多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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30 転移を起こせ!

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 この世界Sでの俺たちの方針が決まった。

 ・考えうる限りの転移トリガーを試す。
 ・転移発光物質を見付ける。

 これに沿って行動を決する。

「まず俺は、転移トリガーに専念しよう。たぶん存在確率を変動させれば転移するだろう。なるべくならレアじゃない方向を選びたいが贅沢は言ってられない。とにかく転移することが大切だ」

「それが順当ね。確率変動爆弾であるリュウの仕事よ。私も手伝う」

 メリスもやる気だ。てか、確率変動爆弾かよ。なんだか、最近俺の扱いが変わった気がする。

「そうだね。リュウと言えば転移だもんね。私も一緒に手伝う!」

 ユリもやる気だ。てか、同じ認識なんだ。俺、被害者なんだけど? 忘れてないよな?

「では、転移発光物質の探索については私が担当しましょう。生物関係にも詳しいですからね」とレジン。おお、そう言えばそうだった。
「では、私がレジンさんのサポートをしましょう」これはシナノだ。
「じゃ、私もレジンチームで」セリーも。

「必要により、確率を変動させそうなことが何かあれば追加で実行しましょう」

 レジンも確率変動爆弾のひとつだしな。
 てか、レジンのほうがデカいと思うのだが。体形が細いからといって誤魔化されてはいけない。

  *  *  *

 うまくチーム分けも出来たし、すぐ行動に移ることにした。
 ただ、この世界の事情も聞かなくては効率的に動けない。そこで、さっそくノブタダを呼んで聞いてみた。

 まずは食料だ。俺たちの世界の歴史で小氷期の飢饉に大活躍した食料がある。『ジャガイモ』だ。これがこの世界では見当たらなかった。これはマズいだろう。
 あれは確か南米原産で、大航海時代に広まったんだよな? 最近まで近代化が進まなかったということは、ジャガイモの伝来も遅れているのかも知れない。
 そうなると、『トウモロコシ』も伝わってないと思われる。どちらも、寒冷地でも育つ作物だった筈だから、これがないと飢饉がさらに大きくなる。
 とりあえず、俺はこれを探すことにした。

「苔ですか?」

 レジンが苔について質問したらノブタダは不思議そうに応えた。

「苔でしたら、どこにでもありますが……南の湿地帯などにも多くあるようです」

 苔など何に使うのかという顔をしている。まぁ、そうだよな。

 この世界の土地勘はないが、おおよその場所が分かれば後は何とかなる。俺たちはチームごとに行動を開始した。

  *  *  *

「なんで、ジャガイモとトウモロコシなの?」とメリス。
「えっ? いや欧州や日本でも小氷期の飢饉ではこの二つの作物があったから何とかなったらしいよ。歴史的な食物ってことだ」

「へぇ。良く知ってるわね」メリスはちょっと見直したような表情で言う。
「ふっふっふ。任せなさ~いっ」
「昨日、レジンに聞いたもんね」

 ユリ、そんな突っ込み要らないから。

「確かな奴がいるなら聞くべき」
「ふふ。で、どこに行くの?」とメリス。
「そうだなぁ。この世界は歴史的な流れが遅れてるみたいだから、直接原産地で調達しよう」
「原産地?」
「そう、インカ帝国だ!」
「えっ? 原産地ってインカ帝国なの?」
「いや、伝わったのがインカ帝国からってだけみたいだけど。既に作物として栽培してたらしい。あの辺りで探せば手に入るんじゃないかな?」
「シナノが言ってたよね」
「ユリ、だから細かい事はいいの!」
「ふふふ」

「あ、でもそれって私たちの世界の歴史でしょ? 行って手に入るのかな?」

 メリスが鋭い指摘をする。

「あっ」
「あ~っ」

「考えて無かったんだ」とメリス。
「いや、さすがに絶滅はしてないだろ?」
「そうよね」とユリ。
「知らないわよ」とメリス。
「祈ろう」
「祈りましょう」
「このチーム、研究者とは思えないわね」

 メリスが呆れて言った。

 何はともあれ、俺たち三人は旅立った。
 日本列島を北上して海峡を渡り海岸線に沿って移動した。このルートが意外と近い。流石に小氷期なので雪や氷に閉ざされた世界だが、防護スーツに保護されているので問題ない。流石に和服ではない。
 俺たちは、大陸の北からジャガイモとトウモロコシを探し始めた。

  *  *  *

 大陸の海岸に沿ってやや内陸部をゆっくりと南下した。
 初めはほとんが針葉樹林だったが次第に植生に変化が現れ、人の集落がいくつか見えるようになった。
 たぶん、この辺りで目的の作物が手に入るだろうと降りて調べてみることにした。
 どうも平野部の村では作物を育てているようだ。

「あのあたりの背の高い植物はトウモロコシじゃないかな。こっちの低いところはたぶんジャガイモだろう」

 季節的に収穫後なので見分けがつきにくい。

「私、トウモロコシが生っているところを見たことないのよね」とメリス。

 お前、良くそれで志願したな。

「わたしも~。ジャガイモの木ってどんなの?」あ、ユリもダメか。

 まさか、木からジャガイモがぶら下がってるとか思ってないよな?

 そんなアホな会話をしていたら、現地の住民に見つかったようだ。
 十数名ほどの民族衣装を身に着けた一団が現れた。見た感じ、どのくらい歴史がズレているか見当もつかない。

 そして、この一団は近くまでやって来たと思ったら膝まづいた。
 ああ、やっぱりか。そりゃ、空から降りて来たらこうなるな。ただ、この場合言葉が通じないからどうしようもない。

 黙って見ていたら祭壇のようなものを作りはじめた。
 そして、完成した祭壇に持って来た作物を乗せた。これ、お供えなのか? 収穫後だから沢山あるのか?
 見ると、お供えの品の中にトウモロコシとジャガイモが含まれていた。しかもトウモロコシは何種類もあるようだ。いきなりミッションコンプリートだ。
 ただ、この寒冷化の時代に貰うだけでは申し訳ない。
 俺は、物々交換用にと持ってきた大豆を供え物の代わりに置いた。すると、彼らは喜んで受け取って帰って行った。

「これ、もしかして新しい伝説が出来たんじゃないの?」

 メリスが彼らの後姿を見ながら言った。

「そうそう。たぶん、あり得ないことが起こった瞬間だよ」ユリも面白そうに言った。
「あ? そうか? まぁ、いいだろ」

 どうなるかは分からない。この土地でも厳しい時代が続いているだろうが多少変化が起こるかも知れない。

 そして、俺たちは帰途に就くのだった。
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