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最深部

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 それから数々の仕掛けや罠を潜り抜けた。
 一つ一つの謎解きは簡単なものばかりで、出てくる魔物も大した強さではない。
 いつしか調査ではなく、本格的なダンジョン攻略になっていた。

「なんだよ、この部屋……」

 かなり奥まで進んだところで、巨大な部屋に到達した。
 入口からでは部屋全体を見通すのが難しいほどに広かった。
 一見すると何もない部屋に見えたので、ここが最深部なのだと思った。
 しかし、それは違っていたようで部屋の中央には、これまで通り石板があった。
 よく見ると石板の奥には扉のようなものがあった。

 『この部屋を通りたくば、壁の一部を押し込め』

 たったそれだけしか書いてなかった。
 どうやら、このだだっ広い部屋の中からスイッチか何かを見つけ出して押せってことらしい。

「もう無理ぃぃぃ! 全然見つからないじゃん!」

 エリーが突然、大声を出した。
 全員で手分けして、かれこれ1時間以上は探している気がするが一向に見つからない。
 ここまでの疲労で集中力も切れていて、俺も少し苛立っていた。

「あの扉、魔法でぶっ飛ばしちゃおうよ!」

 普段の俺なら止めているかもしれないが、正直エリーの意見に賛成だ。
 ゲームでも通れない道とか、鍵がかかって開かない扉とかあるじゃん?
 飛び越えればいいじゃん! ぶっ壊せば通れるじゃん! 
 なんで、やれないんだよって思う場面が多々ある。
 今がその状況だ。

「壁を派手に魔法をぶっ放して崩落でもしたら、どうするんだ?」

 バートンは冷静だったようで最もな意見がとんできた。
 たしかに扉を壊すんだったら、爆発する魔法とかを使わないといけない。
 ここが地上なのか地下なのかはわからないが建物の中にいる以上、崩落してくる可能性がある。
 派手な魔法を使わずに扉を壊す方法でもあれば……。

「あっ」

 ある事を思いつき扉の前に移動する。
 本当はこんなところで使うのは嫌だったが、我慢の限界だ。
 出来るかどうかはわからないが試してみる価値はある。
 俺は扉に両手を添えて魔法を発動させた。

「クリエイトゴーレム!」

 力いっぱいの掛け声と共に石の扉が光り始め、ゆっくりと形を変えていく。
 扉だったものは二足歩行の動く人形になった。

 これはアトに知識を流し込まれた時に覚えた魔法の一つだ。
 クリエイトゴーレムは、手で触れている地点から一定範囲の物質を元にゴーレムを形成するという魔法だ。

「うまい魔法の使い方だとは思うけど、こんなところで使ってよかったのかしらね」

 アトが皮肉混じりの発言をした。
 わかっている。使う魔法にもよるが1回しか魔法を発動できない。
 練習のおかげで1回の魔法で動けなくなる事はなくなったが、回復しない限りもう使えないだろう。
 反省はちょっとだけしているが、後悔は全くしていない!
 イライラしてたのも多少おさまったしな!

 形成されたゴーレムは重々しい足音を立てながら、俺の後を追うようについてくる。
 召喚魔法! やっぱりロマンだよな!
 魔法の中では召喚魔法が一番好きで、いつか大群を率いて戦ってみたいなー。

 みんなが扉に近づいてきた。
 開いた扉を見たリオがゴーレムを軽く叩きながら「こんな扉の開け方ありなのか……?」と呟いていた。

「お、中々良い魔法が使えるじゃねぇか」
「魔力量が少なすぎて、1回しか使えないけどね」
「どれでも使えるだけいいじゃねぇか。俺は魔法はからっきしだからな」
 
 どうやらサッカは魔法が使えないらしい。

「なんでカシュは魔法が使えるのよ! 不公平よ!」

 エリーが横で騒ぎ出した。

「エリーもほら……練習すれば使えるようになるよ」

 さっきの魔法を思い出して、笑いそうになる。

「あぁー! 今、笑ったでしょ! カシュのくせに!」
「笑ってない……笑ってないよ……ふふっ」

 笑わないようにするが、どうしても笑いを堪えることができない。

「もういいもん! 先に行くからね!」

 怒ったエリーが早足で先に進んでいく。

「おいおい、一人で勝手に行くんじぇねぇよ!」

 バートンの制止も聞かずエリーはどんどん進んでいく。
 俺たちは慌てて後を追った。

 また通路を歩かされると思っていたが、すぐに次の部屋があった。
 部屋の外からでもはっきりと見えるくらい、これ見よがしに宝箱が置かれている。
 どうやら最深部のようだ。

「ここが最後の部屋ってわけか。怪しいな」
 
 バートンも最深部だと思っているらしい。
 たしか、ダンジョンにはボスがいるって話だったけど部屋の中には見当たらないな。

「ここに立っていてくれ」

 ゴーレムを入口に立たせておいて、俺たちは慎重に宝箱の前へと進んだ。
 宝箱は大人が軽々入れそうな大きさだった。

「よし、開けてみよう」

 宝箱を開くと中央に腕輪がポツンと置かれている。

「腕輪が一個だけ……?」

 何か効果付きの装備なのだろうか。
 腕輪を宝箱から取り出し、みんなに見せようとしたら地面が揺れ始めた。
 謎解きをして扉が開く度に感じた揺れと同じものだ。
 嫌な予感が的中したことを確信した。

「入口を押さえてくれ!」

 振り向くと案の定入口が閉ざされようとしている。
 ゴーレムは上から迫ってくる石の壁を両手で受け止めた。
 ボス部屋に入ると出入口が塞がれるのはゲームでのお約束だからな。

「我は炎の魔人、我の眠りを邪魔するのは誰だ?」

 突然、謎の声が聞こえる。
 声のする方を向くと、そこには全身に炎を纏った巨人が立っていた。
 今までの魔物とは明らかに雰囲気が違う。

「アト、今の俺たちであいつに勝てるか?」

 あいつの情報を色々と知りたいが、内容を絞ってアトに質問をする。

「無理ね」

 状況を察しているのか、アトも一言で答えてくれた。

「みんな、入り口まで戻るぞ! 走れ!」

 一斉に入口まで走り出した。

「えっ?! 今から我と戦う流れじゃないの?!」

 第一声の厳格な態度はどこへやら。
 炎の魔人は俺たちが逃げ出したことに驚き慌てていた。

「えーっと……今回は見逃してやる! じゃあな!」

 無視して逃げ出すのはあまりにも可哀そうなので、とりあえず捨て台詞を吐いておいた。
 入口に滑り込んだところでゴーレムに扉を押さえるのをやめさせる。

「せめて宝は置いていけよぉぉぉ!!!!」

 扉が徐々に閉まっていく中、炎の魔人の悲痛な叫びがダンジョン内に響いた。
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