異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

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神聖アリス教国建国編

52 建国宣言、そうだ迎えに行こう! 蛮族アブラビ1

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 俺達は飛行船を減速して低空を飛び乾いた大地を舐めるように調べていた。
 この辺に蛮族アブラビって言う民族がいる筈なのだ。
 しかし、朝から探しているが昼になってもそれらしい人影が見えない。集落も見当たらない。いったい、どこにいるんだろう?

 俺が、さらに低空を探そうと飛行船の高度を下げた途端、岩陰から弓矢があられと飛んできた。
 どうも、隠れて狙っていたらしい。

「獲物と思ったようだが残念。相手が悪かったな」

 弓矢は防御フィールドに当たって、むなしく落ちていくだけだった。
 矢を射かけると同時に馬に乗った一団が一斉に岩陰から出てきたのだが、こちらがダメージを受けていないとみるや反転撤退しようとしたので、拘束フィールドで一網打尽にしてやった。
 何者だ、こいつら?

「お前らどこの誰だ? 盗賊か?」

 俺は、捕まえた一団を下層展望室に連れて来て調べることにした。

「違う。離せ~っ」

 威勢はいいが若い女たちだけだった。騎馬民族なのか?

「俺たちを狙ったよな?」
「知らぬ」
「いや、今更いい逃れは無理だ」
「知らぬものは、知らぬ」

 取り付く島もないな。

「俺達、アブラビと友好を深めようと思って来たんだが?」
「なに? なら、我らに食糧を渡せ。さすれば、信じよう」

 どうも、食料のことしか頭にない模様。本当にアブラビなのか疑わしい。

「なんか、渡した途端に逃げる算段してる気がするんだが」
「そ、そんなわけなかろう」

 おもっきり顔に出てるし。ちょっと反応が面白い。

「図星かよ」
「し、知らん」案外、素朴な奴らなのかも。

 そこで一計を案じる。

「あ~っ、正直に言わないなら、お前たちの前で飲み食いしてやろう。正直に言うなら食わせてやる」
「リュウジ、鬼なのじゃ」と王様。
「鬼じゃのぉ」とリリー。
ー 鬼ね~。

 ちょっと、アリスまでかよ。

「鬼ですね」とウィスリムさん。
「鬼ですな」とマレス。
「わかいそ~っ」とネム。

 って、お前ら~っ、そっちについてんじゃね~。まぁ、全員が女なので仕方ないのだが。ここは心を鬼にして飲み食いしてやる!

  *  *  *

 俺は宣言通りに、目の前にテーブルを用意して宴会を始めてやった。よく見えるように低めのテーブルだ。

「そ、それはなんじゃ? 恐ろしい見た目じゃが」蛮族の女が食いついた。

「これは毛ガニ。仕入れたばかりの新鮮なカニだ。旨いぞ」
「うん、わらわはこんな旨いもの生まれて初めて食べたのじゃ」とリリー。
「このところ、ずっと飢饉やなんやで、まともなもの食べなかったからのぉ。旨さも一塩じゃのぉ」と王様。
「このうま味のある汁がまたいいですね」とウィスリム。
「そうですな。生まれて初めて幸せを感じました」とマレス。

 ひどいとか言っておいて、ためらいなく食べる面々。
 目の前で、美味い美味いと言って食事をされたら堪らない。

「なに! それほどなのか? じゅりゅ」と蛮族の女。
「姫、ここは素直に友好を求めるべきでは。じゅるっ」と、別の女。

 どうも、副官らしい。

「いや、戦士アブラビの流れをくむ我らが、たかが食事で下るわけにはいかん。じゅるるっ」なんて言ってる。

 下りそうなんだ。てか、やっぱアブラビなんだ。

「ですが、この船には女神アリス様のお姿が描かれておりましたぞ」と部下の女。
「なに、真か? 何故それを早く言わん」

 いや、なんで見てないんだよ大将。
 そこ大事だからデカデカと描いてるんだが、なんで見逃してんのかな?
 とりあえず、この女が指揮官らしい。

「我らは、元々女神アリス様を奉じる戦士アブラビの末裔。そなたたちが女神アリス様を信奉しているのであれば友諠を結ぶことに異存はない」と指揮官の女。

「何で、女ばかりなんだ?」
「戦士アブラビは、女騎士隊と男騎士隊に別れて戦うからだ」と指揮官の女。

 なるほど。確かに男女ミックスするより力量が揃っていいかもしれない。
 それにしても、この世界の人って勘違いが多過ぎない? 思い込みが激しいのか?
 まぁでも、情報が伝わり難い頃の世界って、そんなものだったのかも。勝手に考えて勝手に勘違いして勝手に滅ぶとか。それって自分と戦ってるとも言えるな。

ー 戦士アブラビって知ってる?
ー 知らないわね。
ー なんで「アリス」を知ってるのかな。アリスの絵を見て分かったらしいし。
ー わたしの肖像があるのかしらね?
ー それはおかしいだろ。
ー そうよね。

「俺たちは『神聖アリス教国』を建国する。その代表団なんだ」と説明した。
「なんだと! アリス様を信奉する国家を作るのか?」と女指揮官。
「そうだ」
「それはすばらしい。ならば、我らは共に歩もうぞ」

 この顔はどうも本当らしい。アリスも、大丈夫だと言ってくれた。

「ちょっと間抜けだが悪い奴でもなさそうだな。おい、食事を持って来てやれ。それと酒もな」

 そう言って、拘束フィールドを解いてやった。

「ちょっと間抜け……」
「畏まりました」

 バトンは素早く酒と食事を用意した。ほとんど、タイミングを見ていたようだ。有能な部下は代えがたいものだ。

  *  *  *

「では、乾杯しよう。勇敢なるアブラビの戦士……」と言って、俺は女戦士を見る。
「ミゼールだ」
「戦士ミゼールに」

「誠実な女神アリスの信徒リュウジに」とミゼール。
「乾杯」
「カンパーイ」
「乾杯なのじゃ」
「乾杯じゃ」
「「「「かんぱ~いっ」」」」

  *  *  *

 この後、アブラビの本隊とも合流し友好関係を結べた。
 話してみると訪問の目的は簡単に了承された。

 「アリス教」については古い言い伝えで肖像画があるらしい。
 全く同じではなく似ているという程度らしい。ただ、同じアリス教ということで、俺たちの訪問は歓迎された。
 まぁ、危害を加えるわけじゃないんだから普通はそうだよね。しかし、やはりこの衰退する世界の国だ、ここでも水不足と食糧難に悩んでいた。

 ちょっと対策を考えてみたが難しい。
 特に、この地域は湖もないので水を引くわけにもいかない。どこにも水がないのだ。
 あるとすれば遠くの山岳地帯だが、ここは岩だらけで耕作には不向きらしい。
 アブラビは遊牧民らしいので、あまり耕作はしないようだが馬や家畜のエサくらいないとどうにもならないだろう。
 可能性があるとしたらあとは海の水だけだった。普通は、まず為す術はない。

「普通は、為す術はないってことは、あるのじゃろ?」

 リリーがいたずらっぽく言う。

「う~ん、どうかなぁ?」
「婿殿、これは流石にどうにもならんじゃろ。どうにかなるのか?」

 そんな、俺の仲間の反応を真剣に聞いているミゼール。

「な、なにか手があるのか? ほんの少しでも可能性があるのか?」必死な表情で言うミゼール。
「う~んっ」さすがに、ちょっと困った。

ー ねぇ、アリス。この季節、海からの風は吹いてる?
ー ん~今は、まちまちね。初夏の雨季なら吹いてる筈よ。
ー そうか、ならいけるかもな。

「まぁ、なんとかなるかもな」
「ま、まことか?」ミゼール、思わず乗り出して言う。
「ああ」

「そ、それが本当ならば、我はそちの嫁になろう」
「いや、もう六人居るのでいりません」

「さ、さようか。しかし、それでは我らはそちに報いることが出来ん」
「いや、これは友好の証なので必要ない」
「そうか」と言ったミゼール、ちょっと残念そう。

「して、水を得る方法とは?」とミゼール。
「沢山の水を生むのは難しいが、この土地には、あとほんの少しの水があればいい筈だ。まぁ、詳しくは明日のお楽しみってことで」

 説明しても分からないだろうからな。目の前で見せるのが簡単だ。

 以前に比べて水が少ないといっても、ちょっとした違いのようだ。
 牧草地が維持できる程度とか耕作可能な程度に雨が降ればいい。それなら、ちょっとだけ環境を変えてやればいいんじゃないかと思った。まぁ、ダメ元だ。いろいろ試してみよう。
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