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7 四つのテーマ
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防護スーツの使い方も覚えたので俺はいよいよ研究員として働くことになった。
何もしない生活に飽き飽きしていた俺には、やるべきことがあるのが嬉しい。
空間転移研究所第一研究室は二階にあり、広いベランダに面した解放感のある部屋だった。研究室にしては珍しい贅沢な作りだ。
「まずは、現状の認識を共有したい。リュウに起こったことについてだ」
研究室付属のレクチャールームでホワンが切り出した。
俺の参加もありチーム全員の認識を合わせておこうということのようだ。
「リュウの世界とこの世界は明らかに違うが、同じことも多い。これについては歴史年表を作って比較したいと思う。覚えている限りになるだろうが、どの程度違うのか把握したい」
ホワンはそう言ってメンバーを見渡したあと俺を見た。
「ああ、それは並行世界がどれだけ離れているか調べるってことだよな?」
俺はSF小説で読んだ知識から言った。
「いや、そこはまだ分からない。並行世界かどうかも未確定だ」
ホワンは研究者らしく慎重に言った。
「そうなのか?」
俺はもうホワンが確信しているのかと思ったが違うようだ。
ホワンは頷いてから話した。
「ちょっとリュウの話を聞いた限りでは、どうもそうではない印象を受けた」ホワンはちょっと曖昧な言い方をした。
「そうか?」俺は、思い当たらないが。
「そのあたりをもっと詳しく調査する必要がある」
ホワンは指を立て指すようにしながら言った。
「『この世界は並行世界か』ってことか」
「それが、まず大きなテーマだな」
ホワンは満足そうに言った。
まぁ、いきなり難題だ。
* * *
今のテーマが各自の中で消化された頃を見計らってホワンは続けた。
「次に、なぜ転移してきたのが『リュウとヒカリゴケの付いた溶岩』だったのかだ」
うん、確かになんで俺なんだ?
「もちろんそれは、指定座標のものが転移しただけなんだろうが。それだけじゃない何か意味がある筈だ」
「たまたま、そこにあっただけなんじゃ?」
「ん? ああそうか。リュウは知らないからな」
ホワンは自分は納得したように言った。
「通常、指定座標からの転移は球状に切り取られてくるんだ。今までの転移実験では、ほぼ球状に転移して来た。だが今回はそうならなかったんだ」
「な、なんだって~?」
球状に切り取られるだと~? 想像してぞっとした。
「今回は岩も切り取られた様子ではないし、リュウは五体満足で転移している。それは今までの転移とは全く違うんだ。そもそも、体積も異常に大きい」
流石に、それは知らなかった。俺はかなり危ない状況だったようだ。
「それで奇跡と言っていたのか」
「そういうことだ、新しい種類の転移なんだ」
「転移に種類があるのか」
「そうらしい。これはもう一つのテーマだな」
「『転移の種類』か」
そこで、ふと思い出した。
「あ、そういえば、転移の直前にヒカリゴケが黄色く光ったけど、何か関係あるかな?」
「なに? 本当か? それは聞いてないぞ」ホワンは、身を乗り出して言った。
「すまん、忘れてた」
「どんなふうに光ったんだ?」
「そうだな、ホタルみたいだった。あの苔は自分では発光しないから、何かが起こっていた筈だ」
「そうだな。確か、あの苔は光を反射するだけだよな」
「そうだ」
「ふむ。それが本当だとすると、また違うテーマかも知れないな」
「テーマだらけだな」
「それだけ、大きな事件なんだ」
「確かに」
「ヒカリゴケが発光した理由か」
「そうだな」
* * *
ホワンはここで少し休憩を入れた。
それぞれ思い思いに飲み物を用意した。
「後は、何故その場所だったのかだな。空間転移装置で指定した座標とは明らかに違う」
最初にホワンが言った。
「そうなんだよ。絶対、俺の計算は間違ってない。地表から転移する筈はないんだ」
トウカが思わず声を上げた。
「落ち着けトウカ。お前の計算違いだとは言ってない」とホワン。
「それ、全く同じ座標でもう一度やるんだろ?」
俺はふと言ってみた。再現テストだ。
「それは、危険じゃない? また誰かが転移して来たらどうするの?」
メリスは、別の人間も巻き込みそうで心配なようだ。
「確かに同じことをするのは、まずいだろうな」ホワンも消極的のようだ。
「いや、でも、同じことをして結果がどうなるかを知る必要はあるのでは?」
「確かにそうだが」
そこで俺は折衷案を出してみた。
「そういえば、向こうの世界の時刻は、ここと同じだったと思う。あの時間の遊歩道だから人が居たが、夜なら人はいないかも」
「ああ、なるほど。別の時間で実行してみようということか」とホワン。
「そうだね。それならやれそう」とマナブ。
「よし、まずはその条件で実験許可を取ってみよう。第四のテーマとしては『座標の誤差の理由』だな」
「あと、こっちから向こうへ送れないのか?」
俺は少し前から気になっていたことを言ってみた。
「ん? ああ、物質が交換になっている可能性か」
ホワンも納得したようだ。
「それはまだ実験していない」
「やっぱり、必要ですね」とマナブ。
どうも、そういう話はあったようだ。
「資源探査の一環として始めたから今までは一方通行でも良かったんだが、リュウを送り返すなら当然研究しないとだめだよな! よし『転移の方向』もテーマとしよう」
こうして、暫定的に中断していた空間転移実験だが、研究テーマも明確になり再度実施することになるのだった。
何もしない生活に飽き飽きしていた俺には、やるべきことがあるのが嬉しい。
空間転移研究所第一研究室は二階にあり、広いベランダに面した解放感のある部屋だった。研究室にしては珍しい贅沢な作りだ。
「まずは、現状の認識を共有したい。リュウに起こったことについてだ」
研究室付属のレクチャールームでホワンが切り出した。
俺の参加もありチーム全員の認識を合わせておこうということのようだ。
「リュウの世界とこの世界は明らかに違うが、同じことも多い。これについては歴史年表を作って比較したいと思う。覚えている限りになるだろうが、どの程度違うのか把握したい」
ホワンはそう言ってメンバーを見渡したあと俺を見た。
「ああ、それは並行世界がどれだけ離れているか調べるってことだよな?」
俺はSF小説で読んだ知識から言った。
「いや、そこはまだ分からない。並行世界かどうかも未確定だ」
ホワンは研究者らしく慎重に言った。
「そうなのか?」
俺はもうホワンが確信しているのかと思ったが違うようだ。
ホワンは頷いてから話した。
「ちょっとリュウの話を聞いた限りでは、どうもそうではない印象を受けた」ホワンはちょっと曖昧な言い方をした。
「そうか?」俺は、思い当たらないが。
「そのあたりをもっと詳しく調査する必要がある」
ホワンは指を立て指すようにしながら言った。
「『この世界は並行世界か』ってことか」
「それが、まず大きなテーマだな」
ホワンは満足そうに言った。
まぁ、いきなり難題だ。
* * *
今のテーマが各自の中で消化された頃を見計らってホワンは続けた。
「次に、なぜ転移してきたのが『リュウとヒカリゴケの付いた溶岩』だったのかだ」
うん、確かになんで俺なんだ?
「もちろんそれは、指定座標のものが転移しただけなんだろうが。それだけじゃない何か意味がある筈だ」
「たまたま、そこにあっただけなんじゃ?」
「ん? ああそうか。リュウは知らないからな」
ホワンは自分は納得したように言った。
「通常、指定座標からの転移は球状に切り取られてくるんだ。今までの転移実験では、ほぼ球状に転移して来た。だが今回はそうならなかったんだ」
「な、なんだって~?」
球状に切り取られるだと~? 想像してぞっとした。
「今回は岩も切り取られた様子ではないし、リュウは五体満足で転移している。それは今までの転移とは全く違うんだ。そもそも、体積も異常に大きい」
流石に、それは知らなかった。俺はかなり危ない状況だったようだ。
「それで奇跡と言っていたのか」
「そういうことだ、新しい種類の転移なんだ」
「転移に種類があるのか」
「そうらしい。これはもう一つのテーマだな」
「『転移の種類』か」
そこで、ふと思い出した。
「あ、そういえば、転移の直前にヒカリゴケが黄色く光ったけど、何か関係あるかな?」
「なに? 本当か? それは聞いてないぞ」ホワンは、身を乗り出して言った。
「すまん、忘れてた」
「どんなふうに光ったんだ?」
「そうだな、ホタルみたいだった。あの苔は自分では発光しないから、何かが起こっていた筈だ」
「そうだな。確か、あの苔は光を反射するだけだよな」
「そうだ」
「ふむ。それが本当だとすると、また違うテーマかも知れないな」
「テーマだらけだな」
「それだけ、大きな事件なんだ」
「確かに」
「ヒカリゴケが発光した理由か」
「そうだな」
* * *
ホワンはここで少し休憩を入れた。
それぞれ思い思いに飲み物を用意した。
「後は、何故その場所だったのかだな。空間転移装置で指定した座標とは明らかに違う」
最初にホワンが言った。
「そうなんだよ。絶対、俺の計算は間違ってない。地表から転移する筈はないんだ」
トウカが思わず声を上げた。
「落ち着けトウカ。お前の計算違いだとは言ってない」とホワン。
「それ、全く同じ座標でもう一度やるんだろ?」
俺はふと言ってみた。再現テストだ。
「それは、危険じゃない? また誰かが転移して来たらどうするの?」
メリスは、別の人間も巻き込みそうで心配なようだ。
「確かに同じことをするのは、まずいだろうな」ホワンも消極的のようだ。
「いや、でも、同じことをして結果がどうなるかを知る必要はあるのでは?」
「確かにそうだが」
そこで俺は折衷案を出してみた。
「そういえば、向こうの世界の時刻は、ここと同じだったと思う。あの時間の遊歩道だから人が居たが、夜なら人はいないかも」
「ああ、なるほど。別の時間で実行してみようということか」とホワン。
「そうだね。それならやれそう」とマナブ。
「よし、まずはその条件で実験許可を取ってみよう。第四のテーマとしては『座標の誤差の理由』だな」
「あと、こっちから向こうへ送れないのか?」
俺は少し前から気になっていたことを言ってみた。
「ん? ああ、物質が交換になっている可能性か」
ホワンも納得したようだ。
「それはまだ実験していない」
「やっぱり、必要ですね」とマナブ。
どうも、そういう話はあったようだ。
「資源探査の一環として始めたから今までは一方通行でも良かったんだが、リュウを送り返すなら当然研究しないとだめだよな! よし『転移の方向』もテーマとしよう」
こうして、暫定的に中断していた空間転移実験だが、研究テーマも明確になり再度実施することになるのだった。
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