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第26話 語らなかった部分 ※ユーグ視点
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それから俺は、家を出た。偽装死で別の人生を歩むために用意しておいた商会は、無駄にはならなかった。商売して金を稼ぎながら、色々な場所を旅して回った。
俺がやりたかったことは、これだな。その実感があった。自由に生きることこそ、我が人生!
そんな気持ちで旅をしていた頃、とある情報が入って来た。メディチ公爵家の長男が、元婚約相手を探し回っているらしい。俺がパーティーで見た、あの2人だな。
バロウクリフ侯爵家に、この情報を伝えるべきか。けれど、情報の正確性が低い。バロウクリフ侯爵家との関係も薄いし、ルニュルス家から出て平民になった俺が伝えるのも、少し問題があるような気がする。
その情報を伝えたことで余計な混乱を招いたら、各方面に迷惑がかかる。
だが、この情報を無視するのも、後悔するような気がした。無視はできない。そう考えた俺は、自分が動ける範囲で行動することにした。
とりあえず、商売のついでに様子を見に行ってみよう。そんな感じで、軽く考えてバロウクリフ領へ行くことにした。
彼女が経営しているカフェは、繁盛している様子だった。メディチ公爵家の長男が探していることを本人に伝えるかどうか。これもどうするべきか悩んだけど、黙っておくことに。不安にさせたり、無用な気苦労をかけることになるかもしれないから。
陰ながら彼女を守る。その間に、情報を確かめつつ、対処方法を考える。今の俺の自由な生活を手に入れるキッカケを与えてくれた彼女に、せめてもの恩返しを。そういう気持ちで、しばらくバロウクリフ領に滞在することを決めた。
最初、カフェの店長になった彼女と接触する気はなかった。陰ながら守る。何事もなければ、それでいいと思っていた。それだけのつもりだった。
だが、彼女のお店が気になった。お店で出されるコーヒーを飲んでみたい。かなり美味しいという噂だったから。飲んでみたい。もう、我慢できない。
「……」
普通の平民の格好に変装して、お店に入ってみた。お店に入った瞬間に、俺の顔を見て驚いた表情をする店長。すぐに営業スマイルを浮かべる。一瞬の変化だった。何かを隠すように、普通の対応に戻った。
これは、バレてしまったか。
うわ、やってしまった。隠れながら守るつもりだった対象に、余計な警戒心も抱かせてしまったかも。俺が不安にさせてしまったかも。
「ご注文は?」
「えーっと、じゃあ」
俺も後悔と申し訳ないという感情を隠しながら、普通の顔をしてコーヒーを頼んだ。
「ご注文はコーヒーですね。それでは、しばらくお待ちください」
そう言って彼女は、注文したコーヒーを淹れてくれた。慣れた手つきで、良い香りを放つコーヒーカップを持ってきてくれる。期待が高まる。
「お待たせしました。ご注文のコーヒーです」
「ありがとう。とても美味しそうだ」
「ごゆっくり、お過ごしください」
礼を言いつつ、一口飲んだ。そして思わず、顔が緩んでしまう。本当に美味しかった。こんなに美味しいコーヒーは初めて飲む。俺の好みにドンピシャだ。
いかん。これ以上ここにいたら、ボロを出してしまう。さっさと退散しよう。
残念だけど、もう来れないかな。下手に接近して、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。
「コーヒー、とても美味かったよ。それじゃあ」
会計をして、お店から出る直前。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
元気の良い声が聞こえてきた。俺はそれに笑顔で答えてから、店を後にする。
ああいう風に言われちゃったら、また来るしかないじゃないか。いやでも、あれは社交辞令のようなもの。全員に言っている。本気じゃない。でも……。
しばらく悩んだ俺は、再びカフェを訪れることにした。どうしても、彼女の淹れてくれたコーヒーが飲みたい。
結局、俺はそのカフェの常連になるのだった。
俺がやりたかったことは、これだな。その実感があった。自由に生きることこそ、我が人生!
そんな気持ちで旅をしていた頃、とある情報が入って来た。メディチ公爵家の長男が、元婚約相手を探し回っているらしい。俺がパーティーで見た、あの2人だな。
バロウクリフ侯爵家に、この情報を伝えるべきか。けれど、情報の正確性が低い。バロウクリフ侯爵家との関係も薄いし、ルニュルス家から出て平民になった俺が伝えるのも、少し問題があるような気がする。
その情報を伝えたことで余計な混乱を招いたら、各方面に迷惑がかかる。
だが、この情報を無視するのも、後悔するような気がした。無視はできない。そう考えた俺は、自分が動ける範囲で行動することにした。
とりあえず、商売のついでに様子を見に行ってみよう。そんな感じで、軽く考えてバロウクリフ領へ行くことにした。
彼女が経営しているカフェは、繁盛している様子だった。メディチ公爵家の長男が探していることを本人に伝えるかどうか。これもどうするべきか悩んだけど、黙っておくことに。不安にさせたり、無用な気苦労をかけることになるかもしれないから。
陰ながら彼女を守る。その間に、情報を確かめつつ、対処方法を考える。今の俺の自由な生活を手に入れるキッカケを与えてくれた彼女に、せめてもの恩返しを。そういう気持ちで、しばらくバロウクリフ領に滞在することを決めた。
最初、カフェの店長になった彼女と接触する気はなかった。陰ながら守る。何事もなければ、それでいいと思っていた。それだけのつもりだった。
だが、彼女のお店が気になった。お店で出されるコーヒーを飲んでみたい。かなり美味しいという噂だったから。飲んでみたい。もう、我慢できない。
「……」
普通の平民の格好に変装して、お店に入ってみた。お店に入った瞬間に、俺の顔を見て驚いた表情をする店長。すぐに営業スマイルを浮かべる。一瞬の変化だった。何かを隠すように、普通の対応に戻った。
これは、バレてしまったか。
うわ、やってしまった。隠れながら守るつもりだった対象に、余計な警戒心も抱かせてしまったかも。俺が不安にさせてしまったかも。
「ご注文は?」
「えーっと、じゃあ」
俺も後悔と申し訳ないという感情を隠しながら、普通の顔をしてコーヒーを頼んだ。
「ご注文はコーヒーですね。それでは、しばらくお待ちください」
そう言って彼女は、注文したコーヒーを淹れてくれた。慣れた手つきで、良い香りを放つコーヒーカップを持ってきてくれる。期待が高まる。
「お待たせしました。ご注文のコーヒーです」
「ありがとう。とても美味しそうだ」
「ごゆっくり、お過ごしください」
礼を言いつつ、一口飲んだ。そして思わず、顔が緩んでしまう。本当に美味しかった。こんなに美味しいコーヒーは初めて飲む。俺の好みにドンピシャだ。
いかん。これ以上ここにいたら、ボロを出してしまう。さっさと退散しよう。
残念だけど、もう来れないかな。下手に接近して、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。
「コーヒー、とても美味かったよ。それじゃあ」
会計をして、お店から出る直前。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
元気の良い声が聞こえてきた。俺はそれに笑顔で答えてから、店を後にする。
ああいう風に言われちゃったら、また来るしかないじゃないか。いやでも、あれは社交辞令のようなもの。全員に言っている。本気じゃない。でも……。
しばらく悩んだ俺は、再びカフェを訪れることにした。どうしても、彼女の淹れてくれたコーヒーが飲みたい。
結局、俺はそのカフェの常連になるのだった。
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