薄い彼女/多重世界の旅人シリーズⅠ

りゅう

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14 学園村が目立ちすぎる

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 家電メーカーの時にも言ったが、俺が通っている大学は学園村にある。
 そう、ここはいわゆる学園都市である。

 学園都市と言うと有名な某所を思い浮かべるが、それとは全く様子が違う。
 そんな、目立つ場所ではない。無名の都市だし、学生も少ない。企業も系列しか存在しない。
 それでも、保育園から大学院まである一貫教育なのだが、何処にでもある普通のものが、たまたま集まっただけという規模である。
 あくまで『村』なのだ。決して『都市』ではない。
 しかも、山奥にあるので学校自体はあまり人気がない。大都会ではなくても、それなりに便利な場所にないと人気が出ないようだ。
 まぁ、一族の関係者が通っているだけなので問題はない。

 だがそうは言っても、完全に外部の人間を排除してしまうと逆に目立ってしまうので、適当に外部の人間も入れている。
 俺はその適当な人間の一人だったわけだ。いろいろ知ってるのは、既に一族に迎えられ内情を教えられたからだ。

 それはともかく、ここには大学院だけでなく中央研究所もあるし、家電メーカーを装った高度生産拠点もある。こじんまりまとまっていて効率も良く俺は気に入っている。
 ただ、研究所の発表も微妙だし生産する商品も微妙というのが一般の評価だ。もちろん、それこそが予定通りであり、この学園村の目標なのである。

 だが、予定通りに行かないことは起こってしまうものだ。

「この学園が目立ち過ぎるんですか?」

 共感定期便で未来に来た俺は、意次の話を聞いて妙な声を上げてしまった。
 決してお茶を吹いたりはしていない。そんな、間抜けなエージェントはいない。あくまで、ちょっと声が上ずっただけだ。気にする必要はない。

「何を驚いている。これは重要なことだぞ」意次は当然のようにいう。

 彼の背後には社訓『なるべく穏便に、波風立てないように』が堂々と掲げてある。まだあるんか。

 それはともかく、普通なら村おこしとかで街を宣伝するところなのだが、俺たちの場合は逆になる。
 目立ってはいけないのだ。ベクトルが逆なのだ。

「ですよね~っ」
「何も失敗していないのに、目立ってしまって困っているわけだ。なんとかしてくれと泣き付かれた」

「そうですか。やっぱり騒がれる前に戻って対策するんですよね」
「そうだ。よろしく頼む」
「分かりました」

 俺は、さっそく共感遷移で過去に飛んだ。

  *  *  *

 目的地は、もちろん俺達の学園村である。俺は十年未来の探偵社から三年未来の学園村へと遷移した。

 実は、この学園村には発電所がある。
 山の中の学園村なので電力を引くのに苦労するからだ。延々と高圧線を引いたりすると災害時に簡単に電気が止まってしまう。学園村としてはあってはならないことだ。特に研究施設で電力が切れるのは死活問題だ。
 そういうわけで、学園村内に自前の発電所を持っている。

 自前で発電所を持っているので電気代は当然安い。
 実は、核融合発電しているので幾らでも使えるのだが、そんな目立つ発表は出来ないので普通に火力発電していることになっている。
 まぁ、実際にガス田を発見したので、このガスを使って発電しているのも事実である。

 ただ、この安い電気代が問題になった。
 電気代がタダ同然なので、この電力を使った完全自動化温室栽培の食材が非常に安価に提供された。つまり電気代に加え食費もタダ同然になってしまった。おまけに、微妙な見た目の家電品も安いときた。あくまで他から見たらの話だが。
 つまりこの学園村は、とても住みやすかった。というか、異常に生活費が安かった。

 これが、どうも気に入らなかったようだ。
 というか、異常に目立ってしまった。なぜ俺達の街の電気代は高いのだ、なぜ俺達の街の食費は高いのだと騒ぎになってしまったのだ。
 よく調べれば当然だと分かるのだが、本当かどうか調査されるのは困る。

 また、例え理由が分かったとしても、自分たちで同じように出来ないとなると、こちらに矛先が向くのは目に見えている。
 実際、絶対に同じにはならないからな。妬み嫉みは理屈なく残るのだ。これはマズい。

 緊急事態ということで村長と村役場の担当者が呼ばれた。

「要するに、もっと目立たない値段に値上げしろと?」と村長が嘆いた。
「そうです。このままですと高圧線を引いて、他の地域にも電気を売らないといけなくなりそうです。下手をすると日本中の電力を供給することになります」渉外担当者が焦って言った。

「そんな! それでは一大企業になってしまいます。わ、分かりました。高くする分には問題無いでしょう」と村長。
「その分、給料を増やしましょう」と経理担当。

 金ならあるんだと言わんばかりだ。

「給料が高くなり過ぎませんか?」村長は、先を見越して言った。
「そうですね。適当に手当に分散しますか。僻地手当を導入しましょう」と経理担当。

 どうも本気らしい。全社僻地だけど?

「企業向けはどうします?」と村長。
「企業は系列の電力事業なので安くて当たり前ですが、高くしたとしても問題にはならないでしょう」

 単に関連企業の一部門に金が回るだけだからな。まぁ、収益が上がって目立ちそうだが。

 しかし、エネルギー料金が安く技術力が高いので、どうやっても他の地域と比較すると勝ってしまうのが悩みの種だ。かといってサービスや品質を下げるなど言語道断だと主張する御仁ばかりなのだ。
 本当に解決策を出せるのか、かなり怪しい。

 一連のやり取りを聞いていたが、俺は単なる共感定期便だ。頑張って対策が決まるまで待つしかない。

「それでは、対策が決まりましたら連絡してください」

 そう言って帰ろうとした。

「ちょっと、君」

 ふと、村長に呼び止められた。

「もしかして、君はあのエージェント神岡君では?」誰だそれ? あの?

「はい神岡です。まだ、エージェントになったばかりの駆け出しですが」
「ん? おお、そうか。君でも最初は共感定期便をやるのですね!」

 村長、妙に感心している。

「あ、失礼。もう、この時代では、あなたは有名なので。御引止めしてすみません」村長、妙に丁寧だ。
「そ、そうなんですか」

 そんなこと言われても、俺には分からないんだけど?

「あ、ちなみに、君ならどうしますか?」と村長。定期便に意見を聞くのかよ。
「えっ? いや、単なる定期便なので、意見はありません」

 責任問題になったら困るしな。思わず意次の顔が浮かぶ。

「そうでしたな。では、個人的にはどうでしょう?」村長、食い下がる。

「さぁ? 噂をする外の人が来ても、バカバカしいほど田舎だったらすぐ帰るんじゃないでしょうか」と俺は無責任なことを言う。
「ほぉ。つまり、村ごと偽装しろと」と村長。

 いや、そこまでは言ってません。それ村長の発案です。

「それは、いいですね。ホテルなども止めて、ひなびた旅館にしましょう」と渉外担当。

 何故か妙に嬉しそう。子供がおもちゃを貰ったような顔をしている。

「いいですね。電波もつながりにくいところにアンテナを立てましょう」と開発担当。

 意味不明。不便な場所を選ぶのかよ。

 もともと社内通話用のアンテナは別にあるので問題ないとのこと。
 それに村内では異常に発達した特殊な通信機を使っていることが多いらしい。

「なるほど。技術が進み過ぎて、昔の電話は使ってないんですね」思わず言った。
「そうか! 思いっきり進んだ技術を使えばいいんだ! 外から来た人間にはローテクにしか見えないようにしてしまえばいいんですね!」と技術担当。

 異常にやる気出してるし。俺、そんなことは言ってないと思います。

「なるほど、ただのローテクでは村民が困りますからね。想像も出来ない未来形にしてしまいましょう」これは開発担当だ。

 普通、それ出来ないんだけど。どうも、彼等は出来るらしい。
 既に現状でも、かなりローテクに抑えているフシがある。つまり、技術者としては、ローテクの製品を作らされて腐っていたのかも。それが、いきなり最新の設計をしていいと言われたら張り切るわな。

「おお、いいじゃないか!」と技術担当。
「もう、村全体の見かけも古びた廃村にしちゃいましょう。中身が最新だと突っ込まれたら、レトロ趣味だと言えばいいんです!」と生活担当。

 なんで、そんなにノリノリなの?
 廃村はないよ廃村は! 人は住むんだからね? そこんとこよろしくね!

「うん。そうだな! それで行こう!」と村長。

 本気らしい。あくまで見かけだよね?

「いいアイデアをありがとう。やはり、君に聞いて正解でしたな! はっはっは」

 村長は俺に向かって言った。
 そうですか。知りません。

「あ、勿論、先ほどの対策も実施しますよ。ご心配なく」

 俺が微妙な顔をしていたら村長は付け加えるように言った。

「ですが、確かに大事なのは情報源ですからね。この村に来た人間が侮るようなら、問題にされる危険も減るでしょう」
「はぁ」
「大変参考になりました。エージェント神岡殿」

 そう言って村長は見送ってくれた。

 まぁ、結果うまくいったので、いいのだが。
 それにしても俺、この時代で何しでかしたんだろう?

  *  *  *

「今の時代の俺が知ってる訳ないだろう!」戻った神海探偵社のボス、意次が言った。
「ですよね~っ」
「あははっ」と麗華。ちょっと、酷いんじゃないか?
「うふふ」と希美。

 でも、未来のボスと連絡してたような。
 たぶん知ってて黙ってるよな。まぁ、必要以上に情報を拡散しないことが俺たち共感エージェントのセオリーでもあるのだけど。
 なんか、後で苦労する気がする。
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