伯爵令嬢の前途多難な婚活──王太子殿下を突き飛ばしたら、なぜか仲良くなりました

森島菫

文字の大きさ
114 / 134
番外編 アンジェリア・フォードの人生

第二十六話 賑わう四人

しおりを挟む
「「「「かんぱーーーーい!」」」」

 その夜、四人の若者達がテーブルを囲み、盛大な唱和が行われた。と言っても、掲げる金属製のカップの中身は酒ではない。

 トリジア王国やロワイユ王国では、一般に十六から十八歳頃に大人と見なされ始める。貴族に至ってはその時期が早まる傾向にあり、十五歳で社交界入りを果たす者が多いため、すでにその年齢が成人だと主張する派閥も存在する。

 成人の定義が曖昧な今。アンジェリア達が十六歳になろうという時期とはいえ、ひとまず酒は止めておくべきだとしたのは一行の中で最も真面目であろうフェリクスだった。

「お二人はお酒を飲んでも良いんですよ?私達に合わせていただかなくても」

 アンジェリアは、二十三歳の年を迎えた傭兵達にそう言った。

 今いるこの店は大衆料理の品揃えが豊富だが、酒やつまみも提供している。所々で若者達が酒器を掲げているのを見ると、飲みたくなることもあるのではないか。

 しかし彼らは首を横に降った。

「万が一酔い潰れたら、送別会が悲惨な思い出になりかねませんからね」

 フェリクスに続き、うんうん、と頷くミランダ。

「正直お酒はあまり得意じゃなくて」

 嫌いなわけではないんですけどね、と彼女は苦笑する。

 聞けば、任務終わりに傭兵センター付近にある酒場で飲んだことは何度かあるという。しかし基本的には一杯。もう少し飲むとしても二杯で終わるそうだ。どんちゃん騒ぎをする酔った仲間に混ざりつつも、酒はあまり飲まずつまみを中心に頂くというのが二人の定型らしい。

 確かに、今までの道中で彼らが酒を飲んでいる様子は見たことがなかった。二人の中では、酒は気晴らしの選択肢には入っていないのだろう。

「自分から率先して飲むことはない──そういう感じです」
「何だか意外ですね。お酒、好きそうだと勝手に思ってました」

 フットワークが軽く快活で、さっぱりとした話し方も特徴的なミランダ。フェリクスはともかく、彼女はどちらかと言えば明るい飲み会の中心にいそうな人物である。女兵士という言葉が似合う者改め、居酒屋が似合う者と呼んでも良いほどだ。

 アンジェリアがミランダにそう話すと、彼女は笑った。

「よく言われます。それでお酒を注がれると、フェリクスが代わりに飲んでくれるんです。この人も普段飲まないのに」
「まあ、ミランダは割と早く酔いが回る人のようなので」

 昔のよしみで何となく、と呟くフェリクスは視線を落とし、煮物に手を伸ばす。ミランダも焼き魚の皿に目を遣った。

「私は確かにそうだけど、それにしてもあなたは耐性がありすぎると思うわ」
「そうですか?」
「だって二十歳の頃にも──」

 昔話を懐かしみながら語る二人。十代の頃から共に過ごし、互いを理解してきた者同士として、様々な思い出が飛び出してくる。その様子を、アンジェリアも目を細めながら聞いていた。

「そうだ、酒と言えば」

 ふいにフェリクスがアンジェリア達に尋ねる。

「酒屋のヘクターさんって、いらっしゃいますよね。ルシェルの商会所の」

 その名に、アンジェリアはスープを飲む手を止める。まさかここで彼の名が飛び出すとは予想していなかった。どうやら思わぬところで、繋がりがあったらしい。

「お知り合いなんですか?」
「実は以前、彼の店に酒を頼んだことがありまして……それで何度か会ったことはあります」

 彼女は隣に座るキーランと顔を見合わせた。しかし思えば、フェリクスとミランダの登録していた傭兵センターはルシェルからそれほど遠くない町にある。

 ヘクターは王都にも店を構えているため、ルシェル近辺では名の知れた酒商人だ。アンジェリアが学舎の教育課程の一貫として店を手伝った時に分かったが、酒の品揃えが豊富で、かなり大型の酒屋だった。フェリクス達が彼の店を利用するのも不思議ではない。

「本業の傍ら、学舎で授業もしていると話していました」

 彼の言葉に、アンジェリアは過去を回想していく。

「実は私とキーランは、ヘクターさんの授業を受けていたんです」
「そうでしたか。学舎では、どんな授業があったんですか?」
「座学もありますけど、実務も結構あります!それこそ私はヘクターさんのお店を手伝ったこともあって」

 それからアンジェリアとキーランは、当時の生活を懐かしみながら護衛達に話した。

「そういえば、偽造貨幣事件もあったな」

 ふと呟くキーランに、フェリクスとミランダが瞠目する。

「何ですかそれ!詳しく聞かせてください」

 前のめりになるミランダに、二人はさらに語っていく。その他、商業計画を考え始めた頃の焦りや認定審査の際の緊張感など、様々な出来事がまるで昨日のことのように鮮やかに思い出される。

 四人の談笑はその後、店が閉まるまで長く続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、 ある日、父親から結婚相手を紹介される。 そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。 彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。 そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……? と思ったら、 どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。 (なるほど……そういう事だったのね) 彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。 そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている? と、思ったものの、 何故かギルバートの元、主人でもあり、 彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯
恋愛
 侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。  幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。  最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。  そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、 「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。  その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。  「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。

処理中です...