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浪沙賀たゆた

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冒険者

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 翌日、俺は冒険者ギルドに顔を出していた。
 何でも昨日のアンデッドベア討伐の件で話があるらしい。
 中に入ると、いきなり冒険者たちに囲まれる。

「昨日は助かったよ。ありがとう」
「おう、初めてここに来た時は、笑っちまって悪かったな」
「あら、よく見たら可愛い顔してるわね。お姉さんと一緒に冒険しない?」

 握手を求めてくる者、俺の肩に手を置きながら謝罪してくる者、魅力的なお誘いをしてくる者、様々な人に声を掛けられた。
 最初は楽しく話しているだけだったが盛り上がりすぎて、もみくちゃにされてしまう。
 頭を強く撫でられたり背中を叩かれたりする。
 痛くはないが、どれも衝撃がすごい。

「随分と人気者になっちゃったわね」

 俺の頭上でアトがその風景を眺めている。 
 歓迎されているのは嬉しいが、これじゃあいつまで経っても受付に行くことができない。

「と、とりあえず、受付で用事を済ませてくるんで、また後で話しましょう」

 そう言いながら、人混みをかき分けて受付に向かう。
 受付には昨日と同じお姉さんが立っている。

「冒険者ギルドへようこそ」
「えーっと、すみません、昨日の件で話があるって呼ばれたんですけど」

 アンデッドベア討伐の話ってだけで、具体的に何の話かは聞いていない。

「はい、アンデッドベア討伐に関してですが、依頼ではないので本来は報酬は出ません。ですが、町を救ったということで冒険者に報奨金が出る事になりました」

 お姉さんはカウンターの下から皮の巾着袋と、一枚の紙を取り出した。

「こちらが今回あなたに対する報奨金なのですが……」

 何とも歯切れの悪い言い方をしている。
 カウンターの上に置かれた紙に目を通すと、一番上には大きく『冒険者登録書』と書かれていた。

「これは何ですか……?」
「今回は冒険者の皆様から、あなたにも報奨金を分けたいという強い要望があり、特例で支払われることになりました。しかし、ギルドからの報奨金は本来は事に当たった冒険者に対してのみ支払われるものです」

 冒険者ギルドから出るお金だから、当然といえば当然か。

「ここからはお願いになってしまうのですが、ギルドに冒険者登録してもらえないでしょうか? 一般の方にギルドから報奨金が支払われたという話が広まると、報奨金目当てに危険な事をして命を落とす人や、虚偽の報告で報奨金を騙し取ろうとする人が現れるという懸念があるのです」

 秩序を守るために、冒険者になってくれってことか。
 出来れば報奨金については気持ちよく受け取りたいし、何より冒険者になるって剣と魔法の世界に来たって感じするよな!
 
「わかりました。登録します」

 チート能力がないとしても、一端の冒険者として力をつけていけば人並みには強くなれるはずだ。
 アンデッドベアとの戦闘中、密かに心躍らせていた魔法についても少しずつでもいいから使えるようになりたい。
 これからの冒険に期待を込めながら、渡された羽ペンで冒険者登録書に自分の名前を書いた。

「ありがとうございます。正規の手続きであれば登録料が必要となりますが、今回は免除させていただきました」

 お姉さんは冒険者登録書を確認して、カウンターの下にしまう。
 そしてそこから一枚のカードを取り出し渡してきた。

「こちらは冒険者登録証です。冒険者の証として身分証にも使えますので、大事に持っていてくださいね」

 名刺サイズぐらいの登録証には、他の字より大きく『E』と書かれていた。

「改めましてカシュさん、冒険者ギルドにようこそ!」

 こうして俺は成り行きだが冒険者になった。

「それで冒険者って、具体的には何をするんですか?」
「基本的には、あちらの掲示板に依頼書が貼ってあるので受付に持ってきてください。受注条件などに問題がなければ依頼を受けていただきます。あとは依頼内容に沿って達成していただければ報酬が支払われます」

 お姉さんが指差す方向を見ると、木製のボードに紙がたくさん貼られている。

「冒険者にはランクがつけられていて最初はEランクからになります。ランクはEからSまであり、依頼内容と達成した数に応じてランクは上がっていきます。ランクが上がれば報酬の良い依頼も受けられるようになるので、頑張ってくださいね」

 依頼を受けて達成すること以外は、特にやらなきゃいけないことはないみたいだな。

「それと魔物の生態や弱点などの情報にも報酬が支払われます。こちらに関しては情報が正しいと判断されるまで、少しお時間を頂く場合があります」

 そう言いながらお姉さんは後ろの本を一冊手に取る。

「閲覧は無料で出来ますので、知りたい情報がありましたら一声かけてください」

 情報にも報酬が支払われる……? これは使えそうだな。
 いつの間にか肩に乗っているアトを見る。
 アトと視線が合うと、どうやら同じ事を考えていたらしくニヤリと笑った。

「今回、カシュさんがアンデッドベアの弱点を知っていたことで、討伐できたという報告を受けています。この情報に対しての報酬は、また後ほど支払わせていただきます」
「情報に関しての報酬も、冒険者にしか支払われないんですか?」
「いえ、情報に関しては一般の方からの報告でも問題ありません。しかし、信憑性が低いものが多く調査にも時間がかかることが多いですね」

 冒険者は死体を持ってきたり、パーティを組んで複数の証言が集まったりするので信憑性が高いらしい。

「さっそく何か依頼を受けてみますか?」
「いえ、今回は登録だけにしておきます。依頼を受ける前に準備をしたいので」

 そう言って、ギルドを後にしようとすると――

「あ、私の名前はシーラと言います。何か困ったことがあったら、いつでも相談してくださいね」

 シーラと名乗るお姉さんの笑顔に、一瞬見惚れてしまった。

「は、はい、これからよろしくお願いします」
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