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第四章
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しおりを挟むあれから約一週間が経った。天使おじさんに会った日の夜は、施設に戻ると、また呆れ顔でため息をつかれながら門を開けてもらったが、あの日以来、私は毎日門限通り帰っている。
今までは、よほど遅くに帰っていたのだろう。門限までに帰ると、非常に驚かれた。
どうせその日だけの気まぐれで、明日からは夜通し遊ぶのだろうと噂されたり、兄弟たちに煽られることもあった。
だが、何を言われても私は門限までに帰り続けた。それは、門限の本当の意味を知れたからだと思う。
突然態度が急変した私に対し、よそよそしい雰囲気を出す職員や、わざと突っかかってくる弟たちも大勢いたが、私は冷静に言葉で伝えるよう心がけた。
「門限は守らなければならないルールじゃなくて、私を守ってくれるためのものってわかったから」
「帰ってきてほしくないのはわかってるし、家族と思われてないのも知ってるけど、そんな風に言われると傷つく」
「今の私の家はここしかないから」
毎日嫌われ役として生きているが、こうして自分の気持ちをそのまま言葉にしていると、弟たちは少しずつ私の反応を楽しむことが減ってきている気がした。
学校へ行けば相変わらず透明人間で、勉強面は追いつけない部分も多いが、怠ることはなくなった。それなりに毎日真面目な態度で授業を受け、補習も受けている。
アルバイトは生前と変わらないところに勤務していると、スマホの履歴とカレンダーに残されていたため、施設に毎日の勤務時間と帰宅時間を予め報告した上で、シフト通り働いた。
そして夜は一人、ぼうっと天井を眺めて考える。
生きるか死ぬか。
単純に言えば、その選択だった。一度死んだ身なのに、今こうして生きていることは特別で、有難いことなのだろう。
母一人を選ぶために、全てを捨てるのは怖い。だが、そんなことを考えているこの場所は、多少慣れてきていたとしても未だに違和感が残る場所で、帰る度に母と暮らしたあの家を思い出してしまうのだ。
そして綺麗に洗ったタイムカプセルをもう一度開けて、手紙を読み返す。会いたくてたまらなくなり、苦しくなる。
そんな時に限って、麻仲や高羅から連絡が入る。まるで偏りが生まれないよう、大切なものたちが天秤にかけられているようだった。
どれほど真剣に考えても選べない。悩み苦しむ日々が続き、この世界に来て七回目の朝日が昇る。
今日は高羅と約束をしていた、部活が休みの日だ。
その日一日、朝からずっと、やり直しについてぐるぐると考える。その場の雰囲気に任せようと思いつつも、もし話すとなれば、何をどう話せというのか、まだ決めかねていた。
授業など耳に入らず、重苦しい気持ちを抱えながらも、時間は刻一刻と過ぎ去り、終礼を終えて教室を出た。いつもなら嬉々として約束している校門前で待っているため、今日はきっと明らかに表情が違うことを高羅なら見抜くだろう。
「春田さん、お待たせ。……大丈夫? 体調悪い?」
ほらね、と思い嬉しくなるものの、無性に切なくなった。付き合った理由もはっきりしないような相手の顔色の変化に、どうして彼は気づくことができるのだろう。
「体調は大丈夫。でもちょっと色々あって……」
そう言って私は口角を上げた。無理やり笑った顔は、高羅の目にはどう映るのだろうか。
「話があるって言ってたよね。どこか別の場所に行く?」
「うん。落ち着いた場所だと嬉しいかも」
そうして私たちは学校を出た。同じく帰宅部の子たちや、部活が休みの人たちがわらわらと駅やバス停に向かって歩いている。
すれ違いざまにくる、刺さるような視線にはもう慣れた。
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