奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ

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第3話

 数日後。お父様に指示されて、私はフィヨン家に来ていた。

 フィヨン家の執事に案内されて、応接室に通される。そこには、バティステト様が待っていた。

 私よりも10歳ぐらいは年上。腰まで伸びる、少し薄汚れたような見た目の金髪。軍人だというバティステト様は、目付きが鋭くて凛々しい顔をしていた。

 一見すると、かなり怖いそうな顔をしている。冷たい雰囲気。

 お父様から少しだけ、バティステト様の人となりを聞いていた。なので、心構えが出来ていた私は、バティステト様の顔を見ても怖いとは思わなかった。

 前もって心構えをしていなかったら、違う印象を抱いていたかもしれない。そんな男性。

「よく来てくれた。どうぞ、座ってくれ」
「はい」
「……」
「……」

 向かい合って、ソファーに座る。間近でじっくり見ても、やっぱり美しい顔をしていた。そんなバティステト様と見つめ合い、しばらく無言の時間が続いた。見ていて飽きない。でも、ちょっと緊張もする。

 恐る恐る、私は口を開いた。

「あの、それで。今日は、何の話を?」
「……あぁ、すまない。女性と話すのに慣れていないもので。不快に思われたなら、申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。不快だとは思わなかったです」
「そうか、ありがとう。安心した」
「……」
「……」

 ホッとしたような顔をするバティステト様。かなり、気を使ってくれているようだ。その心遣いに、私は嬉しくなった。

 そして、女性に慣れていないというのは本当なのだろう。会話が途切れたりして、ちょっと居心地が悪い。まぁでも、苦手だと聞いて心配は無くなった。徐々に慣れていこう。

「えっと、それで。君と話したいことが2つある」
「伺います」
「一つは、婚約破棄されたという噂を聞いたが本当かな?」
「えぇ。本当ですよ」
「なるほど」

 まだ正式に告知はされていないけれども、貴族社会では噂になっている。だから、バティステト様も知っていたのだろう。隠す必要もない話なので、正直に答える。

 彼が知っていたことに驚いていた。普段、パーティーにあまり参加しないから貴族社会の噂には疎いと思っていたのだけれど。そんなバティステト様でも知っている、というぐらい噂は広まっているということなのかな。

 近いうちに婚約破棄を正式に公表するパーティーを主催すると、妹のドゥニーズが言っていた。その前に、貴族全員が知っているような状況になるかもしれないな。

「君のような優秀な女性を、なぜ?」

 バティステト様は、とても真剣な表情で聞いてきた。私が婚約を破棄されたことを本気で疑問に思ってくれているようだった。

 私のことを優秀な女性だと言ってくれて、ちゃんと評価してくれているらしい。

 だから私は、婚約を破棄された経緯についてを彼に話した。婚約者が愚鈍で、妹にハメられたことについて包み隠さず、全てを正直に。

「なるほどな。君は優秀だというのに、君の妹は酷いようだ。……それに、ちゃんと話を整理せずに婚約破棄を突きつけたアルフレッド様も話を聞いた限りでは、かなり酷い」
「ありがとうございます」
「いや、私の意見を述べたまでのことだ」

 嘘偽りなく本心で言っていることが分かったので、私は嬉しかった。嬉しさで顔が赤くなりそうなのを抑えるために、私は動じていない風を装いながら話題を変える。

「それで、もう一つ聞きたいこととは何でしょうか?」

 そう尋ねると、バティステト様は真っ直ぐに私の視線に合わせて言った。彼の深く透き通るような美しい目に、私は見惚れる。なんて綺麗な瞳だろうか。

 そんなことを考えていた私の耳に、彼の言葉が届いた。

「もし、新しい婚約相手を探しているのなら、私と婚約してくれないか?」

 私の目を真っ直ぐ見つめて、彼は言った。バティステト様からプロポーズされた。抑えようとしていた頬が、カーッと熱くなるのを感じた。先程とは違う、別の種類の嬉しさによって。
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