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#10:Bloom.
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怒涛のような日々が、あっという間に過ぎ去ってしまった九月末、三ヵ月ぶりに会った彼は、心配そうな顔でワタシに聞いてきた。
「花ちゃん大丈夫?疲れてない?」
「撮影も終わったし、もう落ち着いたから大丈夫だよ。ありがとね」
いつも気遣ってくれる彼の優しさは、『ガソリンが切れた車』のように、空っぽになったワタシの心を満たしてくれた。
でも、この頃から少しだけ『他人の目』を気にしながら生活することに、窮屈さを感じていた。視力は良いのにダサめの丸眼鏡をかけて、髪がペチャンコになるから被りたくないのに、キャップを被らなきゃならないことは不自由この上なかった。
彼も一度だけ似合わないサングラスを掛けて『変装ごっこ』をしていたけれど、あまりにヘンテコ過ぎて笑えたし、『逆に』目立つから止めてとお願いした。
そんな不自由をしてでも、彼と一緒に同じ時を過ごせることは、最高のご褒美だった。
(彼と結婚できたら幸せだろうな…)
そんな事を本気で考えていたし、そうなるような気がしていた。
この日も別れ際、終電で帰る彼は「無理しないようにね」と私に残して、改札に続く階段の途中で振り返り、手を振ってくれた。
それから二週間後、ワタシは久し振りに『瞳さんが担当する仕事』に向かっていた。
十月になったのに、未だ気温は夏のように高くて、これから冬物を着るのかと思うと憂鬱だった。現場は冷房が効いているけれど、効き過ぎていて寒いし、風邪でも引いたらどうしようかと考えると、ついイライラしてしまった。瞳さんに会える嬉しさよりも、胸がチクチクする位にストレスを感じていた。
「おはようございます!助演女優賞殿!」
敬礼されて吹き出してしまった。
瞳さんは、こういう人だったなと『モデルとして』この場所に戻って来れたことに、安心感を覚えた。
「ちょっと、やめて下さいよ瞳さん」
「いや~緊張しますな~、肩でもお揉みしましょうか?」
何でだろうか、少しだけムカついた。
「肩が凝る程のモノは無いですよっ」
胸を張って見せたけれど、胸はチクチクとストレスを与えてきた。
「そういう事じゃないよ~」とケタケタ笑う瞳さんは、本当にブレない人だった。
撮影が始まると、その鋭い目はワタシの変化を捕らえたようで「何かあった?」と聞いてきた。
特に思い当たる事は何も無かった。
彼とも会って心の充電もできていたし、忙しさも落ち着いていたので、瞳さんの見間違いじゃないのかなと思っていた。彼とのことは、未だ誰にも話していなかったけれど、そのことを言っているという様な雰囲気は感じなかった。
(あまり気にすることじゃないかな?)
寒すぎる室内で着る冬服の暖かさに、心を落ち着かせていた。
「えっ…」
年が明けたばかりのこの日、隠していた事を話すと、父は彼に手を上げ、母は私をぶった。中学生になった妹は、内容を理解しているのかしていないのか、何故か泣いていた。
どうしてこんな状況になったんだろう。
ワタシは何か間違ったことをしたのだろうか。
何でワタシたちが謝って、父は怒って、母と妹は悲しい顔をして泣いているのだろう。美咲さんも、一緒になって両親に頭を下げていた。
『ただ一緒に暮らしたいと言っただけなのに』
彼は、父に何回殴られて罵られても、何度も頭を下げ、土下座をしていた。確かに彼は未だ大学生だったけれど、こんなに怒られるとは思っていなかった。
彼も、こういう家庭環境なのかな…。
そう思うと胸はチクチク痛んで、イライラして吐き気がした。
もう、こんな家には居たくないと思った。
それから、結局ワタシは家を出て、実家から少し離れた場所で、一人暮らしを始めることにした。保証人は美咲さんにお願いした。
「花ちゃん無理してない?大丈夫?」
大学卒業を控えた彼は、毎週金曜日の朝から日曜日の夜までワタシの家に泊まりに来てくれて、ワタシが出来ていない家事をしてくれていた。
あの後すぐに、バイトも近くで探そうとしてくれたけれど、両親や妹に会ってしまう可能性があったので、地元で続けて欲しいとお願いしていた。
あれから『一年半』仕事を休んでしまい、『三年以上』家族とは連絡を取っていなかった。
女優の仕事も少しずつ増えていって、大変なことも多かったけれど、それでも、前よりも多くなった彼と一緒に過ごせる時間は、いまのワタシには必要不可欠で、それだけであの出来事を忘れる事ができた。ワタシの体調や、女優としての生活を気遣ってくれて、一緒に外出することは殆ど無かったけれど、隣に居てくれるだけで幸せだった。
「就職祝いと卒業祝いも兼ねて旅行に行こう」そう言い出したのはワタシだった。
彼も最初は『周りの目』を気にしてくれて、断っていたけれど、強引に押し切った。彼と初めて出逢ったあの海を『一緒に』観たかった。
約五年半振りに訪れた想い出の場所は、何も変わることなく存在していた。
未だ寒さが残る東京とは違って、暖かくて心が落ち着いた。
海を見つめる彼は、あの時みたいに少し寂しそうな顔をしていたけれど、あの時よりも大人になって、凛々しくて、四年近く付き合っていても、毎日好きな気持ちが更新されていた。
この四月からは、彼もワタシの家に引っ越してきて、一緒に暮らすことになっていた。ワタシたちの未来は、この海みたいに輝いて、水平線の様にどこまでも続いてい行くと思っていた。
「花ちゃん大丈夫?疲れてない?」
「撮影も終わったし、もう落ち着いたから大丈夫だよ。ありがとね」
いつも気遣ってくれる彼の優しさは、『ガソリンが切れた車』のように、空っぽになったワタシの心を満たしてくれた。
でも、この頃から少しだけ『他人の目』を気にしながら生活することに、窮屈さを感じていた。視力は良いのにダサめの丸眼鏡をかけて、髪がペチャンコになるから被りたくないのに、キャップを被らなきゃならないことは不自由この上なかった。
彼も一度だけ似合わないサングラスを掛けて『変装ごっこ』をしていたけれど、あまりにヘンテコ過ぎて笑えたし、『逆に』目立つから止めてとお願いした。
そんな不自由をしてでも、彼と一緒に同じ時を過ごせることは、最高のご褒美だった。
(彼と結婚できたら幸せだろうな…)
そんな事を本気で考えていたし、そうなるような気がしていた。
この日も別れ際、終電で帰る彼は「無理しないようにね」と私に残して、改札に続く階段の途中で振り返り、手を振ってくれた。
それから二週間後、ワタシは久し振りに『瞳さんが担当する仕事』に向かっていた。
十月になったのに、未だ気温は夏のように高くて、これから冬物を着るのかと思うと憂鬱だった。現場は冷房が効いているけれど、効き過ぎていて寒いし、風邪でも引いたらどうしようかと考えると、ついイライラしてしまった。瞳さんに会える嬉しさよりも、胸がチクチクする位にストレスを感じていた。
「おはようございます!助演女優賞殿!」
敬礼されて吹き出してしまった。
瞳さんは、こういう人だったなと『モデルとして』この場所に戻って来れたことに、安心感を覚えた。
「ちょっと、やめて下さいよ瞳さん」
「いや~緊張しますな~、肩でもお揉みしましょうか?」
何でだろうか、少しだけムカついた。
「肩が凝る程のモノは無いですよっ」
胸を張って見せたけれど、胸はチクチクとストレスを与えてきた。
「そういう事じゃないよ~」とケタケタ笑う瞳さんは、本当にブレない人だった。
撮影が始まると、その鋭い目はワタシの変化を捕らえたようで「何かあった?」と聞いてきた。
特に思い当たる事は何も無かった。
彼とも会って心の充電もできていたし、忙しさも落ち着いていたので、瞳さんの見間違いじゃないのかなと思っていた。彼とのことは、未だ誰にも話していなかったけれど、そのことを言っているという様な雰囲気は感じなかった。
(あまり気にすることじゃないかな?)
寒すぎる室内で着る冬服の暖かさに、心を落ち着かせていた。
「えっ…」
年が明けたばかりのこの日、隠していた事を話すと、父は彼に手を上げ、母は私をぶった。中学生になった妹は、内容を理解しているのかしていないのか、何故か泣いていた。
どうしてこんな状況になったんだろう。
ワタシは何か間違ったことをしたのだろうか。
何でワタシたちが謝って、父は怒って、母と妹は悲しい顔をして泣いているのだろう。美咲さんも、一緒になって両親に頭を下げていた。
『ただ一緒に暮らしたいと言っただけなのに』
彼は、父に何回殴られて罵られても、何度も頭を下げ、土下座をしていた。確かに彼は未だ大学生だったけれど、こんなに怒られるとは思っていなかった。
彼も、こういう家庭環境なのかな…。
そう思うと胸はチクチク痛んで、イライラして吐き気がした。
もう、こんな家には居たくないと思った。
それから、結局ワタシは家を出て、実家から少し離れた場所で、一人暮らしを始めることにした。保証人は美咲さんにお願いした。
「花ちゃん無理してない?大丈夫?」
大学卒業を控えた彼は、毎週金曜日の朝から日曜日の夜までワタシの家に泊まりに来てくれて、ワタシが出来ていない家事をしてくれていた。
あの後すぐに、バイトも近くで探そうとしてくれたけれど、両親や妹に会ってしまう可能性があったので、地元で続けて欲しいとお願いしていた。
あれから『一年半』仕事を休んでしまい、『三年以上』家族とは連絡を取っていなかった。
女優の仕事も少しずつ増えていって、大変なことも多かったけれど、それでも、前よりも多くなった彼と一緒に過ごせる時間は、いまのワタシには必要不可欠で、それだけであの出来事を忘れる事ができた。ワタシの体調や、女優としての生活を気遣ってくれて、一緒に外出することは殆ど無かったけれど、隣に居てくれるだけで幸せだった。
「就職祝いと卒業祝いも兼ねて旅行に行こう」そう言い出したのはワタシだった。
彼も最初は『周りの目』を気にしてくれて、断っていたけれど、強引に押し切った。彼と初めて出逢ったあの海を『一緒に』観たかった。
約五年半振りに訪れた想い出の場所は、何も変わることなく存在していた。
未だ寒さが残る東京とは違って、暖かくて心が落ち着いた。
海を見つめる彼は、あの時みたいに少し寂しそうな顔をしていたけれど、あの時よりも大人になって、凛々しくて、四年近く付き合っていても、毎日好きな気持ちが更新されていた。
この四月からは、彼もワタシの家に引っ越してきて、一緒に暮らすことになっていた。ワタシたちの未来は、この海みたいに輝いて、水平線の様にどこまでも続いてい行くと思っていた。
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