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浪沙賀たゆた

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就職報告

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 ギルドを出て町の中を歩いていると、興奮気味にアトが話しかけてくる。

「ねぇねぇ、カシュ! これで、あたしたち大金持ちになれるわね!」
「さっきの情報の話か?」
「そうよ! 世界の知識とリンクしているあたしがいれば、やりたい放題じゃない!」

 たしかに、アトがいれば情報自体は手に入るんだが……。

「金を手に入れる手段としては優秀だけど、すぐに大金持ちってのは難しいなー」
「なんでよ!」
「理由は二つあって、一つは口で伝えただけじゃ信憑性が低いこと。今の俺じゃ生態とか弱点はわかっても倒すことが出来ないから、情報が正しいかどうかの証明をすることが難しい。調査はけっこう時間がかかるとか言ってたからな」

 どれくらいかかるかはわからないけど魔物の強さによっては、かなりの期間を要するかもしれない。

「もう一つは、情報を出し過ぎると怪しまれるってこと。かけだし冒険者が誰も戦ったことがないような魔物の知識を、バンバン出してたらおかしいだろ。最悪、その場でほら吹き呼ばわりされて冒険者ギルドの登録を抹消とかもありそうだ」
「ちぇー、良い考えだと思ったのに」

 アトが明らかに残念そうな顔をしていた。

「まぁ、それでも出来る範囲で情報を出していけば、金に困るってことはないだろうから、うまく活用していこうぜ」

 そんな話をしていると、次の目的地である酒屋に到着する。
 目的はもちろん昨日の酒の代金を払うこと。
 酒屋の中に入ると、カウンターには誰もいなかった。

「すみませーん」

 誰かいないかと声を出すと、店の奥からおっさんが現れる。

「おう、雑貨屋のボウズじゃねぇか」
「あの、カシュって名前があるんで、出来れば名前で呼んでもらえませんか?」
「わりぃわりぃ、それでカシュ、今日は何の用だ? また酒か?」
「昨日の酒代を払いにきました」

 ポケットからお金を取り出す。

「昨日のお酒っていくらなんですか?」
「あれなら銅貨3枚だな」

 1枚色を付けて、おっさんに手渡した。

「昨日は本当に助かりました。銅貨1枚はお礼ということで受け取ってください」
「まいどありぃ! 有り難くいただいておくぜ」

 おっさんはニシシと笑い上機嫌だった。

「これからも酒が欲しかったら言いな! 上物を用意しておくからよ」
「ありがとうございます」

 酒屋を後にして自宅へと戻る。

「ただいまー」
「あら、おかえり」

 母さんが店番をしていた。

「冒険者ギルドに行ってきたんだろ? 何の話だったんだい?」
「あー、えっと、昨日の魔物を倒すのに協力したから報奨金をもらったんだよ」

 一般人が報奨金をもらったという話は広めたくないって言ってたけど、後で冒険者になった事を伝えればいいよな。

「だから、昨日のポーション代を払うよ」
「ポーション代なんていらないよ。私は……」

 急に母さんがポロポロと涙を流し始めた。

「お前が人様に感謝されるなんて、私はそれだけで嬉しくて胸がいっぱいだよ。そのお金はお前が大事に使いな」

 今日の母さんはずっとこんな感じだ。
 アンデッドベアの様子を見に行くと言った時、止められたのに戦闘に参加したなんて聞いたら、しこたま怒られると思っていた。
 実際はその逆で、俺が気絶した後に冒険者たちから「息子さんのおかげで助かった」とか「立派に育てましたね」なんて言われて感動してたらしい。

「それと俺、冒険者になったから」

 母さんがキョトンとした顔をして、こっちを見ている。

「カシュ、お前どうしちまったんだい?! これまでどんな仕事もサボってばっかりで続かなくて、何もしてこなかったのに!」

 急に詰め寄ってきて母さんに両肩を強く掴まれる。
 わかってはいたけど、こういう反応なんだな。
 とりあえず、冒険者になったことを反対されることはなさそうだ。

「報奨金を受け取るには冒険者になるのが良いって言われたのもあるけど、これからは真面目に仕事しようと思ってね」
「本当にお前はカシュなのかい……?」
「何言ってんだよ。どう見たって俺だろ?」

 まぁ、中身は違うんだけどね。
 母さんがさらに泣き始めた。

「冒険者の準備があるから出掛けてくるよ! 夕方には戻るから!」

 泣きながら「あの時は辛かった」「今まで育ててきた苦労が報われた」など、昔の苦労話が延々と続きそうな雰囲気だったので、逃げ出すように家を出る。
 何か母さんの前から逃げ出してばっかりだな。
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