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#10:Bloom.
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「一緒に住むからには、挨拶をして筋を通さなければダメだ」
彼の説得を渋々受け入れ、ワタシたちは三年の時を越えて、ワタシの実家に来ていた。
久しぶりに見る父と母は、あまり変わった様子は無かったけれど、高校生になっていた妹は、大人びていて別人のような雰囲気を持っていた。
「何年もご挨拶が出来ず、申し訳ありません」
彼の言葉にならって、ワタシも綺麗に座り直して頭を下げた。
「この四月からは、私も社会人になります。娘さんとは、初めから結婚を前提に、お付き合いさせて頂いておりました。どうか、一緒に暮らすことをお許し頂けないでしょうか」
彼は慎重に言葉を選びながら、丁寧に両親に対して想いを伝えてくれた。
「ワタシからもお願いします」
ワタシも同じ気持ちでいることを分かって欲しかった。
「駄目だ」
父から出た『その言葉』は短かったけれど、全てを否定する意味が込められたような威圧感があった。
「鈴宮くん、君は娘から奪うことしかしていないんじゃないか?仕事も休ませたそうだし、私たち家族からも娘は離れてしまった。これがどういうことか分かるか?」
「はい…。申し訳ありません」
「申し訳ないと思うなら、なんで三年も時間がかかったんだ?私たちが、どんな気持ちで過ごしていたか君には分かるか?」
「申し訳ありません。自分でも、どうすれば良いのか分かっていませんでした」
「甘いんだよ君は。花、お前も考えが甘過ぎる」
思いがけず矛先がワタシにも向いてきた。
「こんな男と一緒になって幸せになれると思っているのか?どこが良いのか理解できない。こんな男にお前を幸せに出来るとは思えないな」
こんな男、こんな男ってうるさいな…彼のことなんて何も知らないくせに勝手なことを言うな。
「お父さんに太陽くんの何が分かるの!」
涙と一緒に感情が爆発して、制御できなくなってしまった。
「ワタシは太陽くんに何度も助けられた!今日だってそう!言わなかったらわかんなかったのに、ちゃんと一緒に住むことを許して欲しくてココに来たの!どこが甘いの!仕事を休んでいる時だって、いま仕事を続けられてるのも太陽くんのお陰なんだよ!お父さんには何も分からないでしょ!」
「お前がダラしないから、こういうことになったんじゃないのか?」
そう父が言った瞬間、隣に座っていた彼の雰囲気が変わるのが分かった。
ワタシに『ダラしない』と言った父を、睨めつけていた。彼はこんな恐ろしい顔をすることもあるんだ…いつかワタシに対しても、こんな顔を向けることがあるのだろうか…。
そう思うと、ふと我に返って彼のスーツの袖を掴み、無言で呼びかけた。それに気づくと、彼の顔は冷静さを取り戻していった。
「私は…ダラしないかもしれませんが、娘さんは違います。何にでも真剣に向き合っていますし、誰よりも尊敬できる人です」
「君なんかに尊敬されても、花に何の得があるんだ?」
「いい加減にしてよ!何でそんなことが言えるの!もうお父さんに分かって貰わなくてもいい!ワタシたちはワタシたちだけで生きていくよ!」
勘当されようが、どうでも良かった。
彼と一緒に過ごせるなら、この人に理解されなくても良いと思った。
「ダメだよ花ちゃん…ちゃんと話そう…」
彼は落ち着いてワタシに語りかけてくれたけれど、その顔はどこか諦めているような顔をしていた。
母は何も言わずに泣いていて、妹は静かに、このやり取りを真剣に見つめていた。
「鈴宮くん、君は花から仕事を奪ってでも一緒になりたいと思っているのか?その覚悟があってココに来ているのか?」
「それは…そこまで考えていませんでした」
「その覚悟が無いなら、認めることは出来ないな」
そこからワタシたちは、何も言えなくなってしまった。
ワタシは彼と初めて出逢った日のことを思い出していた。
海に残して泡になって消えてしまった想い。
もう感情の置き場所が分からなくなっていた。
気が付くとワタシの家に戻っていて、隣に彼の姿は無かった。
黙って一緒に暮らそうと言ったけれど、彼は首を縦に振らなかった。
ワタシは彼を失い、彼はワタシから離れてしまった。
今年も一緒に桜を観に行くという約束が、果たされることは無かった。
彼は、どう思っていたのだろう…。
女優の仕事を辞めたくはなかったけれど、彼を失うことも同じくらい諦めたくなかった。
美咲さんや瞳さん、監督や未来からの期待。
背負っているものの大きさ。
自分勝手だなと、自分を責めた。
こうしてワタシたちの初恋は終わった。
それからワタシは、モデルとしても女優としても笑うことが出来なくなってしまった。
『主役を喰う女優』という名前は、いつしか『笑わない女優』と呼ばれるようになっていた。
彼の説得を渋々受け入れ、ワタシたちは三年の時を越えて、ワタシの実家に来ていた。
久しぶりに見る父と母は、あまり変わった様子は無かったけれど、高校生になっていた妹は、大人びていて別人のような雰囲気を持っていた。
「何年もご挨拶が出来ず、申し訳ありません」
彼の言葉にならって、ワタシも綺麗に座り直して頭を下げた。
「この四月からは、私も社会人になります。娘さんとは、初めから結婚を前提に、お付き合いさせて頂いておりました。どうか、一緒に暮らすことをお許し頂けないでしょうか」
彼は慎重に言葉を選びながら、丁寧に両親に対して想いを伝えてくれた。
「ワタシからもお願いします」
ワタシも同じ気持ちでいることを分かって欲しかった。
「駄目だ」
父から出た『その言葉』は短かったけれど、全てを否定する意味が込められたような威圧感があった。
「鈴宮くん、君は娘から奪うことしかしていないんじゃないか?仕事も休ませたそうだし、私たち家族からも娘は離れてしまった。これがどういうことか分かるか?」
「はい…。申し訳ありません」
「申し訳ないと思うなら、なんで三年も時間がかかったんだ?私たちが、どんな気持ちで過ごしていたか君には分かるか?」
「申し訳ありません。自分でも、どうすれば良いのか分かっていませんでした」
「甘いんだよ君は。花、お前も考えが甘過ぎる」
思いがけず矛先がワタシにも向いてきた。
「こんな男と一緒になって幸せになれると思っているのか?どこが良いのか理解できない。こんな男にお前を幸せに出来るとは思えないな」
こんな男、こんな男ってうるさいな…彼のことなんて何も知らないくせに勝手なことを言うな。
「お父さんに太陽くんの何が分かるの!」
涙と一緒に感情が爆発して、制御できなくなってしまった。
「ワタシは太陽くんに何度も助けられた!今日だってそう!言わなかったらわかんなかったのに、ちゃんと一緒に住むことを許して欲しくてココに来たの!どこが甘いの!仕事を休んでいる時だって、いま仕事を続けられてるのも太陽くんのお陰なんだよ!お父さんには何も分からないでしょ!」
「お前がダラしないから、こういうことになったんじゃないのか?」
そう父が言った瞬間、隣に座っていた彼の雰囲気が変わるのが分かった。
ワタシに『ダラしない』と言った父を、睨めつけていた。彼はこんな恐ろしい顔をすることもあるんだ…いつかワタシに対しても、こんな顔を向けることがあるのだろうか…。
そう思うと、ふと我に返って彼のスーツの袖を掴み、無言で呼びかけた。それに気づくと、彼の顔は冷静さを取り戻していった。
「私は…ダラしないかもしれませんが、娘さんは違います。何にでも真剣に向き合っていますし、誰よりも尊敬できる人です」
「君なんかに尊敬されても、花に何の得があるんだ?」
「いい加減にしてよ!何でそんなことが言えるの!もうお父さんに分かって貰わなくてもいい!ワタシたちはワタシたちだけで生きていくよ!」
勘当されようが、どうでも良かった。
彼と一緒に過ごせるなら、この人に理解されなくても良いと思った。
「ダメだよ花ちゃん…ちゃんと話そう…」
彼は落ち着いてワタシに語りかけてくれたけれど、その顔はどこか諦めているような顔をしていた。
母は何も言わずに泣いていて、妹は静かに、このやり取りを真剣に見つめていた。
「鈴宮くん、君は花から仕事を奪ってでも一緒になりたいと思っているのか?その覚悟があってココに来ているのか?」
「それは…そこまで考えていませんでした」
「その覚悟が無いなら、認めることは出来ないな」
そこからワタシたちは、何も言えなくなってしまった。
ワタシは彼と初めて出逢った日のことを思い出していた。
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気が付くとワタシの家に戻っていて、隣に彼の姿は無かった。
黙って一緒に暮らそうと言ったけれど、彼は首を縦に振らなかった。
ワタシは彼を失い、彼はワタシから離れてしまった。
今年も一緒に桜を観に行くという約束が、果たされることは無かった。
彼は、どう思っていたのだろう…。
女優の仕事を辞めたくはなかったけれど、彼を失うことも同じくらい諦めたくなかった。
美咲さんや瞳さん、監督や未来からの期待。
背負っているものの大きさ。
自分勝手だなと、自分を責めた。
こうしてワタシたちの初恋は終わった。
それからワタシは、モデルとしても女優としても笑うことが出来なくなってしまった。
『主役を喰う女優』という名前は、いつしか『笑わない女優』と呼ばれるようになっていた。
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