ゲーマーなら勇者じゃなくても世界は救えます!

浪沙賀たゆた

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仕方なく転生

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「それで殺してまで、異世界転生をさせようとした理由は何ですか?」

 時間が空いて心に少し余裕が出来たので、女神との会話を続けることにする。
 ラノベ大好きでいつも異世界転生したいと思っていたが、ショックな出来事が多すぎてかなりテンションは低い。

「私が守護している世界を救っていただきたいのです」

 女神の浮かべる表情は、とても重々しいものだった。
 よく読んでた異世界転生ものとかでは、ありがちな展開だよな。

「その世界は魔の者の力が強大すぎて、手に負えない状態となっています。それに対抗するため勇者と呼ばれる存在が500年に一度現れるのですが、ここ2000年現れていません。そのせいで魔の者の力は増すばかり……」

 勇者が現れなくて困っていて、それで呼ばれたってことは……そういうことだよな!
 これはテンションが上がってきたぞ!
 俺は心の中で大きくガッツポーズする。

「じゃあ、俺が勇者になってその世界を救うってわけですね! チート能力をもらって人生華やかに!」
「それは違います。あなたに勇者の素質はありません。さらに言うと、私はあなたに強大な力を与える権限を持っていません」

 テンション急転直下。もう何も信じられない……。

「じゃあ、マジで何で呼んだんですか? 平和な日本で生まれた大学生に世界を救う力なんてありませんよ」
「女神にはそれぞれ守護している世界があります。そしてその世界は勿論のこと、他の女神が守護している世界を覗くこともできます。私はそこであなた――あなたの作っている動画に出会いました!!!!」
「動画って俺が投稿しているゲーム実況動画のことですか?」

 大学生になって暇を持て余していたので、動画投稿サイトにゲーム実況動画を投稿していた。
 しかも、ただゲームをするだけでは面白くないと思い『初期レベルで最高難易度をクリア』や『FPSゲームで銃を使わずにクリア』などの所謂、縛りプレイをしていた。

「あなたが口癖のように言っている『知識さえあればどんな状況だって打破できる!』という言葉に感動しました。あとファンなんです」

 けっこう再生数も伸びていて、そこそこ有名だとは思っていたが視聴者に女神がいるとは。

「私の守護している世界を救えるのは、あなたしかいないと確信しました!」
「なんかすごい期待を寄せられているところ悪いんですけど、あれはゲームの話であって、現実ではあんなにうまくいきませんよ……」

 実際、知識さえあれば打破できると言っても、どのゲームも何十回何百回とリトライをしながらクリアしているのが大半だ。

「そ、そうですか……そうですよね……すみません、勝手に舞い上がってしまって……」

 女神は明らかに落ち込んでいて、体の周りにはどんよりとした薄暗い雲が浮いているように見えた。

「あなたにもう一つ謝らなければならないことが出来てしまいました」
「何ですか?」
「断られると思っていなくて……あなたを元の世界に戻すことも出来ませんし、私の力では守護している世界に転生させるしか……」
「結局転生させられるんかい!」

 思わずツッコミを入れてしまった。

「はぁ……わかりました。どうせ転生するしかないならやってみます」

 半ばあきらめのような気持ちで引き受けることにした。
 選択肢がないのなら、出来るだけ異世界を楽しんでやろうと思ったのだ。

 女神の顔が晴れやかになり、満面な笑みを浮かべ近付いてきた。
 俺の両手を包み込み、ぶんぶんと振ってくる。
 ち、近い、距離が近いよ! 
 赤面していることを悟られたくなくて、顔を下に向けた。

「ありがとうございます! あなたならきっと出来ます!」

 この根拠のない自信はどこから出てくるのやら……。

「ただし、条件があります!」

 女神からほんの少し離れ、真剣な表情を作る。
 そして、異世界に行くにあたっての条件を並べていく。

「一つは年齢。転生ってどんな感じで行われるんですか? 今のままの状態なのか0歳からやり直しなのかとか」
「そうですね。何歳からでも大丈夫ですよ」

 正直0歳からやり直すのは面倒だな。

「それじゃあ、成人になったぐらいでお願いします。二つ目は見た目ですね。今の俺って服装を見る限り、死んだ時のままだと思うんですけど、あっちの世界で悪目立ちするのは嫌なんです。なので別の人間に転生するならいいですけど、この姿のまま転移する場合は服装と髪の色ぐらいは変えてほしいですね」

 自分の毛先に触れながら髪の色を確認したり、ズボンを少し引っ張ったりして今の自分の容姿を確認する。
 異世界だとこの見た目って絶対悪目立ちするよな。

「わかりました。そのまま転移させる事も出来ますが、今回は別の人間として転生させますから服装と見た目に関しては問題ありません。黒髪でも問題はないかと思いますが、あちらの世界では珍しい色ですからね」
「三つ目はお金です。これはあまり期待していませんけど出来るだけ用意してください。四つ目は……」
「あ、あと、どれぐらいあるんでしょうか?」

 女神が不安そうな顔でこちらを見ていた。

「あと一つだけです。異世界の知識を出来るだけください。『知識さえあればどんな状況だって打破できる!』の知識が全くない状態ですからね。最低でも言語と読み書きぐらいは何とかしてください」
「知識ですか……。言語と読み書きに関しては問題ありません。ですが、世界の知識となると……」

 女神が顎に右手を当てながら思い悩んだ顔をしていた。

「少し難しいですが、何とかしてみましょう。他にはもうありませんか?」
「とりあえずは大丈夫です。たぶん」

 全く大丈夫じゃないけど、チート能力がもらえないんだったらこのぐらいの条件が精々な気がする。
 話が終わると、徐々に自分の体が透けていることに気付いた。

「なんだこれ?!」

 消えかかっている手に触れると感触は伝わってくる。
 しかし、右手の奥にあるはずの左手が見えている。

「大丈夫ですよ。それはあなたがこれから転生するということ。消えてなくなることはありませんので安心してください」

 自分の身体が透けた経験なんてないから、全然安心できない……。

「それではこれからあなたを転生させます。あなたの第二の人生に幸があらんことを」

 第一の人生を勝手に終わらせておいて、何を言ってるんだろうか。
 着ている衣服も透け始めていく。

「世界を救えるかどうかはわかりませんからね!」

 消える前に女神に念押しをしておいた。
 徐々に自分の体が見えなくなり、視界も遮られていった。
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