妖刀浪人と生贄聖女~追放されたサムライは新たな主を見つけたので、復帰命令は御免蒙る!~

白羽鳥(扇つくも)

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1:拙者、追放されたでござる

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「イェモン=ザクリア、貴様はクビだ!」

 祖国から遠く離れたジャングルの奥地、ここらを占領していた魔物のボスの首が転がる傍らで、我らがリーダーが声を荒げる。いきなりの解雇宣言に、何を言われているのか理解するまでにやや時間を要した。

「なっ、何故でござる!? 拙者が何か粗相でも……」
「そのふざけた態度がだよ!! 前々から思っていたが、何なんだその口調は。ガキの頃は普通だっただろう」

 そう言われても、父からそう言い付けられていたのだ。主と定めた御方の前ではこうあれ――一人称は「拙者」で語尾に「ござる」とつけろと。理由は知らない。
 そして主というのが、目の前でこちらを憎々しげに睨み付けているヴォー王国の第三王子アレン様である。母君の身分が低いせいで王宮で力を持たないアレン様の名声を上げるべく、宮廷魔導師ミリーと呪術師アルトリアも従え、各地で魔物退治をして回っていたのだった。
 殿下を盲目的に崇拝しているミリーも大いに頷き賛同している。ちなみにアルトリアは先に案内役の村人と共に報告に行かせ、三人で残った際に切り出された。

「そうおっしゃられましても、これが我がザクリア家のしきたりなのでござる。拙者としましては、ご不満であれば何故今頃……」
「黙れ、そんなバカげた理由だけだと思ったか? さっきの戦い方は何だ、誰が首まで斬り落とせと言った」

 王族である主に傷を負わせるわけにはいかないので攻撃から庇い、隙ができたところを斬り飛ばした。それの何が問題なのだろう。そう反論したいが、ますますきつくなった眼差しを向けられ口を噤む。

「主の意図も察する事ができず、命令も聞けない役立たずは要らない。今すぐどこへなりとも出て行ってもらおう。
最後の恩情としてジャングルの魔物退治の手柄は譲ってやる。貴様は勇敢に戦って死んだ、とな。もう二度と私の周りをうろちょろするなよ」

 こんな場所で一人放り出そうなんて、どうやら存在自体消えてほしいほど目障りなようだ。そしてここで口答えするのは、イェモン=ザクリアの名において許されない。主から不興を買う事があれば、潔く腹を切るべし……腹を切ってもすぐには死なないとは思うが、これも代々受け継がれてきた御先祖様の言葉だ。

「ああそうだ、その刀は置いていけ」

 旅に出るにあたり、父から譲られ相棒にしてきた家宝の刀【モチズキマル】。持ち主が死んだとすれば、確かに持ち帰ってザクリア家へ返却されなければならない。徹底しているな、とある意味感心しつつも刀を渡し、ついでに結っていた髷も断髪する。

「これで我が護衛イェモンは死んだ。あとは好きに生きろ……ミリー!」
「はっ。『コンフレンス』!」

 ミリーの合流するための魔法で、二人はその場から消え去った。実は仕留め損ねていた魔物の反撃に遭って食われたとでも伝えるつもりなのだろう。

(好きに生きろと言われても……こんな未開の地で武器もなしに置き去りにされちゃあ、先も長くないんだけどな)

 一方的な追放劇に、思わずの口から長い溜息が漏れた。

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