多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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49 藤原邸の中庭

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 翌日、朝廷の騒ぎがすっかり落ち着いたと報告を受けた。
 その成果に安堵するも、別の意味で緊張する俺たちだった。もうすぐ転移が来るかもしれない。

 俺たちはタダヨシの家の客間で中庭を眺めていた。

「綺麗な庭ね」とメリスが言った。
「ありがとうございます」ツウ姫2が嬉しそうに応えた。
「わらわの家とは違っているが、これはこれで良いのぉ」

「ん? どう違ってるんだ?」
「わらわの家の中庭は、枯山水なのじゃ」

 ほう。どういう心境の変化なんだろう? タダヨシにはタダヨシの人生があるからな。もしかして悟りを開いたんだろうか?

 そうしている間にも、朝廷からの知らせはポツポツと来ているようだった。

「あれ? そういや多重世界通信機って使えるんじゃないか?」俺は、ふと思い出した。
「え? どゆこと?」メリスが言った。
「だから、世界Sと同じってことは、世界Sで集めた転移発光セルが光ったんだろ? つまり、通信出来るじゃん」
「あっ」
「ほんとだ」
「気が付きませんでしたね」とレジン。

 まぁ、使う必要なかったからな。

  *  *  *

 実際に試してみたら確かに通信が復活していた。

「惜しかったわね。世界Sにツウ姫がいたら、今頃世界間で会話してたかもね」
「ああ、そうだな」
「じゃが、話すだけじゃつまらんのぉ」
「それもそうだね。それも、常時オンしてないと気が付かないだろな」
「ああ、そうですね! 呼び出し機能を付けましょう」

 レジンが改良してくれるようだ。無線機というより完全に電話だな。多重世界電話。

「あっ、そういえばこれ、誰かが使ってる可能性もあるんじゃなかったっけ? 傍受するとか言ってたけど。もしかして、呼ばれてた?」

「確かに、世界ゼロや世界Lから呼びかけてる可能性はありますね」
「他の世界も開発に成功してる可能性はあるしな」
「そうですね。通信方式は違うかもしれませんが、調べてみる価値はありますね」

「なにそれ。誰かが聞いてるの?」とメリスは嫌そうな顔をする。
「私のファンクラブが出来てしまうかも」と気の早いユリ。

「ま、まずは、常時待機の状態にしておきましょう」とレジン。

「脅迫されるかも」とメリス。
「ファンレターが来るかも」とユリ。
「そんなわけあるか!」

「じゃ、何が来るの?」とメリス。
「あ? そりゃ、やっぱ情報交換だよ。通信できる時点で、同レベルの技術を持ってるわけだし」
「そうよねっ!」メリスも同意。
「あああ~っ!」ユリ、驚きすぎ。

「転移を待ってるだけじゃなくて、これからは世界間で研究できるかもな!」

 まぁ、脅迫はともかく、勝手なことするなとか怒られる可能性はあるな。

  *  *  *

「ツウ姫2が、俺たちと一緒に寝たいって?」

 俺は、変な声を出してしまった。

「ち、違うのじゃ。みんなと一緒というか、わらわと一緒に寝たいとのことじゃ」
「なんだ、びっくりさせるなよ。ツウ姫、一緒に寝てあげればいいじゃないか」

「いえ、それはどうでしょう?」横からレジンが言った。
「何か問題でも?」
「ええ、もし一緒に転移するとしたら、なるべく近くに居たほうがいいと思います」とレジン。
「あっ。そうか。それはあるのか」
「そう言えば、最初の転移の時、メリスは私たちとは離れてたよね。通信が出来なければ見つからなかった可能性もある」ユリが言った。
「そうよね。部屋が離れてたからね」

「ああでも、位置関係はそのままなのかな?」
「そうみたいだけど、確実という訳ではないんじゃない?」とメリス。
「確かに、最初の時の私の場合は、もっと遠くにいましたね」とレジン。

「そうなのか。ただ、離れすぎると一緒に転移は無理だろうな?」
「そうですね。それを実験するのは早すぎると思います」とレジン。

「置いてけぼりはいやよね」とメリス。
「それ、完全に迷子じゃん!」とユリ。
「ええ、近くにいることは重要ですね」シナノも真剣な顔だ。
「そうです。怖いです!」とセリー。

「その後の転移で離れなかったのは、纏まって寝泊まりしていたからってこともあるわよねきっと」

 メリスは島への転移やハワイ王国のベッドを思い出してるようだ。

「私だけベッドの下だったことがありましたね。ある意味、危険だったとも言えます」とレジン。

 確かに、そんなこともあったな。ツウ姫に至っては、谷に落ちてたしな。

「ならば、ツウ姫2も皆と一緒にいたほうがよいのじゃな?」とツウ姫。

 ツウ姫2でいいのかよ。ただ、ツウ姫2本人は、まだ恥ずかしそうにしている。

「まだ、一緒に転移するって決まったわけじゃないけどな」
「でも、危険は冒せないしね」とメリス。
「そうだな。分かった。じゃあ、明日からそうするか? 今夜はツウ姫2の部屋で寝てやれよ」

 俺がそう言うと、ツウ姫2はほっとしたような表情をした。

「そうじゃの。分かったのじゃ」
「それでいか?」俺はツウ姫2に向かって言った。
「はい。よろしくお願いします」

 しかし、俺たちはその夜、転移してしまった。
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