多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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17 気付いたら、空にいた

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ー きゃ~~~~~~~~っ!

 それは、ユリのけたたましい雄たけび……もとい、叫びから始まった。

ー いま、失礼なこと思ったでしょ~!

 なんでわかるんだ? てか、意外と余裕があるな。空から落ちてるのに。
 まぁ、当然滑空モードだ。ちゃんと自動的に切り替わっているのが素晴らしい。

ー そんなこと言ってる場合じゃないだろ!
ー もう、何でベッドからいきなり空中なのよ~っ。あんたのベッドはどうなってんの~?
ー 知らん。研究所に言え。それより、レーダーで陸地を探せ~!
ー そんなこと言ったって~。

 最近、付けて貰ったレーダーが大活躍だ。
 なんで、こんな事になってるのか分からないが有難い機能だ。あれって、虫の知らせだったのか?

ー あんたたち! 北北東に島があるわよ。あそこに行きましょう!

 滑空モードで飛びながらレーダーを必死に見ている俺たちに声を掛ける奴がいた。

ー えっ?
ー 誰だ?
ー 私よ、メリスよ。
ー おお、メリス。助けに来てくれたのか?
ー 私も一緒に落ちてるの!
ー 残念すぎる奴。

ー メリス、何処?
ー 上よ。いま、降りていくから待ってて。

 メリスは上からダイブして並んだ。

ー おお、メリス。もしかしてお前がこれの原因か?
ー そんなわけないでしょ。つべこべ言ってないでもっと島に近づくわよ。海に落ちたいの?

 まぁ、海に落ちても大丈夫だとは思うけど。

ー なるべく、近づきたいな。
ー でしょう?
ー ねぇ、手を繋がない?
ー おお、ユリ名案だ。そうしよう。
ー 分かったわ。じゃ、もうちょっと減速して行きましょう。

 俺たち三人は、覚えたての滑空モードで島に向かった。

  *  *  *

 そして、なんとか無事に島に降り立った。

「はぁ、はぁ。ついた~っ」ユリは膝に手を置いて言った。
「や、やったな」
「一時はどうなるかと思ったわよ~っ」メリスは膝をついて言った。

 ほんとだな。まだ、どうにもなってないけど。

 さすがに疲れ切って三人とも浜辺に座り込んでしまった。
 滑空モードでの飛行は、体全体で方向を決めるのはいいのだが、その姿勢を保持するのが大変で疲れるのだ。
 長時間の滑空を想定していない。これは明らかに改良の余地がある。

「滑空モードの改良もいいけど、状況を確認しましょ」メリスが言った。
「そうだな」
「そうね」

 そう言われて、改めて周囲を見渡した。

「まず、これは転移だろうな」
「そうね。私は部屋で寝てた筈。いきなり放り出された感じ」

 メリスは両手で自分の体を抱くようにして言った。

「こっちも同じだよ。転移装置が暴走したのか?」
「どうかな。暴走の可能性は否定しないけど、私たちの部屋からは離れてるし、なんで私たちだけなのよ」
「そうよね」

「ホントにこの三人だけなのか?」
「多分ね。他にもいたら通信に反応してるよね? アラート無視して寝てる筈ないし」

 確かに、このスーツのアラートは半端ない。意識がないと電気ショックを掛けるそうだし。

「メンバーの確認機能が欲しかったね」ユリが鋭い指摘をした。
「確かにな」

  *  *  *

 俺たちは島の様子を探った。

「で、この島だけど人はいるのかな? 上空から見た感じだと建物は見当たらなかったけど」

 俺は、思い出して言った。上空から降りながら見ていたが、森と小さい砂浜があるだけだった。人の居る気配がまるでない。

「そうね。小さい島だから、無人島かも」メリスが同意する。
「無人島?」とユリ。
「無人島に三人か」

「良かったわね、夢がかなって」メリスが変なことを言った。
「何処が夢なんだよ」
「無人島で美女二人とサバイバル」
「美女二人?」
「そうでしょ?」

 否定できない。まぁ、夢じゃないけど。夢なら美女一人じゃないか? 無人島の場合、両手に花が幸運とは限らないだろ!

「あっ、そう言えば、さっきユリはあんたのベッドから落ちたとか言ってなかった?」

 あの会話聞かれてたのか。

「そ、そうか?」
「ど、どうかなぁ?」
「言ってたわよね?」
「い、いいじゃないか、そんなこと。小さなことだ」
「そ、そうよ。ちょっと仮眠してただけよ」

「そういう関係だったんだ。そういうのは言っといて貰わないと」

 メリスは両手を腰に当てて咎めるように言った。

「うん、そうだな」
「そうね。始まったばかりだけど」
「そうでしょうけど。まぁ、いいわ。で、これからどうしよう?」
「うん。それだ」
「それよ」

 俺たちは言葉が続かなかった。
 防護スーツを着ているのでサバイバルに突入しても大問題ではないのだが、あまりにも展開が速くて思考が追いつかない。
 とりあえず防護スーツが快適だったので、しばらく三人でぼうっと海を見ていた。

  *  *  *

ー 突然ですが、お困りですか?

 いきなり俺たちの防護スーツの通信に入って来る奴がいた。
 緊急時なので通信はオンのままになっている。

「きゃっ」
「誰だ?」

ー 私はレジン、空間転移研究所の研究員です。

ー なんだって~っ? てか、ルジンじゃなくて?

 通信の声は樹脂みたいな名前を名乗った。

ー ルジンって誰でしょうか?

 違うらしい。あいうえお順なのか?

ー 空間転移研究所? なら、俺たちの事知ってるか?
ー いえ、存じません。ですが、私たちの防護スーツの通信を使ってましたので、何事かと連絡した次第です。一般人はこの通信を使えない筈ですし。

 なるほど。いきなり機密扱いの通信でアホな会話を始めたから監視していたのか。

ー マジか、俺たちは空間転移研究所第一研究室のメンバーだ。たぶん、別世界から転移して来たと思う。救出して貰えると助かる。

ー 言っている意味が良く分かりませんが、まずは救助に向かいますのでしばらくお待ちください。
ー 了解。助かる。

「やった~っ。この世界にも空間転移研究所があるんだ。なら、話は早いよね?」ユリは楽観的だなぁ。まぁ、俺も同類だけど。
「そうだな」
「あんたたち、まだ何も信用できないわよ?」メリスが釘を刺す。
「そうだな。いつ到着するか分からないしな」

 二時間ほどすると迎えの垂直離着陸機が到着した。

 機体の航続距離はかなり長そうだ。そして、なにより早かった。しかも快適だ。何故ならジェットエンジンではなかったからだ。恐らく重力加速器を使った風を生まない航空機だ。エンジンの騒音が全くしない。風切り音がするだけだった。

「凄いわね」

 メリスはそう言っただけだったが十分だった。
 俺の世界はもちろん、世界ゼロの住民から見ても、この世界の科学技術は明らかに進んでいた。
 そういえば、どうやって俺達の位置を特定したのかも不明だ。

  *  *  *

 一時間と少しで彼らの空間転移研究所に到着した。
 意外にも研究所の外観は世界ゼロのものと殆ど同じだった。ただし、空間保安局所属ではなかった。特殊保安局という名前だった。
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