どうなるのか見てみたかった~婚約破棄された令嬢は、その後の王国がどうなるのか見守ってみることにした~

キョウキョウ

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第17話 暴かれた裏切り※ザイン王視点

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「何をしている!」

 俺の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。アマリリスと一緒にいた若い男は、まるで雷に打たれたかのように体を強張らせた。

 アマリリスは男の腕から素早く身を離し、優雅さを装いながら立ち上がった。普段は完璧に整えられた髪も少し乱れていた。それでも彼女は取り繕おうとする。

「まあ、陛下。こんな朝早くからいらっしゃるなんて」

 その言葉には何の反省もない。むしろ不快感さえ含まれている。怒りが込み上げてきた。胸の奥が熱く燃え上がるような感覚だ。

「質問に答えろ。お前たちは何をしていた?」
「ちょっとお話していただけよ。別に何もしていないわ」

 アマリリスは、髪を整えながら言った。まるで何事もなかったかのように平然と。なぜお前は、そんな態度でいられるというのか。

「そんなことより、急に部屋に入ってこないで頂戴。女の部屋なのよ?」

 その言葉が引き金となった。俺の中で何かが切れた。王である俺より、お前なんかが優先されるとでも言うのか?

「ここは王が住む宮殿だ。王である俺が、どこに出入りしようとも自由だ。お前は、王妃だから住ませているだけ。それなのに、急に部屋に入ってくるなと俺に言うのか!?」

 怒りで全身が震え始めた。アマリリスを睨みつける。強く強く。彼女の紫色の瞳を見つめ、その中に反省の色が浮かぶのを見たいと思った。けれど、そこにあったのは憤りと軽蔑だけだった。なんで、そんな目で俺を見てくるんだ。意味がわからない。

 もう一人の男は、床に視線を落として膝をつく。彼の姿勢は臣下のそれだったが、額には汗が浮かび、明らかに動揺していた。

「陛下、誤解です。私どもは単に王国の未来について話し合っていただけで――」
「お前には何も聞いていないっ! 黙ってろ」

 俺は男に向かって怒鳴りつけた。彼は震え上がり、さらに深く頭を下げた。だが、アマリリスは違った。彼女は不満そうな表情で唇を尖らせ、腕を組んだ。その姿勢は挑発的ですらあった。

「ただのお飾りの王なのに、そんなに偉そうにして」

 その言葉は、まるで冷たい剣のように俺の胸を貫いた。お飾りの王? 俺が?

「なんだと……?」
「聞こえなかった?」

 アマリリスは、一歩前に出てきた。堂々とした態度。どうして、そんな表情なのか理解できない。彼女の姿勢には恐れの色が全くない。

 間違っているのは、お前の方なのに。どうして反省しない。

「貴方は、ただのお飾りよ。貴族たちが操る人形でしかない。理解していない書類にサインしかできない道化師よ」
「な、何?」

 怒りのあまり言葉が詰まった。宮殿の一室で、王に向かってこのような侮辱の言葉を吐くとは。これは明らかな大逆罪だ。

「こっちだって大変なのよ。貴方が適当にやって、問題ある案件もちゃんと確認せずに通してしまうから、後から修正が必要になる。そういうの、貴方は全然理解していないじゃない」

 アマリリスの声は次第に高くなっていき、部屋中に響き渡った。

「はぁ?」

 彼女の言っていることは意味不明だった。俺は、ちゃんとやっているというのに。毎日、貴族たちから提出される書類に目を通して、王国の繁栄のために判断を下している。そんなこと言われる筋合いはない。

「頑張ってサポートしている私の存在が居なくなったら、貴方は王としての価値を大きく落とすでしょう。祭り上げてる貴族の連中に利用されるだけされて、価値がなくなれば捨てられるのよ」

 そんなことを言ってきたが、そんなわけない。俺は王だ。生まれながらの王族の血を引く正統な王なのだ。貴族の上に立ち俺を捨てるなんてこと、ありえない。

「それは、お前の妄想だ! 俺は、ちゃんと王としてやっている。毎日、膨大な書類に目を通し、王国のために決断を下している!」
「やっぱり、何もわかってない」

 アマリリスは嘲るように笑った。彼女の笑みには冷酷さが宿っていた。その笑顔が、かつて俺を魅了した笑顔と同じ顔だとは思えなかった。

「王国が今、どんな状況か理解していない。貴方が読みもせずにサインしている書類の中身、貴族たちの私腹を肥やすための特権ばかり。彼らのポケットに入るだけ」
「嘘だ!」

 そんなはずはない。彼らは俺に忠誠を誓い、助けてきてくれた。俺を王にしてくれたのだ。

「そんな奴らを暴走しすぎないようにコントロールして貴方を助けてきたんだから、私だってちょっとぐらい良い思いさせてほしいわ。他の男との関係ぐらい、目をつぶってくれてもいいじゃない」

 もう聞くに堪えない。この女は、完全に狂っている。王位についた俺を見下して、嘲笑っている。そして自分の不貞を正当化しようとしている。何を話しても理解できない。

「お前は、王妃としてふさわしくない。王に対する裏切り者だ」
「裏切り者? 笑わせないで。貴方こそ、王になる資格のない人間よ。貴方はその報いを受けることになるわ」

 俺の怒りがさらに燃え上がった。今にも彼女に掴みかかりそうになるのを、必死で抑えた。

「お前こそ、俺への『真実の愛』を誓ったはずだろう! フローレンスとの婚約を破棄した時、俺はお前に『真実の愛』を捧げると宣言したんだ!」

 その時の記憶が鮮明に蘇る。季節の祝宴で賑わう会場での出来事だった。フローレンスの前で、俺はアマリリスこそが自分の真実の愛だと宣言した。その場にいた全員が聞いていた。

 彼女の喜ぶ顔、俺に寄り添う温かさ、その全てが嘘だったというのか?

「そして、お前はそれを受け入れた。なのに、こんな裏切りを……」

 言葉を詰まらせる。本当は愛されていなかったという事実が、裏切られた気持ちで深く胸を刺した

 アマリリスは、すぐ反論してきた。彼女の双眸には怒りの炎が宿っていた。

「私だって、本気で愛していたわ。初めは本当に。だけど、貴方のダラシない姿を見せられたら、幻滅するのが当然でしょう? 誰だってそうよ」

 彼女は一歩前に踏み出し、声を張り上げた。

「あの時は心から貴方を愛していたわ。誰よりも素敵な王子様だと思った。なのに、毎日遅くまで寝て、勉強そっちのけで宴会に明け暮れる日々。それに今だって、大事な国の問題を理解しようともせず、ただ署名するだけ。そんな人を愛し続けるなんて無理よ」
「黙れ!」
「本気で愛しているというのなら、愛し続ける努力をしないと。私は努力したわよ。自分の魅力を磨き続けた。貴族たちとの交渉や宮廷での立ち振る舞い、王妃になるために学んできた。それなのに、どうして私を責めるの? 意味がわからない」

 やはり、何を話しても理解できない。この女は、もう駄目。一緒に居た男と共に、処分しなければならない。

 俺は廊下に向かって叫んだ。

「おい、誰か来てくれ!」

 さっき立っていた近衛兵を呼ぶと、二人の兵士が甲冑の音を立てながら慌てて入ってきた。彼らの目には困惑の色が浮かんでいた。宮殿中に響き渡った怒声を聞いていたに違いない。

「この二人を捕まえろ! 牢屋に入れておけ! 王への侮辱と謀反の容疑だ!」

 近衛兵たちは互いに顔を見合わせた。王妃となるはずの女性を捕らえるなんて前代未聞のことだろう。だが、命令拒否は許さない。

「今すぐにだ!」

 俺は再び叫んだ。ようやく近衛兵たちは動き出し、アマリリスと一緒にいた男に近づいた。男の方は抵抗する様子もなく、ただ頭を垂れていたが、アマリリスは違った。

「私にこんな事をして、後悔するわよ!」

 アマリリスは兵士の腕を振り払いながら叫んだ。その姿は、高貴な淑女のものではない。

「黙れ! さっさと連れて行け」

 近衛兵たちはアマリリスと男を取り囲み、部屋から連れ出した。廊下には既に何人もの侍女や使用人たちが集まり、驚愕の表情で見守っていた。

 部屋に一人残された俺は、怒りで体を震わせながら窓辺に立った。

 あのような女を王妃として選んだのは間違いだった。朝っぱらからこんなことになるなんて、本当に最悪な一日の始まりだった。
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