sunflower.

和奏 澄

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#11:Curiosity.

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自分の知っている海は、いろんな色を混ぜた水みたいに汚く澱んでいて、海を青と表現することに違和感が(水色という色の名前にも納得がいかなかった)あったけれど、きっと『青い海』というものは、こういう色のことを言うのだろう。

目の前に広がる青を前にして、魂を抜かれたようになってしまった。

「綺麗…」

スマホに残しておけば、自分で絵にして再現できるかもしれない…。カメラアプリを立ち上げて、写真を何枚か撮ったけれど、どうも目で見ている青と、画面の中の青とでは印象が違っていて、同じものとは思えなかった。 

絵の具アプリを立ち上げて、近い色を選んでスクショしようとしていると、何かが足にくっ付いてきた。

「ひっ!」

(蛇か!ハブか!)

くっ付いてきたのは、一枚の紙だった。

「もう…ビックリさせないでよ…」

言語コミュニケーションの出来ない相手に、愚痴をこぼして手に迎え入れた。

「えっ…?!」

先日、あの暗黒空間にあった物だ…。裏面、いや正確には表面?には何も書かれていなかった。

(間違えて持ってきちゃった?いや、ちゃんと戻してダイヤル錠を掛け直した。何かの呪いがかけられていて、自分を追ってきたのか!)

悪い妄想が止まらなかった。

辺りを見渡すと、一人寝ている男の人の姿が目に入った。

「あの人のかな…?」

男の人の脇には『開いた本』が置かれていた。わざわざ無理に起こしてまで確認するのも、無駄な労力に思えたので、彼が目を覚ますまで青色を楽しむことにした。


「あれ…寝ちゃってたのか…」

彼が起きたことを確認して、キャップを被ってサングラスを掛けてから立ち上がり、彼の前まで行って、海をバックにして尋ねた。

「これ、風で飛んできたんですけどアナタのですか?」

「ボクの物です…すみません」

寝不足なのか、目の下のクマが印象的だった。

「酷い顔…」

(マズい!つい心の声が漏れてしまった…彼に聞こえてしまったかもしれない…)

「拾って頂いて、ありがとうございます。助かりました」

(聞こえていなくて助かりました。ありがとうございます)

お辞儀をして、両手でそれを受け取る彼の姿は、まるで先日の卒業式で、卒業証書を受け取った時の自分を見ているようだった。

「いえ…」

(そういえば、あの人はまた卒業式にも来てくれなかったな…)

いや、考えるだけ無駄だ。

(でも、この人…どこかで見た顔をしている気がするな…)

これも、考えるのは無駄な時間だろう。

(それにしてもジロジロと見てくる人だな)

それに気付いたのか、目を逸らされた。

「ここの夕陽は本当に綺麗ですよね…」

同感だ。でも、地元の人は訛りがあると思っていたのに、標準語のイントネーションで少しガッカリした。

「そうですね、は……いやっ、知っている人の…想い出の場所らしくて、改めて観てみたいと思いまして」

想い出の場所とは言ったものの、あの人の想い出の場所という確信は無かった。

「想像以上でした。やっぱり『実物』は違いますね」

青い海と、この夕陽を観れただけでも収穫としよう。そう思っていると、彼も語り始めた。

「ボクも十二年振りに来たんですけど、ここは何も変わってなくて感動しました。街並みは変わっているかもしれないですけど、ここは変わっていませんでした。それって素敵なことだと思うんですよね」

十二年前…?少し引っ掛かるものがあった…いや、これもまた無駄な思考だろう。

「ほら、後ろ、キラキラしていて綺麗ですよ」

彼が指を差して、振り返って見た海は、キラキラと光を放っていて、とても絵にして描けるものでは無いと思った。

「凄い…」 只々、感動してしまった。

「カード…拾って頂いて、ありがとうございました。ごゆっくり」

立ち去ろうとした彼を、無意識に呼び止めてしまった。

「あのっ…」

「はい…?」

「どうか生きていて下さい」

自分でもどうしてこんな言葉を発してしまったのか、よく分からなかった。

でも何故だろうか、彼の顔は何かを諦めていて、今にも消えてしまいそうで、後ろ姿もどこか儚げで、キラキラ輝く海とは真逆の印象を受けてしまった。

いや、今は何も考えずに『全身で』この風景を味わいたかった。

髪を解いてキャップを脱いで、サングラスを外した。肌に当たる風と夕陽、目に映るキラキラした海は、『今まで見て来たどんな景色よりも』美しかった。


「良いものが観れたなぁ」

帰りの機内で余韻に浸っていた私には、少しだけ気になる事があった。

女の勘…いや、名探偵としての勘だろうか。

(あのキャラクターは高校生か…まだ私は中学生だ。いや、私も来月から高校生だから高校生なのかな?今の私は何にカテゴライズされるんだろう…)

また無駄な思考が、頭の中を駆け巡ってしまった。

私には、あの施錠された空間を『もう一度』開放する必要があった。

これはきっと、無駄ではなくて『必要なこと』だと確信していた。
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