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初戦闘
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家があるところまで戻ってくると、母さんとエリーが座り込んでいた。
二人は同じ方向を見ていて、唖然とした表情をしている。
視線に集まる方向を見ると、少し遠くの方で真っ黒な熊のような生物が暴れていて、周りの家屋は何軒も倒壊していた。
「はぁ……はぁ……なんだよ、あれ……」
全力で走ってきたせいで息苦しい。
少し息を整えるために黒い熊についてアトに質問する。
「あれはアンデッドベアと言って、熊の死体に死霊が乗り移った魔物よ。かなり凶悪なモンスターで今のあんたじゃ一発でお陀仏よ!」
あんなのいつ戦ったって一発でお陀仏だよ!
初戦闘イベントがこれって無理ゲーすぎるだろ!
「母さん! エリー! とりあえず、ここから離れよう!」
二人を連れて出来るだけ遠くに離れようと走り出す。
途中でギルドにいた冒険者たちとすれ違う。
アンデッドベアが見えなくなったことを確認して、ひとまず走るのをやめた。
「こ、ここまで来れば、とりあえずは安心か……。冒険者たちが向かっていくのが見えたし、もう討伐されているかもしれないな」
「あの連中が何とか出来る魔物じゃないと思うけどねー」
「まじか……そんなに強いのか……」
「こういう時こそ、あんたの出番じゃん! そのために転生させたんだし!」
おいおい、さっきワンパンでやられるって話をしてませんでしたか?
「いや、俺が行ったって勝てる気がしないんだけど。今だって走っただけで脇腹痛いし」
俺は母さんたちと合流したあたりから、ずっと脇腹を押さえていた。
以前の体よりは体力があるみたいだが、そこまで運動神経が良くなった感覚はない。
「とりあえず、様子を見に行ってみたらいいんじゃない?」
気楽に言いやがって。
「二人はここにいてくれ。ちょっと様子を見てくる」
「何言ってんの?! 危ないからやめなよ!」
「あんたが言ったって迷惑かけるだけでしょ! やめなさいカシュ!」
二人に制止されるが、そういうわけにもいかない。
「冒険者たちが倒せたかどうか見に行くだけだから。難しいようだったら、どこか遠くに逃げよう」
そう言いながら再びアンデッドベアのいる方へ走り出す。
あー脇腹いってぇ……。
アンデッドベアがいた場所まで戻ってくると、冒険者たちが必死に戦っていた。
遠目に見ただけだが、善戦しているのか建物以外に目立った被害が出ているようには見えない。
しかし、アンデッドベアも未だ健在で、これといった外傷を受けている様子はない。
「おー、辺境の冒険者たちにしては頑張ってるわね」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 何か弱点とかないのか?!」
「弱点は聖属性よ。闇を浄化する魔法とか治癒魔法なんかも有効ね。あとはー……そうそう、聖水とかポーションとかを浴びせるのもいいわね。まぁ、聖水は貴重なものだから滅多に手に入らないけど」
魔法は使えないから、やるとしたらポーションか。
「ポーションを浴びせたとして、本当に倒せるものなのか?」
「それは量によるわね。大量のポーションを一気にぶちまければ、そのまま溶けたように消えていくわ。少量のポーションじゃ再生力の方が勝っちゃって、あんまり効果はないから。やるなら一気よ!」
昔ゲームでアンデッド系のボスを回復アイテムや蘇生アイテム使って倒してたけど、それと同じようなことだよな。
「よし、それならまずはポーションを探そう! 薬屋みたいなところに行けばあるのか?」
「あんたの家、雑貨屋でしょ? ポーションぐらい置いてあるはずよ」
俺の家ならすぐそこだな。
自分の家に入りポーションを探す。
「どこだ、どこにある?!」
店の中はごちゃごちゃしていて、どこに何があるのかよくわからなかった。
俺は色々な物をひっくり返しながら急いで探した。
「あれよ、あれ! 棚の一番上に並んでる小瓶がポーションよ!」
棚の上には小瓶が並べられていた。
そこら辺に置いてあった空の木箱を取り出して、割れないように素早く詰めていく。
ポーションを全て詰め終わり、店から飛び出す。
「この村って酒屋はあるか? あるんだったら場所を教えてくれ!」
「え? 酒屋? 酒屋だったらここから向かいの建物よ」
近い場所にあってくれてラッキーだったな。
ポーションを持ったまま酒屋に入る。
店の中は酒がずらりと並んでいて、カウンターにはおっさんが立っていた。
「おう、向かいの雑貨屋の息子じゃねーか。そんな慌ててどうした? それに何だ、その大量の小瓶は?」
「慌ててって……表の騒ぎに気付いてないんですか?!」
「そういえば、なんか騒がしいな」
外からは冒険者の怒号や何かが崩れるような音が聞こえてくるが、おっさんは平然な顔をしている。
まさかこの状況で店を開いているとは思わなかった。
「魔物が現れて、すぐそこまで来てるんです! 避難してください!」
「そうか、だがそれは出来ねぇな。ここは死んだ女房と建てた店だ。ここを離れるわけにはいかん!」
「そんな事言ってる場合じゃ……」
おっさんは微塵も動こうとしない。
「それよりボウズ、何か用があってここに来たんじゃないのか?」
「そ、そうだった! 空の酒瓶ってありませんか? 出来るだけ大きなやつ!」
「空の酒瓶は今はねぇが、大きな酒瓶ならここにあるぞ!」
カウンターの下から取り出された酒瓶は、一升瓶より一回りは大きいであろうサイズだった。
中にはたっぷりと酒が入っている。
「あ、それでいいです! 売ってください!」
「急いでるんだろ? お代は後でいいから持って行きな!」
「ありがとうございます! よし、中身は捨ててポーションを……」
「ちょっと待ちな!」
店を出ようとすると止められた。
「俺の酒を捨てるだと? 聞き捨てならないな!」
「え、あの、欲しいのは酒瓶で……」
「おめぇがどういう理由で酒瓶が必要なのかは知らねぇ。だが、俺の酒を捨てるなんて絶対に許さねぇからな!」
おっさんは腕を組みながら、こっちを睨んでいる。
こんな急いでる時に……!
「わかりました! わかりましたよ!」
俺は意を決して酒瓶に口をつけた。
そして、酒を一気に飲み干そうとする。
ただでさえこの量の飲み物を飲むってだけでも辛いのに、酒ならなおさらだ。
しかし、こんなところで時間を取られるわけにはいかないので気合いで流し込む。
「おう、いい飲みっぷりじゃねぇか! ほんとはもっと味わって飲んで欲しいがな!」
「うっ……」
あと少し……もう少し……!
「ぷはーっ!」
何とか酒を飲み干し空瓶を作る事が出来た。
頭は少しくらくらするが思っていたよりは平気そうだった。
この世界の人は酒に強いんだろうか。
おっさんに礼を言って酒屋を後にする。
店を出て空にした酒瓶にポーションを移していく。
手元が狂いそうになるが、何とか零さずに全て入れることができた。
「よし、これで!」
「そっか、ポーションを一纏めにするのに酒瓶が必要だったわけね」
「この量で足りると思うか?」
「んー……たぶん大丈夫だとは思うけど」
かなり重くなったな。
あとはこれで直接殴るか投げてぶつけられればいいんだが、この重さでは投げるのは厳しそうだ。
とりあえずアンデッドベアと戦っている冒険者たちに近付き、後方で魔法を放っている人たちに合流する。
「お前はさっき依頼を出しに来ていたやつじゃねーか。ここは危ないから下がってろ」
「すみません、あいつを倒すのに力を貸してほしいんですけど」
「俺たちが束になっても倒せないっていうのに、冗談を言ってる場合じゃないぞ」
冒険者は怪訝そうな顔をしていた。
「冗談ではないです。ここにポーションをありったけ詰めた瓶があります。これを奴にぶつければ倒せるはずなんです!」
「ポーション? そんなもんであいつを倒せるのか?」
「今のままじゃ倒せないならダメ元で試してもらえませんか?」
少しの間、沈黙が続く。目の前の冒険者は何か考えているようだった。
「わかった。どうせ俺たちだけじゃダメージをほとんど与えられない。お前に賭けてみるか」
「ありがとうございます!」
「それで俺たちは何をしたらいい?」
「俺があの位置に辿り着いたら、とにかく注意を引いてください! その間にこれを奴にぶつけます!」
アンデッドベアの後ろあたりを指差す。
「わかった、任せろ! 死ぬなよ」
「はい!」
俺はぐるっと大回りをするようにアンデッドベアの後ろに回った。
一呼吸置いて手で合図を送る。
その合図に合わせて、冒険者たちは一斉に動き出し先ほどまでいた場所から眩い光が溢れ出す。
その光の中から火炎の球や氷の塊が飛び出し、アンデッドベアに次々と命中していく。
アンデッドベアは、魔法の一斉射撃を食らって怯む。
その隙をついて前衛の冒険者たちが一斉に駆け出し、アンデッドベアに集中攻撃を仕掛ける。
攻撃の勢いに押され、アンデッドベアがこちらに倒れてきた。
「今だ! やれ!」
冒険者からの掛け声で俺は走り出す。
アンデッドベアまでは目と鼻の先だ。
その時――
「危ない! 右から攻撃来るわよ!」
俺に気付いていたアンデッドベアは、倒れながらも黒い大きな腕を横に大きく振ってきていた。
このまま突っ込んだら直撃してしまう!
俺は両足の動きを止めて踏ん張った。
履いていた靴が破けそうになるくらいの摩擦がかかり、何とか体を止めることが出来た。
しかし、アンデッドベアの爪先が右腕に当たり切り裂かれた。
「――っ!?」
右腕に激痛が走り、声にならない声が出た。
痛みでその場にしゃがみ込みそうになったが、アンデッドベアが立ち上がろうとしている。
せっかく作ってもらったこの機会を逃したら次はない。
傷はそこまで深くないのか手に力を込めることは出来た。
痛みに耐えながら、手に持っている瓶を両手で握りしめ思い切り振り下ろす。
「くらえええぇぇぇ!!!!」
振り下ろした瓶は見事命中し派手に割れた。
中に入っていた大量のポーションが飛び散り、アンデッドベアの体に降り注ぐ。
蒸発音と共にアンデッドベアの体が溶けていく。
「や、やった……」
安堵の表情を浮かべていると、突然アンデッドベアが動き出した。
「えっ!?」
あれだけのポーションを浴びせたのに、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
量が足りなかったのか……。
「くそっ! どうすればいいんだ?!」
「冒険者の中に治癒魔法が使えるやつぐらいいるんじゃない?」
「そうか!」
冒険者たちの方を見て、出来るだけ大きな声で呼び掛けた。
「誰か治癒魔法が使える人はいませんか! いたら、ありったけかけてください!」
呼び掛けに応えるように、緑の光が俺を包み込んだ。
血が流れ、痛みで動かすのも辛かった右腕の傷が塞がっていき痛みも引いていく。
「……ってそうじゃないよ! アンデッドベアにかけるんだよ!」
俺の渾身のツッコミに驚いた冒険者たちが、慌ててアンデッドベアに治癒魔法をかけた。
溶けかけていたアンデッドベアの体は、完全に溶けて消えた。
「た、倒せた……」
安心感からか力が抜け、さっき飲んだ酒が全身に回ったせいかフラフラする。
立っていられなくなり、そのままその場に倒れ込み意識を失った。
二人は同じ方向を見ていて、唖然とした表情をしている。
視線に集まる方向を見ると、少し遠くの方で真っ黒な熊のような生物が暴れていて、周りの家屋は何軒も倒壊していた。
「はぁ……はぁ……なんだよ、あれ……」
全力で走ってきたせいで息苦しい。
少し息を整えるために黒い熊についてアトに質問する。
「あれはアンデッドベアと言って、熊の死体に死霊が乗り移った魔物よ。かなり凶悪なモンスターで今のあんたじゃ一発でお陀仏よ!」
あんなのいつ戦ったって一発でお陀仏だよ!
初戦闘イベントがこれって無理ゲーすぎるだろ!
「母さん! エリー! とりあえず、ここから離れよう!」
二人を連れて出来るだけ遠くに離れようと走り出す。
途中でギルドにいた冒険者たちとすれ違う。
アンデッドベアが見えなくなったことを確認して、ひとまず走るのをやめた。
「こ、ここまで来れば、とりあえずは安心か……。冒険者たちが向かっていくのが見えたし、もう討伐されているかもしれないな」
「あの連中が何とか出来る魔物じゃないと思うけどねー」
「まじか……そんなに強いのか……」
「こういう時こそ、あんたの出番じゃん! そのために転生させたんだし!」
おいおい、さっきワンパンでやられるって話をしてませんでしたか?
「いや、俺が行ったって勝てる気がしないんだけど。今だって走っただけで脇腹痛いし」
俺は母さんたちと合流したあたりから、ずっと脇腹を押さえていた。
以前の体よりは体力があるみたいだが、そこまで運動神経が良くなった感覚はない。
「とりあえず、様子を見に行ってみたらいいんじゃない?」
気楽に言いやがって。
「二人はここにいてくれ。ちょっと様子を見てくる」
「何言ってんの?! 危ないからやめなよ!」
「あんたが言ったって迷惑かけるだけでしょ! やめなさいカシュ!」
二人に制止されるが、そういうわけにもいかない。
「冒険者たちが倒せたかどうか見に行くだけだから。難しいようだったら、どこか遠くに逃げよう」
そう言いながら再びアンデッドベアのいる方へ走り出す。
あー脇腹いってぇ……。
アンデッドベアがいた場所まで戻ってくると、冒険者たちが必死に戦っていた。
遠目に見ただけだが、善戦しているのか建物以外に目立った被害が出ているようには見えない。
しかし、アンデッドベアも未だ健在で、これといった外傷を受けている様子はない。
「おー、辺境の冒険者たちにしては頑張ってるわね」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 何か弱点とかないのか?!」
「弱点は聖属性よ。闇を浄化する魔法とか治癒魔法なんかも有効ね。あとはー……そうそう、聖水とかポーションとかを浴びせるのもいいわね。まぁ、聖水は貴重なものだから滅多に手に入らないけど」
魔法は使えないから、やるとしたらポーションか。
「ポーションを浴びせたとして、本当に倒せるものなのか?」
「それは量によるわね。大量のポーションを一気にぶちまければ、そのまま溶けたように消えていくわ。少量のポーションじゃ再生力の方が勝っちゃって、あんまり効果はないから。やるなら一気よ!」
昔ゲームでアンデッド系のボスを回復アイテムや蘇生アイテム使って倒してたけど、それと同じようなことだよな。
「よし、それならまずはポーションを探そう! 薬屋みたいなところに行けばあるのか?」
「あんたの家、雑貨屋でしょ? ポーションぐらい置いてあるはずよ」
俺の家ならすぐそこだな。
自分の家に入りポーションを探す。
「どこだ、どこにある?!」
店の中はごちゃごちゃしていて、どこに何があるのかよくわからなかった。
俺は色々な物をひっくり返しながら急いで探した。
「あれよ、あれ! 棚の一番上に並んでる小瓶がポーションよ!」
棚の上には小瓶が並べられていた。
そこら辺に置いてあった空の木箱を取り出して、割れないように素早く詰めていく。
ポーションを全て詰め終わり、店から飛び出す。
「この村って酒屋はあるか? あるんだったら場所を教えてくれ!」
「え? 酒屋? 酒屋だったらここから向かいの建物よ」
近い場所にあってくれてラッキーだったな。
ポーションを持ったまま酒屋に入る。
店の中は酒がずらりと並んでいて、カウンターにはおっさんが立っていた。
「おう、向かいの雑貨屋の息子じゃねーか。そんな慌ててどうした? それに何だ、その大量の小瓶は?」
「慌ててって……表の騒ぎに気付いてないんですか?!」
「そういえば、なんか騒がしいな」
外からは冒険者の怒号や何かが崩れるような音が聞こえてくるが、おっさんは平然な顔をしている。
まさかこの状況で店を開いているとは思わなかった。
「魔物が現れて、すぐそこまで来てるんです! 避難してください!」
「そうか、だがそれは出来ねぇな。ここは死んだ女房と建てた店だ。ここを離れるわけにはいかん!」
「そんな事言ってる場合じゃ……」
おっさんは微塵も動こうとしない。
「それよりボウズ、何か用があってここに来たんじゃないのか?」
「そ、そうだった! 空の酒瓶ってありませんか? 出来るだけ大きなやつ!」
「空の酒瓶は今はねぇが、大きな酒瓶ならここにあるぞ!」
カウンターの下から取り出された酒瓶は、一升瓶より一回りは大きいであろうサイズだった。
中にはたっぷりと酒が入っている。
「あ、それでいいです! 売ってください!」
「急いでるんだろ? お代は後でいいから持って行きな!」
「ありがとうございます! よし、中身は捨ててポーションを……」
「ちょっと待ちな!」
店を出ようとすると止められた。
「俺の酒を捨てるだと? 聞き捨てならないな!」
「え、あの、欲しいのは酒瓶で……」
「おめぇがどういう理由で酒瓶が必要なのかは知らねぇ。だが、俺の酒を捨てるなんて絶対に許さねぇからな!」
おっさんは腕を組みながら、こっちを睨んでいる。
こんな急いでる時に……!
「わかりました! わかりましたよ!」
俺は意を決して酒瓶に口をつけた。
そして、酒を一気に飲み干そうとする。
ただでさえこの量の飲み物を飲むってだけでも辛いのに、酒ならなおさらだ。
しかし、こんなところで時間を取られるわけにはいかないので気合いで流し込む。
「おう、いい飲みっぷりじゃねぇか! ほんとはもっと味わって飲んで欲しいがな!」
「うっ……」
あと少し……もう少し……!
「ぷはーっ!」
何とか酒を飲み干し空瓶を作る事が出来た。
頭は少しくらくらするが思っていたよりは平気そうだった。
この世界の人は酒に強いんだろうか。
おっさんに礼を言って酒屋を後にする。
店を出て空にした酒瓶にポーションを移していく。
手元が狂いそうになるが、何とか零さずに全て入れることができた。
「よし、これで!」
「そっか、ポーションを一纏めにするのに酒瓶が必要だったわけね」
「この量で足りると思うか?」
「んー……たぶん大丈夫だとは思うけど」
かなり重くなったな。
あとはこれで直接殴るか投げてぶつけられればいいんだが、この重さでは投げるのは厳しそうだ。
とりあえずアンデッドベアと戦っている冒険者たちに近付き、後方で魔法を放っている人たちに合流する。
「お前はさっき依頼を出しに来ていたやつじゃねーか。ここは危ないから下がってろ」
「すみません、あいつを倒すのに力を貸してほしいんですけど」
「俺たちが束になっても倒せないっていうのに、冗談を言ってる場合じゃないぞ」
冒険者は怪訝そうな顔をしていた。
「冗談ではないです。ここにポーションをありったけ詰めた瓶があります。これを奴にぶつければ倒せるはずなんです!」
「ポーション? そんなもんであいつを倒せるのか?」
「今のままじゃ倒せないならダメ元で試してもらえませんか?」
少しの間、沈黙が続く。目の前の冒険者は何か考えているようだった。
「わかった。どうせ俺たちだけじゃダメージをほとんど与えられない。お前に賭けてみるか」
「ありがとうございます!」
「それで俺たちは何をしたらいい?」
「俺があの位置に辿り着いたら、とにかく注意を引いてください! その間にこれを奴にぶつけます!」
アンデッドベアの後ろあたりを指差す。
「わかった、任せろ! 死ぬなよ」
「はい!」
俺はぐるっと大回りをするようにアンデッドベアの後ろに回った。
一呼吸置いて手で合図を送る。
その合図に合わせて、冒険者たちは一斉に動き出し先ほどまでいた場所から眩い光が溢れ出す。
その光の中から火炎の球や氷の塊が飛び出し、アンデッドベアに次々と命中していく。
アンデッドベアは、魔法の一斉射撃を食らって怯む。
その隙をついて前衛の冒険者たちが一斉に駆け出し、アンデッドベアに集中攻撃を仕掛ける。
攻撃の勢いに押され、アンデッドベアがこちらに倒れてきた。
「今だ! やれ!」
冒険者からの掛け声で俺は走り出す。
アンデッドベアまでは目と鼻の先だ。
その時――
「危ない! 右から攻撃来るわよ!」
俺に気付いていたアンデッドベアは、倒れながらも黒い大きな腕を横に大きく振ってきていた。
このまま突っ込んだら直撃してしまう!
俺は両足の動きを止めて踏ん張った。
履いていた靴が破けそうになるくらいの摩擦がかかり、何とか体を止めることが出来た。
しかし、アンデッドベアの爪先が右腕に当たり切り裂かれた。
「――っ!?」
右腕に激痛が走り、声にならない声が出た。
痛みでその場にしゃがみ込みそうになったが、アンデッドベアが立ち上がろうとしている。
せっかく作ってもらったこの機会を逃したら次はない。
傷はそこまで深くないのか手に力を込めることは出来た。
痛みに耐えながら、手に持っている瓶を両手で握りしめ思い切り振り下ろす。
「くらえええぇぇぇ!!!!」
振り下ろした瓶は見事命中し派手に割れた。
中に入っていた大量のポーションが飛び散り、アンデッドベアの体に降り注ぐ。
蒸発音と共にアンデッドベアの体が溶けていく。
「や、やった……」
安堵の表情を浮かべていると、突然アンデッドベアが動き出した。
「えっ!?」
あれだけのポーションを浴びせたのに、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
量が足りなかったのか……。
「くそっ! どうすればいいんだ?!」
「冒険者の中に治癒魔法が使えるやつぐらいいるんじゃない?」
「そうか!」
冒険者たちの方を見て、出来るだけ大きな声で呼び掛けた。
「誰か治癒魔法が使える人はいませんか! いたら、ありったけかけてください!」
呼び掛けに応えるように、緑の光が俺を包み込んだ。
血が流れ、痛みで動かすのも辛かった右腕の傷が塞がっていき痛みも引いていく。
「……ってそうじゃないよ! アンデッドベアにかけるんだよ!」
俺の渾身のツッコミに驚いた冒険者たちが、慌ててアンデッドベアに治癒魔法をかけた。
溶けかけていたアンデッドベアの体は、完全に溶けて消えた。
「た、倒せた……」
安心感からか力が抜け、さっき飲んだ酒が全身に回ったせいかフラフラする。
立っていられなくなり、そのままその場に倒れ込み意識を失った。
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