聞いてくれる。意見を求めてくれる。尊重してくれる。
この人となら、信頼し合える関係を築いていける。そんな確信が、少しずつ育っていく。
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