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黎明編
8 魔力と神力を試す
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翌日、俺は昼頃まで寝ていた。
ニーナは朝食の準備があるからと、まだ暗いうちに帰っていった。まぁ、魔法覚醒したら、それどころじゃないんだが。
そんなことをぼうっと考えていたら、神界から呼び出しがかかった。
ー リュウジ聞こえる?
突然頭の中にアリスの声が響いた。
ー いきなりかよ。ピンポーンとかないのかよ。
ー ピンポーン
ー もういいよ。それでなんだよ。世間話する気じゃないんだろ?
ー そうそう、神力だけど。
ー お、回復したのか? もう使えるのか?
ー それが、どうも使えないみたいなの。
ー どういうこと?
ー それがね。私は神力がすぐ戻ったんだけど、リュウジに神力を流そうとしても、なかなか流れていかないのよ。なんか詰まってるみたい。
ー 人を排水口みたいに言うな。
ー この通信もやっと繋がったのよ。
ー うん? なんだ、神力流せないって……あ、もしかして魔法覚醒したからか? 魔力が邪魔してるのか?
ー たぶんね。それしか考えられないの。お姉さまや他の神様にも聞いてみたんだけど、使徒が魔法覚醒するなんて前代未聞の事で分からないのよ。逆に、詳しく情報教えてとか言われちゃうし。
ー モルモットかよ。
ー それで、魔力はどう? 使ってる? 何か変わったことない?
ー ああ、神力が戻ると思ったから魔力は使ってないな。使ったほうが良かったか?
ー それは分からない。これは仮説でしかないけど、魔法を使い切って魔力切れしたところに神力を流せば元に戻るかも知れないって。
ー ほんとかよ。まぁ、試してもいいけど、大丈夫なんだろうな?
ー だから、分からないわよ。だめそうなら、無理にとは言わない。
ー 俺、初心者なんだけど。
ー そうだけど。とりあえず、神力はいつでも流せるようになってるから。
ー とにかく、魔力切れ起こせばいいんだな?
ー そうね。
ー わかった。こっちから連絡する必要は?
ー 神力が戻れば出来るんだけど、今はまだ無理ね。
ー ああそうか。じゃ、そっちからの連絡を待ってる。
ー 了解。なるべく、お邪魔虫しないようにするからね。
ー やかまし~わ!
とりあえず明日、魔力切れを試してみることにした。
* * *
翌朝も、まだニーナは魔法覚醒出来なかった。もう、ニーナには諦めるよう言ったほうがいいかも。
「なぁ、もう魔法覚醒は無理なんじゃないか?」
ベッドで、まだちょっとまどろんでいるニーナに言った。
「そうなの……かな? 何か足りないのかも?」
「まぁ、どうやって魔法覚醒したのかがはっきりしてないから分からないな」
「周りに魔法使い居なかったの?」
神力枯渇した女神様なら居た。あれ? 女神様の影響で魔法使いになった? 前代未聞って言ってたし違うか。
「記憶にないな。とりあえず、エッチした覚えはないんだが」
「ちょ、全員エッチして覚醒してるわけじゃないから、効率がいいかと思っただけだから」
ニーナはちょっと睨んで見せた。
「あはは。わかったよ」
しかし、自分で体験しているくせに理由が分からないっていうのは気持ちが悪いものだ。
「なんで魔法覚醒したのか分からんが、魔法使いになるとその状態が続くんだよな~。魔法の力って、どこに獲得するんだろ?」
「不思議よね」
「うん。まるで魔法と共生してるみたいだ」
共生なら、皮膚とか口とか、もしかして腸内細菌とか? 乳酸菌かよ。
「きょうせい?」
「うん? ああ、人間って人間のためになる微生物を体に飼ってるんだよ。皮膚の表面とかにな。お互いにメリットがある。そういうものの一種なのかも」
「へぇ~。なんか、難しいこと知ってるんだね。リュウジは偉いなぁ。もしかして、学者さん?」
「ああ、まぁ、ちょっと聞きかじっただけだよ。さすがに考えすぎかな。微生物に魔力はないか」
「微生物ねぇ」
「あくまで可能性の話だ」
「ふ~ん。魔力ないから実感沸かないけど。その微生物は人の体から栄養を貰うの?」
「多分な」
「ということは、覚醒しないのは微生物に嫌われてるってことなの?」
「かもな。だから諦めも必要だと思う」
「うん、分かってる。簡単じゃないよね。でも、可能性はまだありそうだよね」
* * *
この日、俺たちは街の外に出て魔法を試してみることにした。
俺は魔法を思いっきり使って魔力切れを起こす必要がある。その時どうなるか分からないのでニーナにも付いて来てもらうことにした。
念のため馬車も用意した。最悪、倒れた俺を運んでもらう必要があるかもしれない。
街の外の岩場でちょっと開けた場所を探して、そこで実験することにした。
「魔法は、まだ、あまり慣れてないんでしょ?」
「うん、まぁ、多少は経験ある」
あ、魔法を会得したばっかりで経験あるはずないか。本で読んだことにしよう。
「本で読んだことを、空に向かって試してみたんだよ」
「本で?」
「そう。あっ、あの岩に試してみるから、少し後ろにさがってて」
「え、ええ。わかった」
ニーナは何か腑に落ちない顔をしたがかまわず、熱線を撃つために良さそうな大きめの岩に狙いを定めた。神力と同じで詠唱は要らないと思う。ただ、脳内のリストが出ないからちょっと不安だ。
ま、軽く撃ってみるか。防御フィールドも張って、その先から熱線を出すイメージ。
「エナジービーム」
チュドーン
軽くなかった。岩は思いっきり爆発した。おいおい。
これは、単なる熱線ではないのかも知れない。ニーナは、あんぐり口開けてるし。ネーミングがいまいちなんだよなぁ、などという思いもどこかへ吹っ飛んだ。
「あれれ? なんで、こんなに強力なんだ?」
「し、師匠……凄いです。な、何ですかあれ? 凄すぎます。ビビりました。何なんですかあれ?」
ニーナは、半ばパニくって同じこと言ってる。
「ほ、ほんとだな。俺も知らなかったが」
「え? あれ、初めて撃ったんですか?」
「ああ、だから空に向かって撃ったから分からなかった。軽く撃ったつもりだったんだが。思ったより凄かった」なんで俺、言い訳してるんだろ?
「凄いです。っていうか、こ、怖いですぅ。なんか、わたし震えちゃってます」
「だよな。けど、なんかまだ余裕で撃てそうなんだけど」
「え~っ。これ以上やったら、ダメですよ。ええ、絶対だめです。絶対、許されません。もう、世界が壊れちゃいます。みんな死んじゃいます」
「いや、そこまで酷くないだろ。けど、じゃぁビームは止めて別の魔法を試そうか。そうだ飛んでみよう」
俺は、危険な攻撃魔法を一旦やめて、神力で経験した別の力を試すことにした。
「まず、軽く浮く」すーっと、体が浮いた。
「し、ししょ~っ。す、凄ーい。う、浮いてます。浮いてます~っ」うん、知ってる。
「おお、出来たか。じゃ防御フィールドを張って飛んでみる」
神力と同じように加速してみた。問題ない。すーと飛ぶ。なぜか、手が前に出る。これはあれだ、スー〇ーマンじゃなくて、落ちたときに手で支えたいからだと思う。キットそうだ。
決して床に手を当ててクロマキーしてるわけではない。片手でも飛べる。ぶっちゃけ逆立ちしてても飛べるんだがカッコ悪いからやらない。
防御フィールドを前方に展開しようとすると、手を先に出したほうが前方に展開出来てなんとなく安心するってのはある。
ニーナの近くにスーッと降りてきたら、ニーナがおかしくなっていた。
「し、ししょ~っ。も、もう、最高です~。もう、これが出来るんだったら、わたしの大事なものあげます!」
「いや、いろいろ貰ってると思うが?」
「えっ? じゃ、ちょっと返してください」
「いや、どうやって返すんだよ」
「魔力付きの、キスでいいです」
「あ~、それ今やると火を噴きそうなんだけど」
「熱すぎるキスですか」
「うん、少し冷ましたほうがいい」
「お茶みたいなキスですね」
「午後のお茶はキスの前に」
「どうしてですか?」
「えっ? 後だと冷たく感じるだろ?」
「ししょ~でも、そういうこと言うんだ」
* * *
「でも、こんなにすごい魔法見たの初めてです。普通、ちょっと火を出せるとか。水を出せるとかでも大変なんです。それが、物凄い熱線出すとか、まさか空まで飛べるなんて、思ってもみませんでした。っていうか、こんな事出来るんですね。いきなり、どうして出来るんですか? もう師匠ってば天才です。伝説級です。神様です」
あ、ニーナさん、それちょっと真実かすってます。
「えっ? それは大げさだよ。まぁ、魔法の予備知識があったのは確かだな」
どうも、この世界の魔法は、それほど強力じゃないらしい。いや、よく考えるとチートする話のほうがおかしいんだけどね。
とすると、これって多分神力の影響だよな~っ。神力に抵抗しようと魔力が変化してるのかもしれない。それで、神力とおなじような方法で扱えるのかも。となると、逆にやばいんじゃないか? このままだと神力を回復できないかも。
ああ、でも魔力が強くなればそれなりにチートできるし、女神様の神力は制限されるかもだけど、自前の魔力が制限されないなら逆に俺にとってはいいのか? 自由にできるのか? 何でもアリの俺様ルールで生きていけるのか?
「このぶんだと全力を試すためには、ちょっと遠くへ行かないとダメかもな」
俺は、自分の魔力を試しておく必要性も感じた。
「ま、まだやるんですか?」
「うん、ちょっとどこまで出来るか試してみたいんだ」
「この辺で試したら怒られちゃいますよ」
「うん、だからもうちょっと離れようかと。ニーナ、馬車に乗ってくれないか?」
「え? はい」言われてニーナは馬車に乗った。
「でも、リュウジはどうするの?」
「いや、俺も乗るよ。こうして、あ、ニーナ馬車につかまって」
「あ、はいいいいいぃぃぃぃぃ……」
俺はニーナを馬車に乗せたまま浮かせた。ニーナも大騒ぎだが、馬はもっと大騒ぎだ。なにしろ、いきなり説明もなく宙に浮いたのだ。ごめん、馬語は話せない。
それでも、足をつくようにフィールドを展開してやったら落ち着いた。気を失うかとも思ったが、この馬、中々肝が座ってる。もっとも、さっきから俺たちの様子を見ていたのだから心の準備が出来たのかも。熱線は理解不能でも俺が飛んだのは見ていた筈。それなりに納得したのか?
まぁ、単なる思考停止かもしれないが。どことなく、トナカイの橇を思い出してたりする俺だった。
それより、ニーナだ。御者席の俺に後ろからがっしりしがみ付いて離そうとしない。
「い、痛いよニーナ」
「無理です、離しません。ええ、離しませんとも」
仕方なく、そのまま飛ぶことにした。
「あれ? でも目を開いてられるんだから大したもんだよ」
「えっ? そうですか。そういえば、なんだか少し慣れてきました。ああ、凄い景色。こんなの普通一生見られませんね」
「馬と言いニーナと言い、順応早すぎ」
「馬と一緒にしないでください」
* * *
「あ、あのあたりなら、誰もいないからよさそうだな」岩山が連なる荒地に深い渓谷が刻まれていた。
「そうですね。あそこは、確か地獄谷って呼ばれてる場所です」
「ほう、地獄谷とは凄い名前だ。何か謂れがあるのか?」
「生きて帰れないとか。誰も近づきません」
「マジか。じゃぁ、生きて帰れるように谷に入る手前で馬車を下そう」
「そうしましょう」
俺は、街道から分かれた細い道に馬車を下した。これは地獄谷へ続いている道なんだろうか?
「よし、ここから全力で熱線撃ってやる」
「間に小さい岩山が一つありますけど」ニーナは、まだちょっと震えながら言った。
「かまわない。別に、地獄谷に届かなくてもいいんだ」
「そうですね」
「ちょっと、岩が飛んでくるかもしれないから、そのまま馬車に乗ってろよ。防御フィールドを張るから問題ない」
「よ、よくわからないですけど、師匠を信用してます」
「じゃ、いくぞ」
「はい」
「極大エナジービーム」
俺は思いっきり強い熱線をイメージして撃った。
魔力を使い切るためだからだ。腕の先、防御フィールドの少し先から太い高熱のエナジービームが飛び出した。ビームは、ばりばりという雷鳴のような轟音を伴って直進し、岩山を砕き、地獄谷の壁面を砕き、さらに先の大きな山をも穿って山の反対側の空まで伸びていった。
「あああああああ。し、ししょーっ」ニーナが絶叫していた。
「あちゃー、こりゃ凄いな」
「あぁぁぁぁぁ、もう、ししょーっ、凄いなんて言ってる場合じゃありません。まだ反響が響いてます。これ、災害級です。やばいです。逃げたほうがいいです。絶対捕まります。わたし知りませんからね。どうすんですか?」
「おまえ、なにげに酷いこと言ってるぞ。まぁ岩山で火災にはなってないし、溶けた岩もほっときゃ固まるから大丈夫だろ。ついでだから、もう二、三発撃っとこう」
バリバリバリバリ バリバリバリバリ
「ししょ~っ、ししょ~っ。もうだめです」ニーナ、叫ぶ声がちょっと枯れてる。
「まぁ、こんなもんか。まだ撃てそうだけど」
「もうだめです。手前の岩山、完全に砕けちゃって平地になってます」
「別に、無くてもいいだろ」
「地獄谷、崩れて埋まって谷じゃ無くなってます」
「危険な谷が無くなって、逆にありがたいだろ」
「そういうもんですか?」
「そういうことにしよう。みんなのために、谷を埋めました」
「し、師匠」
「聞かれたらそう言おう。どうせ、この力があることは知られるだろうし」
「そうですね。そんな師匠を敵に回す人はいないと思いますけど」
「そういやそうだな。じゃ、強気で行こう」
強硬路線で行くことに決定したので、それはいいとして。問題は魔力が切れてないってことだ。
「まだ、魔力切れしてないな」
魔力がちょっと減った感じがして、神力が多少増えたような気もするが、よくわからない。
「師匠、どこまでチートなんですか。もう、惚れちゃいます」
「だから、惚れてもやること一緒なんだろ?」
「違いますよ~っ。一品増えます」
「ああ、じゃ今日の夕食は楽しみにしとこう」
「はい、師匠」
いきなり、バカップル状態で帰ることに。帰りは馬が可哀相だし途中で魔力切れして落ちても困るので、普通に馬車として帰った。
それにしても、馬車はやっぱり遅いな。自分一人だけなら飛べばいいが、ニーナとか他の人を連れて遠出する時の乗り物を考えたほうがいいかも知れない。魔力切れの心配もいらないような。
ニーナは朝食の準備があるからと、まだ暗いうちに帰っていった。まぁ、魔法覚醒したら、それどころじゃないんだが。
そんなことをぼうっと考えていたら、神界から呼び出しがかかった。
ー リュウジ聞こえる?
突然頭の中にアリスの声が響いた。
ー いきなりかよ。ピンポーンとかないのかよ。
ー ピンポーン
ー もういいよ。それでなんだよ。世間話する気じゃないんだろ?
ー そうそう、神力だけど。
ー お、回復したのか? もう使えるのか?
ー それが、どうも使えないみたいなの。
ー どういうこと?
ー それがね。私は神力がすぐ戻ったんだけど、リュウジに神力を流そうとしても、なかなか流れていかないのよ。なんか詰まってるみたい。
ー 人を排水口みたいに言うな。
ー この通信もやっと繋がったのよ。
ー うん? なんだ、神力流せないって……あ、もしかして魔法覚醒したからか? 魔力が邪魔してるのか?
ー たぶんね。それしか考えられないの。お姉さまや他の神様にも聞いてみたんだけど、使徒が魔法覚醒するなんて前代未聞の事で分からないのよ。逆に、詳しく情報教えてとか言われちゃうし。
ー モルモットかよ。
ー それで、魔力はどう? 使ってる? 何か変わったことない?
ー ああ、神力が戻ると思ったから魔力は使ってないな。使ったほうが良かったか?
ー それは分からない。これは仮説でしかないけど、魔法を使い切って魔力切れしたところに神力を流せば元に戻るかも知れないって。
ー ほんとかよ。まぁ、試してもいいけど、大丈夫なんだろうな?
ー だから、分からないわよ。だめそうなら、無理にとは言わない。
ー 俺、初心者なんだけど。
ー そうだけど。とりあえず、神力はいつでも流せるようになってるから。
ー とにかく、魔力切れ起こせばいいんだな?
ー そうね。
ー わかった。こっちから連絡する必要は?
ー 神力が戻れば出来るんだけど、今はまだ無理ね。
ー ああそうか。じゃ、そっちからの連絡を待ってる。
ー 了解。なるべく、お邪魔虫しないようにするからね。
ー やかまし~わ!
とりあえず明日、魔力切れを試してみることにした。
* * *
翌朝も、まだニーナは魔法覚醒出来なかった。もう、ニーナには諦めるよう言ったほうがいいかも。
「なぁ、もう魔法覚醒は無理なんじゃないか?」
ベッドで、まだちょっとまどろんでいるニーナに言った。
「そうなの……かな? 何か足りないのかも?」
「まぁ、どうやって魔法覚醒したのかがはっきりしてないから分からないな」
「周りに魔法使い居なかったの?」
神力枯渇した女神様なら居た。あれ? 女神様の影響で魔法使いになった? 前代未聞って言ってたし違うか。
「記憶にないな。とりあえず、エッチした覚えはないんだが」
「ちょ、全員エッチして覚醒してるわけじゃないから、効率がいいかと思っただけだから」
ニーナはちょっと睨んで見せた。
「あはは。わかったよ」
しかし、自分で体験しているくせに理由が分からないっていうのは気持ちが悪いものだ。
「なんで魔法覚醒したのか分からんが、魔法使いになるとその状態が続くんだよな~。魔法の力って、どこに獲得するんだろ?」
「不思議よね」
「うん。まるで魔法と共生してるみたいだ」
共生なら、皮膚とか口とか、もしかして腸内細菌とか? 乳酸菌かよ。
「きょうせい?」
「うん? ああ、人間って人間のためになる微生物を体に飼ってるんだよ。皮膚の表面とかにな。お互いにメリットがある。そういうものの一種なのかも」
「へぇ~。なんか、難しいこと知ってるんだね。リュウジは偉いなぁ。もしかして、学者さん?」
「ああ、まぁ、ちょっと聞きかじっただけだよ。さすがに考えすぎかな。微生物に魔力はないか」
「微生物ねぇ」
「あくまで可能性の話だ」
「ふ~ん。魔力ないから実感沸かないけど。その微生物は人の体から栄養を貰うの?」
「多分な」
「ということは、覚醒しないのは微生物に嫌われてるってことなの?」
「かもな。だから諦めも必要だと思う」
「うん、分かってる。簡単じゃないよね。でも、可能性はまだありそうだよね」
* * *
この日、俺たちは街の外に出て魔法を試してみることにした。
俺は魔法を思いっきり使って魔力切れを起こす必要がある。その時どうなるか分からないのでニーナにも付いて来てもらうことにした。
念のため馬車も用意した。最悪、倒れた俺を運んでもらう必要があるかもしれない。
街の外の岩場でちょっと開けた場所を探して、そこで実験することにした。
「魔法は、まだ、あまり慣れてないんでしょ?」
「うん、まぁ、多少は経験ある」
あ、魔法を会得したばっかりで経験あるはずないか。本で読んだことにしよう。
「本で読んだことを、空に向かって試してみたんだよ」
「本で?」
「そう。あっ、あの岩に試してみるから、少し後ろにさがってて」
「え、ええ。わかった」
ニーナは何か腑に落ちない顔をしたがかまわず、熱線を撃つために良さそうな大きめの岩に狙いを定めた。神力と同じで詠唱は要らないと思う。ただ、脳内のリストが出ないからちょっと不安だ。
ま、軽く撃ってみるか。防御フィールドも張って、その先から熱線を出すイメージ。
「エナジービーム」
チュドーン
軽くなかった。岩は思いっきり爆発した。おいおい。
これは、単なる熱線ではないのかも知れない。ニーナは、あんぐり口開けてるし。ネーミングがいまいちなんだよなぁ、などという思いもどこかへ吹っ飛んだ。
「あれれ? なんで、こんなに強力なんだ?」
「し、師匠……凄いです。な、何ですかあれ? 凄すぎます。ビビりました。何なんですかあれ?」
ニーナは、半ばパニくって同じこと言ってる。
「ほ、ほんとだな。俺も知らなかったが」
「え? あれ、初めて撃ったんですか?」
「ああ、だから空に向かって撃ったから分からなかった。軽く撃ったつもりだったんだが。思ったより凄かった」なんで俺、言い訳してるんだろ?
「凄いです。っていうか、こ、怖いですぅ。なんか、わたし震えちゃってます」
「だよな。けど、なんかまだ余裕で撃てそうなんだけど」
「え~っ。これ以上やったら、ダメですよ。ええ、絶対だめです。絶対、許されません。もう、世界が壊れちゃいます。みんな死んじゃいます」
「いや、そこまで酷くないだろ。けど、じゃぁビームは止めて別の魔法を試そうか。そうだ飛んでみよう」
俺は、危険な攻撃魔法を一旦やめて、神力で経験した別の力を試すことにした。
「まず、軽く浮く」すーっと、体が浮いた。
「し、ししょ~っ。す、凄ーい。う、浮いてます。浮いてます~っ」うん、知ってる。
「おお、出来たか。じゃ防御フィールドを張って飛んでみる」
神力と同じように加速してみた。問題ない。すーと飛ぶ。なぜか、手が前に出る。これはあれだ、スー〇ーマンじゃなくて、落ちたときに手で支えたいからだと思う。キットそうだ。
決して床に手を当ててクロマキーしてるわけではない。片手でも飛べる。ぶっちゃけ逆立ちしてても飛べるんだがカッコ悪いからやらない。
防御フィールドを前方に展開しようとすると、手を先に出したほうが前方に展開出来てなんとなく安心するってのはある。
ニーナの近くにスーッと降りてきたら、ニーナがおかしくなっていた。
「し、ししょ~っ。も、もう、最高です~。もう、これが出来るんだったら、わたしの大事なものあげます!」
「いや、いろいろ貰ってると思うが?」
「えっ? じゃ、ちょっと返してください」
「いや、どうやって返すんだよ」
「魔力付きの、キスでいいです」
「あ~、それ今やると火を噴きそうなんだけど」
「熱すぎるキスですか」
「うん、少し冷ましたほうがいい」
「お茶みたいなキスですね」
「午後のお茶はキスの前に」
「どうしてですか?」
「えっ? 後だと冷たく感じるだろ?」
「ししょ~でも、そういうこと言うんだ」
* * *
「でも、こんなにすごい魔法見たの初めてです。普通、ちょっと火を出せるとか。水を出せるとかでも大変なんです。それが、物凄い熱線出すとか、まさか空まで飛べるなんて、思ってもみませんでした。っていうか、こんな事出来るんですね。いきなり、どうして出来るんですか? もう師匠ってば天才です。伝説級です。神様です」
あ、ニーナさん、それちょっと真実かすってます。
「えっ? それは大げさだよ。まぁ、魔法の予備知識があったのは確かだな」
どうも、この世界の魔法は、それほど強力じゃないらしい。いや、よく考えるとチートする話のほうがおかしいんだけどね。
とすると、これって多分神力の影響だよな~っ。神力に抵抗しようと魔力が変化してるのかもしれない。それで、神力とおなじような方法で扱えるのかも。となると、逆にやばいんじゃないか? このままだと神力を回復できないかも。
ああ、でも魔力が強くなればそれなりにチートできるし、女神様の神力は制限されるかもだけど、自前の魔力が制限されないなら逆に俺にとってはいいのか? 自由にできるのか? 何でもアリの俺様ルールで生きていけるのか?
「このぶんだと全力を試すためには、ちょっと遠くへ行かないとダメかもな」
俺は、自分の魔力を試しておく必要性も感じた。
「ま、まだやるんですか?」
「うん、ちょっとどこまで出来るか試してみたいんだ」
「この辺で試したら怒られちゃいますよ」
「うん、だからもうちょっと離れようかと。ニーナ、馬車に乗ってくれないか?」
「え? はい」言われてニーナは馬車に乗った。
「でも、リュウジはどうするの?」
「いや、俺も乗るよ。こうして、あ、ニーナ馬車につかまって」
「あ、はいいいいいぃぃぃぃぃ……」
俺はニーナを馬車に乗せたまま浮かせた。ニーナも大騒ぎだが、馬はもっと大騒ぎだ。なにしろ、いきなり説明もなく宙に浮いたのだ。ごめん、馬語は話せない。
それでも、足をつくようにフィールドを展開してやったら落ち着いた。気を失うかとも思ったが、この馬、中々肝が座ってる。もっとも、さっきから俺たちの様子を見ていたのだから心の準備が出来たのかも。熱線は理解不能でも俺が飛んだのは見ていた筈。それなりに納得したのか?
まぁ、単なる思考停止かもしれないが。どことなく、トナカイの橇を思い出してたりする俺だった。
それより、ニーナだ。御者席の俺に後ろからがっしりしがみ付いて離そうとしない。
「い、痛いよニーナ」
「無理です、離しません。ええ、離しませんとも」
仕方なく、そのまま飛ぶことにした。
「あれ? でも目を開いてられるんだから大したもんだよ」
「えっ? そうですか。そういえば、なんだか少し慣れてきました。ああ、凄い景色。こんなの普通一生見られませんね」
「馬と言いニーナと言い、順応早すぎ」
「馬と一緒にしないでください」
* * *
「あ、あのあたりなら、誰もいないからよさそうだな」岩山が連なる荒地に深い渓谷が刻まれていた。
「そうですね。あそこは、確か地獄谷って呼ばれてる場所です」
「ほう、地獄谷とは凄い名前だ。何か謂れがあるのか?」
「生きて帰れないとか。誰も近づきません」
「マジか。じゃぁ、生きて帰れるように谷に入る手前で馬車を下そう」
「そうしましょう」
俺は、街道から分かれた細い道に馬車を下した。これは地獄谷へ続いている道なんだろうか?
「よし、ここから全力で熱線撃ってやる」
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「かまわない。別に、地獄谷に届かなくてもいいんだ」
「そうですね」
「ちょっと、岩が飛んでくるかもしれないから、そのまま馬車に乗ってろよ。防御フィールドを張るから問題ない」
「よ、よくわからないですけど、師匠を信用してます」
「じゃ、いくぞ」
「はい」
「極大エナジービーム」
俺は思いっきり強い熱線をイメージして撃った。
魔力を使い切るためだからだ。腕の先、防御フィールドの少し先から太い高熱のエナジービームが飛び出した。ビームは、ばりばりという雷鳴のような轟音を伴って直進し、岩山を砕き、地獄谷の壁面を砕き、さらに先の大きな山をも穿って山の反対側の空まで伸びていった。
「あああああああ。し、ししょーっ」ニーナが絶叫していた。
「あちゃー、こりゃ凄いな」
「あぁぁぁぁぁ、もう、ししょーっ、凄いなんて言ってる場合じゃありません。まだ反響が響いてます。これ、災害級です。やばいです。逃げたほうがいいです。絶対捕まります。わたし知りませんからね。どうすんですか?」
「おまえ、なにげに酷いこと言ってるぞ。まぁ岩山で火災にはなってないし、溶けた岩もほっときゃ固まるから大丈夫だろ。ついでだから、もう二、三発撃っとこう」
バリバリバリバリ バリバリバリバリ
「ししょ~っ、ししょ~っ。もうだめです」ニーナ、叫ぶ声がちょっと枯れてる。
「まぁ、こんなもんか。まだ撃てそうだけど」
「もうだめです。手前の岩山、完全に砕けちゃって平地になってます」
「別に、無くてもいいだろ」
「地獄谷、崩れて埋まって谷じゃ無くなってます」
「危険な谷が無くなって、逆にありがたいだろ」
「そういうもんですか?」
「そういうことにしよう。みんなのために、谷を埋めました」
「し、師匠」
「聞かれたらそう言おう。どうせ、この力があることは知られるだろうし」
「そうですね。そんな師匠を敵に回す人はいないと思いますけど」
「そういやそうだな。じゃ、強気で行こう」
強硬路線で行くことに決定したので、それはいいとして。問題は魔力が切れてないってことだ。
「まだ、魔力切れしてないな」
魔力がちょっと減った感じがして、神力が多少増えたような気もするが、よくわからない。
「師匠、どこまでチートなんですか。もう、惚れちゃいます」
「だから、惚れてもやること一緒なんだろ?」
「違いますよ~っ。一品増えます」
「ああ、じゃ今日の夕食は楽しみにしとこう」
「はい、師匠」
いきなり、バカップル状態で帰ることに。帰りは馬が可哀相だし途中で魔力切れして落ちても困るので、普通に馬車として帰った。
それにしても、馬車はやっぱり遅いな。自分一人だけなら飛べばいいが、ニーナとか他の人を連れて遠出する時の乗り物を考えたほうがいいかも知れない。魔力切れの心配もいらないような。
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弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
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