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5 この世界人
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「前向きに考えれば、今回の事件はもっと祝うべきかも知れないな」
歓迎されて気を良くした俺はそんなことを口走っていた。
「ん? そうか?」
酒の味を確認するように飲んでいたホワンが不思議そうに言った。
「だって、史上初の世界転移を無事に切り抜けられたわけだしな」
世界を飛び越えて怪我一つしていないというのは驚異的なことかも知れない。
「おお。確かにな! そう言ってくれると有り難い。そうか、リュウはヒーローだな!」
なんだと思ってたんだろう? まぁ、被害者か。
「まぁ、帰れればな」
「一度こっちに来れたんだ、きっと元の世界に帰れるよ!」
研究員の一人が楽観的に言った。
「じゃ、無事到着したお祝いだ! 改めて乾杯しよう!」とホワン。
「そうだな!」
この辺の風習は同じらしい。
「おう!」
「そうね!」
「いいな」
「よし、じゃいいな。リュウの世界間転移成功を祝して乾杯!」ホワンが音頭を取ってグラスを掲げた。
「「「「「かんぱ~いっ」」」」」
俺もやっぱり楽観的だよな?
* * *
「いや、それにしても君が現れた時はびっくりしたよ。微生物を除いて初めての生物の転移だしね! あ、僕はマナブって言うんだ。よろしく!」
マナブという研究員は隕石の研究者みたいなことを言った。地下から岩石を取り出すんだから、あまり変わらないのか?
「ああ、よろしく。マナブ」
「生物って失礼よ。ごめんなさい、気を悪くしないでね。こいつ、いつもこんな調子で他人から嫌われてるの」と、俺の世話係でもあるメリスがフォローした。
「ひどい。僕は嫌われ者か?」
「メリスの言う通りだよ。あ、俺はトウカ。転移研究は俺の長年の夢なんだ」と別の男が来て言った。
「君が現れたときは興奮したよ。こんなに完全な形で転移できるなんて思ってもみなかった。しかも世界の境界をすり抜けちゃったとか素晴らし過ぎる。原理を解明するのが楽しみで仕方ない。だから俺的には大成功さ!」
トウカは俺の手を取って歓迎してくれた。うん、早く原理を解明してほしい。
「そうか。よろしくな、トウカ」
いきなりでなかったら俺も楽しめたかもとは思う。
「何が大成功よ。リュウからしたら、いい迷惑よ。リュウ、トウカが座標計算した結果だから責任は全てトウカよ。殴っていいから」と若い研究員の女が言った。
「おい酷いな。俺の計算は間違ってないぜ! 何度も確認したんだ」
「どうだか。でも、別世界から来たってのは信じがたいわね。後で詳しく聞かせて! あ、私はユリ。高等研究員のユリよ」
「ああ、よろしく、ユリ」
「まったく、興味津々なのは同じじゃないか。ああ、ちなみに全員高等研究員なのでユリが特別なわけじゃないよ。むしろ一番新米だから。言わないと間違われそうで心配なんだな」
「同期なのに五月蠅いわよトウカ」
「へいへい」
トウカも新米らしい。ホワンを除いてみんな二十代のようで若い研究員ばかりだ。
「じゃ、紹介も終わったことだし、どんどん食べてくれ。検査ばかりであまり食べてないだろう?」
確かに腹ペコだ。
「ここの料理、結構おいしいって評判なのよ。あ、これは特に美味しいよ」
メリスも近くの皿からお勧め品を取ってくれた。
「うん。旨いな」
「よかった!」
* * *
並べられた沢山の料理を平らげて腹も膨らんだ俺たちは、コーヒーを飲みながら窓辺に広がる景色を眺めていた。
窓の外には研究所の広い庭があり、その先には見覚えのある山々が見えていた。
「あれは……浅間山だよな?」
俺の記憶とは少し違っているので改めて聞いてみた。
「もちろん、そうだ」
「山体が俺の記憶より崩れているな」
「ほう」ホワンが興味深そうに言った。
「さっそく、大きな違いだね」マナブは、すかさず食いついた。
「百五十年前の巨大噴火が違うのかな?」マナブは指を顎に当てながら言う。
「百五十年前? いや、俺の記憶だと百年前だけど」
「えええっ! それも違うのか! 興味深いね!」
「マナブ! 今日は歓迎会なの! 細かい話はあとにしたら?」メリスが窘めた。
「ああ、そうだった。ごめん」
「いやいい。もう同じ研究員だしな」
「そうだよね!」マナブは素直な笑顔で言った。
「それに、少しでも共通の話題があると、ちょっとほっとする。そうじゃないと、まるで宇宙人だから」
防護スーツが一番宇宙人っぽいが。宇宙人に捕まった地球人の気分。
「ああ、そうか。まだ、本当に地球なのか不安なのか?」
ホワンが心配そうな顔で言う。
「まぁな、でも、たらふく食べたからこの世界の人間になれた気もする」
「ははっ。そうか! ここの食べ物を食べ続けたら、実際この世界の人間って言えるよな!」
ホワンは面白いことを言った。
確かにその通りだ。肉体全部が入れ替われば、別世界を示すものは記憶だけになるだろう。原子レベルではもともと違いはないんだろうが。
歓迎会は五人だけだったが研究員たちと話せてよかった。
肉体的には食事でこの世界人になれるんだろうが、精神的には会話でこの世界人になれるんだろうと思った。
<ユリ>
イラスト:AIアニメジェネレーターにて生成。
https://perchance.org/ai-anime-generator
歓迎されて気を良くした俺はそんなことを口走っていた。
「ん? そうか?」
酒の味を確認するように飲んでいたホワンが不思議そうに言った。
「だって、史上初の世界転移を無事に切り抜けられたわけだしな」
世界を飛び越えて怪我一つしていないというのは驚異的なことかも知れない。
「おお。確かにな! そう言ってくれると有り難い。そうか、リュウはヒーローだな!」
なんだと思ってたんだろう? まぁ、被害者か。
「まぁ、帰れればな」
「一度こっちに来れたんだ、きっと元の世界に帰れるよ!」
研究員の一人が楽観的に言った。
「じゃ、無事到着したお祝いだ! 改めて乾杯しよう!」とホワン。
「そうだな!」
この辺の風習は同じらしい。
「おう!」
「そうね!」
「いいな」
「よし、じゃいいな。リュウの世界間転移成功を祝して乾杯!」ホワンが音頭を取ってグラスを掲げた。
「「「「「かんぱ~いっ」」」」」
俺もやっぱり楽観的だよな?
* * *
「いや、それにしても君が現れた時はびっくりしたよ。微生物を除いて初めての生物の転移だしね! あ、僕はマナブって言うんだ。よろしく!」
マナブという研究員は隕石の研究者みたいなことを言った。地下から岩石を取り出すんだから、あまり変わらないのか?
「ああ、よろしく。マナブ」
「生物って失礼よ。ごめんなさい、気を悪くしないでね。こいつ、いつもこんな調子で他人から嫌われてるの」と、俺の世話係でもあるメリスがフォローした。
「ひどい。僕は嫌われ者か?」
「メリスの言う通りだよ。あ、俺はトウカ。転移研究は俺の長年の夢なんだ」と別の男が来て言った。
「君が現れたときは興奮したよ。こんなに完全な形で転移できるなんて思ってもみなかった。しかも世界の境界をすり抜けちゃったとか素晴らし過ぎる。原理を解明するのが楽しみで仕方ない。だから俺的には大成功さ!」
トウカは俺の手を取って歓迎してくれた。うん、早く原理を解明してほしい。
「そうか。よろしくな、トウカ」
いきなりでなかったら俺も楽しめたかもとは思う。
「何が大成功よ。リュウからしたら、いい迷惑よ。リュウ、トウカが座標計算した結果だから責任は全てトウカよ。殴っていいから」と若い研究員の女が言った。
「おい酷いな。俺の計算は間違ってないぜ! 何度も確認したんだ」
「どうだか。でも、別世界から来たってのは信じがたいわね。後で詳しく聞かせて! あ、私はユリ。高等研究員のユリよ」
「ああ、よろしく、ユリ」
「まったく、興味津々なのは同じじゃないか。ああ、ちなみに全員高等研究員なのでユリが特別なわけじゃないよ。むしろ一番新米だから。言わないと間違われそうで心配なんだな」
「同期なのに五月蠅いわよトウカ」
「へいへい」
トウカも新米らしい。ホワンを除いてみんな二十代のようで若い研究員ばかりだ。
「じゃ、紹介も終わったことだし、どんどん食べてくれ。検査ばかりであまり食べてないだろう?」
確かに腹ペコだ。
「ここの料理、結構おいしいって評判なのよ。あ、これは特に美味しいよ」
メリスも近くの皿からお勧め品を取ってくれた。
「うん。旨いな」
「よかった!」
* * *
並べられた沢山の料理を平らげて腹も膨らんだ俺たちは、コーヒーを飲みながら窓辺に広がる景色を眺めていた。
窓の外には研究所の広い庭があり、その先には見覚えのある山々が見えていた。
「あれは……浅間山だよな?」
俺の記憶とは少し違っているので改めて聞いてみた。
「もちろん、そうだ」
「山体が俺の記憶より崩れているな」
「ほう」ホワンが興味深そうに言った。
「さっそく、大きな違いだね」マナブは、すかさず食いついた。
「百五十年前の巨大噴火が違うのかな?」マナブは指を顎に当てながら言う。
「百五十年前? いや、俺の記憶だと百年前だけど」
「えええっ! それも違うのか! 興味深いね!」
「マナブ! 今日は歓迎会なの! 細かい話はあとにしたら?」メリスが窘めた。
「ああ、そうだった。ごめん」
「いやいい。もう同じ研究員だしな」
「そうだよね!」マナブは素直な笑顔で言った。
「それに、少しでも共通の話題があると、ちょっとほっとする。そうじゃないと、まるで宇宙人だから」
防護スーツが一番宇宙人っぽいが。宇宙人に捕まった地球人の気分。
「ああ、そうか。まだ、本当に地球なのか不安なのか?」
ホワンが心配そうな顔で言う。
「まぁな、でも、たらふく食べたからこの世界の人間になれた気もする」
「ははっ。そうか! ここの食べ物を食べ続けたら、実際この世界の人間って言えるよな!」
ホワンは面白いことを言った。
確かにその通りだ。肉体全部が入れ替われば、別世界を示すものは記憶だけになるだろう。原子レベルではもともと違いはないんだろうが。
歓迎会は五人だけだったが研究員たちと話せてよかった。
肉体的には食事でこの世界人になれるんだろうが、精神的には会話でこの世界人になれるんだろうと思った。
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