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第20話 軍人貴族のパーティー
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数日後の夕方、マキシミリアン様にエスコートされて、とある軍人貴族の屋敷を訪れた。
今夜開催されるのは、中規模のパーティー。リーベンフェルト家と親しい軍人貴族が主催する、比較的カジュアルな集まりだという。マキシミリアン様から事前に聞いていた情報によれば、代々リーベンフェルト家と親しく、戦場でも何度も共闘してきた名門とのこと。
「緊張しているか?」
マキシミリアン様が、優しい声で尋ねてきた。窓の外を眺めていた彼が、こちらに視線を向けている。その瞳には、心配と気遣いが浮かんでいた。
「はい、少しだけ」
正直に答えると、彼は小さく笑った。いつもの厳しい表情とは違う、柔らかな笑顔。それを見て、私の緊張も少しほぐれる。
「大丈夫。皆、良い人間ばかりだ」
マキシミリアン様は、力強く言った。
「堅苦しい礼儀作法を気にする者もいない。気取った会話を求める者もいない。ただ、誠実であればいい。君のような真摯な人間を、彼らは必ず歓迎してくれるだろう」
気にかけてもらっている。彼なりの励ましの言葉。それが嬉しくて、私は思わず微笑んだ。
「ありがとうございます。そう言っていただけると、少し安心します」
馬車が屋敷の前に到着し、マキシミリアン様が先に降りて、私に手を差し伸べてくれた。その手を取って馬車を降りると、目の前には立派な屋敷が建っていた。
玄関で主催者の挨拶を受け、会場へと案内される。
マキシミリアン様の腕に手を添えながら、大きな扉の前に立つ。執事が恭しく扉を開ける。その向こうから、賑やかな話し声が聞こえてきた。文官貴族のパーティーよりも、ずっと大きな声。遠慮のない笑い声。
扉が開かれた瞬間――
私は、思わず足を止めた。
会場に入った瞬間、目に飛び込んできた光景に少し驚く。いや、驚くというより、戸惑う、と言った方が正しいかもしれない。あまりにも、予想と違ったから。
華やかな装飾は、ほとんどない。
金糸の刺繍をあしらった豪華な壁掛けも、煌びやかなシャンデリアも、色とりどりの花々で飾られた柱も。私が見慣れた、文官貴族のパーティー会場とは全く違った。予想外な光景だったからこそ、驚いてしまった。思わず、目を見開いてしまう。
壁には、シンプルな軍旗が掲げられている。それらが、整然と並んでいる。装飾というより、誇りの証なのかもしれない。
照明も実用的で、過度な装飾はない。明るく均等な光だ。会話がしやすいように、という配慮だろう。影ができにくく、顔がよく見える明るさ。
テーブルクロスも質素で、飾られている花は最小限。白い麻布のシンプルなクロス。その上に、小さな一輪挿しが置かれているだけ。文官貴族のパーティーなら、テーブル中央に大きな花のアレンジメントが飾られるところだけど。
床も、磨き上げられた木の質感がそのまま。絨毯で覆い隠すこともなく、堂々と。歩くと、靴音が心地よく響く。
「どうした?」
マキシミリアン様が、私の様子に気づいて声をかけてきた。少し心配そうな表情。私が、会場の入り口で立ち止まってしまったから。
「あ、いえ……その、少し驚いてしまって」
「ああ」
彼は、会場を見回してから、少し苦笑いを浮かべて言った。
「君が見慣れたものとは違うだろう。だが、この会場の装いは、軍人貴族ならばよくある定番の飾り付けだ。華美を嫌い、実用を重んじる。それが、我々の流儀だから。文官の連中からは、『貧乏臭い』『野蛮だ』『文化がない』と言われたりするがな」
「そんな風に言う人たちが、間違っています。確かに、私が見慣れたものとは違います。でも、だからといってそんな言い方」
酷い言葉だ。それを言われたマキシミリアン様のことを思うと、怒りが湧いてくる。胸の奥が、カッと熱くなる。
「ただ、やっぱり見慣れていないから驚いてしまいました。申し訳ありません。なるほど……軍人貴族のパーティーは、こんな感じなのですね」
私は、改めて会場の様子を細かく見てみた。今度は、驚きではなく、観察として。
装飾は最小限だが、配置は計算されている。動線を邪魔しないように、必要な場所にだけ置かれている。軍旗も、会場の四隅にバランスよく配置されていて、空間を引き締めている。
照明も、会話がしやすいように調整されている。明るすぎず、暗すぎず。顔の表情がよく見える、絶妙な明るさ。これは、意図的な選択だ。おしゃれな雰囲気よりも、実用性を選んでいる。
テーブルの配置も、工夫されている。円卓ではなく、長テーブル。これなら、多くの人が一度に会話できる。文官貴族のパーティーのような小さな円卓をいくつも配置するスタイルとは、明らかに違う。
無駄がない。効率的だと思う。目的が明確だ。華やかさを演出するためのパーティーではない。仲間との交流を深めるためのパーティー。そういう意図が、会場の隅々に感じられる。
そして、長テーブルに並ぶのは、質実剛健な料理。見た目より量。彩りより栄養ということでしょうか。
豪華な盛り付けも、芸術的な飾り付けも一切ない。ただ、大皿に山盛りの肉料理、シンプルな野菜の煮込み、どっしりとしたパン。軍人たちの体を作るための、実直な食事。
文官貴族のパーティーなら、一品一品が芸術作品のように盛り付けられる。色彩のバランス、高さの変化、ソースの流れる角度まで計算される。食べるのがもったいないと思えるような、美しい料理。そういうのが好まれる。
私の知っているパーティーとは、かなり違う。まるで、違った世界。
思わず、改善点が頭に浮かんでしまう。
――あの装飾の配置を変えれば、もっと華やかになるのに。壁際に花を飾って、天井から布を垂らせば、雰囲気が柔らかくなる。
――料理の盛り付けを工夫すれば、視覚的にも良くなりそうだけど。ハーブを添えて、ソースを工夫すれば、もっと洗練された印象になる。
――テーブルクロスも、もう少しだけ選んだものを使いたい。
アドバイスしたくなる衝動を、ぐっと堪える。唇を噛んで、その考えを頭の隅に追いやる。求められても居ないのに、アドバイスするなんて余計なお世話よね。
それに、よく考えてみる。冷静に、客観的に。
これは『劣っている』わけじゃない。
軍人貴族としての定番。彼らが長年培ってきた、大事にしている流儀だから。私の価値観で善悪を判断してはいけない。『文官貴族のやり方が正しくて、これは間違っている』そんな決めつけは、傲慢だ。
周りを見回した。
すると、気づいた。
参加者たちは、心から楽しそうだった。
笑い声が絶えない。会話が弾んでいる。肩を叩き合い、大きな声で笑い、親しげに語り合っている。遠慮がない。気取りがない。ただ、素直に感情を表現している。
文官貴族のパーティーでは、なかなか見ない光景。あちらでは、もっと抑制された笑い方をする。上品に、控えめに。大声で笑うなんて、下品だと思われる。でも、ここでは違う。
でも、ここに存在している。当たり前のように。自然に、心地よさそうに。
誰も、会場の装飾が質素だなんて気にしていない。
誰も、料理の盛り付けが簡素だなんて不満に思っていない。
彼らにとって大事なのは、そこじゃないから。華やかさはなくても、温かさがある。派手さはなくても、居心地の良さがある。
ただ、仲間との時間を心から楽しんでいる。戦場を共にした者同士、命を預け合った者同士の、深い信頼に基づいた交流。それが、彼らのパーティー。
今夜開催されるのは、中規模のパーティー。リーベンフェルト家と親しい軍人貴族が主催する、比較的カジュアルな集まりだという。マキシミリアン様から事前に聞いていた情報によれば、代々リーベンフェルト家と親しく、戦場でも何度も共闘してきた名門とのこと。
「緊張しているか?」
マキシミリアン様が、優しい声で尋ねてきた。窓の外を眺めていた彼が、こちらに視線を向けている。その瞳には、心配と気遣いが浮かんでいた。
「はい、少しだけ」
正直に答えると、彼は小さく笑った。いつもの厳しい表情とは違う、柔らかな笑顔。それを見て、私の緊張も少しほぐれる。
「大丈夫。皆、良い人間ばかりだ」
マキシミリアン様は、力強く言った。
「堅苦しい礼儀作法を気にする者もいない。気取った会話を求める者もいない。ただ、誠実であればいい。君のような真摯な人間を、彼らは必ず歓迎してくれるだろう」
気にかけてもらっている。彼なりの励ましの言葉。それが嬉しくて、私は思わず微笑んだ。
「ありがとうございます。そう言っていただけると、少し安心します」
馬車が屋敷の前に到着し、マキシミリアン様が先に降りて、私に手を差し伸べてくれた。その手を取って馬車を降りると、目の前には立派な屋敷が建っていた。
玄関で主催者の挨拶を受け、会場へと案内される。
マキシミリアン様の腕に手を添えながら、大きな扉の前に立つ。執事が恭しく扉を開ける。その向こうから、賑やかな話し声が聞こえてきた。文官貴族のパーティーよりも、ずっと大きな声。遠慮のない笑い声。
扉が開かれた瞬間――
私は、思わず足を止めた。
会場に入った瞬間、目に飛び込んできた光景に少し驚く。いや、驚くというより、戸惑う、と言った方が正しいかもしれない。あまりにも、予想と違ったから。
華やかな装飾は、ほとんどない。
金糸の刺繍をあしらった豪華な壁掛けも、煌びやかなシャンデリアも、色とりどりの花々で飾られた柱も。私が見慣れた、文官貴族のパーティー会場とは全く違った。予想外な光景だったからこそ、驚いてしまった。思わず、目を見開いてしまう。
壁には、シンプルな軍旗が掲げられている。それらが、整然と並んでいる。装飾というより、誇りの証なのかもしれない。
照明も実用的で、過度な装飾はない。明るく均等な光だ。会話がしやすいように、という配慮だろう。影ができにくく、顔がよく見える明るさ。
テーブルクロスも質素で、飾られている花は最小限。白い麻布のシンプルなクロス。その上に、小さな一輪挿しが置かれているだけ。文官貴族のパーティーなら、テーブル中央に大きな花のアレンジメントが飾られるところだけど。
床も、磨き上げられた木の質感がそのまま。絨毯で覆い隠すこともなく、堂々と。歩くと、靴音が心地よく響く。
「どうした?」
マキシミリアン様が、私の様子に気づいて声をかけてきた。少し心配そうな表情。私が、会場の入り口で立ち止まってしまったから。
「あ、いえ……その、少し驚いてしまって」
「ああ」
彼は、会場を見回してから、少し苦笑いを浮かべて言った。
「君が見慣れたものとは違うだろう。だが、この会場の装いは、軍人貴族ならばよくある定番の飾り付けだ。華美を嫌い、実用を重んじる。それが、我々の流儀だから。文官の連中からは、『貧乏臭い』『野蛮だ』『文化がない』と言われたりするがな」
「そんな風に言う人たちが、間違っています。確かに、私が見慣れたものとは違います。でも、だからといってそんな言い方」
酷い言葉だ。それを言われたマキシミリアン様のことを思うと、怒りが湧いてくる。胸の奥が、カッと熱くなる。
「ただ、やっぱり見慣れていないから驚いてしまいました。申し訳ありません。なるほど……軍人貴族のパーティーは、こんな感じなのですね」
私は、改めて会場の様子を細かく見てみた。今度は、驚きではなく、観察として。
装飾は最小限だが、配置は計算されている。動線を邪魔しないように、必要な場所にだけ置かれている。軍旗も、会場の四隅にバランスよく配置されていて、空間を引き締めている。
照明も、会話がしやすいように調整されている。明るすぎず、暗すぎず。顔の表情がよく見える、絶妙な明るさ。これは、意図的な選択だ。おしゃれな雰囲気よりも、実用性を選んでいる。
テーブルの配置も、工夫されている。円卓ではなく、長テーブル。これなら、多くの人が一度に会話できる。文官貴族のパーティーのような小さな円卓をいくつも配置するスタイルとは、明らかに違う。
無駄がない。効率的だと思う。目的が明確だ。華やかさを演出するためのパーティーではない。仲間との交流を深めるためのパーティー。そういう意図が、会場の隅々に感じられる。
そして、長テーブルに並ぶのは、質実剛健な料理。見た目より量。彩りより栄養ということでしょうか。
豪華な盛り付けも、芸術的な飾り付けも一切ない。ただ、大皿に山盛りの肉料理、シンプルな野菜の煮込み、どっしりとしたパン。軍人たちの体を作るための、実直な食事。
文官貴族のパーティーなら、一品一品が芸術作品のように盛り付けられる。色彩のバランス、高さの変化、ソースの流れる角度まで計算される。食べるのがもったいないと思えるような、美しい料理。そういうのが好まれる。
私の知っているパーティーとは、かなり違う。まるで、違った世界。
思わず、改善点が頭に浮かんでしまう。
――あの装飾の配置を変えれば、もっと華やかになるのに。壁際に花を飾って、天井から布を垂らせば、雰囲気が柔らかくなる。
――料理の盛り付けを工夫すれば、視覚的にも良くなりそうだけど。ハーブを添えて、ソースを工夫すれば、もっと洗練された印象になる。
――テーブルクロスも、もう少しだけ選んだものを使いたい。
アドバイスしたくなる衝動を、ぐっと堪える。唇を噛んで、その考えを頭の隅に追いやる。求められても居ないのに、アドバイスするなんて余計なお世話よね。
それに、よく考えてみる。冷静に、客観的に。
これは『劣っている』わけじゃない。
軍人貴族としての定番。彼らが長年培ってきた、大事にしている流儀だから。私の価値観で善悪を判断してはいけない。『文官貴族のやり方が正しくて、これは間違っている』そんな決めつけは、傲慢だ。
周りを見回した。
すると、気づいた。
参加者たちは、心から楽しそうだった。
笑い声が絶えない。会話が弾んでいる。肩を叩き合い、大きな声で笑い、親しげに語り合っている。遠慮がない。気取りがない。ただ、素直に感情を表現している。
文官貴族のパーティーでは、なかなか見ない光景。あちらでは、もっと抑制された笑い方をする。上品に、控えめに。大声で笑うなんて、下品だと思われる。でも、ここでは違う。
でも、ここに存在している。当たり前のように。自然に、心地よさそうに。
誰も、会場の装飾が質素だなんて気にしていない。
誰も、料理の盛り付けが簡素だなんて不満に思っていない。
彼らにとって大事なのは、そこじゃないから。華やかさはなくても、温かさがある。派手さはなくても、居心地の良さがある。
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