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12.会談中に
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私とトルステン王子は、会議室で国王と会談していた。婚約の件について報告するために。大臣や貴族も何名か同席している。
「トルステンとエリザベートの婚約を認めよう」
「ありがとうございます」
婚約に関する手続きは既に完了していた。王が書類にサインした後に宣言されて、私たちの婚約が正式に認められる。
感謝の言葉を口にしながら、サインされた書類を丁寧に受け取るトルステン王子。
「しかし、エリザベートにはランベルトを支えてほしかった。残念だ」
国王が、私の顔を見つめながら言う。国王はまだ、ランベルト王子のことを信じているのだろう。彼の酷い実態は知らないようだ。
「申し訳ありません。私では、ランベルト様のお役に立てないようです」
客観的に見て、謝る必要はないと分かっている。だが、この場を丸く収めるために形だけ謝っておく。ランベルト王子を批判して、王の不興を買いたくないから。
ランベルト王子の周りには何故か、彼を評価する人が多かった。だが、彼の実態はいずれ明らかになると思う。それも、近いうちに。
「……!」
「…ッ! ……ァ……ッ!」
そろそろ解散という頃に、会議室の外が騒がしくなった。男性の怒鳴っている声が扉の向こうから聞こえてくる。会談に参加していた皆の視線が、扉に向いた。
私も同じように、声が聞こえてくる方へ顔を向ける。声が、どんどん大きくなる。かなり揉めているようだが、大丈夫なのか。
「お待ち下さいッ! ただいま国王が、重要な会談中ですッ!」
「うるさい、邪魔だ! どけッ!」
扉越しに、彼らの会話がハッキリと聞こえてきた。そして、聞き覚えのある声だ。声の主が誰なのか、分かってしまった。また面倒ごとなのかとウンザリする。
「おい! 居るのは分かっているんだぞ、トルステン! エリザベート!!」
バンッと、大きな音を鳴らして扉が開いた。乱入してきたのは、ランベルト王子。会議室に入ってきた彼はまず、トルステン王子を瞬時に見つける。それから、キッと睨みつけた。
次にランベルト王子は、私の顔を睨みつけてくる。婚約破棄を言い渡されて手続きした以来の、久し振りの再会だった。出来ることなら、もう二度と会いたくはないと思ったが、それは無理だろうな。
しかし、彼はなぜ怒っているのか。それが分からない。
ランベルト王子は怒り狂いながら、トルステン王子を指差して言った。
「なにを勝手に、エリザベートと婚約しているんだトルステン!!」
「は?」
いきなり責められたトルステン王子は、唖然とした表情をしていた。私も、会談の最中に乱入してきたランベルト王子が何を言っているのか、全く理解できなかった。
「トルステンとエリザベートの婚約を認めよう」
「ありがとうございます」
婚約に関する手続きは既に完了していた。王が書類にサインした後に宣言されて、私たちの婚約が正式に認められる。
感謝の言葉を口にしながら、サインされた書類を丁寧に受け取るトルステン王子。
「しかし、エリザベートにはランベルトを支えてほしかった。残念だ」
国王が、私の顔を見つめながら言う。国王はまだ、ランベルト王子のことを信じているのだろう。彼の酷い実態は知らないようだ。
「申し訳ありません。私では、ランベルト様のお役に立てないようです」
客観的に見て、謝る必要はないと分かっている。だが、この場を丸く収めるために形だけ謝っておく。ランベルト王子を批判して、王の不興を買いたくないから。
ランベルト王子の周りには何故か、彼を評価する人が多かった。だが、彼の実態はいずれ明らかになると思う。それも、近いうちに。
「……!」
「…ッ! ……ァ……ッ!」
そろそろ解散という頃に、会議室の外が騒がしくなった。男性の怒鳴っている声が扉の向こうから聞こえてくる。会談に参加していた皆の視線が、扉に向いた。
私も同じように、声が聞こえてくる方へ顔を向ける。声が、どんどん大きくなる。かなり揉めているようだが、大丈夫なのか。
「お待ち下さいッ! ただいま国王が、重要な会談中ですッ!」
「うるさい、邪魔だ! どけッ!」
扉越しに、彼らの会話がハッキリと聞こえてきた。そして、聞き覚えのある声だ。声の主が誰なのか、分かってしまった。また面倒ごとなのかとウンザリする。
「おい! 居るのは分かっているんだぞ、トルステン! エリザベート!!」
バンッと、大きな音を鳴らして扉が開いた。乱入してきたのは、ランベルト王子。会議室に入ってきた彼はまず、トルステン王子を瞬時に見つける。それから、キッと睨みつけた。
次にランベルト王子は、私の顔を睨みつけてくる。婚約破棄を言い渡されて手続きした以来の、久し振りの再会だった。出来ることなら、もう二度と会いたくはないと思ったが、それは無理だろうな。
しかし、彼はなぜ怒っているのか。それが分からない。
ランベルト王子は怒り狂いながら、トルステン王子を指差して言った。
「なにを勝手に、エリザベートと婚約しているんだトルステン!!」
「は?」
いきなり責められたトルステン王子は、唖然とした表情をしていた。私も、会談の最中に乱入してきたランベルト王子が何を言っているのか、全く理解できなかった。
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