婚約者を妹に取られましたが、社交パーティーの評価で見返してやるつもりです

第10話 成長の機会

　ハーウッド家が主催したパーティーは、予想以上の好評を博していた。

　広大なホールでは、軍服の金色の飾りボタンとレディたちのドレスの宝石が光り輝いていた。参加者たちは華やかな装飾と、シェフが腕によりをかけた美味しい料理に、弦楽四重奏による心地よい音楽に満足して、笑顔で会話を楽しんでいる。特に、テラスから見える庭園のライトアップは、多くの賞賛の声を集めていた。

　しかし、そのパーティーの準備を指揮したヴィクトリアの表情は暗く、何かに心を悩ませているようだった。彼女は、薔薇園に近いテラスの人目につきにくい片隅で、物思いにふけっていた。

　エドワードが近づいてくると、彼女は小さな声で呟いた。その声には、普段の自信に満ちた響きが感じられない。

「今回の準備では、ミスが多かったんです。もう少し軍人の方々の好みを考慮すべきでした。装飾も派手すぎて、軍事貴族の好む質実剛健な雰囲気と少しずれていたかと思います。知識不足でした。慢心していましたね。反省点がいっぱいあります」

　ヴィクトリアは自分の至らなさを悔やみ、反省の言葉を口にする。彼女の瞳には、完璧を目指す者特有の厳しさが宿っていた。

　エドワードはその言葉に驚きを隠せなかった。月明かりに照らされた彼の表情には、心からの感激の色が浮かんでいる。

「何を言っているんだ。今回のパーティーは大成功だったじゃないか。見てごらん、誰もが笑顔じゃないか。これまでハーウッド家が何度か主催してきたパーティーで、あんなに満足してもらえたのは初めてだ。君の貢献は本当に大きい。凄いよ。特に、クラシック音楽の選曲は素晴らしかった。あれは、我々のような軍人好みだよ」

　エドワードは心から感謝の言葉を述べ、ヴィクトリアを褒め称える。彼の言葉には、一片の偽りもない誠実さがあった。

　その言葉に、ヴィクトリアも少しだけ笑顔を見せた。月明かりに照らされた彼女の横顔は、一瞬だけ安堵の表情を浮かべる。しかし、すぐに真剣な表情に戻る。完璧主義な性格は、そう簡単には満足を許さないようだ。

「でも、次はミスを少なくするように頑張ります。今回の経験を無駄にはしたくありません」

　ヴィクトリアは、今回のパーティーで重要な気づきを得ていた。それは、社交界における新しい潮流への対応だった。

「軍事貴族の方々は、これまで付き合ってきた貴族たちと少しだけ趣味趣向が異なるんです。例えば、ワインの好みや音楽の嗜好、会話のテーマまで。その辺りを念頭に置いて、ちゃんと計画を立てないといけませんね。この段階で知れたのは大きい。今後修正できますし、新しい発見もあってとても嬉しいです」

　ヴィクトリアは、次のパーティーに向けて早くもアイデアを練り始める。その瞳には、新しい挑戦への期待が輝いていた。

「まずは、軍事貴族の奥様や令嬢と知り合う。そこから情報収集と、計画の見直しをしていきます。特に、若い将校の方々が好む話題についても、しっかりと研究が必要ね」

　テラスの手すりに寄りかかりながら、彼女は次の展開を具体的に思い描いていく。

　向上心に燃えるヴィクトリアを見て、エドワードは改めて彼女に協力を仰いだ判断が間違いではなかったと確信していた。彼女の真摯な姿勢と細やかな気配りは、まさに社交界に必要な資質なのだろうと感じていた。

　エドワードは、彼女がやりたいようにできるよう支援しようと決意した。気兼ねなく段取りできるよう環境を整え、何か問題が起きれば、彼女が気に病まないよう自分が責任を取る。それが自分の役目だと、改めて認識した。