ハの国史 「いきなり国家を救えと言わましても! 転生先はまさかの内乱真っ只中!? 俺に何ができるってんですか!」

癸から甲

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二十話「蠅の王」

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 あたり一面が廃墟の中、ただひとつ、この場にそびえ立つ高射砲塔を背にデナグの姿が私の目に映る。ここはハの国中央に位置する旧総裁政府の跡地、かつてデナグとドミトリーが陥落させた私達にとって因縁深い地。

 私はデナグに静かに見下ろされる。

ミコト
「デナグ、あなたの事は良く分かってるつもりだけど……」

 私の言葉を遮りデナグは話始める。

デナグ
「まずは私の元へ来てくれたことに感謝するよ。ルマロキと三頭竜を止められる方法を考えるなら賢明な判断だ」

ミコト
「私の大切な人ならそれが出来ると信じているからここに来たのよ」

デナグは私の返答に対し満面の笑みで答える。

デナグ
「ふふふ、その大切な人は目の前にいる私の事だろう。私とミコトで手を結び全てをやり直そう。地上と地下、互いに赦し合う時が来たのだ。私たちなら必ずできる。」

デナグ
「それに私の耳には届いていたのだがミコトは〈転生者〉の助言を受けその手を血に染めてきたそうだが、そのような人物は存在しないとみている。それらはミコトの周囲に蔓延る、不信仰者、忌まわしき者、殺人者、偶像を拝する者、すなわちすべての偽りを生きる者であろう。そのような者たちに与えられた分け前は火と硫黄に燃える池しかないと理解してくれたんだな?」

ミコト
「宗教談義をするために私はここに来たのではない。それに和平成立後もそうやって反対派の地下国家群がデナグの言葉を引用し宣伝工作を続けていた情報は私の耳に入っている。」

デナグ
「私個人の言葉だけで人が動くと思ってるのか?人間はそこまで単純な生き物ではないとミコトも分かっているはずだ」

 私の怒りが声に乗り鋭く問い詰める。

ミコト
「じゃあ何? 私が貴方の元の来たのは赦しを乞いに来た訳じゃないのよ。」

デナグ
「そうか、ミコトが私の後を追って来てくれたのは、私が考えている理由とは違ったようだな。残念だよ。」

 そう一言、述べるとデナグは空間推進機を起動させ大きく跳躍し空高く舞い上がり私の頭上に剣の影を落とす。

 その瞬間、鋭い斬撃が私を襲う。軍刀を横に構え攻撃を受け止めた。金属が激しくぶつかり合い火花が散る。

デナグ
「では現実的な話をしよう。私だけでなく和平賛成派の諸王は決して永続的な平和を約束されてるとは思ってはいない。総裁政府瓦解後に誕生したハ人民共和国、ミレヤイハ王国をハの国の版図に組み入れる過程、私の帝国が和平合意で消滅した事、それによって今次内戦の根本的な原因が解決されたわけではない。ただ一時的に火種が封じ込められただけにすぎないのだ。」

 軍刀越しにデナグが囁くように言葉を紡いだ。

デナグ
「今次内戦の原因を振り返ろうか」

ミコト
「ハの国の総裁政府は地下世界が終着地が第5層59階であることを隠し無限であると偽ったが、その盟約〈地下世界は無限である〉は地下世界が狩り尽くされ新たな土地も資源もないと判明したとき権力者同士の対立や戦略的抗争が勃発し終わりなき戦乱の世が訪れることを恐れた事が現実となったからだ」

 私は歯を食いしばるデナグに鋭く言い返し青龍刀を振り払ってを押し返す。距離を取ったデナグが言葉を紡ぐ

デナグ
「そうだ。しかし旧時代の人間では個人間の闘争のみ焦点があてられ国家が共通の利益の元に集結する諸権力の集合体であることという視点に欠いていた」

デナグ
「私とミコトが地下終着地に到達した時点で盟約がもはや紙切れに過ぎないことは誰の目にも見ても明らかであった。ハの国をまとめる共有幻想が効力を失った中、地下世界で経済的自決権を求める国家が現れるのはごく自然な成り行きだった」

デナグ
「地下側の求めた限定的な市場開放を総裁政府が認めていれば〈地上も地下も運命共同体、共に外に市場を求めて発展していこう〉と共通の新しい理念でまとまることが出来ただろうだが、北部の実力者であり執政官の一人であったタニアは先人たちが開拓してきた土地や資源を一切外国へ開くことを良しとしないため市場開放派を危険思想と決めつけ、当時、総裁政府に地下総督に任命されていた私にその取り締まりを命じただけでなく、地下諸王を一方的に罷免し自らが任命した官吏を各地に派遣して直接統治を強行しようとした」

ミコト
「だからと言ってタニアの支持基盤であった北部に対し地下の凶悪な魔物を解き放つという暴挙に出たこと今日まで続く惨劇の引き金を引いたのが誰か忘れたとは言わせない!」

 私は二式ライフルを構え撃つ、銃声が夜空に響き無数の弾丸がデナグに向かう。

デナグ
「話し合いができない相手だからこそ地下側は実力行使を選択するせざるを得なかった。追い込まれた我々の抵抗に対し道義的責任を問う前に、加害者側である旧総裁政府の重鎮達は手を止める事をはできたか? 我々は一方的に命令される諸国家が乱立する烏合の衆ではない、政治的目的の達成のためには、その気になれば団結し対等以上の力があると示す必要があった」

 デナグは青龍刀を振るい弾丸を全て弾き返す。鋭い音と火花が散る中デナグの声が再び私を打つ。

デナグ。
「我々の目論見が外れ譲歩を引き出す事はできなかったが建国以来、初の地下側からの攻撃に対し未曽有の国家危機に総裁政府終身執政官に就任したタニアが地下帝国への報復、全面侵攻で言い放った「地下世界の諸国家を完全に破壊することで奴らに働きの口を与えてやろう」この台詞の目論見もまた外れただけでなく。生存権を脅かされた我々が経済的自決権を求める戦いから独立に目的が変わったこと事でより苛烈になった暴力の応酬が今日まで地下と地上、双方を覆い何が実現されたか分かるか?」

 私は軍刀を手に吶喊しながら重い口を開き答える。

ミコト
「今次内戦の果てにタニアが目指した閉鎖的な経済体制が結果的に実現された」

 デナグは牽制のために私を狙い、ショットガンを乱射する。

デナグ
「皮肉なことだな。地下、地上、双方の破壊によって復興需要により向こう三世代にわたっては外に市場を求めずとも国内で経済的需要を賄えるだろう。しかし、この状況は根本的な問題の解決を意味しない。なぜならハの国をひとつに束ねていた〈地下世界は無限である〉という幻想、かつての盟約に代わる新たな国家理念が国民の間で共有されていないからだ。この理念の空白は遅かれ早かれ再び混乱を呼び起こすだろう。」

デナグ
「私は自身を信頼する諸王とその国民と共に新しい共同幻想を持ち戦い続けた。今次内戦を通じて地上で新たに得た国土、膨張する地下国家群が地上へ表出する事は天命であると、内なる国土は有限だが文明の波及、新たな精神の新天地は外に存在する。〈神聖ヴイツピド地下帝国の文明観〉この理念にミコトを支持する人間は理解し共有してくれるか?」

デナグ
「私がドミトリーを招き入れたのは軍事的な目的だけでなく地下帝国が初めて対外貿易を行うのに国際市場に明るく、その優れた外の国際感覚を吸収したかったからだ。総裁政府を瓦解後に誕生した地下帝国の理念に賛同したミレヤイハ王国と南部政府が和平合意をしていれば私とミコトがこうして刃を交える必要はなかっただろう。私がミコトに求める事はドミトリーがミコトに※1手渡した和平合意文に書いてあったはずだ。だが、それを断り和平拒否演説を行い今日までなぜ戦い続けてこれたかは私には分かっている。」

 無数の散弾が降り注ぐ中、私は身を翻しそれらをかわしながら一気にデナグの懐へと飛び込み刃を振り下ろすがデナグは私の斬撃を受け止め応戦する。

 刃と刃がぶつかり合い激しい火花が散りその中でデナグの言葉がさらに私を追い詰める。

デナグ
「ミコトは国家統一の理念の下に私たちの友人であったドミトリーを討ち、総裁政府から中立側に回るだけでなく、混乱の最中に独立したハ人民共和国が無条件降伏を突きつけられた時、交渉に入らず軍民一体の死守戦を試みたのは党組織の永続的な繁栄と自身の安全のためには暴力装置と政治権力の保持が絶対条件であると判断していたゾンガと、その理念を共有する国民を無慈悲に抹殺した地下の人間からすれば〈地上の悪鬼〉だ。しかし私は道義的にミコトを非難したいのではない。私もまた実の姉のように慕ったタニアを殺しただけでなく、その支持者を軍民問わず火あぶりにし八つ裂きにしてきた。地上の人間からは〈地下の野人共を統べる蠅の王〉と呼ばれたものだ。だがそのような誹りを受けようが私には関係ない事だ。私が言いたい事は、ミコトと私は鏡のようなものなのだよ。向かい合って初めて本当の自分に気づく。私たちは所属する勢力間で共有される理念に従い行動する代表者に過ぎないわけだ。」

 その言葉とともにデナグの青龍刀から私を捉え私は地面に叩きつけられる。苦しみながらも軍刀を握り直しなんとか立ち上がり言葉を発する。

ミコト
「言いたい事は終わりかデナグ! 何を言おうがあなたの帝国はすでに滅びドミトリーもゾンガもいない! それでもまだ戦うつもりか! それに、あなたを慕う多くの王たちとその民の多数派すでに和平を受け入れ私に協力することを選んでいる! 私とあなたの、この無意味な戦いで一体誰が救われる!」

 私は態勢を立て直し、再びデナグに攻撃を仕掛けようとしたが空間推進機の破損に気づく。

ミコト
「!!!」

 デナグは勢いよく空へと舞い上がると、スマホからミサイルコンテナを顕現させ私に照準を定め言う。

デナグ
「私とミコトの代で開いてしまった地獄の扉から放たれた怨嗟はこの国を未来永劫、覆い続ける。たとえ国土が統一されようと理念を共有できぬ地上と地下の間で再び闘争の火蓋が切られるのは避けられない。私は権力勾配を常に地下諸国民に有利に傾けるだけでなく、精神的な優位を保ち続けるための土壌を築く義務を負っている。そのため、総裁政府を物理的に完全に瓦解させただけでは不十分なのだ。いまなおその精神を受け継ぎ蘇った〈地上の悪鬼〉旧時代最後の象徴の軍勢に対し我々は最後の戦いを挑んでいる。次なる戦乱の時代で私は力の象徴として再び思い出されるであろう。ミコト、私と次の世代のために死んでくれ」

 デナグは自らに課した運命を全うすべく私に向けて引き金を引く

※1第四条、ハの国政府は直ちに停戦しミレヤイハ王国および神聖ヴイツピド地下帝国の両国民との平和的共生を約束する。
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