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異世界人編
異世界の言葉
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騎士鎧が並んでいた範囲の壁に空けられた、無数の穴。これが意味するものとは――
「じっくり検証したいが、時間が足りないな。
ラク様、あなたの国の言葉で話してもらっていいですか?」
「えっ?」
いきなり突拍子もない事を言い出されて、ラク様は戸惑っている。あたしも同じだ。アステル様はこんな時に、何を言い出すのだろう。
だけどきっと理由があるのだと察したあたしからもお願いすると、ラク様はおずおずと、久しぶりになるであろう異世界の言葉を紡ぎ出す。
「『コンニチハ、アステルサマ。ワタシノナマエハ、はいどらくデス。ワタシノコトバガワカリマスカ』……?」
「『コンニチハ、ラクサマ。ボクハあすてる=でぃあんじゅーる。エエ、リカイデキマスヨ』」
「……!」
ラク様と同じような言葉で返事をしたアステル様に、あたしたちは呆気に取られる。彼女と接する機会なんてほぼなかったのに、一体いつの間に異世界の言葉を……
(あ、違う。これ、魔法なんだ)
そこから展開していく会話を見守るうちに気付く。アステル様は魔法によって翻訳された言葉を聞き、普通に返した言葉もまた異世界の言葉に変換されているのだ。
魔法の存在を知らなければ、きっとアステル様は流暢に話せるまでに膨大な努力をされたのだろうと勘違いしていたところだ。実際、ラク様は尊敬の眼差しで見ているし。
喋っていたのは、ほんの数分だったけれど。いつまでも廊下で立ち話をしているのを怪しまれるわけにはいかず、あたしたちはその場で解散する事になった。
「それじゃ、リジー。また学校で」
「あ、は……はい」
声色から、アステル様が何やらスッキリされたように感じられる。訝しく思いながらもラク様を伴って神殿を出た途端、彼女の目からボロッと涙が零れたのでぎょっとした。
「ラク様!? どうなさったのですか」
「う、うれ、しくて……」
こんなところをテセウス殿下に見られたら……と慌ててハンカチを取り出していると、ラク様が目元を拭いながらも呟く。言われてみれば、涙こそ流していたけれど、ラク様は微笑んでいた。
「嬉しい……?」
「はじめてなのです。こんな、私のきもちを、分かってくれたのは」
どうやら先ほどのアステル様との会話中に、ラク様が感激するような事を言われたらしい。あたしは聞いていてもさっぱり分からなかったけど。
「アステル様に、何と言われたのですか?」
「ひみつです」
ラク様は唇に人差し指を当て、悪戯っぽく笑う。その仕種に、思わずムッとする。
(アステル様は、あたしの婚約者なのに!)
直後に、見当違いな怒りだったなと反省する。ラク様は、あたしたちの関係を知らない。彼女の口から、アステル様が近付いた事を殿下に知られる訳にはいかないのだ。
それに、アステル様がわざわざラク様に元の世界の言葉で会話させたのは、誰にも聞かれないようにするため。そして、スムーズに言いたい事を言わせるためだろう。
「リジーさま。私、アステルさまは、とてもこわい人だと、思っていました」
「そんな事ないですよ」
「はい、とてもやさしい人ですね」
怒る事なんてない。あたしの方がアステル様の事を分かってる。そう思いつつも、アステル様を褒めるラク様に笑顔を引き攣らせながら、リューネのもとへ向かうのだった。
「じっくり検証したいが、時間が足りないな。
ラク様、あなたの国の言葉で話してもらっていいですか?」
「えっ?」
いきなり突拍子もない事を言い出されて、ラク様は戸惑っている。あたしも同じだ。アステル様はこんな時に、何を言い出すのだろう。
だけどきっと理由があるのだと察したあたしからもお願いすると、ラク様はおずおずと、久しぶりになるであろう異世界の言葉を紡ぎ出す。
「『コンニチハ、アステルサマ。ワタシノナマエハ、はいどらくデス。ワタシノコトバガワカリマスカ』……?」
「『コンニチハ、ラクサマ。ボクハあすてる=でぃあんじゅーる。エエ、リカイデキマスヨ』」
「……!」
ラク様と同じような言葉で返事をしたアステル様に、あたしたちは呆気に取られる。彼女と接する機会なんてほぼなかったのに、一体いつの間に異世界の言葉を……
(あ、違う。これ、魔法なんだ)
そこから展開していく会話を見守るうちに気付く。アステル様は魔法によって翻訳された言葉を聞き、普通に返した言葉もまた異世界の言葉に変換されているのだ。
魔法の存在を知らなければ、きっとアステル様は流暢に話せるまでに膨大な努力をされたのだろうと勘違いしていたところだ。実際、ラク様は尊敬の眼差しで見ているし。
喋っていたのは、ほんの数分だったけれど。いつまでも廊下で立ち話をしているのを怪しまれるわけにはいかず、あたしたちはその場で解散する事になった。
「それじゃ、リジー。また学校で」
「あ、は……はい」
声色から、アステル様が何やらスッキリされたように感じられる。訝しく思いながらもラク様を伴って神殿を出た途端、彼女の目からボロッと涙が零れたのでぎょっとした。
「ラク様!? どうなさったのですか」
「う、うれ、しくて……」
こんなところをテセウス殿下に見られたら……と慌ててハンカチを取り出していると、ラク様が目元を拭いながらも呟く。言われてみれば、涙こそ流していたけれど、ラク様は微笑んでいた。
「嬉しい……?」
「はじめてなのです。こんな、私のきもちを、分かってくれたのは」
どうやら先ほどのアステル様との会話中に、ラク様が感激するような事を言われたらしい。あたしは聞いていてもさっぱり分からなかったけど。
「アステル様に、何と言われたのですか?」
「ひみつです」
ラク様は唇に人差し指を当て、悪戯っぽく笑う。その仕種に、思わずムッとする。
(アステル様は、あたしの婚約者なのに!)
直後に、見当違いな怒りだったなと反省する。ラク様は、あたしたちの関係を知らない。彼女の口から、アステル様が近付いた事を殿下に知られる訳にはいかないのだ。
それに、アステル様がわざわざラク様に元の世界の言葉で会話させたのは、誰にも聞かれないようにするため。そして、スムーズに言いたい事を言わせるためだろう。
「リジーさま。私、アステルさまは、とてもこわい人だと、思っていました」
「そんな事ないですよ」
「はい、とてもやさしい人ですね」
怒る事なんてない。あたしの方がアステル様の事を分かってる。そう思いつつも、アステル様を褒めるラク様に笑顔を引き攣らせながら、リューネのもとへ向かうのだった。
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