多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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8 再現実験

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 三日後、上層部の承認も得て再実験することになった。
 時刻は最も人間が居ないと思われる早朝と決まった。

 実験当日、俺が実験室に着いた時にはトウカとユリが既に来ていた。
 実験棟は研究棟から少し離れた場所に建てられていて渡り廊下で繋がっている。大型の設備があるのか、そこそこ大きな建物だった。

「リュウ、おはよう!」

 トウカが真っ先に見つけて声を掛けて来た。

「おはよう、リュウ」

 これはユリだ。ちょっと眠そう。

「やあ、トウカもユリも早いね」
「トウカが煩いのよ」
「いや、新人の務めだろう!」

 トウカは意外と古風な奴らしい。

 そのうちに他のメンバーも集まって来た。

 俺はやることがないのでコーヒーを淹れて待っていた。
 空間転移なんて何をするのか全く思いつかない。こんど原理を聞いてみるか? あ、別の世界の人間が聞いてもいいのかな? 変な影響が出ても困るから止めておくか。

「ではまず、リュウが現れた前回と同じ条件で再度転移実験を実施する」

 ホワンが宣言した。まぁ、時刻は違うがな。

「では、第一回試行開始」ホワンが宣言した。

「了解。環境オールグリーン。シーケンススタート」

 メリスが装置の状態を確認してシーケンス開始ボタンを押した。
 カプセルの天井に白い光が灯った。もちろん、カプセルの中にはなにもない。

「重力加速器制限解除」とマナブ。

 重力加速器だそうだ。そんなものあるのか。流石に驚いた。
 カプセルの光は白から赤へと変わった。

「重力加速器制限解除完了」

「重力加速器始動」

 マナブがそう言って始動ボタンを押し込むと、加速器が動作したのか低い振動音が発生した。

「重力加速器始動完了」

「陽電子注入」とユリ。

 な、なんだと~っ! あ、これ俺が聞いてていいのかな? なんか、凄い事言ってるんだけど?

「陽電子注入完了」

「加速開始」

 トウカが大きなボタンを押した。

「加速開始完了」

 何をしているのか全く分からないが、ブーンとハムのような大きな振動が発生した。

 やっぱりとんでもない装置らしい。そもそも重力加速器って何だ? この世界は重力をいじれるようになっているのか! まず、そこで俺は驚いていた。陽電子に至ってはお手上げだ。

「トリガー!」

 トウカがトリガーボタンを押し、ブンっとひと際大きい振動音が部屋中に響いた。
 いや、建物を揺るがしたと言ったほうがいいかも知れない。

 トリガー音の後は静かになった。全員、カプセルの中を覗いている。第一回試行は終わったようだ。

「どうだ?」

 ホワンが誰ともなしに言った。だが、カプセルには何もなかった。

「失敗だ」

 ホワンが何もない事を確認して宣言した。

「くそ~。またか」トウカが悔しがる。

「そんなに失敗するのか?」

 俺は近くのコンソール卓に居たメリスに小声で聞いてみた。

「そうね。成功するのは十回に一回くらいね」
「そんなに、少ないんだ」
「ええ。成功すること自体が夢みたいなものなのよ」

 その言い方に引っ掛かるものがあったが、ここで細かく突っ込むのは止めた。

「じゃ、次いくぞ。第二回試行準備」

 ホワンは悪びれもせず淡々と指示を出した。

 もう、ルーチーンになっているようだ。
 試行を何度も繰り返して何かが転移してくれば大成功。そんな雰囲気だ。
 それでも今回は時間に制限がある。いつまでも続けていたら、人が遊歩道を歩く時間になってしまうからだ。

  *  *  *

 そして、一時間ほどが経過した。
 二十回ほど繰り返した後、カプセルに何かが現れた。

「おおっ」思わず俺は声を漏らした。
「来た!」トウカが思わず乗り出して叫ぶ。
「なんだ?」ホワンも凝視する。

 見ると、そこには一匹の鳥がいた。青と白の羽を持つ鳥だ。

「綺麗な鳥ね」ユリが言った。
「これは、確かオオルリだ」ホワンは知っていたようだ。
「分かるんですか」ユリは知らないらしい。
「ああ、標本で見たことがある」ホワンがどや顔で言う。

「標本? あの辺には結構いますよ?」

 俺は思わず言った。綺麗なさえずりで有名な鳥だった筈だ。

「うん? そうなのか? いや、この世界では見たことないな」
「……ということは」
「また、別世界転移だね!」マナブだ。
「ウソだろ」トウカは信じられない顔で言った。

 トウカとしては、複雑な心境らしい。
 これで二回続けて別世界転移だ。もちろん期待以上の成果だが、自分が設定した座標とは関係ないものが転移して来たからだ。地下に鳥は生息していないからな。

「慌てるな。生物なら、この世界の生物のDNAと比較すれば、結論はすぐに出る。少し待て」

 ホワンの指摘通りだ。まだ確定ではない。
 ただ時間的にそろそろ限界だ。

  *  *  *

 最後に『転移の方向』を探る実験を実施した。

 やることはカプセルに物体を置くだけだ。
 今回は識別子としてシリアルナンバーが付いたアルミケースを三個用意した。

 そして、用意した三個のケースは最初の三回の試行ですべて消えた。
 さらに、どれも戻って来なかった。

「消えたな」

 ホワンが全員に確認するように言った。

「消えた。綺麗さっぱり消えた」

 俺は追い打ちを掛けるように言った。

「しかも、三回連続で」

 トウカは成功率が気になるようだ。十割だからな。今までが一割なのに。

「しかも、全く戻って来ないし」

 転移が単純な物質の交換なら、最初に送ったアルミケースが戻って来てもおかしくない。しかし戻って来たものはなかった。

「そうだな」

 ホワンは力なく言った。問題のある結果だった。
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