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初めての故郷
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町は建物のほとんどが木造の家屋で、ところどころに看板がかかった店らしき建物が見える。
しばらく歩いていると、見覚えのある風景と共に一つの家屋がそこにあった。
「俺の家か」
初めて見るけど知っている。
そんな新鮮さと懐かしさが入り混じった感覚だ。
どこかディジャヴにも似た感覚に戸惑っていると、中から一人の女性が現れる。
この人が俺の母さん……正確にはカシュの母さんだが。
「カシュ! また仕事サボって森に行ってたでしょ!」
どうやらあの森にいたのはサボってたかららしい。
とある疑問が浮かび上がって小声でアトに話しかける。
「ちょっと聞きたいんだけど、俺がこの体に転生したことによってカシュの人格はどうなっちゃったんだ? まさか消えちゃったとか?」
「元々のカシュはあの森に行ってすぐに足を滑らせて頭を打って死んじゃったの。だから、無理やり魂をすり替えたとかじゃないから安心していいよ」
こっちに来た直後、頭が痛かったのはそういうことか。
それにしても何とも情けない死に方を……。
今も母さんに仕事をサボったことで怒られてるし。
「こらっ! ちゃんと話を聞いてるのかい?! エリーちゃんにまで迷惑掛けて」
「はい! 聞いてます! これからはちゃんと働きます!」
「あんたはまた適当な事言って……さっさと冒険者ギルドに行って、この依頼書を渡してきなさい!」
そう言って、一枚の紙を渡された。
身に覚えのないことで怒られるのは腑に落ちないが、黙って従うことにする。
「じゃあ、ちょっと冒険者ギルドに行ってくる!」
これ以上怒られるのも嫌なので、逃げるように駆け出した。
「冒険者ギルドってどこにあるの?」
「この町の一番南にあるわよ。ここを真っすぐ行ったところ」
アトに聞いておきたいことがあったので、エリーとも別れて一人で冒険者ギルドに行くことにした。
「そういえばアトの姿って周りの人たちには見えてないの?」
「見せることは出来るけど、基本的には見えてないわよ。ちなみに声もあんたにしか聞こえないようにしてるわ」
つまり、あまり大きな声で会話してると一人で喋ってる頭おかしいやつだと思われてしまうのか。
俺は周りを一瞥した。
人通りはあまりなく近くに人はいないので、今のところは大丈夫そうだが気を付けよう。
「あとは、こいつの元々の性格を知りたいんだけど」
「いっちゃう? 引き出しちゃう?」
満面の笑みで手をかざしてくる。
あれを気軽に勧めてくるとか女神の使者なのに、こいつに慈悲はないのか。
「口で説明してくれ」
「つまんないなー。そうね、一言で表すと『カス』ね。仲が良いとはいえ幼馴染にはいじられっぱなしだし、母親にはいつも怒られてばっかり。16歳になって成人しても仕事サボってばっかりで、周りからの評価はかなり低いわね」
引き出してもらった記憶と今までの反応から何となく察してたけど、けっこうなダメ人間だな。
「ストレ様のところに魂が来た時も『これで働かなくても文句言われないじゃん!』とか言いながら、軽い感じで成仏していったわよ」
ただでさえベリーハードモードなんだから、せめて転生先ぐらいはもうちょっと考えて欲しかったな。
「ここが冒険者ギルドよ」
木製だが他の建物よりしっかりとした作りになっていて、看板には狼の顔ようなマークが描かれている。
中に入るとテーブルやイスが並べられていて、冒険者と思わしき人たちが談笑していた。
ギルド内を見渡すと奥に受付らしき場所があり、手っ取り早く用事を済ませるため真っすぐに向かう。
受付には人当たりの良さそうなお姉さんが立っていた。
「当ギルドにようこそ。今回はどのようなご用件でしょうか?」
「すみません、依頼を出したいんですけど」
「それでしたら依頼書をお願いします」
先ほど母親から預かった依頼書を渡す。
「雑貨屋さんからの依頼で内容は薬草採集ですね。この依頼ですと登録料は銅貨5枚になります」
「登録料がいるんですか?」
「はい、依頼をするには難易度に合わせた登録料が必要となります」
金なんて持ってないぞ。依頼書しか渡されてないし。
あたふたしていると後ろから「登録料の事も知らないで依頼しにきたのかよ」という笑い声と共に、馬鹿にしたようなヤジが聞こえる。
何とか登録料を払えないかとズボンのポケットなどを調べていると、金属が擦れる音が鳴り手にごつごつとした感触が伝わってきた。
ポケットから取り出すと緑の巾着袋が出てくる。
中を確認してみると、銀貨や銅貨が入っており数枚だが金貨も入っていた。
「あああああああああ!!!!!!!」
急に耳元から大きな声がした。
「それ! そのお金! あたしの!」
アトが巾着袋の周りをブンブン飛びながら騒いでいる。
「なんでここにこれがあるの?! 下界のおいしい食べ物とか色々な物を買うために集めてたお金なのに!」
どうやら、このお金はアトのものらしい。
ストレ様にお願いしたお金をどうにかするってこういうことだったのか。
アトには悪いが、ありがたく使わせてもらおう。
「登録料は銅貨5枚でしたよね? これでお願いします」
緑の巾着袋から銅貨を5枚取り出して、受付のお姉さんに渡した。
「ちょ、ちょっと! あんた何勝手に使ってんの?! それあたしのなんだから返してよ!」
アトが緑の巾着袋に突進してくる。
その時、何かが弾けるような音がしてアトが地面に叩きつけられた。
けっこう派手な音だったが周りの人たちには聞こえてないらしい。
『アト、あなたが私に黙って下界に降りていたのは知っていましたよ。そのお金は世界を救うために有効活用しますので安心してください』
直接脳内に語りかけるような声が聞こえた。
この声はストレ様だ。
アトは頭を押さえながら悶えている。
微かにだが「わ、私のお金……」という恨めしい声と、すすり泣きが聞こえてくる。
依頼も無事済ませたので、地面で寝転がっているアトを回収してギルドを後にした。
ギルドから出た瞬間ものすごい衝撃音が聞こえてきた。
「な、なんだ?!」
「カシュの家がある方向に魔物の気配を感じるわね」
いつの間にか立ち直ったアトが教えてくれた。
魔物が町に入ってきたってことか?!
しかも俺の家がある方向って母さんやエリーがいるじゃないか!
二人が心配になって思わず駆け出す。
しばらく歩いていると、見覚えのある風景と共に一つの家屋がそこにあった。
「俺の家か」
初めて見るけど知っている。
そんな新鮮さと懐かしさが入り混じった感覚だ。
どこかディジャヴにも似た感覚に戸惑っていると、中から一人の女性が現れる。
この人が俺の母さん……正確にはカシュの母さんだが。
「カシュ! また仕事サボって森に行ってたでしょ!」
どうやらあの森にいたのはサボってたかららしい。
とある疑問が浮かび上がって小声でアトに話しかける。
「ちょっと聞きたいんだけど、俺がこの体に転生したことによってカシュの人格はどうなっちゃったんだ? まさか消えちゃったとか?」
「元々のカシュはあの森に行ってすぐに足を滑らせて頭を打って死んじゃったの。だから、無理やり魂をすり替えたとかじゃないから安心していいよ」
こっちに来た直後、頭が痛かったのはそういうことか。
それにしても何とも情けない死に方を……。
今も母さんに仕事をサボったことで怒られてるし。
「こらっ! ちゃんと話を聞いてるのかい?! エリーちゃんにまで迷惑掛けて」
「はい! 聞いてます! これからはちゃんと働きます!」
「あんたはまた適当な事言って……さっさと冒険者ギルドに行って、この依頼書を渡してきなさい!」
そう言って、一枚の紙を渡された。
身に覚えのないことで怒られるのは腑に落ちないが、黙って従うことにする。
「じゃあ、ちょっと冒険者ギルドに行ってくる!」
これ以上怒られるのも嫌なので、逃げるように駆け出した。
「冒険者ギルドってどこにあるの?」
「この町の一番南にあるわよ。ここを真っすぐ行ったところ」
アトに聞いておきたいことがあったので、エリーとも別れて一人で冒険者ギルドに行くことにした。
「そういえばアトの姿って周りの人たちには見えてないの?」
「見せることは出来るけど、基本的には見えてないわよ。ちなみに声もあんたにしか聞こえないようにしてるわ」
つまり、あまり大きな声で会話してると一人で喋ってる頭おかしいやつだと思われてしまうのか。
俺は周りを一瞥した。
人通りはあまりなく近くに人はいないので、今のところは大丈夫そうだが気を付けよう。
「あとは、こいつの元々の性格を知りたいんだけど」
「いっちゃう? 引き出しちゃう?」
満面の笑みで手をかざしてくる。
あれを気軽に勧めてくるとか女神の使者なのに、こいつに慈悲はないのか。
「口で説明してくれ」
「つまんないなー。そうね、一言で表すと『カス』ね。仲が良いとはいえ幼馴染にはいじられっぱなしだし、母親にはいつも怒られてばっかり。16歳になって成人しても仕事サボってばっかりで、周りからの評価はかなり低いわね」
引き出してもらった記憶と今までの反応から何となく察してたけど、けっこうなダメ人間だな。
「ストレ様のところに魂が来た時も『これで働かなくても文句言われないじゃん!』とか言いながら、軽い感じで成仏していったわよ」
ただでさえベリーハードモードなんだから、せめて転生先ぐらいはもうちょっと考えて欲しかったな。
「ここが冒険者ギルドよ」
木製だが他の建物よりしっかりとした作りになっていて、看板には狼の顔ようなマークが描かれている。
中に入るとテーブルやイスが並べられていて、冒険者と思わしき人たちが談笑していた。
ギルド内を見渡すと奥に受付らしき場所があり、手っ取り早く用事を済ませるため真っすぐに向かう。
受付には人当たりの良さそうなお姉さんが立っていた。
「当ギルドにようこそ。今回はどのようなご用件でしょうか?」
「すみません、依頼を出したいんですけど」
「それでしたら依頼書をお願いします」
先ほど母親から預かった依頼書を渡す。
「雑貨屋さんからの依頼で内容は薬草採集ですね。この依頼ですと登録料は銅貨5枚になります」
「登録料がいるんですか?」
「はい、依頼をするには難易度に合わせた登録料が必要となります」
金なんて持ってないぞ。依頼書しか渡されてないし。
あたふたしていると後ろから「登録料の事も知らないで依頼しにきたのかよ」という笑い声と共に、馬鹿にしたようなヤジが聞こえる。
何とか登録料を払えないかとズボンのポケットなどを調べていると、金属が擦れる音が鳴り手にごつごつとした感触が伝わってきた。
ポケットから取り出すと緑の巾着袋が出てくる。
中を確認してみると、銀貨や銅貨が入っており数枚だが金貨も入っていた。
「あああああああああ!!!!!!!」
急に耳元から大きな声がした。
「それ! そのお金! あたしの!」
アトが巾着袋の周りをブンブン飛びながら騒いでいる。
「なんでここにこれがあるの?! 下界のおいしい食べ物とか色々な物を買うために集めてたお金なのに!」
どうやら、このお金はアトのものらしい。
ストレ様にお願いしたお金をどうにかするってこういうことだったのか。
アトには悪いが、ありがたく使わせてもらおう。
「登録料は銅貨5枚でしたよね? これでお願いします」
緑の巾着袋から銅貨を5枚取り出して、受付のお姉さんに渡した。
「ちょ、ちょっと! あんた何勝手に使ってんの?! それあたしのなんだから返してよ!」
アトが緑の巾着袋に突進してくる。
その時、何かが弾けるような音がしてアトが地面に叩きつけられた。
けっこう派手な音だったが周りの人たちには聞こえてないらしい。
『アト、あなたが私に黙って下界に降りていたのは知っていましたよ。そのお金は世界を救うために有効活用しますので安心してください』
直接脳内に語りかけるような声が聞こえた。
この声はストレ様だ。
アトは頭を押さえながら悶えている。
微かにだが「わ、私のお金……」という恨めしい声と、すすり泣きが聞こえてくる。
依頼も無事済ませたので、地面で寝転がっているアトを回収してギルドを後にした。
ギルドから出た瞬間ものすごい衝撃音が聞こえてきた。
「な、なんだ?!」
「カシュの家がある方向に魔物の気配を感じるわね」
いつの間にか立ち直ったアトが教えてくれた。
魔物が町に入ってきたってことか?!
しかも俺の家がある方向って母さんやエリーがいるじゃないか!
二人が心配になって思わず駆け出す。
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