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若手実力者ミハエルとヒュカ
しおりを挟む世界の脅威になっている黒龍は、洞窟の先にある『楽園』と呼ばれる地で身を潜めている。鱗からは病原菌となる粒子が出てきて、口からはあらゆる物質を燃やす黒い炎を出す。
楽園で身を潜めている理由は、そこから湧き出る大地の魔力を吸収するためであり、その魔力を集まったら最後、世界は炎の海になり果ててしまう。
各国の共同政策として作られた冒険者ギルド。その中でも実力トップと呼ばれる者には称号が与えられ、各国の王がその者に黒龍の討伐依頼が言い渡された。
称号を与えられた青年ミハエルは、幼馴染のヒュカを連れて黒龍の住む『楽園』へと向かった。楽園の前には洞窟があり、その手前には小さな小屋があった。
「ねえミハエル、あれは何だろう?」
ヒュカが警戒しながら近づくと、小屋から水色髪の少女が出てきた。目は赤く、そして白い肌。見た目は十歳も満たないようだが、しっかりとエプロンを着こなしていた。
「いらっしゃいませ。ここは『最後の宿』です」
「最後の宿?」
ミハエルが言われた単語をそのまま言い返すと、水色髪の少女はくすりとほほ笑んだ。
「黒龍に挑む冒険者が万全の力を発揮するために、命がけで小屋を作りました。安心してください。ワタチは各国公認の宿の店主です」
そう言って照明賞を出すと、杖を構えていたヒュカが杖をおろした。同時に警戒をしていたミハエルも緊張が解けたのかため息をついた。
「いやはや、まさかこんな所に宿屋があるとは思いませんでした。野宿を覚悟していましたが、手間が省けました」
「おや、その言葉には覚えがあります。確か剣聖グランハイツ様がいらっしゃった時に、同じことを言っていましたね」
「あの剣聖の!?」
伝説の剣士であり、黒龍の討伐で命を絶った剣聖グランハイツ。その名を知らない冒険者はいないとまで言われていた。
当時は魔術を使った戦術が全てを決めると言われている中で、剣術だけで全てに打ち勝ち、新たな可能性も生み出した。だが、その剣聖グランハイツですら黒龍には勝てなかった。
「立ち話もなんですし、入ってください。今日はしっかりおもてなしをしますよ」
☆
店に入るとボロボロではあるが掃除はされている。そして台所からは良い匂いがしてきて、ヒュカの腹の虫が鳴り出した。
「あはは……最近野宿続きだったから」
「そうだね。まさか暖かいご飯にたどり着けるとは思わなかった」
「ここに来る冒険者は皆さん同じことを言います。ご飯はこちらで準備するので、その間にこの本に思い思いの言葉を書いていただいてもよろしいですか?」
店主がそう言って渡してきた本は、立派な表紙の分厚い本だった。開くと色々な人が色々なメッセージを残していた。恋人へのメッセージや、友人への謝罪、そしてこれからここへ来る者へのメッセージなどもあった。
「ねえ、この最初のページのこれって、剣聖グランハイツ様のじゃない?」
「サインが書いてある。黒龍にやられたって伝えられてるから、もしかしてこれが最期の言葉じゃないか?」
そう言って文字を読む二人。そこにはこう書かれてあった。
僕は帰れないかもしれない。噂通りであれば、黒龍に勝つには今の技術では不可能だろう。だが、一矢報いる。必ずどこかに傷を残す。その傷を後に託す。
もしも僕の名が後世に残っているのであれば、それを上書きするほどの活躍をしてほしい。僕は臆病で、色々と運が良かっただけだ。幼馴染には大事なことを言えず、弟を守ることができなかった。そんな小さな冒険者なんてかき消して、もっと偉大な冒険者の誕生を天から願っている。
それを読んだヒュカが涙を流した。
「まるで死が決まっているような書き方をしなくても良いじゃん。これはただの遺書だよ!」
そう言うと台所から料理を持って来た少女が話し出した。
「実際それは遺書になりました。当時の技術では難しく、ましてや剣聖グランハイツ様のように剣だけで太刀打ちできる相手ではありません。ですが、彼の言う通り、一矢報いたという報告はあります」
「報告?」
「はい。このページを見てください」
言われた通りミハエルがページを開くと、所々赤いシミがあり、書いてある文字もかなり震えながら書かれていることがうかがえた。
「ヘイリンホラン商会の団体が討伐に挑み、唯一生き残った方が書き残したものです」
「ヘイリンホラン商会って一番大きな商会だよね。その人達も昔黒龍に挑んだのか」
読んでみると、そこには『右目に切り傷あり。他の部位はすぐに回復するが、目だけは回復しない。左に回った軍の事が見えていなかったように思えた』とだけ書かれていた。
「左か……もしもの時はその情報を使わせてもらおう」
「そうね」
「え、最初から左から攻める戦法ではダメなんですか?」
店主が驚きつつ質問すると、ミハエルとヒュカがほほ笑んだ。
「僕はあらゆる攻撃を反射する力を持っているんだ。そしてヒュカはあらゆる物質を破壊する力を持っているんだ。僕たちにとって討伐は息を吸うくらい簡単で、目的地に行く方が苦痛なんだよ」
「ここまで遠かったよねー」
そう言って笑いあう青年と少女。その光景を店主は見て、そしてほほ笑み、おまけでデザートを出した。
☆
翌朝。ふかふかな布団で寝て、しっかりと食事を取った二人は万全の状態となり、店主さんに頭を下げた。
「ありがとうございました。次に戻るときは黒龍の首を見せびらかしに来ますよ」
「そうそう。鱗一つくらいならあげるね!」
「楽しみにしています」
そう言って二人は洞窟へと入っていった。
そして店主はため息をついた。店主は思った。
そう言って洞窟に入った者は何人も見てきた。自信過剰な人ほどあっさりしていた。最後まで警戒していた人の中にはこの宿の入口まで戻ってきた人もいる。が、そのほとんどが致命傷であり、先ほどのヘイリンホラン商会の生き残りも本に書き残した後、天に旅だった。
ため息をついてドアノブに手を掛けると巨大な爆音と、洞窟からは肌が焼けるほど熱い熱風が出てきて、やがて静まり返った。
「ここにいる龍とは神と同位です。人間の出す技や守る術なんて役に立たないですよ」
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