2 / 22
2:拙者、サムライでござる
しおりを挟む
ヴォー王国建国時に多大な貢献をした初代イェモン=ザクリアは、サムライだったという。東方の島国で貴人に仕える護衛の呼称らしく、十三代目にあたる俺の先祖はつまり東方出身という事になる。爵位としては辺境伯で、歴代の聖騎士団長を務めてはきたが、御先祖様方は親父に至るまでサムライの子孫である事をそれはもう誇りに思っていた。
「よいか息子よ、サムライとは尊き御方を命を賭して守る者なのだ。主を守る一本の刃となれ」
そう言っては厳しい修行と、王家を守護する意味を滾々と刷り込まれる日々。主として俺に宛がわれたのは、身分の低い側妃を母に持つ第三王子アレン様だった。王位継承権は上に二人もいるのだが、最も寵愛を受けている側妃の子とあって、番狂わせの可能性もない事はないのが難しいところだ。それに実際、アレン様は野心も強かった。
「兄上はどちらも上に立つ者に向いていない。第一王子は気が弱く、第二王子は粗暴だ。そうは思わないか」
二人きりの時、こうやって他者を貶める言葉を漏らす事がある。どう答えていいのか分からず親父に相談したところ、「兄王子周辺の情報を探り、気付いた事があれば殿下に報告しろ」とだけ言われた。回りくどい言い方をされても、頭がいいとは言えない俺にはいまいち理解できない。一応納得はしておいたものの、めんどくさいなとは思った……口には出さなかったが。
そうこうしているうちに、殿下に婚約者ができた。お相手は隣国リィン王国の王弟殿下の娘――つまり国王の姪だが、王女がいないため実質王子たちは妹同然に可愛がっていると聞く。上二人に何事もない限り王太子になれない殿下は、このまま行けば隣国の大公家の婿養子となる。側近候補の俺も殿下に同行し、婚約者の御令嬢に挨拶する事がたまにあった。
婚約者クリスティーナ様はお人形のように可愛らしい人だったが、当の殿下からは「世間知らず」だの「箱入り」だの愚痴を聞かされた。
ある時、そのクリスティーナ様が城の中庭で一人泣いているのを見かけた。
「どうかした……でござるか?」
「ねこが……木から下りられなくなっちゃったの」
そう言って指差す先には大木の枝にしがみついて震える仔猫の姿。あんな高さまでどうやって登ったのかと聞けば、アレン様が部屋の窓からぎりぎり届く枝に追い出してしまったのだとか。何をやっているのかと呆れるが、クリスティーナ様がいくら懇願しても部屋に入れてくれない以上、部下の自分が行ってもなおさら聞き入れてくれないだろう。
(かと言って仔猫が落ちて怪我でもすれば、クリスティーナ様はアレン様を許さない。二国間の同盟関係のためにも、御二人には良好な仲でいてもらわねば)
俺はスルスル木に登ると仔猫を助け、お礼を言ってくるクリスティーナ様には「拙者も猫が好きなので、お気になさらず」とだけ言って立ち去った。あくまで殿下の部下としてフォローしたつもりだったのだが、どういうわけか殿下から余計な事をするなと怒られた。
今回追放された状況は、あの時と似ている……と言うより、俺が知らず知らずのうちに空気を読まずにやらかした事の積み重ねの結果なのだろう。
何も考えず、ただ殿下から命令された事を貝のように黙って遂行すればこんな事にならなかったのかもしれない。
(理不尽に考える事自体、向いてなかったんだろうな……サムライには)
そうは言ってもなりたくてなったわけでもないし、他ならぬ主からクビを言い渡された以上、しがみ付く必要性もない。アレン殿下の護衛イェモンは死んだと言うなら、受け入れようじゃないか。
「こっちこそ、ワガママ王子のお守りから解放されて清々したよ、バーカ!!」
とてもサムライとは思えない独り言を全力で叫ぶ事で、一連の追放劇の幕とした。
「よいか息子よ、サムライとは尊き御方を命を賭して守る者なのだ。主を守る一本の刃となれ」
そう言っては厳しい修行と、王家を守護する意味を滾々と刷り込まれる日々。主として俺に宛がわれたのは、身分の低い側妃を母に持つ第三王子アレン様だった。王位継承権は上に二人もいるのだが、最も寵愛を受けている側妃の子とあって、番狂わせの可能性もない事はないのが難しいところだ。それに実際、アレン様は野心も強かった。
「兄上はどちらも上に立つ者に向いていない。第一王子は気が弱く、第二王子は粗暴だ。そうは思わないか」
二人きりの時、こうやって他者を貶める言葉を漏らす事がある。どう答えていいのか分からず親父に相談したところ、「兄王子周辺の情報を探り、気付いた事があれば殿下に報告しろ」とだけ言われた。回りくどい言い方をされても、頭がいいとは言えない俺にはいまいち理解できない。一応納得はしておいたものの、めんどくさいなとは思った……口には出さなかったが。
そうこうしているうちに、殿下に婚約者ができた。お相手は隣国リィン王国の王弟殿下の娘――つまり国王の姪だが、王女がいないため実質王子たちは妹同然に可愛がっていると聞く。上二人に何事もない限り王太子になれない殿下は、このまま行けば隣国の大公家の婿養子となる。側近候補の俺も殿下に同行し、婚約者の御令嬢に挨拶する事がたまにあった。
婚約者クリスティーナ様はお人形のように可愛らしい人だったが、当の殿下からは「世間知らず」だの「箱入り」だの愚痴を聞かされた。
ある時、そのクリスティーナ様が城の中庭で一人泣いているのを見かけた。
「どうかした……でござるか?」
「ねこが……木から下りられなくなっちゃったの」
そう言って指差す先には大木の枝にしがみついて震える仔猫の姿。あんな高さまでどうやって登ったのかと聞けば、アレン様が部屋の窓からぎりぎり届く枝に追い出してしまったのだとか。何をやっているのかと呆れるが、クリスティーナ様がいくら懇願しても部屋に入れてくれない以上、部下の自分が行ってもなおさら聞き入れてくれないだろう。
(かと言って仔猫が落ちて怪我でもすれば、クリスティーナ様はアレン様を許さない。二国間の同盟関係のためにも、御二人には良好な仲でいてもらわねば)
俺はスルスル木に登ると仔猫を助け、お礼を言ってくるクリスティーナ様には「拙者も猫が好きなので、お気になさらず」とだけ言って立ち去った。あくまで殿下の部下としてフォローしたつもりだったのだが、どういうわけか殿下から余計な事をするなと怒られた。
今回追放された状況は、あの時と似ている……と言うより、俺が知らず知らずのうちに空気を読まずにやらかした事の積み重ねの結果なのだろう。
何も考えず、ただ殿下から命令された事を貝のように黙って遂行すればこんな事にならなかったのかもしれない。
(理不尽に考える事自体、向いてなかったんだろうな……サムライには)
そうは言ってもなりたくてなったわけでもないし、他ならぬ主からクビを言い渡された以上、しがみ付く必要性もない。アレン殿下の護衛イェモンは死んだと言うなら、受け入れようじゃないか。
「こっちこそ、ワガママ王子のお守りから解放されて清々したよ、バーカ!!」
とてもサムライとは思えない独り言を全力で叫ぶ事で、一連の追放劇の幕とした。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる