奪った後で、後悔するのはあなたです~私から婚約相手を奪って喜ぶ妹は無能だった件について~

キョウキョウ

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第24話 新たな計画の提案

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 昼食を終えて、マキシミリアン様に案内されて彼と一緒に書斎へと向かった。

 これから行うのは、リーベンフェルト家の今後を左右する、重要な話し合い。準備してきた計画を、マキシミリアン様に提案する。彼が認めてくれなければ、この計画は実現しない。

 マキシミリアン様が書斎の扉を開けてくれる。重厚な木製の扉が、静かに開く音。

 部屋に入ると、マキシミリアン様は自分の席に座り、私には向かいの椅子を勧めてくれた。大きな机を挟んで、二人きり。執務室としての緊張感が、空気を引き締めている。

 私は静かに椅子に座ると、姿勢を正した。深く息を吸い込んだ。意を決して、口を開く。

「マキシミリアン様。今回の話し合いは婚約者としてではなく、リーベンフェルト家のパーティー開催の実務を預かる者として、お話をさせていただきたいのです」

 その言葉に、マキシミリアン様の眉がわずかに上がった。驚いた様子。すぐに表情を引き締めて、真剣な目で私を見つめた。その深い青灰色の瞳には、戸惑いはもうない。ただ、真摯に向き合おうとする決意だけが宿っていた。

「わかった。では俺も、当主として聞こう」

 彼は背筋を伸ばして、姿勢を正した。完全に執務モードに切り替わる。私と向き合う覚悟を示してくれている。その誠実な態度に、私も改めて背筋が伸びる。

 これから行うのは、真剣な話し合い。

 私は、用意していた資料を机の上に広げ始めた。

 ノート、図表、装飾のスケッチ、会場の配置図、予算案。今朝から書斎に籠もって、まとめたもの。一つ一つを確認しやすいように並べていく。

 マキシミリアン様は、その資料の量を見て、少し驚いた様子だった。目を見開いて、机の上に広がる書類を見渡している。

「これは……」
「昨夜のパーティーで学んだことを、具体的な形にまとめました。まだ計画の骨子を準備しているだけですが」
「こんなに多いのか」

 マキシミリアン様は、感嘆したような声を出した。

「今朝、書斎に籠もっていたのは、これを書いていたのかい?」
「はい。考えれば考えるほど、アイデアが溢れてきて……気づいたら、これだけの量になっていました」
「なるほど」

 正直に答えると、マキシミリアン様は小さく笑った。柔らかな笑み。

 私は、一番上にあるノートを開いた。そこには、計画の基本コンセプトが書かれている。リーベンフェルト家のために、何度も書き直した文章。

「リーベンフェルト家が主催するパーティーの基本方針です。まず、お読みいただけますか」
「わかった。読ませてもらおう」

 マキシミリアン様は、ノートを手に取った。真剣な表情で、丁寧に読み込んでくれる。一行一行、じっくりと目を通している様子。その横顔を見つめながら、私は静かに待った。

「……なるほど」

 マキシミリアン様は、ノートを机に置いた。そして、私の目を真っ直ぐに見つめた。

「軍人貴族の価値観を土台に、文官貴族が評価する要素をさりげなく加える、か」
「はい」

 私は頷いた。

「今までのものを変える必要はないと判断しました。リーベンフェルト家が受け継いできた、軍人貴族としての誇りや文化は、そのまま大切にします。ただ、見せ方を工夫するのです」

 そう言いながら、私は装飾のスケッチを取り出して説明をした。全く新しいものに変えるのではなく、さりげなく変える。軍人貴族、文官貴族の要素を両方兼ね備えたイメージの考案を伝える。

 マキシミリアン様は、黙って私の話に耳を傾けながら、資料を見ている。

 説明を終えると、しばらく沈黙が続いた。その静けさが、とても長く感じられた。不安が、胸の中で少しずつ膨らんでいく。もしかして、私の計画は的外れなのだろうか。軍人貴族の文化を理解していないと、思われてしまったのだろうか。

 やがて、マキシミリアン様が口を開いた。

「セラフィナ」

 その声は、低く、真剣だった。

「実は、過去に何度か俺たちも、文官貴族のやり方を真似ようとしたことがある」
「そうだったのですか」

 やっぱり、過去にチャレンジしたことがあったのね。そして、その時の結果も――おそらく、芳しくなかったのだろう。

「ああ」

 マキシミリアン様は、少し苦い表情を浮かべた。過去の失敗を思い出すような、遠い目。その表情に、当時の苦労が滲んでいた。

「社交界での評価を上げようと、華美な装飾を取り入れてみたり、洗練された料理を用意してみたり。文官貴族が好むという音楽家を呼んだこともある。色々と、試してみた。だが、全て失敗だった」

 その言葉の重さが、胸に響く。きっと、たくさんの努力をして、たくさんの準備をして、それでも報われなかった。そんな経験を、何度か繰り返してきたのだろう。

「無理に華美にしても、居心地が悪くなるだけだった。軍人たちは、そういう雰囲気に慣れていない。かえって緊張してしまって、楽しめなかった。部下たちからも、『前の方が良かった』という声が上がった」

 マキシミリアン様は、少し自嘲的な笑みを浮かべた。そして、私の目を真っ直ぐに見つめた。

「君の提案する計画というのは、変えないようにするということか? それで、今の状況が変わると思うのか?」

 その問いかけには、疑念ではなく――真剣に理解しようとする姿勢があった。過去の失敗を踏まえて、慎重に判断しようとしている。失敗は繰り返したくない。そういう思いが、言葉の端々に感じられた。

 私は、深く頷いた。

「はい。改めて説明しますが、私の計画の基本方針は、『土台はそのまま』です。軍人貴族の文化、リーベンフェルト家の価値観、それらを否定するつもりは、まったくありません。代々受け継いできた誇り。仲間を大切にする心。実質を重んじる姿勢。それらは、絶対に変えてはいけない」

 真剣な表情で頷きながら聞いてくれる。私の言葉を、一つも聞き逃すまいとするように。

「過去の失敗は、おそらく『土台から変えようとした』からだと思います。軍人貴族の文化を捨てて、文官貴族の文化を取り入れようとした。でも、それでは上手くいきません。なぜなら、リーベンフェルト家や他の皆様が軍人貴族だからです。無理に別のものになろうとしても、違和感しか生まれない」

 私は、計画のための資料を再び手に取った。

「私の計画は違います。土台は変えない。軍人貴族としての本質は、そのまま大切にする。ただ、見せ方を工夫するのです」

 そう言って、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

「マキシミリアン様。リーベンフェルト家の文化は、本当に素晴らしいものです。誇り高く、誠実で、温かい。それを否定する必要など、どこにもありません。ただ、その素晴らしさを、もっと多くの人に知ってもらいたい。そのために、適切な工夫をする。それが、私の提案です」
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