勇者たちの最期の日記

いと

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剣士ロラン

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 ☆

 黒龍が眠る『楽園』の入口に通じる洞窟の手前には小さな宿がある。それはいつしか冒険者の間で噂になっていた。
「本当にあった」
 剣士ロランは警戒しながら宿に近づくと、中から水色髪の少女がエプロン姿で出てきた。
「おや、お客様ですね……むむ?」
 ロランは少女が出てきたことにも驚いたが、同時に突然近づいたことにも驚いた。
「貴方、もしや『騎士団長マーラック』様の息子さんですか?」
「曾祖父をご存じですか?」

 ☆

 店に入りお茶を出され、ロランは一瞬毒などを警戒しつつも香りで理解し、そして喉に通した。その香りと味はここまでの緊張を一気に溶かし、安らぎを与えた。
「なんとなく目つきと、その茶色の髪がそっくりです。ですが、所々他の遺伝子があるので、すぐには分かりませんでした」
「いえ、一目で曽祖父の名前を出す人は初めてです。改めまして僕はロランです。ギルドから派遣されました」
「ギルドから派遣って簡単に言いますけど、ここに来るだけでもそれなりの実力が無ければ無理ですよ?」
「あはは。恐縮です。これでもギルドでは一位か二位を争ってます」
 剣士ロランは、代々伝わる剣豪の家元育ちで、その曽祖父である騎士団長マーラックの功績は末代まで伝わるとも言える偉業を成し遂げていた。
 唯一の失敗は黒龍の討伐に失敗し、帰らぬ人となったことである。
「マーラック様は騎士団長なのに、ロラン様はギルド所属なのですか?」
「兄が父の跡取りとなりまして、僕は自由にやらせてもらってます。とは言え、父から学んだ剣がこうしてギルドでも役に立っているので、良いことだと思っています」
 ギルドと王国騎士団は、時にぶつかり、時に協力し合う関係である。故にロランのように一家でどちらも所属していると色々と都合が良い場合もある。
「そもそも曽祖父を知っているということは、この宿に来たんですか?」
「はい。これを見てください」
 そう言って出されたのは、ここを訪れた冒険者が書き記す分厚い本。開くと最初のページには『剣聖のグランハイツ』のサインが書かれてあった。
 それを見たロランは驚き、そして書かれている内容を読んだ。
「色々な話がありますが、剣聖のグランハイツの最期は黒龍によって絶命したんですね」
「おや、どうして亡くなったと思うんですか?」
「もしも無事でしたらグランハイツの墓が場内のどこかにあるはずです。それに、黒龍に負けたからこうして色々な方が次々と書いているのでしょう。そしてここに書かれた方は誰一人として戻ってきていない。つまり、全員負けたんですね」
 それを一番知っているのは水色髪の少女であり、小さくうなずいた。そして本のとあるページを開き、そこに指を指した。
「これが貴方の曽祖父であるマーラック様の遺言ですね」
「曽祖父の……って、なんだこれ」

『私の子孫がもしも来たのであれば、是非ともここの店のカレーを食べてほしい。その美味さは今まで食べた料理の中で一番良かった。そして後悔するだろう』

 アドバイスなどでは無く、カレーを食べろという曽祖父からの命令だった。
「祖父から聞いた話だと、曽祖父はかなり厳しい人だと教えられましたが、まさかこんなことを書く人だとは思いませんでした」
「ふふふ。そうですね、それは息子だからでしょう。もしも孫やひ孫でしたら、対応は変わっていたかもしれません」
「そうなんですか?」
 店主はロランに当時の話を簡単に話した。マーラックは実は大の野菜嫌いだったとか、酒には人一倍こだわりを持っているなど、ロランが教えられた話とは真逆の内容だった。
「ホラインド家の者は常に冷静であれと、父から叩きつけられていましたが、実は人間っぽいところもあるんですね」
「え、父様は人間じゃないんですか?」
「ものの例えです。いつも鬼のように怒り、そして厳しい。母が居なければ五歳で家出をしていました」
「ふふ、では無事に帰ったら父様とお話してみたらいかがでしょう。これは貴方の曽祖父である騎士団長マーラック・ホラインド様の直筆です。一緒に酒を飲み、曽祖父について聞いてみてください。孫にだけ見せる顔があるかもしれません」
「そうですね。帰れたら……ですけどね」

 ☆

 翌日、準備を整えたロランは深く深呼吸をして、洞窟の入口をしばらく見ていた。
 すると宿の店主が出てきて、朝の会話を始めた。
「マーラック様も深呼吸をして、洞窟を見ていました。さすが同じ血を引いていますね」
「恐縮です。それと、カレー美味しかったです」
 ロランの口にはカレーが少しだけついていて、店主はそれを見てほほ笑み、少し濡れたタオルを渡した。ロランはよくわからないまま濡れたタオルで顔を拭くと、カレーがついていたことに気が付き、少し照れた。
「もしも過去の曽祖父に話せるなら、どのお話よりもカレーの美味さが勝ったと言いたいです。そしてその話を僕の下の代にも伝えたいです」
「それならどうぞこの本に書いてください」
 そう言って訪れた冒険者が書き記している本を店主がロランに渡し、サラサラとカレーの感想を書いた。
 やがてゆっくりと閉じ、決心を固めた。
「では店主さん。いってきます」
「はい」

 ロランは洞窟に入り、店主は宿に入る。そして店主はカレーがついた鍋を洗っていると、轟音が鳴り響き、一瞬だけ周囲の温度が高くなった。
 この流れは何度も経験しており、店主にとってはすでに聞き慣れた光景だったため、今ではなんとも思わなくなった。
 だが、今回ばかりは久しぶりに同じ血を引く者が現れ、同じ運命を歩む者との会話に、少しだけ感傷的になった店主だった。
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