妖刀浪人と生贄聖女~追放されたサムライは新たな主を見つけたので、復帰命令は御免蒙る!~

白羽鳥(扇つくも)

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5:拙者、呼びかけられたでござる

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 勢いで割り込んでみたものの、具体的なプランがあったわけじゃない。このドラゴンの強さ自体は先程倒した魔物のボスとそう変わらないんだろうが、あれは仲間が四人がかりで、魔法によるサポートあってのものだった。たった一人で挑むなど無謀過ぎるが、どうしたものか……

「え、誰……?」

 背後から弱々しい声が聞こえる。窮地を救われたとは言え、戸惑いの方が大きいのだろう。俺は振り向かず、目をドラゴンに合わせたまま叫んだ。

「ここは俺が引き付ける。あんたは今すぐ逃げろ!」

 抜刀するタイミングを計りながら、じりじりとドラゴンの視線をこちらに向けていく。そして首が生贄と反対方向を向いた瞬間、全力で駆け出した。

(村で聞いた話だと、確かこの先に崖があったはず)

 いくら何でも、タケミツでこんな化け物と戦えるわけがない。鞘などは比較的頑丈に作ってあるが、それでも岩のように固い鱗にはびくともしないだろう。ならば尖った切っ先で目玉でも……といきたいところだが、図体がでか過ぎて届きそうになかった。

(だったら崖まで誘導して落とすしかない!)

 リーチの差で、下手すればあっという間に踏み潰されてペシャンコだが、動き自体はその重量のせいで緩慢なのが幸いだ。俺を新しい玩具と定めたドラゴンはグアアッと咆哮を上げ、突進してきた。
 上手く回避しようとするが、奴が巻き起こした突風が予想外に強く、体勢を崩してしまう。そこを鞭のような尻尾に叩き付けられてしまった。

「ぐ、は……っ」

 衝撃による激痛――一瞬で意識を飛ばされた。これくらいなら倒せる、という驕りが死を招くのだと、親父から耳にタコができるほど言われていたのに、油断していた。
 今の自分には頼れる仲間がいない。相棒の得物も、守るべき主君も。丸腰で放り出されたばかりで、よその事情に首を突っ込まずに逃げたってよかったのだ。

(それでも……だとしても!)

『情けない……いつまで寝ている。それでも武士か!』

 その時、頭の中で誰かが呼びかけてきた。聞いた事のない声だったが、不思議と昔から知っている気がした。

(誰だ……? ブシって何だ?)
『今はそんな事、どうでもよかろう。さっさと立たぬか』

 そんな事言われても、尻尾での攻撃を食らったせいで息もできない。目からは火花が飛び散り、指一本動かせない状態だった。ハア……と呆れるような溜息を吐かれる。

『まったく手のかかる……だが場合が場合だ、ほんの少し手を貸してやるか』
(なん……うわっ!?)

 気付けば意識は現実に引き戻され、肺いっぱいに空気が入り込んでいた。思わず咳き込みながらも状況を分析する。ドラゴンは今まさに、俺を踏み潰そうとしていた。あと一瞬遅れていたら死んでたな……と思いながら、すぐさま地面を転がるようにして回避。
 焦りや恐怖の感情は拭い去られ、驚くほどいつも通りの自分がいた。ドラゴンの足を踏み台にトントンを体を駆け上っていき、振り払おうと暴れる首元を一閃。その手にしているものが何かだなんて、考えていない。

 重さも手ごたえも、だった。

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