多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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27 そこは仙台時代だった

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 人の住む土地を目指して、俺たちは飛び立った。
 飛び立ってすぐに気が付いたが俺たちが転移した場所は南国の西之島そのものだった。島の形もそうだが小笠原諸島が見えたからだ。
 だが、俺たちが世界Lで見た島とは全く違っているのが気がかりだ。

 それはともかく、そうと分かれば浅間山麓の研究所に直行である。六人はなんの躊躇いも無く、一路研究所に向かって飛び続けた。
 一時間ほど休みなく飛んでいると見覚えのある地形が見えて来た。ただ、ちょっと地面の色が違っていた。

 浅間山を間近にして降下し研究所を探す。
 だが、どこにも研究所は見当たらなかった。溶岩の流れた跡に作られていたので世界が違えば多少場所がずれることも考えられるが、周囲には建物や住居すら見当たらなかった。
 俺たちは降り立って途方に暮れた。

「どういうことだ?」

 世界Lで見た景色とそれほど違っているようにも見えないが。

「この辺りに人は住んでいないようですね」メリスも信じられないという顔をしている。
「溶岩がまだむき出しだね」ユリが指摘した。
「最近、噴火したんでしょうか?」シナノが言った。
「これじゃ、人は住めないんじゃない?」セリーも同意か。

 転移していきなり大きな障害があるのは初めてだ。

「ここは諦めて仙台を目指しますか?」

 レジンも流石にここで何とかするのは無理だと思ったようだ。

「仙台に? 目立ってしまってもいいのかな?」俺はちょっと気になった。

「転移なんて荒業使って放り込まれた世界に遠慮は無用でしょう」とレジン。

 確かにそうだな。俺たちは転移を引き起こさないように気を使いすぎているかも知れない。思えば、自然現象に気を使ってどうすると言うのだ?

「よし、じゃ仙台を目指そう!」

 俺たち六人は再び飛び立った。首都仙台を目指して。

  *  *  *

「こ、これは。私の知る仙台ではない」

 上空から仙台を見下ろしたレジンは確信をもって言った。レジンが知ってる仙台ではないらしい。彼は仙台出身とのことだった。

「私たちが知っている仙台でもありませんね」とメリス。
「うん、全然違う」

 ユリの知る世界ゼロの仙台とも違うようだ。俺の知る世界有数の大都会とも違う。

「そもそも、高層建築物が全く見えませんね」レジンが言った。
「そうだな」

 仙台と思われる位置に確かに街はあった。しかし殆ど平屋か低層階の建物だった。
 とりあえず、仙台を見下ろす高台に降り立った。

「あれは、お城かしら?」とメリス。
「場所的には、仙台城のようですが」レジンも疑わしいようだ。
「私の知ってる仙台城と違う」ユリの知る城でもないようだ。

 つまり、俺たちの世界から、かなり離れた世界ということだ。

「これだけの人数の人間を飛ばすだけはありますね。この世界は何か異常事態が起こっている気がします。まるで……」しばらくしてレジンが言った。
「まるで?」
「まだ封建時代が続いているようです」
「仙台時代のままか?」
「そうですね」

 俺たちの世界の歴史では浅間山大噴火のあと人々は江戸を捨てて北上したとなっている。
 火山灰が厚く積もって作物が取れなくなったからだ。南下も考えられたが、こちらはさらに火山活動が活発だった。
 そのため北上した人々は仙台に街を作り、以後長く仙台時代が続いた。そして近代化の流れと共に封建時代は終焉を迎えたのだった。
 これが俺たちの歴史だ。しかし、目の前の仙台は近代化前のままの状態に見える。

「何があったんでしょうね?」メリスが心配そうに言う。
「わからない。誰かに聞いてみるしかないな。しかし、この姿では」

 近代化前なら恐らく目立ってしまうだろう。

「ああ、その心配ならもう遅いようですよ?」レジンが坂の下を見て言った。

 見ると、仙台城と思われる方向から坂を登って来る一団がいた。明らかに、俺たちをめざしてる。
 まぁ、空から人型の何かが下りてきたら見に来るか。目がいいな。

  *  *  *

 一団は、顔が分かるくらいの距離まで来ると明らかに驚いた顔をしてから全員で膝まづいてしまった。
 どう見ても未知との遭遇だよな。

「こ、この度は、畏くもご光臨を賜りまして……」ご光臨?
「おいっ」俺は声を掛けてみた。
「はい?」代表らしい男が応えた。
「お前、名を名乗れ」
「は、はい。申し訳ありません。拙者は仙台城をあずかる藤原信忠と申します」

 拙者かよ。てか、いきなり城主登場かよ。フットワーク軽いな。まぁ、いいか。

「ノブタダ?」
「平安時代にそんな人いたな」

 レジンは歴史に詳しいのか、横からそんなことを言った。

「いえ、あの藤原陳忠ではありません。違う字です」とノブタダ。
「ややこしいな」
「はっ? 申し訳ありません」

 城主は困った顔で言った。そりゃ、名前はこの人のせいではないよ。

「そうか。ではノブタダ殿。まず、俺たちは神ではない」
「さ、左様でございますか」
「神ではないが悪いものでもない」
「はい」
「そして空も飛べる」
「はい。存じております」ノブタダは城から見ていたようだ。

「しばらく、この仙台に留まりたいのだが世話をしてくれる者がいるだろうか?」

 城主なら出来るだろうと思って聞いてみた。

「それでしたら是非我が城へおいでください」
「そうか。では、しばらく逗留させてもらう」
「承りました。では、カゴを……」
「いや、カゴはいらない。飛んで行く」
「はっ?」

「リュウ、それは目立ち過ぎるんじゃない? 城下の人たちが騒ぐでしょ?」とメリスが指摘した。
「ああ、そうか。じゃ、世話になる」
「ははっ。畏まりました。おいっ、カゴを持て」

 まだ封建時代とは言っても言葉遣いはかなり今風になってるようだ。
 言葉は普通に変化するものだからな。最初、特に古風な言い回しをしたのは俺たちを神か何かと思い込んだためらしい。
 まぁ、普通の人間じゃないってバレてるし普通に話すことにしよう。
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